ゴブリンだって進化したい!~最弱モンスターに転生したけど、スキル【弱肉強食】で食って食って食いまくったら、気づけば魔王さえ喰らう神になってた

夏見ナイ

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第36話 戦士長の威圧

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燃え盛る砦の喧騒が、嘘のように遠のいていく。俺の目の前には、ただ一人、怒りと憎悪の化身となったガロンだけがいた。彼の全身から放たれる闘気は、部屋の空気を歪ませ、松明の炎を揺らすほどの凄まじさだった。

「よくも……よくも俺の砦を!」

ガロンの咆哮と共に、大剣が振り下ろされる。それは、森で対峙した時よりも、遥かに速く、そして重い一撃だった。俺はそれを長剣で受け流そうとしたが、あまりの威力に体勢を崩し、後方へと吹き飛ばされた。

「ぐっ……!」

腕が痺れ、剣を持つ手が震える。怒りが、彼の力をさらに引き上げているのだ。

ガロンは、休む間もなく追撃してくる。大剣が、嵐のように俺に襲いかかった。叩きつけ、横薙ぎ、突き。単純な攻撃の繰り返し。だが、その一撃一撃が、俺の防御をこじ開け、確実に体力を削り取っていく。

俺は、【跳躍】と【剣術】スキルを駆使し、紙一重で攻撃をかわし続けた。だが、この狭い部屋の中では、森の中のように距離を取ることができない。じりじりと、俺は壁際へと追い詰められていく。

「どうした、虫ケラの王! 逃げ回るしか能がないのか!」

ガロンの嘲笑が、俺の神経を逆なでする。
俺は、彼の攻撃の合間を縫って、反撃を試みた。懐に潜り込み、毒の短剣で鎧の隙間を狙う。だが、ガロンは俺の動きを完璧に読んでいた。彼は大剣を盾のように使い、俺の攻撃を的確に防いでみせる。

その時だった。

「――ウォークライ!」

ガロンが、再びあの広範囲強化スキルを発動させた。彼の身体から赤いオーラが噴き出し、その眼光がさらに鋭さを増す。

まずい!

俺は即座に距離を取ろうとした。だが、強化されたガロンの速度は、俺の反応を上回っていた。

「逃がさん!」

大剣の切っ先が、俺の肩を深く抉った。

「ぐあああっ!」

激痛が走り、左腕の感覚がなくなる。鮮血が、鎧の隙間から噴き出した。俺は壁に叩きつけられ、その場に崩れ落ちる。

「終わりだ」

ガロンが、ゆっくりと俺に近づいてくる。その姿は、まるで死刑執行人のようだった。大剣が、無慈悲にとどめを刺すために振り上げられる。

もはや、これまでか。
俺の脳裏に、諦めの二文字がよぎった、その瞬間。

部屋の外から、部下の叫び声が聞こえた。
「ボス! ご無事ですか!」

そうだ。俺は、一人じゃない。
俺の背後には、俺を信じ、命を懸けて戦ってくれている仲間たちがいる。
俺がここで死ねば、彼らはどうなる? 陽動部隊も、潜入部隊も、この砦で犬死にすることになる。リリアも、ルゥも、俺が築いた安住の地を失う。

前世のように、理不尽に、無力なまま、全てを失ってたまるか!

俺は、最後の力を振り絞り、地面を転がって大剣の一撃を回避した。そして、傷ついた身体に鞭打ち、よろめきながらも立ち上がる。

「……まだだ。まだ、終わっていない」

俺の目を見たガロンが、わずかに眉をひそめた。その目には、もはや死を覚悟した者の諦めではなく、どんな逆境にも屈しない、不屈の闘志が燃え盛っていたからだ。

「しぶとい奴め。だが、その傷で何ができる?」
「さあな。だが、お前を殺すには十分だ」

俺は、長剣を杖代わりに、片腕で身体を支えた。そして、残った右手で、懐からあるものを取り出す。それは、人間の冒険者から奪った、ヒーリングポーションだった。

俺は躊躇なく、その栓を抜き、中身を一気に呷った。
温かい光が、身体の内側から広がっていく。肩の傷口が、じゅくじゅくと音を立てて塞がり始め、失われた血が急速に生成されていくのを感じた。

完全な回復ではない。だが、戦いを続けるには十分な状態まで、俺の身体は回復した。

「なっ……! それは、人間の秘薬だと!?」
ガロンが、驚愕の声を上げる。彼にとって、俺の行動はまたしても理解の範疇を超えていた。

俺は空になったポーションの瓶を投げ捨て、再び剣を構えた。
「残念だったな、ガロン。ラウンド2と行こうじゃないか」

だが、俺はもう、彼と正面から斬り結ぶつもりはなかった。
彼の強さは、純粋なパワーと、それをさらに引き上げる【ウォークライ】にある。ならば、その土俵で戦う必要はない。

俺は、部屋の隅にある武器の陳列棚へと視線を向けた。そこには、大剣や斧だけでなく、オークたちが使っていたであろう、歪な形の投げ槍が何本も立てかけられていた。

これだ。

俺は【跳躍】を使い、ガロンから距離を取ると同時に、投げ槍を数本掴み取った。

「逃げるかと思えば、次は飛び道具か! 卑劣な!」
「何とでも言え。勝てば、それが正義だ」

俺は、一本の投げ槍を構えた。狙うは、ガロンの巨体。どこでもいい。とにかく、奴の注意を引きつけ、動きを止める。

俺は【怪力】スキルを腕に集中させ、力任せに投げ槍を放った。槍は風を切り、凄まじい勢いでガロンへと飛んでいく。

ガロンは、それを大剣で軽々と弾き返した。
「そんなもので!」

だが、それは陽動だ。
俺は、一本目の槍を投げると同時に、二本目の槍を、全く違う角度から投擲していた。そして、それと同時に、残ったMPを全て使い、【火魔法】のファイア・ボールを生成し、ガロンの足元へと放つ。

三方向からの、同時攻撃。

ガロンは、迫りくる二本の槍を、大剣と鎧の篭手で弾き返した。だが、足元で炸裂したファイア・ボールの爆風と熱に、その巨体が僅かにぐらついた。

その一瞬の隙。

それこそが、俺が狙っていた、たった一つの勝機だった。

ガロンの圧倒的な威圧感は、確かに戦場を支配していた。だが、その支配にも、ついに終わりが見え始めていた。俺の執拗な策略が、英雄の鎧に、最初の亀裂を入れた瞬間だった。
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