18 / 100
第18話
しおりを挟む
近衛騎士団に「伝説の戦闘訓練法」とやらを教えてから数日。
大和の生活は、奇妙な平穏に包まれていた。朝、練兵場に顔を出せば「師匠!」というむさ苦しい大合唱で迎えられ、ラジオ体操に付き合わされる。それが終われば、あとは何をするでもなく、広すぎる自室で故郷の事を考えて一日が終わる。そんな日々だった。
(このままだと、俺、完全にニートだな……)
そんなことを考えてソファに深く沈み込んでいた時、侍従が訪問者を告げた。
やってきたのは、皇女エリアーナその人だった。
「ヤマト様、お加減はいかがですか?」
侍女を伴い、少し緊張した面持ちで部屋に入ってきた彼女は、数日前よりもさらに顔色が良いように見えた。清楚な白いドレスが、彼女の可憐さを一層引き立てている。
「エリアーナ様。わざわざどうも。俺は元気ですよ、有り余るくらいに」
「ふふ、それならよかったですわ。……あの、本日はヤマト様にお礼と、一つお願いがありまして」
エリアーナはもじもじと指を絡ませながら、上目遣いに大和を見上げた。
「先日、海賊からお救いいただいたこと。そして、私のために騎士団の方々を正しき道へとお導きくださったこと、心から感謝しております」
「いえいえ、そんな大したことじゃ……」
「つきましては、もし、もしもご迷惑でなければ……ヤマト様に、この帝都アストリアをご案内させていただきたいのです」
それは、少女らしい、健気な申し出だった。
だが、大和の頭には即座に「面倒くさい」という社会人根性が浮かぶ。皇女様と二人で外出など、どれだけ気を使えばいいのか想像もつかない。
大和がどう断ろうかと言葉を探していると、タイミングを見計らったかのように、応接室の扉が開き、ゼノが入ってきた。
「エリアーナ様、ヤマト師匠。お話はまとまりましたかな?」
「ゼノさん。ちょうど今……」
「父上には、既に私からお話して、許可をいただいておりますわ!」
エリアーナが、ぱっと顔を輝かせて言った。ゼノも満足げに頷く。
「皇帝陛下も、ヤマト師匠が護衛についてくださるのなら、これ以上ないほど安心だと仰せでした。帝国の至宝であるエリアーナ様の護衛を任せられるのは、もはや師匠をおいて他におりませぬからな!」
完全に外堀を埋められていた。
断るという選択肢は、最初から存在しなかったらしい。
こうして、大和は半ば強制的に、エリアーナの帝都散策の護衛という大役を仰せつかることになった。
お忍び、という名目ではあったが、二人が質素ながらも上質な服に着替えて街へ一歩踏み出すと、どこから情報を聞きつけたのか、民衆がざわめき、遠巻きに道をあける。その視線は好奇と畏敬に満ちていた。
「すごい人ですね……」
「皆様、ヤマト様を一目見たいのですわ。帝国の英雄ですもの」
エリアーナは、そんな視線もどこか楽しむように、嬉しそうに大和の少し後ろをついて歩く。
病弱で、これまで皇宮の外へ自由に出ることなど滅多に許されなかった彼女にとって、この散策は夢のような時間だった。活気のある市場、空を飛び交うエアカー、道端で売られている不思議な形の果物。その全てが、彼女の目を輝かせた。
そんな彼女の無邪気な笑顔を見ていると、大和の心からも、いつしか警戒心や面倒だという気持ちが薄れていく。
(まあ、たまにはこういうのも、悪くないか)
胃の痛みは相変わらずだったが、美しい少女との穏やかな休日のような時間に、大和の心も少しだけ軽やかになっていくのだった。
大和の生活は、奇妙な平穏に包まれていた。朝、練兵場に顔を出せば「師匠!」というむさ苦しい大合唱で迎えられ、ラジオ体操に付き合わされる。それが終われば、あとは何をするでもなく、広すぎる自室で故郷の事を考えて一日が終わる。そんな日々だった。
(このままだと、俺、完全にニートだな……)
そんなことを考えてソファに深く沈み込んでいた時、侍従が訪問者を告げた。
やってきたのは、皇女エリアーナその人だった。
「ヤマト様、お加減はいかがですか?」
侍女を伴い、少し緊張した面持ちで部屋に入ってきた彼女は、数日前よりもさらに顔色が良いように見えた。清楚な白いドレスが、彼女の可憐さを一層引き立てている。
「エリアーナ様。わざわざどうも。俺は元気ですよ、有り余るくらいに」
「ふふ、それならよかったですわ。……あの、本日はヤマト様にお礼と、一つお願いがありまして」
エリアーナはもじもじと指を絡ませながら、上目遣いに大和を見上げた。
「先日、海賊からお救いいただいたこと。そして、私のために騎士団の方々を正しき道へとお導きくださったこと、心から感謝しております」
「いえいえ、そんな大したことじゃ……」
「つきましては、もし、もしもご迷惑でなければ……ヤマト様に、この帝都アストリアをご案内させていただきたいのです」
それは、少女らしい、健気な申し出だった。
だが、大和の頭には即座に「面倒くさい」という社会人根性が浮かぶ。皇女様と二人で外出など、どれだけ気を使えばいいのか想像もつかない。
大和がどう断ろうかと言葉を探していると、タイミングを見計らったかのように、応接室の扉が開き、ゼノが入ってきた。
「エリアーナ様、ヤマト師匠。お話はまとまりましたかな?」
「ゼノさん。ちょうど今……」
「父上には、既に私からお話して、許可をいただいておりますわ!」
エリアーナが、ぱっと顔を輝かせて言った。ゼノも満足げに頷く。
「皇帝陛下も、ヤマト師匠が護衛についてくださるのなら、これ以上ないほど安心だと仰せでした。帝国の至宝であるエリアーナ様の護衛を任せられるのは、もはや師匠をおいて他におりませぬからな!」
完全に外堀を埋められていた。
断るという選択肢は、最初から存在しなかったらしい。
こうして、大和は半ば強制的に、エリアーナの帝都散策の護衛という大役を仰せつかることになった。
お忍び、という名目ではあったが、二人が質素ながらも上質な服に着替えて街へ一歩踏み出すと、どこから情報を聞きつけたのか、民衆がざわめき、遠巻きに道をあける。その視線は好奇と畏敬に満ちていた。
「すごい人ですね……」
「皆様、ヤマト様を一目見たいのですわ。帝国の英雄ですもの」
エリアーナは、そんな視線もどこか楽しむように、嬉しそうに大和の少し後ろをついて歩く。
病弱で、これまで皇宮の外へ自由に出ることなど滅多に許されなかった彼女にとって、この散策は夢のような時間だった。活気のある市場、空を飛び交うエアカー、道端で売られている不思議な形の果物。その全てが、彼女の目を輝かせた。
そんな彼女の無邪気な笑顔を見ていると、大和の心からも、いつしか警戒心や面倒だという気持ちが薄れていく。
(まあ、たまにはこういうのも、悪くないか)
胃の痛みは相変わらずだったが、美しい少女との穏やかな休日のような時間に、大和の心も少しだけ軽やかになっていくのだった。
24
あなたにおすすめの小説
M.M.O. - Monster Maker Online
夏見ナイ
SF
現実世界に居場所を見出せない大学生、神代悠。彼が救いを求めたのは、モンスターを自由に創造できる新作VRMMO『M.M.O.』だった。
彼が選んだのは、戦闘能力ゼロの不遇職【モンスターメイカー】。周囲に笑われながらも、悠はゴミ同然の素材と無限の発想力を武器に、誰も見たことのないユニークなモンスターを次々と生み出していく。
その常識外れの力は、孤高の美少女聖騎士や抜け目のない商人少女といった仲間を引き寄せ、やがて彼の名はサーバーに轟く。しかし、それは同時にゲームの支配を目論む悪徳ギルドとの全面対決の始まりを意味していた。
これは、最弱の職から唯一無二の相棒を創り出し、仲間と世界を守るために戦う、創造と成り上がりの物語。
男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます
neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。
松田は新しい世界で会社員となり働くこととなる。
ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。
PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。
↓
PS.投稿を再開します。ゆっくりな投稿頻度になってしまうかもですがあたたかく見守ってください。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
平凡志望なのにスキル【一日一回ガチャ】がSSS級アイテムばかり排出するせいで、学園最強のクール美少女に勘違いされて溺愛される日々が始まった
久遠翠
ファンタジー
平凡こそが至高。そう信じて生きる高校生・神谷湊に発現したスキルは【1日1回ガチャ】。出てくるのは地味なアイテムばかり…と思いきや、時々混じるSSS級の神アイテムが、彼の平凡な日常を木っ端微塵に破壊していく!
ひょんなことから、クラス一の美少女で高嶺の花・月島凛の窮地を救ってしまった湊。正体を隠したはずが、ガチャで手に入れたトンデモアイテムのせいで、次々とボロが出てしまう。
「あなた、一体何者なの…?」
クールな彼女からの疑いと興味は、やがて熱烈なアプローチへと変わり…!?
平凡を愛する男と、彼を最強だと勘違いしたクール美少女、そして秘密を抱えた世話焼き幼馴染が織りなす、勘違い満載の学園ダンジョン・ラブコメ、ここに開幕!
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
俺をフッた幼馴染が、トップアイドルになって「もう一度やり直したい」と言ってきた
夏見ナイ
恋愛
平凡な大学生・藤堂蓮には忘れられない過去がある。高校時代、告白した幼馴染の星宮瑠奈に「アイドルになるから」とこっ酷くフラれたことだ。
数年後、瑠奈は国民的アイドル『LUNA』として輝いていた。遠い世界の住人になった彼女との再会なんて、あるはずもなかった――そう、変装した彼女が俺の前に現れ、「もう一度やり直したい」と泣きつくまでは。
トップアイドルの立場を使い強引に迫る元幼馴染と、過去の傷。揺れ動く俺の日常を照らしてくれたのは、俺の才能を信じてくれる後輩・朝霧陽葵の存在だった。
俺をフッた幼馴染か、俺を支える後輩か。過去の清算と未来の選択を描く、ほろ苦くも甘い、逆転ラブコメディ、開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる