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第五十一話 呪いの軍団
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王城の地下に広がる大鍛冶場。そこは、普段は王家直属の鍛冶師しか立ち入ることのできない神聖な場所だ。だが今、その場所はノア一人のために解放されていた。うず高く積まれた騎士団の剣、盾、鎧。それら全てに、これから呪いを施していくのだ。
「始めよう」
ノアの静かな声と共に、前代未聞の大規模な呪物錬成が始まった。
最初は、騎士たちの態度は敵対的ですらあった。彼らは、先祖代々受け継いできた誇り高い武具を、まるで汚物でも扱うかのように、無言でノアの前に差し出す。その目には、不信と侮蔑の色が濃く浮かんでいた。
「本当に、こんなものに頼らねばならんのか……」
「不吉な紋様が刻まれるなど、末代までの恥だ」
そんな囁きが、鍛冶場のあちこちから聞こえてくる。だが、ノアは何も言わず、ただ黙々と作業に没頭した。
カン、カン、と響く槌音。炉の熱気が、彼の集中力を極限まで高める。彼は、一つ一つの武具が持つ歴史や、持ち主の癖さえも感じ取りながら、最適な呪いを編み込んでいった。
その作業は、想像を絶する過酷さだった。数千という数の武具に、一つ一つ異なる呪いを施していく。彼の魔力と精神力は、恐ろしい勢いで削られていった。
「ノア、これを飲め! 魔力回復薬(マナポーション)の上級品だ!」
ルナが、憔悴していくノアの口に、強引にポーションを注ぎ込む。彼女は、王宮の薬剤師たちを総動員し、最高品質の回復薬を常に用意させていた。ロジスティクスの天才である彼女がいなければ、この作業は一日と持たなかっただろう。
「ノア、金属の魔力親和性を上げる。錬成タイミングを合わせろ!」
エリオが、ノアの作業に合わせて補助魔法をかける。彼の緻密な計算により、呪いの定着率は飛躍的に向上し、ノアの負担はわずかに軽減された。
その頃、城の訓練場では、クロエが鬼教官と化していた。
「違う! その盾は衝撃を『逃がす』ためのものだ! 踏ん張るな、力を受け流せ!」
彼女は、ノアが錬成したばかりの呪いの武具を実際に騎士たちに使わせ、その特性を体に叩き込んでいた。
「この『疾風の具足』は、確かに速い。だが、急には止まれない。敵陣に突っ込みすぎるな! 代償を理解しない力は、ただの自滅だ!」
最初は反発していた騎士たちも、クロエの圧倒的な実力と的確な指導の前に、次第に彼女の言葉に耳を傾けるようになっていった。
変化が起き始めたのは、二日目のことだった。
一人の若い騎士が、ノアに錬成してもらったばかりの大盾を手に、呆然と立ち尽くしていた。
「信じられない……。鋼鉄の塊のはずが、まるで木の板のように軽い……」
彼の声に、他の騎士たちが集まってくる。彼らは半信半疑でその盾を持たせてもらい、一様に驚愕の表情を浮かべた。防御力はそのままに、ありえないほどの軽量化が実現されている。
「俺の槍を見てくれ! 『追跡』の呪いをかけてもらったんだが、構えるだけで、的の急所が光って見える!」
次々と、呪いの武具の異常な性能が明らかになっていく。不信は驚きに、驚きはやがて期待へと変わっていった。
「ノア殿! 私の剣にも、ぜひ!」
「次は私だ! 防御よりも、攻撃力が上がる呪いを頼む!」
昨日までの敵意が嘘のように、騎士たちは我先にとノアの元へ武具を持ち込むようになった。
もちろん、全ての騎士がそうだったわけではない。
「邪道だ! 断じて認めん!」
騎士団の副団長を務める、白髪の老騎士バルガスは、最後までノアの力を拒絶した。
「騎士の誇りを、呪いごときで汚してたまるか! 我が剣は、我が腕のみで振るう!」
彼は、ノアの前に立つと、そう言い放った。だが、ノアは静かに首を振る。
「誇りを捨てる必要はありません。あなたのその誇り高い魂が、この剣をより強くするのです。僕は、その手伝いをするだけです」
ノアの真摯な瞳に、バルガスは一瞬、言葉を失った。
四日後。不眠不休の作業の末、ついに第一、第二連隊の主要な装備への錬成が完了した。
王城の前の広場に、武装した二千の騎士たちが整列する。その光景は、異様だった。鎧の形は統一されているのに、そこに刻まれた呪いの紋様は一つ一つ異なり、それぞれが不気味なオーラを放っている。それはもはや、王国の騎士団というよりは、伝説に語られる『呪いの軍団』のようだった。
国王アルトリウスが、城壁の上からその軍団を見下ろし、満足げに頷いた。
「出撃せよ! この国の盾となり、民を守れ!」
王の号令と共に、地響きを立てて呪いの軍団が進軍を開始する。その先にあるのは、魔王軍が待ち受ける『嘆きの平原』。
ノアたちも、後方支援部隊として、その軍団に同行していた。馬車に揺られながら、ノアは自分が生み出した異様な軍団を見つめる。
自分の力が、これほど多くの人々の運命を左右する。その重圧を感じながらも、彼の心は不思議と穏やかだった。
守るべきものがある。そして、信頼できる仲間がいる。それだけで、十分だった。
王国の存亡をかけた戦いの火蓋が、今、切って落とされようとしていた。
「始めよう」
ノアの静かな声と共に、前代未聞の大規模な呪物錬成が始まった。
最初は、騎士たちの態度は敵対的ですらあった。彼らは、先祖代々受け継いできた誇り高い武具を、まるで汚物でも扱うかのように、無言でノアの前に差し出す。その目には、不信と侮蔑の色が濃く浮かんでいた。
「本当に、こんなものに頼らねばならんのか……」
「不吉な紋様が刻まれるなど、末代までの恥だ」
そんな囁きが、鍛冶場のあちこちから聞こえてくる。だが、ノアは何も言わず、ただ黙々と作業に没頭した。
カン、カン、と響く槌音。炉の熱気が、彼の集中力を極限まで高める。彼は、一つ一つの武具が持つ歴史や、持ち主の癖さえも感じ取りながら、最適な呪いを編み込んでいった。
その作業は、想像を絶する過酷さだった。数千という数の武具に、一つ一つ異なる呪いを施していく。彼の魔力と精神力は、恐ろしい勢いで削られていった。
「ノア、これを飲め! 魔力回復薬(マナポーション)の上級品だ!」
ルナが、憔悴していくノアの口に、強引にポーションを注ぎ込む。彼女は、王宮の薬剤師たちを総動員し、最高品質の回復薬を常に用意させていた。ロジスティクスの天才である彼女がいなければ、この作業は一日と持たなかっただろう。
「ノア、金属の魔力親和性を上げる。錬成タイミングを合わせろ!」
エリオが、ノアの作業に合わせて補助魔法をかける。彼の緻密な計算により、呪いの定着率は飛躍的に向上し、ノアの負担はわずかに軽減された。
その頃、城の訓練場では、クロエが鬼教官と化していた。
「違う! その盾は衝撃を『逃がす』ためのものだ! 踏ん張るな、力を受け流せ!」
彼女は、ノアが錬成したばかりの呪いの武具を実際に騎士たちに使わせ、その特性を体に叩き込んでいた。
「この『疾風の具足』は、確かに速い。だが、急には止まれない。敵陣に突っ込みすぎるな! 代償を理解しない力は、ただの自滅だ!」
最初は反発していた騎士たちも、クロエの圧倒的な実力と的確な指導の前に、次第に彼女の言葉に耳を傾けるようになっていった。
変化が起き始めたのは、二日目のことだった。
一人の若い騎士が、ノアに錬成してもらったばかりの大盾を手に、呆然と立ち尽くしていた。
「信じられない……。鋼鉄の塊のはずが、まるで木の板のように軽い……」
彼の声に、他の騎士たちが集まってくる。彼らは半信半疑でその盾を持たせてもらい、一様に驚愕の表情を浮かべた。防御力はそのままに、ありえないほどの軽量化が実現されている。
「俺の槍を見てくれ! 『追跡』の呪いをかけてもらったんだが、構えるだけで、的の急所が光って見える!」
次々と、呪いの武具の異常な性能が明らかになっていく。不信は驚きに、驚きはやがて期待へと変わっていった。
「ノア殿! 私の剣にも、ぜひ!」
「次は私だ! 防御よりも、攻撃力が上がる呪いを頼む!」
昨日までの敵意が嘘のように、騎士たちは我先にとノアの元へ武具を持ち込むようになった。
もちろん、全ての騎士がそうだったわけではない。
「邪道だ! 断じて認めん!」
騎士団の副団長を務める、白髪の老騎士バルガスは、最後までノアの力を拒絶した。
「騎士の誇りを、呪いごときで汚してたまるか! 我が剣は、我が腕のみで振るう!」
彼は、ノアの前に立つと、そう言い放った。だが、ノアは静かに首を振る。
「誇りを捨てる必要はありません。あなたのその誇り高い魂が、この剣をより強くするのです。僕は、その手伝いをするだけです」
ノアの真摯な瞳に、バルガスは一瞬、言葉を失った。
四日後。不眠不休の作業の末、ついに第一、第二連隊の主要な装備への錬成が完了した。
王城の前の広場に、武装した二千の騎士たちが整列する。その光景は、異様だった。鎧の形は統一されているのに、そこに刻まれた呪いの紋様は一つ一つ異なり、それぞれが不気味なオーラを放っている。それはもはや、王国の騎士団というよりは、伝説に語られる『呪いの軍団』のようだった。
国王アルトリウスが、城壁の上からその軍団を見下ろし、満足げに頷いた。
「出撃せよ! この国の盾となり、民を守れ!」
王の号令と共に、地響きを立てて呪いの軍団が進軍を開始する。その先にあるのは、魔王軍が待ち受ける『嘆きの平原』。
ノアたちも、後方支援部隊として、その軍団に同行していた。馬車に揺られながら、ノアは自分が生み出した異様な軍団を見つめる。
自分の力が、これほど多くの人々の運命を左右する。その重圧を感じながらも、彼の心は不思議と穏やかだった。
守るべきものがある。そして、信頼できる仲間がいる。それだけで、十分だった。
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