ゲームの悪役貴族に転生した俺、断罪されて処刑される未来を回避するため死ぬ気で努力したら、いつの間にか“救国の聖人”と呼ばれてたんだが

夏見ナイ

文字の大きさ
74 / 97

第74話:勇者の誕生

しおりを挟む
ヒロインたちの覚醒によって戦況は劇的に変化した。
リリアーナの広範囲治癒魔法は兵士たちの士気を極限まで高め、戦線を崩壊から救った。ルナとセレスティーナの超常的な力は、魔物の大群に無視できないほどの巨大な穴を穿った。
だが、それでもなお敵の物量は圧倒的だった。
奇跡は永遠には続かない。彼女たちの力もいずれは尽きる。
戦況は再び膠着と消耗の様相を呈し始めていた。
そして、その膠着を打ち破る最後の鍵を握るのは、やはりこの男だった。

城外の戦場。
セレスティーナが覚醒した炎の力で敵陣を切り開く中、カイルはその背後を守り、そして好機を窺っていた。
彼の役割は敵の指揮官を見つけ出し、討ち取ること。
だが闇の教団の指揮官は巧みにその身を隠し、決して姿を現そうとはしなかった。
「くそっ……! どこにいやがる!」
カイルは焦っていた。
アレン様の期待に応えなければならない。この戦いを終わらせなければならない。
その焦りが彼の剣をわずかに鈍らせていた。

その時だった。
彼の脳裏に俺の声が直接響いた。
『――カイル。聞こえるか』
魔力通信。だがそれは物理的な装置を介したものではない。俺が自らの魔力を彼の精神に直接リンクさせた、高等な精神感応だった。
「アレン様!? これは……!」
『説明は後だ。よく聞け、カイル。敵の指揮官は地下にいる』
「地下!?」
『ああ。奴らは土遁の術を使い、地下深くから魔物の軍勢を操っている。お前の力で奴らを地上に引きずり出すんだ』

俺の言葉に、カイルは一瞬戸惑った。
だが、その迷いはすぐに消えた。
アレン様が言うのなら、それが真実だ。
「……分かりました。どうすればいいんですか!」
『お前の全力の一撃を地面に叩き込め。お前の持つ全ての力を剣の一点に込めて』
それはあまりにも無茶な指示だった。
だがカイルは一切の疑いを抱かなかった。
彼は大きく息を吸い込み、そのたくましい両手で剣の柄を握りしめた。

(アレン様が俺を信じてくれている)
(仲間たちが、民が、俺の勝利を待っている)
(俺はもう、ただのスラム街の少年じゃない)
(俺はアレン様の一番弟子。この国を守る騎士なんだ!)

彼の心の中で何かが弾けた。
それは恐怖や迷いを打ち破る、純粋な、そして絶対的な決意。
仲間を、民を、愛する人々を守りたい。その、あまりにも真っ直ぐな願い。
彼の体から金色のオーラが立ち上り始めた。
それはリリアーナの聖なる光とも、セレスティーナの灼熱の炎とも違う、太陽のように力強く、そして温かい光だった。
彼の魂の奥底に眠っていた古の血がついに目覚めたのだ。
勇者の血が。

「うおおおおおおおおっ!」
カイルは雄叫びを上げた。
その声はもはや一人の騎士のものではない。それは民の希望を一身に背負った、英雄の咆哮だった。
彼は金色の光を纏った剣を天高く振り上げた。
そしてその全てを大地へと叩きつけた。
「――グランド・ブレイカー!!」

轟音。
大地が裂けた。
カイルの一撃は地面に巨大な亀裂を走らせ、地下深くまでその衝撃を届けた。
地響きと共に地面が大きく陥没する。
そしてその崩落の中から、土煙と共に数人の黒ローブの姿が地上へと姿を現した。
闇の教団の指揮官たちだった。

「な、なんだ、今の攻撃は……!?」
「馬鹿な! 我らの潜伏が、なぜ……!」
彼らは信じられないといった顔で、金色のオーラを纏って佇む一人の少年を見上げていた。
カイル・アークライト。
彼はこの瞬間、ただの騎士ではない、真なる『勇者』として完全に覚醒したのだ。

「――見つけたぞ、お前ら」
カイルは静かに、しかし地獄の底から響くような怒りの声で言った。
その瞳はもはや人のものではない。それは悪を断罪する神の使いの瞳だった。
指揮官たちはその圧倒的な威圧感に、恐怖で身動きが取れなかった。
そして彼らは見た。
金色の閃光が夜の闇を切り裂くのを。
カイルの剣が彼らの首を、一瞬にして全て刎ね飛ばすのを。

指揮系統を完全に失った魔物の大群。
その動きが明らかに乱れた。
統率を失い、ただの獣の本能で暴れ回るだけの烏合の衆へと戻っていく。
戦況は、この瞬間、決定的に動いた。
司令室でその全てを魔力ビジョンで見届けていた俺は、静かに、そして力強く最後の号令を発した。
「――時は満ちた。ガーディアン・ゴーレム、起動!」
俺の描いた逆転のシナリオ。
その最後のページが今、めくられようとしていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。 彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。 そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。 死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。 その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。 しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、 主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。 自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、 寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。 結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、 自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……? 更新は昼頃になります。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

異世界帰還者の気苦労無双録~チートスキルまで手に入れたのに幼馴染のお世話でダンジョン攻略が捗らない~

虎柄トラ
ファンタジー
 下校帰りに不慮の事故に遭い命を落とした桜川凪は、女神から開口一番に異世界転生しないかと勧誘を受ける。  意味が分からず凪が聞き返すと、女神は涙ながらに異世界の現状について語り出す。  女神が管理する世界ではいま魔族と人類とで戦争をしているが、このままだと人類が負けて世界は滅亡してしまう。  敗色濃厚なその理由は、魔族側には魔王がいるのに対して、人類側には勇者がいないからだという。  剣と魔法が存在するファンタジー世界は大好物だが、そんな物騒な世界で勇者になんてなりたくない凪は断るが、女神は聞き入れようとしない。  一歩も引かない女神に対して凪は、「魔王を倒せたら、俺を元の身体で元いた世界に帰還転生させろ」と交換条件を提示する。  快諾した女神と契約を交わし転生した凪は、見事に魔王を打ち倒して元の世界に帰還するが――。

主人公に殺されるゲームの中ボスに転生した僕は主人公とは関わらず、自身の闇落ちフラグは叩き折って平穏に勝ち組貴族ライフを満喫したいと思います

リヒト
ファンタジー
 不幸な事故の結果、死んでしまった少年、秋谷和人が転生したのは闇落ちし、ゲームの中ボスとして主人公の前に立ちふさがる貴族の子であるアレス・フォーエンス!?   「いや、本来あるべき未来のために死ぬとかごめんだから」  ゲームの中ボスであり、最終的には主人公によって殺されてしまうキャラに生まれ変わった彼であるが、ゲームのストーリーにおける闇落ちの運命を受け入れず、たとえ本来あるべき未来を捻じ曲げてても自身の未来を変えることを決意する。    何の対策もしなければ闇落ちし、主人公に殺されるという未来が待ち受けているようなキャラではあるが、それさえなければ生まれながらの勝ち組たる権力者にして金持ちたる貴族の子である。  生まれながらにして自分の人生が苦労なく楽しく暮らせることが確定している転生先である。なんとしてでも自身の闇落ちをフラグを折るしかないだろう。  果たしてアレスは自身の闇落ちフラグを折り、自身の未来を変えることが出来るのか!? 「欲張らず、謙虚に……だが、平穏で楽しい最高の暮らしを!」  そして、アレスは自身の望む平穏ライフを手にすることが出来るのか!?    自身の未来を変えようと奮起する少年の異世界転生譚が今始まる!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命
ファンタジー
 学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。  そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。 「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」  なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。  これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...