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第三十六話 ドルトンの英雄、王都の嫉妬
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ドワーフの旧鉱脈から生還した三人は、ドルトンの街に英雄として迎えられた。
長年、街の脅威であった呪いの源泉が消滅したというニュースは、瞬く間に鉱夫たちの間に広まった。ギルドに報告へ向かう道中、屈強なドワーフたちが次々と三人に駆け寄り、その肩を叩き、感謝の言葉を口にした。
「よくやってくれた、若いの!」
「これで安心して採掘に行けるぜ!」
彼らの顔には、心からの喜びと尊敬が浮かんでいる。シルヴィは、そのあまりの歓迎ぶりに戸惑い、照れくさそうに顔を伏せていた。彼女にとって、人から感謝されるという経験は、あまりにも久しぶりすぎたのだ。
ドルトンのギルドマスターは、恰幅の良いドワーフだった。彼は三人の報告を聞くと、豪快な笑い声を上げた。
「ガッハッハ! まさか、あの呪いを本当に解いちまうとはな! 見事だ!」
彼は約束通り、破格の報酬を三人に支払った。さらに、シルヴィの冒険者ランクは、過去の実績と今回の功績を考慮され、一気にBランクへと復帰した。レクスとエリアナも、それに伴いCランクへと昇格した。
その夜。三人は「ドワーフの酒樽亭」で、ささやかな祝杯を上げていた。
店主のドワーフが、最高級のエールと山のような料理をサービスしてくれた。
「それにしても、見事な飲みっぷりだな、シルヴィは」
「ふん。このくらい、昔取った杵柄だ」
シルヴィは巨大なジョッキを軽々と呷り、憎まれ口を叩く。だが、その横顔は晴れやかで、赤い髪が酒場の灯りを反射して楽しげに揺れていた。
「レクスさんも、エリアナさんも、これからどうするのですか?」
「そうだな。しばらくはこの街に滞在して、次の遺物の情報を集めるつもりだ」
「それなら、私に任せろ」
シルヴィが口を挟んだ。
「私はこの辺りの地理には詳しい。それに、ドワーフの古文書にもいくつか心当たりがある。お前たちには、返さねばならん恩があるからな」
彼女の言葉はぶっきらぼうだったが、その瞳には仲間としての確かな信頼が宿っている。レクスとエリアナは顔を見合わせ、微笑んだ。
その時、酒場の入り口が騒がしくなった。見覚えのある三人の男たち、シルヴィのかつての仲間が入ってきたのだ。彼らは店内の陽気な雰囲気と、その中心にいるシルヴィの姿を見て、ぎょっとしたように足を止めた。
リーダー格の男が、信じられないといった顔でシルヴィに近づいてくる。
「シルヴィ……お前、その気配……呪いはどうしたんだ?」
「見ての通りだ。もう、私を縛るものは何もない」
シルヴィは冷静に答えた。かつてのように、屈辱に耐える姿はそこにはない。堂々とした、一人の優れた剣士がそこにいるだけだった。
男は言葉を失い、後ずさった。今のシルヴィから放たれる圧倒的なオーラに、彼は気圧されていた。
「そ、そうか……よかったじゃねえか……」
男はそれだけ言うと、仲間と共にそそくさと店を出て行った。
シルヴィは、その後ろ姿を一瞥しただけで、すぐにジョッキへと視線を戻した。彼女の中で、過去との因縁がまた一つ、完全に断ち切られた瞬間だった。
***
その頃、遥か南の王都。
Sランクパーティ「太陽の槍」のギルドマスター室で、ガイウス・ヴァーミリオンは苛立たしげに机を叩いた。
「どういうことだ、これは!」
彼の目の前には、一枚の報告書が置かれている。
そこには、辺境の鉱山の街ドルトンで、「神速の三人パーティ」と呼ばれる新進気鋭のパーティが、Aランク相当の難易度を誇る「ドワーフの旧鉱脈」を攻略した、と記されていた。
最初は、ただの田舎の武勇伝だと鼻で笑っていた。
だが、そのパーティメンバーの名前を見て、ガイウスは凍りついた。
レクス・アストレア。
自分が役立たずと罵り、ゴミ出しとしてこき使い、そして追放した男の名前が、そこにあったからだ。
「あり得ん……! あいつに、そんな力があるはずがない!」
嫉妬と屈辱で、顔が熱くなる。自分が見捨てたガラクタが、いつの間にか手の届かない場所で輝いている。その事実が、彼のプライドを許さなかった。
「あの男が使っているという、奇妙な武具や装飾品……。おそらく、それが力の源泉だ。あいつ自身の実力など、たかが知れている」
ガイウスは、自分に言い聞かせるように呟いた。
そうだ、あいつの力ではない。あいつが偶然手に入れたアイテムの力だ。ならば、それを自分が手に入れればいい。
「あのパーティの動向を調べろ。奴らがどこへ向かうのか、何をしようとしているのか、逐一報告しろ」
部下に命じると、ガイウスは窓の外に広がる王都の景色を見下ろした。
その整った顔には、どす黒い独占欲と、歪んだ笑みが浮かんでいた。
「待っていろ、レクス。お前が持つ全ては、元々俺のものになるはずだったんだ。今度こそ、根こそぎ奪い取ってやる」
遠く離れた地で、レクスたちの新たな旅立ちを祝う陽気な歌声が響いていることなど、彼は知る由もなかった。```
長年、街の脅威であった呪いの源泉が消滅したというニュースは、瞬く間に鉱夫たちの間に広まった。ギルドに報告へ向かう道中、屈強なドワーフたちが次々と三人に駆け寄り、その肩を叩き、感謝の言葉を口にした。
「よくやってくれた、若いの!」
「これで安心して採掘に行けるぜ!」
彼らの顔には、心からの喜びと尊敬が浮かんでいる。シルヴィは、そのあまりの歓迎ぶりに戸惑い、照れくさそうに顔を伏せていた。彼女にとって、人から感謝されるという経験は、あまりにも久しぶりすぎたのだ。
ドルトンのギルドマスターは、恰幅の良いドワーフだった。彼は三人の報告を聞くと、豪快な笑い声を上げた。
「ガッハッハ! まさか、あの呪いを本当に解いちまうとはな! 見事だ!」
彼は約束通り、破格の報酬を三人に支払った。さらに、シルヴィの冒険者ランクは、過去の実績と今回の功績を考慮され、一気にBランクへと復帰した。レクスとエリアナも、それに伴いCランクへと昇格した。
その夜。三人は「ドワーフの酒樽亭」で、ささやかな祝杯を上げていた。
店主のドワーフが、最高級のエールと山のような料理をサービスしてくれた。
「それにしても、見事な飲みっぷりだな、シルヴィは」
「ふん。このくらい、昔取った杵柄だ」
シルヴィは巨大なジョッキを軽々と呷り、憎まれ口を叩く。だが、その横顔は晴れやかで、赤い髪が酒場の灯りを反射して楽しげに揺れていた。
「レクスさんも、エリアナさんも、これからどうするのですか?」
「そうだな。しばらくはこの街に滞在して、次の遺物の情報を集めるつもりだ」
「それなら、私に任せろ」
シルヴィが口を挟んだ。
「私はこの辺りの地理には詳しい。それに、ドワーフの古文書にもいくつか心当たりがある。お前たちには、返さねばならん恩があるからな」
彼女の言葉はぶっきらぼうだったが、その瞳には仲間としての確かな信頼が宿っている。レクスとエリアナは顔を見合わせ、微笑んだ。
その時、酒場の入り口が騒がしくなった。見覚えのある三人の男たち、シルヴィのかつての仲間が入ってきたのだ。彼らは店内の陽気な雰囲気と、その中心にいるシルヴィの姿を見て、ぎょっとしたように足を止めた。
リーダー格の男が、信じられないといった顔でシルヴィに近づいてくる。
「シルヴィ……お前、その気配……呪いはどうしたんだ?」
「見ての通りだ。もう、私を縛るものは何もない」
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男は言葉を失い、後ずさった。今のシルヴィから放たれる圧倒的なオーラに、彼は気圧されていた。
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シルヴィは、その後ろ姿を一瞥しただけで、すぐにジョッキへと視線を戻した。彼女の中で、過去との因縁がまた一つ、完全に断ち切られた瞬間だった。
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最初は、ただの田舎の武勇伝だと鼻で笑っていた。
だが、そのパーティメンバーの名前を見て、ガイウスは凍りついた。
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自分が役立たずと罵り、ゴミ出しとしてこき使い、そして追放した男の名前が、そこにあったからだ。
「あり得ん……! あいつに、そんな力があるはずがない!」
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ガイウスは、自分に言い聞かせるように呟いた。
そうだ、あいつの力ではない。あいつが偶然手に入れたアイテムの力だ。ならば、それを自分が手に入れればいい。
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