Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ

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第67話 見捨てる者

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ポーションもリリアの魔力も尽き果てた状態で、ダンジョンの深部へと進む。それは自殺行為以外の何物でもなかった。しかし、【熾天の剣】のメンバーたちには、もはやその判断力さえ残されていなかった。ガリウスは「最深部の秘宝」という妄想に憑りつかれ、ティナとジェイクは他に生き残る道がないという絶望から、その狂気に付き従うしかなかった。

彼らは、ミノタウロスの広間を迂回する、狭く暗い脇道へと足を踏み入れた。その道は、これまで彼らが通ってきた主要なルートとは違い、ほとんど手入れがされておらず、崩落の危険が常に付きまとっていた。

「ジェイク! 前を確認しろ!」
ガリウスが、息を切らしながら命令する。
「……へいへい」
ジェイクは不貞腐れた態度で応じながらも、盗賊としての本能で慎重に先行した。彼の命は、彼自身が守るしかないのだ。

しばらく進んだところで、ジェイクはぴたりと足を止めた。
「……まずいな。この先、床の色が変わってる。罠だ」

彼の指さす先、通路の床が十メートルほどにわたって、周囲とは明らかに違う濡れたような黒い色に変わっていた。
「見たところ、粘着性の罠か、あるいは重量で崩れる落とし穴の類だ。壁伝いに進めば、なんとか……」

ジェイクがそう説明しかけた時だった。
「どけ!」
ガリウスが、彼を乱暴に突き飛ばし前に出た。
「罠だと? そんなもの、俺が力ずくで突破してやる!」

「よせ、馬鹿!」
ジェイクの制止も聞かず、ガリウスは罠が仕掛けられた床へと、躊躇なく足を踏み入れた。
その瞬間、彼の足元の床が音もなく下へと抜け落ちた。
落とし穴。それも、ただの穴ではない。穴の底には無数の鋭い杭が、獲物を待ち構えるかのように上を向いていた。

「なっ……!?」
さすがのガリウスも、これには肝を冷やした。彼は全身のバネを使って、崩れ落ちる床から対岸へと跳躍しようとする。
だが、連戦の疲労と癒えきっていない傷が、彼の動きを鈍らせていた。
跳躍は、わずかに届かない。
彼は穴の向こう岸に指を引っ掛け、かろうじて落下を免れた。だが、その体は宙吊りの無防備な状態だった。

「ぐ……! 手を貸せ!」
ガリウスが、苦悶の声を上げる。
ティナが慌てて彼の手を掴もうと、穴の縁へと駆け寄った。
だが、その彼女の肩を、強い力が引き止めた。

「……よせ、ティナ」
声の主は、ジェイクだった。その顔には、これまで見たこともないような、冷たい爬虫類のような表情が浮かんでいた。

「何を言ってるの、ジェイク! 早く助けないと!」
「……助ける?」
ジェイクは鼻で笑った。
「なぜ、俺たちがこいつを助けなきゃならねえんだ?」

その言葉に、ティナも、そして穴にぶら下がっているガリウスも息を呑んだ。

「こいつは俺たちを散々こき使い、罵倒し、危険な目に遭わせてきた。リリアをあんな姿にしたのも、元はと言えばこいつの無謀さのせいだ。そうだろ?」
ジェイクは、ゆっくりと穴の縁に近づき、ぶら下がるガリウスの顔を冷ややかに見下した。

「ジェイク……貴様、何を……」
「今こいつを助ければ、どうなる? 俺たちはまたこいつの狂気に付き合わされるだけだ。だが、もしこいつがここで死ねば……」

ジェイクの目がギラリと光った。
「……俺たちがリーダーになれる。そうだろ、ティナ?」
彼は、ティナに向かって悪魔のように囁きかけた。
「最深部の秘宝は、俺たち二人で山分けだ。こいつみたいな強欲で無能なリーダーに、分け前をやる必要はねえ」

「……ジェイク、あなた……」
ティNAは、彼のあまりの非情さに言葉を失った。

「ぐ……! き、さまら……! 裏切る気か!」
ガリウスが、必死の形相で叫ぶ。
「裏切る? 人聞きの悪いことを言うなよ」
ジェイクはしゃがみ込むと、ガリウスがしがみついている指を、ブーツのつま先で一歩ずつ、ゆっくりと踏みつけた。

「これは、あんたが俺たちにしてきたことへの当然の報いだ。足手まといは切り捨てる。そうだろう? あんたがいつも言っていたことじゃないか」

ミシミシ、と嫌な音がする。ガリDウスの指の骨が軋む音だ。
「や、やめろ……! やめてくれ……!」
最強の剣士が、命乞いをしていた。その姿は、あまりにも惨めだった。

ティナは、その光景から目を背けた。
彼女の心の中で、わずかに残っていた仲間意識と、生き残りたいという欲望が激しくせめぎ合っていた。
ここでガリウスを見捨てれば、自分たちは殺人者と同じだ。だが、彼を助ければ自分たちが殺されるかもしれない。
彼女の脳裏に、これまでのガリウスの横暴な振る舞いが次々と蘇る。

「……仕方ないわ」
やがて、彼女はか細い声で呟いた。
「彼が自分で招いたことなのだから……」

その言葉は、ジェイクの行為を肯定するものだった。
ティナは自分に言い訳をするようにそう呟き、ゆっくりと後ずさった。
彼女もまた、ガリウスを見捨てることを選んだのだ。

「……そういうことだ、ガリウス」
ジェイクは、にやりと笑うと、ガリウスの指に全体重をかけた。
バキッ、という鈍い音と共に、ガリウスの指の骨が砕ける。

「あああああああああっ!」
悲鳴と共に、彼の体は闇の底へと吸い込まれていった。
そして、無数の杭に体を貫かれる、鈍い肉の潰れる音が下から響き渡ってきた。

広間には、静寂が戻った。
ジェイクは穴の底を覗き込み、満足げに頷いた。
「……さてと。これで邪魔者はいなくなったな」

彼はティナの方を振り返った。その顔には、罪悪感などひとかけらも浮かんでいなかった。
ティナは青ざめた顔で、ただその場に立ち尽くしているだけだった。
彼女は気づいていた。
自分たちが、もう二度と後戻りのできない一線を越えてしまったということに。

見捨てる者と、見捨てられた者。
かつて仲間だったはずの彼らの絆は、今、最も醜い形で完全に断ち切られたのだった。
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