17 / 100
第17話
しおりを挟む
近衛騎士団長ゼノ・グレイウォールが、その必殺剣を指でつまんで止められたという事実は、瞬く間に騎士団全体に知れ渡った。
もはや、大和の力を疑う者は一人もいなくなった。疑念は完全に消え去り、そこには神か悪魔に対するような、絶対的な畏怖と敬服だけが残っていた。
翌日。
大和が、ゼノの強い(断りきれなかった)要望で再び練兵場を訪れると、そこには異様な光景が広がっていた。
「「「師匠! 本日もご指導、よろしくお願いいたします!」」」
百名を超える近衛騎士団の精鋭たちが、一糸乱れぬ動きで、大和に向かって最敬礼をする。
その中心には、もちろんゼノと、城壁から引き剥がされて治療を受け、なぜか以前より元気になった副団長のガレイドの姿もあった。
「し、師匠……?」
大和は、その呼び名に思わず眉をひそめた。
「ヤマト様ほどの御方に、我々が『様』付けなどとんでもない! どうか『師匠』とお呼びすることをお許しください!」
ゼノが、有無を言わさぬ真剣な眼差しで訴えてくる。騎士たちも、皆力強く頷いていた。
(もう……どうにでもなれ……)
大和は、思考を放棄した。何を言っても、彼らの熱意は止まりそうにない。
「それで、ご指導とは何をすれば……? 俺、人に教えられるようなことなんて何もありませんけど」
「ご謙遜を! 我々を城壁まで吹き飛ばし、団長の必殺剣を指で止められた、あの神の如き体術! その基礎となる訓練法だけでも、是非ご教示いただきたく!」
ガレイドが、目を輝かせながら食い気味に言った。
訓練法、と言われても、大和には全く心当たりがない。
彼は特別なトレーニングなどしたことがない。日々の通勤と、たまの週末の天体観測くらいだ。
(うーん、訓練、訓練か……。体を動かす基礎……)
そこで、大和の脳裏に、ふと日本の夏休みの光景が思い浮かんだ。
公園に集まった子供たちと、首から下げたカード。そして、スピーカーから流れる、あの軽快なピアノのメロディ。
「……あ、そうだ。あれなら」
大和はポンと手を叩いた。
「いいでしょう。俺が子供の頃からやっていた、基礎中の基礎の訓練法を教えてあげます。ただし、すごく地味で、退屈ですよ?」
「望むところです!」「ありがたき幸せ!」
騎士たちのボルテージが最高潮に達する。
大和は、少し恥ずかしさを感じながらも、記憶を頼りにその動きを再現し始めた。
「では、まず腕を前から上にあげて、大きく背伸びの運動から……」
「む……!? これは、全身の筋繊維を弛緩させ、血流を促進させる構えか!」
「次に、腕を振って、体をねじる運動……」
「なっ……! 体幹を軸に、遠心力を利用して体の末端まで気を巡らせるだと!?」
「次は、腕を回します……」
「おお……! 肩甲骨を大きく動かすことで、上半身の可動域を限界まで引き出すのか!」
大-和が、地球の誰もが知っている「ラジオ体操第一」の動きを一つ一つ実演するたびに、騎士たちから驚愕と感嘆の声が上がる。彼らの目には、この一見単純な動きの連続が、人体の構造を完璧に理解し、気の流れを最適化するための、究極の秘伝の型に見えていた。
「最後に、深呼吸……」
「なんと……! 天地万物のエネルギーを体内に取り込み、己の力へと変換する呼吸法……! これが、伝説のテラノイドに伝わる戦闘訓練法……!」
ゼノは、感動のあまり打ち震えていた。
この訓練を続ければ、自分たちもいつか、師匠の力の片鱗にでも触れることができるかもしれない。
その日から、アストレア銀河帝国近衛騎士団の朝は、練兵場に響き渡るピアノのメロディ(大和が鼻歌で再現したものを音楽家が採譜した)と、屈強な騎士たちによる一糸乱れぬラジオ体操から始まることになった。
この奇妙な光景が、帝都の名物の一つになることを、まだ誰も知らなかった。```
もはや、大和の力を疑う者は一人もいなくなった。疑念は完全に消え去り、そこには神か悪魔に対するような、絶対的な畏怖と敬服だけが残っていた。
翌日。
大和が、ゼノの強い(断りきれなかった)要望で再び練兵場を訪れると、そこには異様な光景が広がっていた。
「「「師匠! 本日もご指導、よろしくお願いいたします!」」」
百名を超える近衛騎士団の精鋭たちが、一糸乱れぬ動きで、大和に向かって最敬礼をする。
その中心には、もちろんゼノと、城壁から引き剥がされて治療を受け、なぜか以前より元気になった副団長のガレイドの姿もあった。
「し、師匠……?」
大和は、その呼び名に思わず眉をひそめた。
「ヤマト様ほどの御方に、我々が『様』付けなどとんでもない! どうか『師匠』とお呼びすることをお許しください!」
ゼノが、有無を言わさぬ真剣な眼差しで訴えてくる。騎士たちも、皆力強く頷いていた。
(もう……どうにでもなれ……)
大和は、思考を放棄した。何を言っても、彼らの熱意は止まりそうにない。
「それで、ご指導とは何をすれば……? 俺、人に教えられるようなことなんて何もありませんけど」
「ご謙遜を! 我々を城壁まで吹き飛ばし、団長の必殺剣を指で止められた、あの神の如き体術! その基礎となる訓練法だけでも、是非ご教示いただきたく!」
ガレイドが、目を輝かせながら食い気味に言った。
訓練法、と言われても、大和には全く心当たりがない。
彼は特別なトレーニングなどしたことがない。日々の通勤と、たまの週末の天体観測くらいだ。
(うーん、訓練、訓練か……。体を動かす基礎……)
そこで、大和の脳裏に、ふと日本の夏休みの光景が思い浮かんだ。
公園に集まった子供たちと、首から下げたカード。そして、スピーカーから流れる、あの軽快なピアノのメロディ。
「……あ、そうだ。あれなら」
大和はポンと手を叩いた。
「いいでしょう。俺が子供の頃からやっていた、基礎中の基礎の訓練法を教えてあげます。ただし、すごく地味で、退屈ですよ?」
「望むところです!」「ありがたき幸せ!」
騎士たちのボルテージが最高潮に達する。
大和は、少し恥ずかしさを感じながらも、記憶を頼りにその動きを再現し始めた。
「では、まず腕を前から上にあげて、大きく背伸びの運動から……」
「む……!? これは、全身の筋繊維を弛緩させ、血流を促進させる構えか!」
「次に、腕を振って、体をねじる運動……」
「なっ……! 体幹を軸に、遠心力を利用して体の末端まで気を巡らせるだと!?」
「次は、腕を回します……」
「おお……! 肩甲骨を大きく動かすことで、上半身の可動域を限界まで引き出すのか!」
大-和が、地球の誰もが知っている「ラジオ体操第一」の動きを一つ一つ実演するたびに、騎士たちから驚愕と感嘆の声が上がる。彼らの目には、この一見単純な動きの連続が、人体の構造を完璧に理解し、気の流れを最適化するための、究極の秘伝の型に見えていた。
「最後に、深呼吸……」
「なんと……! 天地万物のエネルギーを体内に取り込み、己の力へと変換する呼吸法……! これが、伝説のテラノイドに伝わる戦闘訓練法……!」
ゼノは、感動のあまり打ち震えていた。
この訓練を続ければ、自分たちもいつか、師匠の力の片鱗にでも触れることができるかもしれない。
その日から、アストレア銀河帝国近衛騎士団の朝は、練兵場に響き渡るピアノのメロディ(大和が鼻歌で再現したものを音楽家が採譜した)と、屈強な騎士たちによる一糸乱れぬラジオ体操から始まることになった。
この奇妙な光景が、帝都の名物の一つになることを、まだ誰も知らなかった。```
34
あなたにおすすめの小説
男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます
neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。
松田は新しい世界で会社員となり働くこととなる。
ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。
PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。
↓
PS.投稿を再開します。ゆっくりな投稿頻度になってしまうかもですがあたたかく見守ってください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
身寄りのない少女を引き取ったら有能すぎて困る(困らない)
長根 志遥
ファンタジー
命令を受けて自らを暗殺に来た、身寄りのない不思議な少女エミリスを引き取ることにした伯爵家四男のアティアス。
彼女は彼と旅に出るため魔法の練習を始めると、才能を一気に開花させる。
他人と違う容姿と、底なしの胃袋、そして絶大な魔力。メイドだった彼女は家事も万能。
超有能物件に見えて、実は時々へっぽこな彼女は、様々な事件に巻き込まれつつも彼の役に立とうと奮闘する。
そして、伯爵家領地を巡る争いの果てに、彼女は自分が何者なのかを知る――。
◆
「……って、そんなに堅苦しく書いても誰も読んでくれませんよ? アティアス様ー」
「あらすじってそういうもんだろ?」
「ダメです! ここはもっとシンプルに書かないと本編を読んでくれません!」
「じゃあ、エミーならどんな感じで書くんだ?」
「……そうですねぇ。これはアティアス様が私とイチャイチャしながら、事件を強引に力で解決していくってお話ですよ、みなさん」
「ストレートすぎだろ、それ……」
「分かりやすくていいじゃないですかー。不幸な生い立ちの私が幸せになるところを、是非是非読んでみてくださいね(はーと)」
◆HOTランキング最高2位、お気に入り1400↑ ありがとうございます!
俺をフッた幼馴染が、トップアイドルになって「もう一度やり直したい」と言ってきた
夏見ナイ
恋愛
平凡な大学生・藤堂蓮には忘れられない過去がある。高校時代、告白した幼馴染の星宮瑠奈に「アイドルになるから」とこっ酷くフラれたことだ。
数年後、瑠奈は国民的アイドル『LUNA』として輝いていた。遠い世界の住人になった彼女との再会なんて、あるはずもなかった――そう、変装した彼女が俺の前に現れ、「もう一度やり直したい」と泣きつくまでは。
トップアイドルの立場を使い強引に迫る元幼馴染と、過去の傷。揺れ動く俺の日常を照らしてくれたのは、俺の才能を信じてくれる後輩・朝霧陽葵の存在だった。
俺をフッた幼馴染か、俺を支える後輩か。過去の清算と未来の選択を描く、ほろ苦くも甘い、逆転ラブコメディ、開幕。
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる