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第五十八話 呪いを解く温かい光
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温かい光を放つ小箱を手に、ノアは水晶の牢獄へと対峙する。呪物の女から放たれる精神攻撃は、その光の前では力を失い、霧散していた。
『なぜだ……。なぜ、我が呪いがお前には効かぬ。その力は、ただの悪意や憎しみではない。もっと、根源的な……』
呪物の女の声が、戸惑いに震えている。
「言ったはずだ。君の孤独よりも、強い呪いがある、と」
ノアは、光り輝く小箱を水晶の壁にそっと押し当てた。その瞬間、水晶全体に、温かい光が波紋のように広がっていく。
「これは、ピート君が、父親を想う気持ちの結晶だ。家族が互いを想う気持ち。それは、どんな孤独や絶望よりも深く、そして強い。君が千年かけて溜め込んだ呪いでも、この絆の呪いには敵わない」
光が触れた部分から、水晶の壁に細かいヒビが入り始めた。それは、物理的な破壊ではない。水晶を構成していた呪いの力が、その結合を失い、浄化されていく音だった。
『やめろ……。その光は、私を……私を消してしまう……!』
呪物の女が、初めて恐怖の声を上げた。彼女は、自らを守るために、さらに強大な呪いを放とうとする。だが、その時だった。
「――お父さん!」
背後から、凛とした、しかしどこか幼い声が響いた。声の主は、アンナだった。彼女は、ノアの傍らまで進み出ると、虚ろな目でツルハシを振るうリックに向かって、語りかけた。
「あなたの息子さんが、ずっとあなたを待っています。お父さんは英雄なんだって、信じて待っているんです。お願いです、目を覚ましてください!」
アンナの声には、彼女自身の経験からくる、強い共感の力が込められていた。呪いによって家族から引き離された者の痛み、そして、それを乗り越えた者の希望。その想いが、リックの閉ざされた心の扉を、激しく叩いた。
リックの振るっていたツルハシが、カラン、と音を立てて地面に落ちた。彼の虚ろだった瞳に、わずかに正気の光が戻る。
「……ピート……?」
息子のかすれた名を呼び、彼はゆっくりと仲間たちの方を振り返った。その正気を取り戻した瞬間、彼を支配していた呪物の魅了の力が、大きく揺らいだ。
「今だ、ノア!」
ルナが叫ぶ。
ノアは、その好機を逃さなかった。彼は、小箱にありったけの魔力を注ぎ込む。
「君を消し去るつもりはない。ただ、君を千年の孤独から、解放するだけだ」
眩いほどの光が、水晶の牢獄全体を包み込んだ。
パリン!
甲高い音と共に、巨大な水晶は、光の粒子となって砕け散った。後には、力なくその場に座り込む、一人の女性の霊体だけが残されていた。その体からは、もう禍々しい呪いのオーラは消え、ただ深い悲しみと、安堵の色だけが浮かんでいた。
彼女は、古代魔法文明の、最後の生き残りだった。滅びゆく世界の中で、愛する者を守るために自らを核として強力な結界を張った。だが、その想いは長すぎる孤独の中で歪み、世界そのものを拒絶する呪いへと変貌してしまっていたのだ。
『……ありがとう。呪術師よ。お前は、私を呪いからではなく、孤独から救ってくれたのだな』
女性の霊体は、穏やかな笑みを浮かべると、満足げに光の中へと消えていった。
呪いの根源が消えたことで、魔の回廊全体を覆っていた邪悪な気配も、嘘のように晴れていく。
「……ここは、どこだ? 私は、一体何を……?」
正気を取り戻したリックは、記憶の混乱に苦しんでいた。
「大丈夫ですか? まずは、休みましょう」
ノアたちが彼に駆け寄ろうとした、その時だった。
ゴゴゴゴゴ……!
呪物の消滅により、それを支柱としていた回廊全体が、バランスを失い、崩壊を始めたのだ。天井から、巨大な岩が次々と落下してくる。
「まずい! ここも持たないぞ!」
エリオが叫ぶ。
「出口まで走るぞ! 急げ!」
ルナの号令で、一行はリックを抱え、全力で出口へと向かって走り出した。背後からは、轟音と共に、古代文明の遺跡が闇の中へと崩れ落ちていく。絶体絶命の脱出劇だった。
クロエが先頭で道を切り開き、ノアとエリオが魔法で落石を防ぐ。ルナとアンナは、まだ意識が混濁しているリックを必死に支え、走り続けた。
そして、彼らが光の見える出口へと飛び出した瞬間、背後で入り口が完全に崩落し、魔の回廊は、永遠にその姿を闇の中へと閉ざしたのだった。
『なぜだ……。なぜ、我が呪いがお前には効かぬ。その力は、ただの悪意や憎しみではない。もっと、根源的な……』
呪物の女の声が、戸惑いに震えている。
「言ったはずだ。君の孤独よりも、強い呪いがある、と」
ノアは、光り輝く小箱を水晶の壁にそっと押し当てた。その瞬間、水晶全体に、温かい光が波紋のように広がっていく。
「これは、ピート君が、父親を想う気持ちの結晶だ。家族が互いを想う気持ち。それは、どんな孤独や絶望よりも深く、そして強い。君が千年かけて溜め込んだ呪いでも、この絆の呪いには敵わない」
光が触れた部分から、水晶の壁に細かいヒビが入り始めた。それは、物理的な破壊ではない。水晶を構成していた呪いの力が、その結合を失い、浄化されていく音だった。
『やめろ……。その光は、私を……私を消してしまう……!』
呪物の女が、初めて恐怖の声を上げた。彼女は、自らを守るために、さらに強大な呪いを放とうとする。だが、その時だった。
「――お父さん!」
背後から、凛とした、しかしどこか幼い声が響いた。声の主は、アンナだった。彼女は、ノアの傍らまで進み出ると、虚ろな目でツルハシを振るうリックに向かって、語りかけた。
「あなたの息子さんが、ずっとあなたを待っています。お父さんは英雄なんだって、信じて待っているんです。お願いです、目を覚ましてください!」
アンナの声には、彼女自身の経験からくる、強い共感の力が込められていた。呪いによって家族から引き離された者の痛み、そして、それを乗り越えた者の希望。その想いが、リックの閉ざされた心の扉を、激しく叩いた。
リックの振るっていたツルハシが、カラン、と音を立てて地面に落ちた。彼の虚ろだった瞳に、わずかに正気の光が戻る。
「……ピート……?」
息子のかすれた名を呼び、彼はゆっくりと仲間たちの方を振り返った。その正気を取り戻した瞬間、彼を支配していた呪物の魅了の力が、大きく揺らいだ。
「今だ、ノア!」
ルナが叫ぶ。
ノアは、その好機を逃さなかった。彼は、小箱にありったけの魔力を注ぎ込む。
「君を消し去るつもりはない。ただ、君を千年の孤独から、解放するだけだ」
眩いほどの光が、水晶の牢獄全体を包み込んだ。
パリン!
甲高い音と共に、巨大な水晶は、光の粒子となって砕け散った。後には、力なくその場に座り込む、一人の女性の霊体だけが残されていた。その体からは、もう禍々しい呪いのオーラは消え、ただ深い悲しみと、安堵の色だけが浮かんでいた。
彼女は、古代魔法文明の、最後の生き残りだった。滅びゆく世界の中で、愛する者を守るために自らを核として強力な結界を張った。だが、その想いは長すぎる孤独の中で歪み、世界そのものを拒絶する呪いへと変貌してしまっていたのだ。
『……ありがとう。呪術師よ。お前は、私を呪いからではなく、孤独から救ってくれたのだな』
女性の霊体は、穏やかな笑みを浮かべると、満足げに光の中へと消えていった。
呪いの根源が消えたことで、魔の回廊全体を覆っていた邪悪な気配も、嘘のように晴れていく。
「……ここは、どこだ? 私は、一体何を……?」
正気を取り戻したリックは、記憶の混乱に苦しんでいた。
「大丈夫ですか? まずは、休みましょう」
ノアたちが彼に駆け寄ろうとした、その時だった。
ゴゴゴゴゴ……!
呪物の消滅により、それを支柱としていた回廊全体が、バランスを失い、崩壊を始めたのだ。天井から、巨大な岩が次々と落下してくる。
「まずい! ここも持たないぞ!」
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「出口まで走るぞ! 急げ!」
ルナの号令で、一行はリックを抱え、全力で出口へと向かって走り出した。背後からは、轟音と共に、古代文明の遺跡が闇の中へと崩れ落ちていく。絶体絶命の脱出劇だった。
クロエが先頭で道を切り開き、ノアとエリオが魔法で落石を防ぐ。ルナとアンナは、まだ意識が混濁しているリックを必死に支え、走り続けた。
そして、彼らが光の見える出口へと飛び出した瞬間、背後で入り口が完全に崩落し、魔の回廊は、永遠にその姿を闇の中へと閉ざしたのだった。
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