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第68話 仲間割れ
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ガリウスが落とし穴の底へと消えた後、通路には重苦しい沈黙が満ちていた。ティナは血の気の引いた顔で立ち尽くし、ジェイクはまるで大きな仕事を終えたかのように満足げな息を吐いていた。
「……さあ、行こうぜ、ティナ」
ジェイクは、まるで何事もなかったかのように軽い口調で言った。
「リーダーはいなくなったが、俺たちがいる。それに、あいつが持っていた地図は俺がしっかり回収しておいた。秘宝は俺たち二人のものだ」
彼は、ガリウスが懐に入れていた古びた羊皮紙をひらひらとさせて見せた。
ティナは、その地図とジェイクの顔を交互に見た。彼の瞳には、仲間を謀殺したことへの罪悪感など微塵もなく、ただ金への欲望だけがギラギラと輝いている。その姿に、ティナは強烈な嫌悪と、そして恐怖を覚えた。
(この男……ガリウスと同じだ。いや、それ以上に危険かもしれない)
ガリウスは傲慢で自己中心的ではあったが、その行動原理は「最強であることの証明」という、ある意味で純粋なものだった。だが、ジェイクは違う。彼は自分の利益のためなら平気で仲間を裏切り、見殺しにする。そんな男と二人きりでこのダンジョンの奥へ進む? 冗談じゃない。
「……私は行かないわ」
ティナは、震える声で、しかしはっきりと拒絶した。
「私はここから引き返す。あなたと宝探しごっこに付き合うつもりはない」
「……はあ?」
ジェイクの顔から笑みが消えた。
「何を言ってるんだ? ここまで来て引き返すだと? 馬鹿なことを言うな。宝はもう目の前なんだぞ」
「その宝のために、私たちは仲間を殺したのよ!?」
ティナの感情がついに爆発した。
「あなた、自分が何をしたか分かってるの!? 私たちはもう冒険者じゃない! ただの人殺しよ!」
「人殺し?」
ジェイクは、心底おかしいというように鼻で笑った。
「違うな。あれは事故だ。そうだろ? リーダーが俺たちの忠告も聞かずに勝手に罠に突っ込んで、勝手に死んだ。俺たちは何もしていない。なあ?」
そのあまりにも身勝手な言い分に、ティナは絶句した。
この男は自分の罪を正当化するために平気で嘘をつく。自分の心さえも騙そうとしている。
「……もう、たくさんよ」
ティナは杖を強く握りしめた。その先端に、魔力の光が灯り始める。
「あなたのような外道と、これ以上一緒にいるのはごめんだわ。私は一人ででも、ここから生還する」
「……ほう」
ジェイクの目つきが変わった。盗賊特有の、獲物を見定める鋭い光。
「一人で、ねえ。そりゃあ無理な相談だろうな、ティナちゃんよ」
「何……?」
「あんたは見たんだ。俺がガリウスを見殺しにしたところを、全部な。そんな目撃者を、俺が生かしてここから帰すと思うか?」
ジェイクは、ゆっくりと腰の短剣に手をかけた。
「悪いが、あんたにもここで死んでもらう。宝は俺一人で独り占めさせてもらうぜ」
その言葉は、彼らの間に残っていた最後の脆い繋がりさえも、完全に断ち切った。
ティナは悟った。
この男は最初からそのつもりだったのだ。ガリウスを始末し、そして自分も始末して、全てを独り占めにする。そのための計画だったのだ。
「……最低ね、あなた」
ティナの瞳から涙がこぼれ落ちた。それは恐怖からか、あるいは自分自身の愚かさへの絶望からか。
「褒め言葉と受け取っておくぜ!」
ジェイクは叫ぶと同時に床を蹴った。彼の姿がブレ、残像を残してティナへと殺到する。盗賊の神髄である、奇襲の一撃。
だが、ティナもSランクの魔法使いだ。伊達にその地位にいたわけではない。
「《アイス・ウォール》!」
彼女の詠唱と共に、二人の間に分厚い氷の壁が出現した。ジェイクの短剣は氷壁に深々と突き刺さり、その勢いを止められる。
「ちぃっ!」
ジェイクは舌打ちし、後方へと飛び退いた。
ティナは、その隙を見逃さない。
「燃え尽きなさい!《ファイア・ランス》!」
彼女の手から灼熱の炎の槍が放たれる。狭い通路では回避は不可能。
だが、ジェイクはまるで予測していたかのように、横の壁を駆け上がってそれを回避した。そして、天井からティナの頭上へと飛びかかる。
「甘えんだよ!」
かつて共に戦った仲間。互いの能力も、戦い方の癖も知り尽くしている。
その知識が、今、互いを殺すための刃となって交錯していた。
氷と炎の魔法が通路を破壊し、
影と鋼の刃が闇の中を舞う。
それは、あまりにも醜く、そして悲しい戦いだった。
信頼も友情も全てが失われた場所で、二人の元仲間はただ互いの命を奪うためだけに、死力を尽くしていた。
「はぁ……はぁ……!」
ティナの魔力が尽きかけてきた。
ジェイクの体も火傷と切り傷でボロボロになっていた。
戦いは、泥沼の消耗戦の様相を呈してきた。
「……くそっ、しぶとい女だ……!」
「あなたこそ……!」
互いを睨みつけ、息を荒げる二人。
その時だった。
彼らの背後、ガリウスが担いでいた麻袋がもぞりと動いた。
「……?」
二人が訝しげにその麻袋に視線を向けた、その瞬間。
袋の中から、弱々しい、しかし確かな光が溢れ出した。
聖なる治癒の光。
リリアが再び意識を取り戻したのだ。
その光はティナとジェイク、二人の体に平等に降り注いだ。
傷が癒え、魔力が、体力が回復していく。
だが、その奇跡は彼らにとって、さらなる悲劇の引き金にしかならなかった。
回復した二人は、互いに感謝するどころか、同時に同じことを考えた。
(―――今だ!)
回復した力で、相手にとどめを刺す。
二人の思考は完全に一致していた。
彼らは同時に相手に向かって、最大の一撃を放った。
ティナの最後の魔力を振り絞った《インフェルノ》。
ジェイクの全身のバネを使った必殺の突き。
轟音と閃光。
二つの力が通路の中央で激突した。
その衝撃で、古くなったダンジョンの天井が大きな音を立てて崩れ落ち始めた。
「……しまっ……!」
二人がそう気づいた時には、もう遅かった。
巨大な岩盤が、彼らの頭上へと無慈悲に降り注いでくる。
仲間割れの果てに、彼らを待っていたのは共倒れという、あまりにもあっけない結"だった。
「……さあ、行こうぜ、ティナ」
ジェイクは、まるで何事もなかったかのように軽い口調で言った。
「リーダーはいなくなったが、俺たちがいる。それに、あいつが持っていた地図は俺がしっかり回収しておいた。秘宝は俺たち二人のものだ」
彼は、ガリウスが懐に入れていた古びた羊皮紙をひらひらとさせて見せた。
ティナは、その地図とジェイクの顔を交互に見た。彼の瞳には、仲間を謀殺したことへの罪悪感など微塵もなく、ただ金への欲望だけがギラギラと輝いている。その姿に、ティナは強烈な嫌悪と、そして恐怖を覚えた。
(この男……ガリウスと同じだ。いや、それ以上に危険かもしれない)
ガリウスは傲慢で自己中心的ではあったが、その行動原理は「最強であることの証明」という、ある意味で純粋なものだった。だが、ジェイクは違う。彼は自分の利益のためなら平気で仲間を裏切り、見殺しにする。そんな男と二人きりでこのダンジョンの奥へ進む? 冗談じゃない。
「……私は行かないわ」
ティナは、震える声で、しかしはっきりと拒絶した。
「私はここから引き返す。あなたと宝探しごっこに付き合うつもりはない」
「……はあ?」
ジェイクの顔から笑みが消えた。
「何を言ってるんだ? ここまで来て引き返すだと? 馬鹿なことを言うな。宝はもう目の前なんだぞ」
「その宝のために、私たちは仲間を殺したのよ!?」
ティナの感情がついに爆発した。
「あなた、自分が何をしたか分かってるの!? 私たちはもう冒険者じゃない! ただの人殺しよ!」
「人殺し?」
ジェイクは、心底おかしいというように鼻で笑った。
「違うな。あれは事故だ。そうだろ? リーダーが俺たちの忠告も聞かずに勝手に罠に突っ込んで、勝手に死んだ。俺たちは何もしていない。なあ?」
そのあまりにも身勝手な言い分に、ティナは絶句した。
この男は自分の罪を正当化するために平気で嘘をつく。自分の心さえも騙そうとしている。
「……もう、たくさんよ」
ティナは杖を強く握りしめた。その先端に、魔力の光が灯り始める。
「あなたのような外道と、これ以上一緒にいるのはごめんだわ。私は一人ででも、ここから生還する」
「……ほう」
ジェイクの目つきが変わった。盗賊特有の、獲物を見定める鋭い光。
「一人で、ねえ。そりゃあ無理な相談だろうな、ティナちゃんよ」
「何……?」
「あんたは見たんだ。俺がガリウスを見殺しにしたところを、全部な。そんな目撃者を、俺が生かしてここから帰すと思うか?」
ジェイクは、ゆっくりと腰の短剣に手をかけた。
「悪いが、あんたにもここで死んでもらう。宝は俺一人で独り占めさせてもらうぜ」
その言葉は、彼らの間に残っていた最後の脆い繋がりさえも、完全に断ち切った。
ティナは悟った。
この男は最初からそのつもりだったのだ。ガリウスを始末し、そして自分も始末して、全てを独り占めにする。そのための計画だったのだ。
「……最低ね、あなた」
ティナの瞳から涙がこぼれ落ちた。それは恐怖からか、あるいは自分自身の愚かさへの絶望からか。
「褒め言葉と受け取っておくぜ!」
ジェイクは叫ぶと同時に床を蹴った。彼の姿がブレ、残像を残してティナへと殺到する。盗賊の神髄である、奇襲の一撃。
だが、ティナもSランクの魔法使いだ。伊達にその地位にいたわけではない。
「《アイス・ウォール》!」
彼女の詠唱と共に、二人の間に分厚い氷の壁が出現した。ジェイクの短剣は氷壁に深々と突き刺さり、その勢いを止められる。
「ちぃっ!」
ジェイクは舌打ちし、後方へと飛び退いた。
ティナは、その隙を見逃さない。
「燃え尽きなさい!《ファイア・ランス》!」
彼女の手から灼熱の炎の槍が放たれる。狭い通路では回避は不可能。
だが、ジェイクはまるで予測していたかのように、横の壁を駆け上がってそれを回避した。そして、天井からティナの頭上へと飛びかかる。
「甘えんだよ!」
かつて共に戦った仲間。互いの能力も、戦い方の癖も知り尽くしている。
その知識が、今、互いを殺すための刃となって交錯していた。
氷と炎の魔法が通路を破壊し、
影と鋼の刃が闇の中を舞う。
それは、あまりにも醜く、そして悲しい戦いだった。
信頼も友情も全てが失われた場所で、二人の元仲間はただ互いの命を奪うためだけに、死力を尽くしていた。
「はぁ……はぁ……!」
ティナの魔力が尽きかけてきた。
ジェイクの体も火傷と切り傷でボロボロになっていた。
戦いは、泥沼の消耗戦の様相を呈してきた。
「……くそっ、しぶとい女だ……!」
「あなたこそ……!」
互いを睨みつけ、息を荒げる二人。
その時だった。
彼らの背後、ガリウスが担いでいた麻袋がもぞりと動いた。
「……?」
二人が訝しげにその麻袋に視線を向けた、その瞬間。
袋の中から、弱々しい、しかし確かな光が溢れ出した。
聖なる治癒の光。
リリアが再び意識を取り戻したのだ。
その光はティナとジェイク、二人の体に平等に降り注いだ。
傷が癒え、魔力が、体力が回復していく。
だが、その奇跡は彼らにとって、さらなる悲劇の引き金にしかならなかった。
回復した二人は、互いに感謝するどころか、同時に同じことを考えた。
(―――今だ!)
回復した力で、相手にとどめを刺す。
二人の思考は完全に一致していた。
彼らは同時に相手に向かって、最大の一撃を放った。
ティナの最後の魔力を振り絞った《インフェルノ》。
ジェイクの全身のバネを使った必殺の突き。
轟音と閃光。
二つの力が通路の中央で激突した。
その衝撃で、古くなったダンジョンの天井が大きな音を立てて崩れ落ち始めた。
「……しまっ……!」
二人がそう気づいた時には、もう遅かった。
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