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第十四話 地下遺跡への扉
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エリアナの小さな頷き。それは、彼女が初めて自らの意志で掴もうとした希望の光だった。レクスは彼女のその変化を見逃さなかった。
「何か気づいたことはないか。神官たちが気にしていた場所、いつもと違う行動、どんな些細なことでもいい」
「……いつも、あの人たちは祭壇の床を調べていたわ。特に、あの紋章のあたりを」
エリアナが指差したのは、祭壇の中央に刻まれた太陽と月が組み合わさったような複雑な紋様だった。埃と瓦礫に埋もれているが、その意匠は明らかに周囲の装飾とは異質だ。
レクスは紋様の上に積もった瓦礫を手で払い除けた。石の床に、精緻な彫刻が施されている。それはただの飾りではない。何かの仕掛けであることは明白だった。
「押してみるか……」
レクスは紋様の中央、太陽の部分に力を込めて押し込んだ。だが、石板はびくともしない。引いてみる。回してみる。あらゆる方法を試したが、何の反応もなかった。
「だめか……」
レクスが腕を組んで唸っていると、エリアナがおずおずと口を開いた。
「あの……私の力が、この紋様に引き寄せられるような感じがするの」
「引き寄せられる?」
「ええ。ずっと前から。この紋様だけが、私の力を少しだけ和らげてくれるような……それでいて、何かを求めているような、そんな不思議な感覚があったわ」
その言葉は、レクスにとって天啓だった。
彼はエリアナに向き直る。
「エリアナ、君の力をその紋様に向けてみてくれないか。できるだけでいい」
エリアナは戸惑った。彼女にとって、自分の力は呪いそのものだ。それを意図的に使うことなど、考えたこともなかった。
「でも、私の力は……」
「大丈夫だ。俺がついている」
レクスの力強い言葉に、エリアナは心を決めた。彼女は両手を前に突き出し、震えながらも意識を集中させる。彼女の内にある、制御不能だった強大な聖なる力が、その指先から溢れ出した。
淡い光の奔流が、エリアナの手から放たれる。それは祭壇の紋様へと吸い込まれるように集まっていった。
すると、紋様が眩い光を放ち始めた。太陽と月の彫刻が、まるで命を宿したかのように輝き出す。
ゴゴゴゴゴ……。
教会全体が、低い地響きと共に揺れ始めた。レクスが調べていた祭壇が、ゆっくりと横にスライドしていく。その下には、闇へと続く螺旋階段がぽっかりと口を開けていた。
「これだ……!」
レクスは思わず声を上げた。地下への入り口は、エリアナの聖なる力を鍵として封印されていたのだ。神官たちは、彼女の力を恐れ、利用しながらも、その本当の使い方を知らなかった。あるいは、知っていて意図的に隠していたのかもしれない。
階段の奥からは、冷たく淀んだ空気が吹き上げてくる。それは、ただの地下室の空気ではなかった。死の匂い。アンデッドが放つ独特の腐臭が、微かに混じっている。
レクスは松明に火を灯し、腰のロングソードを抜いた。
「エリアナ、君はここで待っていてくれ。必ず、君を解放する鍵を見つけてくる」
「待って……!」
エリアナが必死の形相で彼を呼び止める。
「危ないわ。その先からは、とても邪悪な気配がする。私を縛っているこの鎖よりも、ずっと恐ろしい何かが……」
彼女の瞳には、レクスを案じる色がはっきりと浮かんでいた。それは、彼女が他人に対して初めて見せた、恐怖以外の感情だった。
「だからこそ、行くんだ」
レクスは不敵に笑ってみせた。
「その邪悪な何かこそが、君を苦しめている元凶の可能性が高い。そいつをどうにかすれば、君の力も安定するはずだ」
彼はエリアナに背を向け、迷いなく螺旋階段へと足を踏み入れた。松明の炎が揺らめき、彼の影を壁に長く映し出す。
「レクスさん……!」
エリアナの声が、背後から追いかけてくる。
レクスは振り返らず、片手だけを上げて応えた。
冷たい闇が、まるで生き物のように彼の体を呑み込んでいく。だが、レクスの決意の炎は、その闇の中でもなお明るく燃えていた。
「何か気づいたことはないか。神官たちが気にしていた場所、いつもと違う行動、どんな些細なことでもいい」
「……いつも、あの人たちは祭壇の床を調べていたわ。特に、あの紋章のあたりを」
エリアナが指差したのは、祭壇の中央に刻まれた太陽と月が組み合わさったような複雑な紋様だった。埃と瓦礫に埋もれているが、その意匠は明らかに周囲の装飾とは異質だ。
レクスは紋様の上に積もった瓦礫を手で払い除けた。石の床に、精緻な彫刻が施されている。それはただの飾りではない。何かの仕掛けであることは明白だった。
「押してみるか……」
レクスは紋様の中央、太陽の部分に力を込めて押し込んだ。だが、石板はびくともしない。引いてみる。回してみる。あらゆる方法を試したが、何の反応もなかった。
「だめか……」
レクスが腕を組んで唸っていると、エリアナがおずおずと口を開いた。
「あの……私の力が、この紋様に引き寄せられるような感じがするの」
「引き寄せられる?」
「ええ。ずっと前から。この紋様だけが、私の力を少しだけ和らげてくれるような……それでいて、何かを求めているような、そんな不思議な感覚があったわ」
その言葉は、レクスにとって天啓だった。
彼はエリアナに向き直る。
「エリアナ、君の力をその紋様に向けてみてくれないか。できるだけでいい」
エリアナは戸惑った。彼女にとって、自分の力は呪いそのものだ。それを意図的に使うことなど、考えたこともなかった。
「でも、私の力は……」
「大丈夫だ。俺がついている」
レクスの力強い言葉に、エリアナは心を決めた。彼女は両手を前に突き出し、震えながらも意識を集中させる。彼女の内にある、制御不能だった強大な聖なる力が、その指先から溢れ出した。
淡い光の奔流が、エリアナの手から放たれる。それは祭壇の紋様へと吸い込まれるように集まっていった。
すると、紋様が眩い光を放ち始めた。太陽と月の彫刻が、まるで命を宿したかのように輝き出す。
ゴゴゴゴゴ……。
教会全体が、低い地響きと共に揺れ始めた。レクスが調べていた祭壇が、ゆっくりと横にスライドしていく。その下には、闇へと続く螺旋階段がぽっかりと口を開けていた。
「これだ……!」
レクスは思わず声を上げた。地下への入り口は、エリアナの聖なる力を鍵として封印されていたのだ。神官たちは、彼女の力を恐れ、利用しながらも、その本当の使い方を知らなかった。あるいは、知っていて意図的に隠していたのかもしれない。
階段の奥からは、冷たく淀んだ空気が吹き上げてくる。それは、ただの地下室の空気ではなかった。死の匂い。アンデッドが放つ独特の腐臭が、微かに混じっている。
レクスは松明に火を灯し、腰のロングソードを抜いた。
「エリアナ、君はここで待っていてくれ。必ず、君を解放する鍵を見つけてくる」
「待って……!」
エリアナが必死の形相で彼を呼び止める。
「危ないわ。その先からは、とても邪悪な気配がする。私を縛っているこの鎖よりも、ずっと恐ろしい何かが……」
彼女の瞳には、レクスを案じる色がはっきりと浮かんでいた。それは、彼女が他人に対して初めて見せた、恐怖以外の感情だった。
「だからこそ、行くんだ」
レクスは不敵に笑ってみせた。
「その邪悪な何かこそが、君を苦しめている元凶の可能性が高い。そいつをどうにかすれば、君の力も安定するはずだ」
彼はエリアナに背を向け、迷いなく螺旋階段へと足を踏み入れた。松明の炎が揺らめき、彼の影を壁に長く映し出す。
「レクスさん……!」
エリアナの声が、背後から追いかけてくる。
レクスは振り返らず、片手だけを上げて応えた。
冷たい闇が、まるで生き物のように彼の体を呑み込んでいく。だが、レクスの決意の炎は、その闇の中でもなお明るく燃えていた。
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