Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ

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第69話 満身創痍

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轟音と共にダンジョンの天井が崩落した。巨大な岩盤と土砂が、ティナとジェイク、そして意識を取り戻しかけていたリリアの入った麻袋を、無慈悲に飲み込んでいった。粉塵が舞い上がり、狭い通路は完全に塞がれてしまう。やがて地響きが収まると、そこには不気味な静寂だけが残された。

どれくらいの時間が経っただろうか。
瓦礫の山が、内側からごそりと動いた。そして、隙間から一本の血に濡れた手が伸びてきた。
「……かはっ……」
血反吐を吐きながら瓦礫の中から這い出てきたのは、ジェイクだった。彼は崩落の瞬間、盗賊としての驚異的な反射神経で、壁際のわずかな窪みに身を滑り込ませていたのだ。それが、彼を生死の境から分けた。

だが、その体は満身創痍だった。左腕はあらぬ方向に折れ曲がり、全身を強かに打ち付け、内臓もいくつか損傷しているようだった。立っているのがやっとの状態だ。
「……ちくしょう……あの、アマ……!」
ジェイクは瓦礫の山を憎々しげに睨みつけた。ティナは、この瓦礫の下敷きになっておそらく即死だろう。結果的に自分だけが生き残った。だが、勝利の味はひどく苦いものだった。

彼はふらつく足で、ティナが埋まっているであろう場所へ近づいた。彼女が持っていた、わずかなポーションや魔道具を漁るためだ。もはや、彼にかつての仲間への情などひとかけらも残っていない。
瓦礫をいくつかどかすと、砕けた杖とローブの切れ端が見えた。そして、その下からティナの、すでに事切れた手が覗いている。
ジェイクは、その手に握られていた小さなポーチを無造作に奪い取った。

その時だった。
瓦礫の別の場所から、か細いうめき声が聞こえた。
「……う……ぅ……」
ジェイクはぎょっとしてそちらを向いた。声の主はリリアだった。彼女は、ガリウスが担いでいた頑丈な麻袋がクッション代わりになったことと、崩落の瞬間に発動した無意識の防御魔法によって、奇跡的に致命傷を免れていたのだ。
だが、彼女もまた瓦礫に足を挟まれ、動けずにいた。その顔は苦痛と恐怖で歪んでいる。

ジェイクの脳裏に、選択がよぎった。
彼女を助けるか。それとも、見捨てるか。
助けたところで、今の彼女は足手まといにしかならない。だが、彼女は聖女だ。もし魔力が回復すれば、自分のこの重傷を癒してくれるかもしれない。

「……おい、リリア。動けるか」
ジェイクは打算的な考えで、リリアに声をかけた。
「……ジェイク、さん……? ティナは……ガリウス様は……?」
リリアは、朦朧とする意識の中で仲間たちの安否を尋ねた。

「……死んだよ。全員な」
ジェイクは感情のこもらない声で、事実を告げた。
「ティナは、この下だ。ガリウスは、もっと前に罠で死んだ」

「そん……な……」
リリアの瞳から絶望の涙がこぼれ落ちた。仲間が全滅……? 信じられない。信じたくない。
「さあ、立てるなら立て。あんたの回復魔法がなきゃ、俺もここから生きては出られねえ」
ジェイクはリリアの足を挟んでいる瓦礫を、折れた腕の痛みに耐えながらなんとか取り除いた。

リリアはジェイクに支えられ、よろめきながら立ち上がった。足は骨折しているようで、まともに歩くことはできない。
ジェイクは、そんな彼女を舌打ちしながら肩に担いだ。
「……ちっ、足手まといが。だが、今は我慢してやる」

こうして、たった二人生き残った彼らは再びダンジョンの奥を目指すことになった。
ジェイクは、リリアという『回復アイテム』を生かすために。
リリアは、もはや生きる希望も失い、ただジェイクに従うだけの抜け殻のようになって。

彼らは互いを仲間だとは思っていなかった。ただ、生き残るという一点のためだけに一時的に共生しているに過ぎない。
ジェイクはガリウスが持っていた地図を頼りに、先へと進んだ。道中、何度かモンスターに遭遇したが、彼は戦闘を避け、隠密行動に徹した。今の自分たちに戦闘能力など皆無だと、嫌でも理解していたからだ。

数時間が経ち、リリアの魔力がわずかに回復してきた。
「……ヒールをかけろ」
ジェイクは命令口調で言った。
リリアは虚ろな目で、彼の折れた腕に手をかざす。柔らかな光が腕を包み、骨がゆっくりと繋がっていく。
だが、その治癒の光は以前のような力強さを失っていた。彼女の心は、深い絶望によって聖なる力との繋がりを弱めてしまっていたのだ。

「……おい、こんなもんかよ」
ジェイクはまだ完全に治りきらない腕を見て、不満そうに言った。
「もっと、ちゃんとやれ!」
彼はリリアの頭を乱暴に叩いた。

リリアは何も言わなかった。ただ、されるがままに涙を流すだけだった。
彼女は、もう聖女ではなかった。ただの壊れかけた人形だった。

そんな地獄のような道行の果てに。
彼らはついに、一つの巨大な扉の前にたどり着いた。
地図によれば、この扉の向こうがこのダンジョンの最深部。秘宝が眠るという、最後の間だという。

扉は黒曜石のような滑らかな黒い石でできており、その表面には禍々しい竜のレリーフが刻まれている。
扉からは、これまでのどんなモンスターとも比較にならない、圧倒的な魔力の圧が漏れ出てきていた。

「……ここか」
ジェイクはごくりと喉を鳴らした。その瞳には、恐怖と、そしてそれを上回る強欲の色が浮かんでいる。
「この先に、お宝が……」

彼はリリアを地面に降ろすと、二人分の体重をかけて重い石の扉を、ゆっくりと押し開けた。
キィィィィ……と、長い年月の間閉ざされていた扉が、軋むような音を立てて開いていく。
扉の向こうから、熱風と共に硫黄の匂いが吹き付けてきた。

そして、彼らは見た。
広大な、溶岩が流れる洞窟。その中央で、とぐろを巻いて眠る、巨大な、あまりにも巨大な一体の竜の姿を。
その鱗は闇よりも黒く、その体からは、まるで火山が噴火する直前のような凄まじい熱気が放たれている。

伝説。神話。
そんな言葉でしか語られない、古の存在。
最深部で彼らを待っていたのは、金銀財宝などではなかった。

――古の災厄竜(エンシェント・ドラゴン)。

世界の終焉を告げるという、伝説の獣だった。
彼らは自分たちが決して開けてはならない、パンドラの箱を開けてしまったのだということを、この瞬間ようやく理解した。
だが、もう遅かった。
彼らの侵入を感知し、災厄竜の山のように巨大な瞼が、ゆっくりと開かれようとしていた。
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