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第十九話 本当の力
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レクスの手に乗せられた【星涙のペンダント】は、夜空の星々を閉じ込めたかのように静かに、そして美しく輝いていた。エリアナはその輝きから目が離せない。自分の呪われた力から生まれたとは思えない、あまりにも清浄な光だった。
「さあ、受け取ってくれ。これは君のものだ」
「……いいの? 私が、こんな綺麗なものに触れても」
「君のために作ったんだ。当たり前だろう」
レクスの優しい声に背中を押され、エリアナは震える指先でそっとペンダントに触れた。ひんやりとした宝石の感触。温かい鎖の感触。彼女がペンダントを手に取ると、それはまるで主の元へ帰るかのように、さらに輝きを増した。
エリアナはゆっくりと、そのペンダントを自分の首にかける。
涙滴型の宝石が彼女の胸元に触れた瞬間、奇跡が起きた。
ペンダントが眩い光を放ち、エリアナの全身を包み込む。これまで彼女の体を苛み、周囲の生命力を無差別に奪っていた荒れ狂う聖なる力の奔流が、まるで嵐の後の凪のように、穏やかに鎮まっていく。溢れ出ていた光のオーラは、すうっと彼女の体の中へと収束していった。
廃教会の中に満ちていた、肌を刺すような聖なる圧力は完全に消え失せた。代わりに、心地よく穏やかな霊気が満ちている。
「あ……」
エリアナは自分の両手を見つめた。何も感じない。これまで常に感じていた、内側から溢れ出そうとする力の衝動が、嘘のように消えている。力は失われたのではない。ただ、静かにそこにある。自分の意志で、いつでも引き出せる場所に。
「これが……私……?」
初めて感じる、穏やかな心。力の暴走に怯える必要のない、安らかな状態。エリアナの翡翠色の瞳から、大粒の涙が次々と溢れ落ちた。
「どうだ? もう、苦しくないだろう」
「はい……はい……!」
エリアナは何度も頷いた。その顔は涙でぐしょぐしょだったが、紛れもない笑顔だった。
レクスはそんな彼女を見て、満足げに微笑んだ。
「それじゃあ、試してみようか。君の本当の力を」
レクスはそう言うと、シルヴァーウルフとの戦いで負った腕の傷を見せた。ポーションで応急処置はしたが、まだ生々しい痕が残っている。
「この傷を、癒せるか?」
「……やってみます」
エリアナはこくりと頷くと、恐る恐るレクスの腕に手をかざした。彼女は自分の意志で力を使うことなど、これまで一度もしたことがない。だが、ペンダントのおかげで、どうすればいいのかが自然と分かった。
彼女が心の中で「癒やし」をイメージすると、その手のひらから柔らかく温かい光が放たれた。光がレクスの傷を包み込むと、裂けていた皮膚は見る見るうちに塞がり、赤みも消えていく。数秒後には、そこには傷があったことさえ分からないほど、綺麗な肌が再生していた。
「すごい……」
レクスは自分の腕を見つめ、思わず声を漏らした。ポーションとは比べ物にならない、完璧な治癒魔法だ。
エリアナも、自分の力が初めて誰かの役に立ったという事実に、感動で体を震わせていた。
「私、できた……人を、助けられた……!」
「ああ。君は聖女だ。本物のな」
レクスの言葉に、エリアナは堰を切ったように泣きじゃくった。それは、長い間抑圧されてきた魂の解放の叫びだった。
レクスは、泣き続ける彼女を静かに待った。やがて彼女が少し落ち着いたのを見計らい、彼は【月光のダガー】を抜いた。そして、エリアナの足首を今もなお縛り付けている鉄の枷へと、その切っ先を向ける。
「君を縛るものは、もう何もない」
レクスがダガーを一閃させると、聖なる刃は錆びた鉄の枷を、まるでバターのように音もなく切り裂いた。カラン、と乾いた音を立てて、枷が床に落ちる。
物理的な拘束からも解放され、エリアナは本当の自由を手に入れた。彼女は自分の足でしっかりと立ち上がると、レクスの前に深々と頭を下げた。
「レクスさん。ありがとうございます。あなたは、私の命の恩人です」
「礼なら、これから君が助ける人たちに言ってやれ」
「はい……! それで、お願いがあります。どうか、私をあなたの旅に連れて行ってください。この力で、あなたのお役に立ちたいのです」
その申し出を、レクスが断る理由はなかった。
「もちろんだ。歓迎するよ、エリアナ」
二人の間に、確かな絆が生まれた瞬間だった。
しかし、その穏やかな時間は、突然破られた。
ドォォン!!
教会の朽ちかけた扉が、外から凄まじい力で蹴破られた。
逆光の中に立つ複数の人影。その中心には、見覚えのある肥満体の神官長の姿があった。彼の顔は、偽善の仮面を剥ぎ取った、剥き出しの怒りに歪んでいた。
「さあ、受け取ってくれ。これは君のものだ」
「……いいの? 私が、こんな綺麗なものに触れても」
「君のために作ったんだ。当たり前だろう」
レクスの優しい声に背中を押され、エリアナは震える指先でそっとペンダントに触れた。ひんやりとした宝石の感触。温かい鎖の感触。彼女がペンダントを手に取ると、それはまるで主の元へ帰るかのように、さらに輝きを増した。
エリアナはゆっくりと、そのペンダントを自分の首にかける。
涙滴型の宝石が彼女の胸元に触れた瞬間、奇跡が起きた。
ペンダントが眩い光を放ち、エリアナの全身を包み込む。これまで彼女の体を苛み、周囲の生命力を無差別に奪っていた荒れ狂う聖なる力の奔流が、まるで嵐の後の凪のように、穏やかに鎮まっていく。溢れ出ていた光のオーラは、すうっと彼女の体の中へと収束していった。
廃教会の中に満ちていた、肌を刺すような聖なる圧力は完全に消え失せた。代わりに、心地よく穏やかな霊気が満ちている。
「あ……」
エリアナは自分の両手を見つめた。何も感じない。これまで常に感じていた、内側から溢れ出そうとする力の衝動が、嘘のように消えている。力は失われたのではない。ただ、静かにそこにある。自分の意志で、いつでも引き出せる場所に。
「これが……私……?」
初めて感じる、穏やかな心。力の暴走に怯える必要のない、安らかな状態。エリアナの翡翠色の瞳から、大粒の涙が次々と溢れ落ちた。
「どうだ? もう、苦しくないだろう」
「はい……はい……!」
エリアナは何度も頷いた。その顔は涙でぐしょぐしょだったが、紛れもない笑顔だった。
レクスはそんな彼女を見て、満足げに微笑んだ。
「それじゃあ、試してみようか。君の本当の力を」
レクスはそう言うと、シルヴァーウルフとの戦いで負った腕の傷を見せた。ポーションで応急処置はしたが、まだ生々しい痕が残っている。
「この傷を、癒せるか?」
「……やってみます」
エリアナはこくりと頷くと、恐る恐るレクスの腕に手をかざした。彼女は自分の意志で力を使うことなど、これまで一度もしたことがない。だが、ペンダントのおかげで、どうすればいいのかが自然と分かった。
彼女が心の中で「癒やし」をイメージすると、その手のひらから柔らかく温かい光が放たれた。光がレクスの傷を包み込むと、裂けていた皮膚は見る見るうちに塞がり、赤みも消えていく。数秒後には、そこには傷があったことさえ分からないほど、綺麗な肌が再生していた。
「すごい……」
レクスは自分の腕を見つめ、思わず声を漏らした。ポーションとは比べ物にならない、完璧な治癒魔法だ。
エリアナも、自分の力が初めて誰かの役に立ったという事実に、感動で体を震わせていた。
「私、できた……人を、助けられた……!」
「ああ。君は聖女だ。本物のな」
レクスの言葉に、エリアナは堰を切ったように泣きじゃくった。それは、長い間抑圧されてきた魂の解放の叫びだった。
レクスは、泣き続ける彼女を静かに待った。やがて彼女が少し落ち着いたのを見計らい、彼は【月光のダガー】を抜いた。そして、エリアナの足首を今もなお縛り付けている鉄の枷へと、その切っ先を向ける。
「君を縛るものは、もう何もない」
レクスがダガーを一閃させると、聖なる刃は錆びた鉄の枷を、まるでバターのように音もなく切り裂いた。カラン、と乾いた音を立てて、枷が床に落ちる。
物理的な拘束からも解放され、エリアナは本当の自由を手に入れた。彼女は自分の足でしっかりと立ち上がると、レクスの前に深々と頭を下げた。
「レクスさん。ありがとうございます。あなたは、私の命の恩人です」
「礼なら、これから君が助ける人たちに言ってやれ」
「はい……! それで、お願いがあります。どうか、私をあなたの旅に連れて行ってください。この力で、あなたのお役に立ちたいのです」
その申し出を、レクスが断る理由はなかった。
「もちろんだ。歓迎するよ、エリアナ」
二人の間に、確かな絆が生まれた瞬間だった。
しかし、その穏やかな時間は、突然破られた。
ドォォン!!
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