ゴブリンだって進化したい!~最弱モンスターに転生したけど、スキル【弱肉強食】で食って食って食いまくったら、気づけば魔王さえ喰らう神になってた

夏見ナイ

文字の大きさ
21 / 96

第21話 異文化コミュニケーション

しおりを挟む
戦いが終わった森の廃墟は、死の匂いと血の匂いに満ちていた。俺たちは手早く戦場を片付け、洞窟への帰路についた。ゴブリンたちは戦利品の重さに顔をしかめながらも、その足取りには確かな勝利の熱が宿っている。

俺の隣を、リリアが歩いていた。彼女は気を失ったエルフの子供をしっかりと抱きかかえている。俺たちが人間を殺し、略奪する様を間近で見たはずなのに、彼女の横顔に以前のような恐怖の色はなかった。ただ、何かを決意したような、静かな光がその瞳に宿っている。

洞窟に帰還すると、残留部隊が俺たちの無事と、山のような戦利品を見て歓声を上げた。だが、リリアが抱えるエルフの子供の姿を認めると、その歓声は困惑のざわめきへと変わった。

「ボス……コノ子供ハ?」
「保護した。リリア、この子の手当てを頼む」

俺は周囲のゴボリンたちの視線を制し、リリアに場所を空けるよう命じた。資材管理係が慌てて清潔な毛皮と水を用意する。リリアは礼を言うと、子供をそっと毛皮の上に寝かせ、その傷の具合を確かめ始めた。

俺は少し離れた場所から、彼女の手際を観察していた。子供の身体には、逃亡生活で負ったであろう無数の切り傷や打撲の跡がある。リリアは濡れた布で優しく汚れを拭うと、その小さな傷口の一つにそっと手をかざした。

「聖なる光よ、その御手にて傷つきし者を癒したまえ」

凛とした声で紡がれる祈りの言葉。すると、彼女の手のひらから柔らかな光が溢れ出し、子供の傷を包み込んだ。光が消えた後、そこにあったはずの傷は跡形もなく消え去っていた。

俺は、その光景に静かな衝撃を受けていた。
治癒魔法。俺にとっては、単に「傷を治す便利なスキル」という認識だった。だが、彼女が行っているのは、もっと神聖で、複雑な儀式のように見えた。

俺の【弱肉強食】は、スキルという「結果」だけを奪う。だが、彼女が持つのは、結果に至るまでの「過程」と「理論」。知識に裏打ちされた、本物の技術だ。

リリアは数時間にわたり、子供の身体中の傷を一つ一つ丁寧に癒していった。その額には汗が滲み、顔色は徐々に青ざめていく。MPを消耗しているのだ。それでも彼女は治療をやめなかった。

やがて子供の呼吸が穏やかになり、安らかな寝息を立て始めたのを確認すると、リリアは大きく息をつき、その場に座り込んだ。

「ご苦労だった」
俺が声をかけると、リリアははっと顔を上げた。
「ゴブ様……。いえ、当然のことです」
「少し休め。お前がいなければ、この子も、そして前の戦いで負傷した俺の部下たちも助からなかっただろう。お前の力は、この群れにとって必要不可欠だ」

俺の率直な言葉に、リリアは少し驚いたように目を見開いた。そして、はにかむようにはにかんだ。
「お役に立てているのなら、嬉しいです」

俺は彼女の隣に腰を下ろした。そして、ずっと気になっていたことを尋ねることにした。
「リリア。お前の知っていることを教えて欲しい。この世界のことを」

俺は冒険者たちから断片的に得た情報を元に、人間たちの国家や、冒険者ギルド、そして魔法の体系について質問を重ねた。

リリアは少し戸惑いながらも、自分の知る限りの知識を語ってくれた。
この大陸には、アークライト王国をはじめとする複数の人間国家が存在すること。冒険者ギルドは、それらの国家に属さない、実力主義の傭兵組織であること。そして、人間と魔族が長きにわたって世界の覇権を争い続けていること。

「魔法にも、いくつか種類があるのです」と彼女は言った。
「私が使うのは、神々への祈りを通じて奇跡を起こす『神聖魔法』。森の精霊たちの力を借りる『精霊魔法』。そして、あの冒険者が使っていたような、世界の理に干渉して炎や水を生み出す『元素魔法』。それぞれ、全く異なる理論で成り立っています」

彼女の話は、俺にとって目から鱗が落ちるような情報ばかりだった。俺がスキルとして手に入れた【火魔法】は、元素魔法の初歩の初歩に過ぎないこと。そして、彼女の【治癒魔法】が、誰にでも使えるものではなく、「神聖魔法」という特殊な素養を必要とする、極めて貴重な力であることを、俺はこの時初めて正確に理解した。

「ゴブ様がスキルとして得られる力は、とても強力です。ですが、それは魔法という広大な学問の、ほんの一部分を切り取ったものに過ぎません。理論を理解すれば、応用範囲は無限に広がります」

その言葉は、俺の頭を殴られたような衝撃を与えた。
そうだ。俺は、スキルを得ることにばかり固執していた。だが、本当に重要なのは、そのスキルをどう理解し、どう応用するかだ。【溶解液】で罠を作ったように、知識と知恵こそが、スキルの真価を何倍にも引き上げるのだ。

そして、そのための知識を、リリアは持っている。

俺は、リリアという存在の価値を、完全に見誤っていた。
彼女は、ただのヒーラーではない。この世界のルールを俺に教えてくれる、最高の教師であり、俺の組織がこれから発展していく上で、絶対に欠かすことのできない参謀となりうる存在だ。

「……礼を言う、リリア。お前の知識は、どんな武器よりも強力だ」
「そ、そんな……」
「いや、本当だ。これからも、俺に色々と教えてくれ。俺の知らない、この世界の全てを」

俺の真剣な申し出に、リリアは頬を染めながらも、力強く頷いた。
「はい。私の知ることであれば、何でも」

その時だった。
「……う……ん……」
毛皮の上で、エルフの子供が身じろぎをし、ゆっくりと目を開けた。子供は最初にリリアの姿を認め、ほっとしたような顔をしたが、次に俺の姿を見て、びくりと身体を強張らせた。

「……ゴブリン……」

怯えた小さな声が、洞窟の静寂に響いた。

異文化との本格的な接触。それは、新たな知識と共に、新たな課題を俺に突きつけていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

M.M.O. - Monster Maker Online

夏見ナイ
SF
現実世界に居場所を見出せない大学生、神代悠。彼が救いを求めたのは、モンスターを自由に創造できる新作VRMMO『M.M.O.』だった。 彼が選んだのは、戦闘能力ゼロの不遇職【モンスターメイカー】。周囲に笑われながらも、悠はゴミ同然の素材と無限の発想力を武器に、誰も見たことのないユニークなモンスターを次々と生み出していく。 その常識外れの力は、孤高の美少女聖騎士や抜け目のない商人少女といった仲間を引き寄せ、やがて彼の名はサーバーに轟く。しかし、それは同時にゲームの支配を目論む悪徳ギルドとの全面対決の始まりを意味していた。 これは、最弱の職から唯一無二の相棒を創り出し、仲間と世界を守るために戦う、創造と成り上がりの物語。

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

俺の職業は【トラップ・マスター】。ダンジョンを経験値工場に作り変えたら、俺一人のせいでサーバー全体のレベルがインフレした件

夏見ナイ
SF
現実世界でシステムエンジニアとして働く神代蓮。彼が効率を求めVRMMORPG「エリュシオン・オンライン」で選んだのは、誰にも見向きもされない不遇職【トラップ・マスター】だった。 周囲の冷笑をよそに、蓮はプログラミング知識を応用してトラップを自動連携させる画期的な戦術を開発。さらに誰も見向きもしないダンジョンを丸ごと買い取り、24時間稼働の「全自動経験値工場」へと作り変えてしまう。 結果、彼のレベルと資産は異常な速度で膨れ上がり、サーバーの経済とランキングをたった一人で崩壊させた。この事態を危険視した最強ギルドは、彼のダンジョンに狙いを定める。これは、知恵と工夫で世界の常識を覆す、一人の男の伝説の始まり。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。

wakaba1890
ファンタジー
召喚獣。 それは向こう側とされる所から、10歳を迎えた日本人の子供の下に召喚されるモンスターのことである。 初代天皇・神武天皇が日本を建国した際に書かれた絵画には彼は金鵄と呼ばれる金色に輝く鵄(とび)と契約したのが原初となっている。 そして、縄文、弥生、古墳、飛鳥、平安、戦国時代から近代から今に至るまで、時代を動かしてきた人物の側には確かに召喚獣は介在していた。 また、奇妙な事に、日本国に限り、齢10歳を迎えた日本在住の日本人にのみ体のどこかから多種多様な紋章が発現し、当人が念じると任意の場所から召喚陣が現れ、人ならざるモンスターを召喚される。 そして、彼らモンスターは主人である当人や心を許した者に対して忠実であった。 そのため、古来の日本から、彼ら召喚獣は農耕、治水、土木、科学技術、エネルギー、政治、経済、金融、戦争など国家の基盤となる柱から、ありとあらゆる分野において、今日に至るまで日本国とアジアの繁栄に寄与してきた。 そして、建国から今まで、国益の基盤たる彼ら数万種類以上をも及ぶ召喚獣を取り締まり管理し、2600年以上と脈々と受け継がれてきた名誉ある国家職がーーーーー国家召喚獣管理官である。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

処理中です...