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第37話 ゴブ vs ガロン
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爆風に体勢を崩したガロン。そのコンマ数秒の隙を、俺の全てが捉えていた。
もはや、小細工は不要。これが、最後の一手。
俺は床を蹴り、一直線にガロンの懐へと飛び込んだ。
「ウォオオオオオ!」
俺は、ホブゴブリンとなって初めて、心の底からの雄叫びを上げた。それは、恐怖を振り払い、自らを鼓舞するための鬨の声。そして、俺の持つスキルを、限界まで引き出すための引き金だった。
俺の身体に、複数のスキルが同時に発動する。
まず、【突進】。グレートボアの破壊力を、ホブゴブリンの俊敏な肉体に乗せる。俺の身体は、もはやただの肉体ではなく、敵を粉砕するための一発の弾丸と化していた。
次に、【硬質外皮】。その弾丸の先端、すなわち俺の左肩を、極限まで硬化させる。狙うは、ガロンの鎧の胸板。一点集中の、突破力。
そして、【怪力】。全身の筋肉を爆発的に増強させ、突進の威力をさらに上乗せする。
最後に、【剣術】。突撃しながらも、その体捌きは剣の達人のように洗練され、無駄な動きが一切ない。最短距離を、最大効率で。
全てのスキルが、一つの目的に向かって収束していく。
ガロンを、打ち倒す。ただ、その一点のためだけに。
「小僧がぁ!」
ガロンもまた、俺の決死の突撃を察知し、体勢を立て直そうとしていた。彼は大剣を盾のように構え、俺の突撃を真正面から受け止めようとする。
力と力の、正面衝突。
森の中での戦いなら、俺が絶対に避けていた愚策。だが、この追い詰められた状況では、これこそが唯一の活路だった。
俺の肩と、ガロンの大剣が、激突する。
ゴオオオオオォォン!
砦全体を揺るがすほどの、凄まじい轟音が鳴り響いた。
衝撃波が、部屋の壁を震わせ、天井から砂塵が舞い落ちる。
俺の左肩に、骨が砕けるような激痛が走った。【硬質外皮】が、ガロンの圧倒的なパワーの前に砕け散る。
だが、俺の突進は、止まらなかった。
ミシリ、と嫌な音を立てて、ガロンの大剣に亀裂が入った。俺の全スキルを乗せた一撃は、彼の防御を、僅かに、しかし確実に上回っていたのだ。
「なっ……!?」
ガロンの目に、初めて純粋な驚愕の色が浮かんだ。
そして、亀裂の入った大剣は、ついにその衝撃に耐えきれず、甲高い金属音と共に砕け散った。
防御を失ったガロンの胸に、俺の硬化した肩が、深々とめり込んだ。
「ガ……ハッ……!」
ガロンの口から、大量の血が逆流する。彼の強靭な鎧が、内側から破壊され、その下の肋骨と内臓を無残に砕いたのだろう。
俺たちは、もつれ合うようにして、部屋の中央に倒れ込んだ。
俺は、砕けた左肩の激痛に耐えながら、ガロンの上に馬乗りになる。彼は、もはや抵抗する力も残っていないようだった。その赤い瞳から、急速に光が失われていく。
「……見事、だ。虫ケラの……王よ……」
ガロンが、途切れ途切れに呟いた。
「俺の……負け、だ……」
俺は、彼の首筋に手をかけた。とどめを刺すのは、容易い。彼の喉を掻き切れば、この戦いは全て終わる。
俺は、右手に握っていた短剣を振り上げた。
部下たちの仇。この砦で失われた、多くの命。その怒りを、この一撃に込める。
だが、その刃がガロンの首筋に届く寸前で、俺の手は、ぴたりと止まった。
なぜだ。
俺の脳裏に、彼が語った言葉が蘇っていた。
『我々は、地獄ヲ見タノダ』
『人間ヲ殺シ、ソノ血デ仲間ノ無念ヲ晴ラス』
憎しみ。復讐。
その感情は、俺にも覚えがある。
理不尽な世界で、無力なまま奪われることへの、怒り。
こいつは、俺と似ているのかもしれない。
守りたいものがあり、そのために戦っている。ただ、その手段が、憎しみに囚われすぎていただけなのではないか。
俺は、振り上げた短剣を、ゆっくりと下ろした。
そして、その刃を、ガロンの首筋ではなく、隣の床に深々と突き立てた。
「……何故、殺さない」
ガロンが、不思議そうに尋ねる。
「まだ、お前には使い道がある」
俺は、ガロンの上から身体を起こした。そして、傷ついた身体を引きずりながら、彼の前に立つ。
「ガロン。お前の強さは認める。お前の仲間を想う心も、理解できる。だが、お前のやり方は間違っている」
俺の言葉に、ガロンは黙って耳を傾けていた。
「憎しみは、何も生まない。それは、前世で嫌というほど見てきた。復讐の連鎖は、新たな憎しみを生むだけだ」
「……黙れ。貴様に何が分かる」
「分かるさ。俺も、理不尽に全てを奪われた者だからな」
俺は、自分の過去を語るつもりはなかった。だが、彼を屈服させるには、力だけではなく、魂の対話が必要だと感じていた。
「俺は、お前を殺さない。代わりに、俺に仕えろ。お前のその力を、憎しみのためではなく、未来のために使え。俺と共に、人間にも、魔王にも屈しない、第三の国を築くんだ」
それは、俺が初めて、明確なビジョンを他者に語った瞬間だった。
ガロンは、俺の言葉を、ただ黙って聞いていた。
彼の心の中で、何かが大きく揺れ動いているのが、俺には分かった。
砦の喧騒は、いつの間にか止んでいた。
おそらく、俺の部下たちが、抵抗するオークたちを完全に制圧したのだろう。
勝敗は、決した。
あとは、この誇り高きオークの英雄が、どのような答えを出すか。
部屋には、松明の燃える音と、二人の王の呼吸音だけが、静かに響いていた。
もはや、小細工は不要。これが、最後の一手。
俺は床を蹴り、一直線にガロンの懐へと飛び込んだ。
「ウォオオオオオ!」
俺は、ホブゴブリンとなって初めて、心の底からの雄叫びを上げた。それは、恐怖を振り払い、自らを鼓舞するための鬨の声。そして、俺の持つスキルを、限界まで引き出すための引き金だった。
俺の身体に、複数のスキルが同時に発動する。
まず、【突進】。グレートボアの破壊力を、ホブゴブリンの俊敏な肉体に乗せる。俺の身体は、もはやただの肉体ではなく、敵を粉砕するための一発の弾丸と化していた。
次に、【硬質外皮】。その弾丸の先端、すなわち俺の左肩を、極限まで硬化させる。狙うは、ガロンの鎧の胸板。一点集中の、突破力。
そして、【怪力】。全身の筋肉を爆発的に増強させ、突進の威力をさらに上乗せする。
最後に、【剣術】。突撃しながらも、その体捌きは剣の達人のように洗練され、無駄な動きが一切ない。最短距離を、最大効率で。
全てのスキルが、一つの目的に向かって収束していく。
ガロンを、打ち倒す。ただ、その一点のためだけに。
「小僧がぁ!」
ガロンもまた、俺の決死の突撃を察知し、体勢を立て直そうとしていた。彼は大剣を盾のように構え、俺の突撃を真正面から受け止めようとする。
力と力の、正面衝突。
森の中での戦いなら、俺が絶対に避けていた愚策。だが、この追い詰められた状況では、これこそが唯一の活路だった。
俺の肩と、ガロンの大剣が、激突する。
ゴオオオオオォォン!
砦全体を揺るがすほどの、凄まじい轟音が鳴り響いた。
衝撃波が、部屋の壁を震わせ、天井から砂塵が舞い落ちる。
俺の左肩に、骨が砕けるような激痛が走った。【硬質外皮】が、ガロンの圧倒的なパワーの前に砕け散る。
だが、俺の突進は、止まらなかった。
ミシリ、と嫌な音を立てて、ガロンの大剣に亀裂が入った。俺の全スキルを乗せた一撃は、彼の防御を、僅かに、しかし確実に上回っていたのだ。
「なっ……!?」
ガロンの目に、初めて純粋な驚愕の色が浮かんだ。
そして、亀裂の入った大剣は、ついにその衝撃に耐えきれず、甲高い金属音と共に砕け散った。
防御を失ったガロンの胸に、俺の硬化した肩が、深々とめり込んだ。
「ガ……ハッ……!」
ガロンの口から、大量の血が逆流する。彼の強靭な鎧が、内側から破壊され、その下の肋骨と内臓を無残に砕いたのだろう。
俺たちは、もつれ合うようにして、部屋の中央に倒れ込んだ。
俺は、砕けた左肩の激痛に耐えながら、ガロンの上に馬乗りになる。彼は、もはや抵抗する力も残っていないようだった。その赤い瞳から、急速に光が失われていく。
「……見事、だ。虫ケラの……王よ……」
ガロンが、途切れ途切れに呟いた。
「俺の……負け、だ……」
俺は、彼の首筋に手をかけた。とどめを刺すのは、容易い。彼の喉を掻き切れば、この戦いは全て終わる。
俺は、右手に握っていた短剣を振り上げた。
部下たちの仇。この砦で失われた、多くの命。その怒りを、この一撃に込める。
だが、その刃がガロンの首筋に届く寸前で、俺の手は、ぴたりと止まった。
なぜだ。
俺の脳裏に、彼が語った言葉が蘇っていた。
『我々は、地獄ヲ見タノダ』
『人間ヲ殺シ、ソノ血デ仲間ノ無念ヲ晴ラス』
憎しみ。復讐。
その感情は、俺にも覚えがある。
理不尽な世界で、無力なまま奪われることへの、怒り。
こいつは、俺と似ているのかもしれない。
守りたいものがあり、そのために戦っている。ただ、その手段が、憎しみに囚われすぎていただけなのではないか。
俺は、振り上げた短剣を、ゆっくりと下ろした。
そして、その刃を、ガロンの首筋ではなく、隣の床に深々と突き立てた。
「……何故、殺さない」
ガロンが、不思議そうに尋ねる。
「まだ、お前には使い道がある」
俺は、ガロンの上から身体を起こした。そして、傷ついた身体を引きずりながら、彼の前に立つ。
「ガロン。お前の強さは認める。お前の仲間を想う心も、理解できる。だが、お前のやり方は間違っている」
俺の言葉に、ガロンは黙って耳を傾けていた。
「憎しみは、何も生まない。それは、前世で嫌というほど見てきた。復讐の連鎖は、新たな憎しみを生むだけだ」
「……黙れ。貴様に何が分かる」
「分かるさ。俺も、理不尽に全てを奪われた者だからな」
俺は、自分の過去を語るつもりはなかった。だが、彼を屈服させるには、力だけではなく、魂の対話が必要だと感じていた。
「俺は、お前を殺さない。代わりに、俺に仕えろ。お前のその力を、憎しみのためではなく、未来のために使え。俺と共に、人間にも、魔王にも屈しない、第三の国を築くんだ」
それは、俺が初めて、明確なビジョンを他者に語った瞬間だった。
ガロンは、俺の言葉を、ただ黙って聞いていた。
彼の心の中で、何かが大きく揺れ動いているのが、俺には分かった。
砦の喧騒は、いつの間にか止んでいた。
おそらく、俺の部下たちが、抵抗するオークたちを完全に制圧したのだろう。
勝敗は、決した。
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