追放された【ガチャ師】の俺、鑑定不能のゴミアイテムばかり出ると思いきや、実は神話級の遺物だった件

夏見ナイ

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第三十七話 風を屠る槍

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ドルトンでの日々は、穏やかに過ぎていった。
街は英雄となった三人を温かく迎え入れ、彼らがどこへ行っても、鉱夫たちの陽気な声援が飛んできた。レクスたちにとって、それは初めて経験する、純粋な賞賛に満ちた日常だった。

シルヴィが正式に仲間に加わったことで、パーティの雰囲気は大きく変わった。
これまではレクスが主導権を握っていたが、今はシルヴィがその役目を引き受けている。彼女の豊富な知識と経験は、パーティの行動指針をより的確なものにした。

「エリアナ、治癒魔法はタイミングが命だ。味方が攻撃に転じる瞬間は、詠唱を控えろ。逆に、敵が退く瞬間こそ、最大の回復の好機になる」
「はい、シルヴィさん!」

「レクス、あんたの戦闘力は規格外だが、動きに無駄が多い。もっと体幹を意識しろ。一撃の重さよりも、次の一撃へ繋がる速さを重視するんだ」
「……ああ、分かっている」

シルヴィの指導は厳しくも的確だった。彼女は口うるさい教官のように振る舞うが、その根底には仲間への深い思いやりがあった。エリアナはそんな彼女を姉のように慕い、レクスもまた、自分に欠けていた視点を補ってくれる彼女の存在を、心強く感じていた。

三人はドルトン近郊の森で、連携を磨くための訓練を繰り返した。
レクスが前衛で敵の注意を引き、シルヴィが遊撃手として敵陣を切り崩し、エリアナが後衛から完璧な支援を送る。その連携は日を追うごとに洗練され、もはやCランクパーティの域を遥かに超えていた。

訓練の合間、レクスとシルヴィはギルドの資料室に籠もり、新たな遺物の情報を探した。
ドワーフの古文書や、古代の英雄譚。二人は膨大な文献を、片っ端から読み解いていく。

「見つけたぞ」

ある日の午後、シルヴィが興奮した声で一冊の古い書物を指差した。
それは、竜と戦ったとされる古代の英雄の物語だった。

『英雄は、天を裂く暴風をその身に纏う竜王に挑みし時、風の精霊王に祈りを捧げた。王は英雄の勇気を認め、一振りの槍を与えたり。その名は【風薙の槍】。槍が振るわれし時、嵐は凪ぎ、竜は翼を失い、地に堕ちたと云う』

「風薙の槍……」

レクスはその名前に、何か惹かれるものを感じた。竜を屠る、風の槍。それは、空を飛ぶ敵に対して絶大な効果を発揮する武器に違いない。

「この槍に関する具体的な場所や、素材の手がかりは?」
「残念ながら、これ以上の記述はない。ただ『風が生まれ、竜が眠る場所』とあるだけだ。あまりにも漠然としすぎている」

シルヴィは悔しそうに唇を噛んだ。
だが、レクスの心には、新たな目標が確かに刻まれた。いつか、この伝説の槍をこの手に。その思いが、彼の探求心を再び燃え上がらせた。

そんな穏やかな日々が、ある日、唐突に終わりを告げる。
ドルトンのギルドに、王都ギルド本部から一羽の飛竜便が舞い降りたのだ。それは、緊急の指名依頼を告げる知らせだった。

ギルドマスターのドワーフが、険しい顔で三人を探しに来た。
「お前さんたちに、王都から直々の指名依頼だ」
「王都から?」

レクスは、その言葉に眉をひそめた。胸の奥に、忘れかけていた過去の澱が蘇る。

ギルドマスターが差し出した依頼書には、こう記されていた。
『緊急討伐依頼:ワイバーンロード』
『場所:王都南東部・竜の顎(あぎと)渓谷』
『依頼者:王都冒険者ギルド本部』
『指名パーティ:神速の三人パーティ(レクス、エリアナ、シルヴィ)』

ワイバーンロード。飛竜の王。Aランクパーティですら苦戦を強いられる、空の暴君だ。それを、Cランクに昇格したばかりの自分たちに? しかも、指名で。

「どういうことだ。なぜ俺たちが」
「分からん。だが、お前さんたちの活躍が、何らかの形で王都のお偉いさん方の耳に入ったのは間違いないだろう。指名依頼は、原則として拒否権はない。どうする?」

ギルドマスターの問いに、レクスは答えられなかった。
王都。そこは、ガイウスがいる場所だ。自分を追放し、全てを奪おうとした男がいる。できれば、もう関わりたくはなかった。

しかし、レクスが隣を見ると、エリアナとシルヴィは、ただ黙って彼を見つめていた。その瞳には、不安も恐怖もない。ただ、あなたの決断に従う、という絶対的な信頼だけが宿っていた。

そうだ。俺はもう、一人じゃない。
この仲間たちがいるなら、過去の因縁など恐るるに足らず。

レクスは迷いを振り払い、顔を上げた。
「……分かった。その依頼、受けよう」

彼の決断に、仲間たちは力強く頷いた。
新たな舞台は、王都。そこには、過去の亡霊が待ち受けているかもしれない。
だが、彼らはもう、過去に囚われた敗者ではなかった。
自らの力で未来を切り拓く、冒険者だった。
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