60 / 89
第五十九話 父子の再会と英雄の選択
しおりを挟む
命からがら魔の回廊から脱出した一行は、疲労困憊のまま地上へと戻った。背後では、入り口が完全に崩落し、古代の秘密は再び固く閉ざされた。
「……助かったのか」
まだ意識が混濁しているリックが、呆然と呟く。
「ええ。もう大丈夫ですよ」
アンナが、優しく彼に毛布をかける。
そこに、一人の少年が息を切らしながら駆け寄ってきた。ずっと入り口の前で、父親の帰りを待ち続けていたピートだった。
「お父さん!」
ピートは、ボロボロになった父親の姿を見るなり、その胸へと飛び込んでいった。
「ピート……。おお、ピートなのか!」
息子の温もりと呼び声に、リックの記憶が完全に覚醒した。彼は、三年間もの間、自分を待ち続けてくれた息子の小さな体を、力強く、そして何度も確かめるように抱きしめた。
「ごめん……。本当に、ごめん……」
父親の目から、後悔と愛情の涙が溢れ出す。ノアたちは、その光景を、何も言わずにただ温かく見守っていた。報酬も、名声も関係ない。この瞬間のために、彼らは危険な冒険に挑んだのだ。
数日後。【ノアの箱舟】に、すっかり元気を取り戻したリックとピートが、改めてお礼を言いに訪れた。
「ノアさん、皆さん。この御恩は、一生忘れません。これは、ほんの気持ちですが……」
リックは、大きな革袋を差し出した。中には、彼が冒険家人生で稼いだ、なけなしの財産が入っているのだろう。
だが、ルナはそれを押し返した。
「必要ありません。今回の依頼の報酬は、『いただきません』と看板に書いたはずです」
「しかし……!」
「それよりも」とルナは続けた。「あなたのその冒険譚を、時々でいいので、この子たちに聞かせてあげてください。それが、何よりの報酬です」
彼女の粋な計らいに、リックは深々と頭を下げることしかできなかった。
父子の再会という、心温まる結末。ノアは、久しぶりに心の底から満たされた気持ちになっていた。英雄として国の大きな問題を解決するのも大事だが、自分はやはり、こうした一人一人の小さな物語に寄り添うことの方が好きだと、改めて実感した。
そんな穏やかな日々が戻ってきたある日。王城から、再びノアへとお呼び出しがかかった。
国王の私室に通されると、そこにはアルトリウスと、宰相、そしてエリオの姿があった。部屋の机の上には、魔の回廊から持ち帰った壁画の写しや、エリオが解読した古文書の資料が、所狭しと広げられている。
「ノア殿。よく来てくれた」
国王の表情は、いつになく真剣だった。
「エリオ殿の解読により、驚くべき事実が判明した」
エリオが、ノアに向かって説明を始める。
「ノア。やはり、君の力はただのスキルではない。『原初の呪術師』アルカナは、自らの力を七つに分け、世界に散らせた。それは、後の世に現れるであろう、巨大な厄災に対抗するために。君の【呪物錬成】は、その七つの力のうち、最も根源的で、そして最も危険な『創造と変質の呪い』そのものだ」
「創造と、変質……」
「そうだ」と国王が引き継いだ。「そして、魔王がその力を異常に警戒する理由も判明した。魔王は、元々はアルカナの七人の弟子のうちの一人だったのだ」
衝撃の事実に、ノアは言葉を失った。
「魔王は、『支配の呪い』を受け継いだ。そして、他の兄弟弟子たちの力を奪い、吸収することで、現在の強大な力を手に入れた。だが、ただ一人、初代『創造の呪術師』だけは、彼の支配を逃れ、行方をくらませた。魔王が恐れているのは、ノア、お前自身の力ではない。お前の力の中に眠る、初代呪術師の魂と、彼が遺した『魔王を封じるための呪い』なのだ」
世界の真実が、少しずつその輪郭を現し始める。ノアは、ただの支援術師ではなかった。彼は、太古から続く、壮大な因縁の中心にいる存在だったのだ。
「ノア・アークライトよ」
国王アルトリウスは、玉座から立ち上がると、ノアの前に立った。
「もはや、お前をこの王都に留めておくことはできん。それでは、魔王軍の格好の的となるだけだ」
「では、僕は……」
「旅に出よ」
国王は、はっきりと言った。
「残りの六つの『原初の呪い』を探し出すのだ。それらを集め、力を合わせれば、魔王を完全に滅ぼすことができるやもしれん。それは、もはや勇者の役目ではない。呪術師である、お前の役目だ」
それは、あまりにも重い使命だった。だが、ノアの心に、迷いはなかった。自分の力の謎、世界の真実、そして、魔王との因縁。その全てに、決着をつけなければならない。
「分かりました。行きます」
ノアは、国王の目をまっすぐに見つめ、頷いた。
これは、追放から始まった物語ではない。世界を救うための、宿命の旅の始まりだったのだ。
ノアは、仲間たちと共に、新たな冒険へと旅立つことを決意した。その先には、どんな出会いと、どんな困難が待ち受けているのか。
彼の伝説は、まだ始まったばかり。未知なる大陸、そしてまだ見ぬ仲間たちを求めて、【ノアの箱舟】は、今、新たな海へと船出する。
「……助かったのか」
まだ意識が混濁しているリックが、呆然と呟く。
「ええ。もう大丈夫ですよ」
アンナが、優しく彼に毛布をかける。
そこに、一人の少年が息を切らしながら駆け寄ってきた。ずっと入り口の前で、父親の帰りを待ち続けていたピートだった。
「お父さん!」
ピートは、ボロボロになった父親の姿を見るなり、その胸へと飛び込んでいった。
「ピート……。おお、ピートなのか!」
息子の温もりと呼び声に、リックの記憶が完全に覚醒した。彼は、三年間もの間、自分を待ち続けてくれた息子の小さな体を、力強く、そして何度も確かめるように抱きしめた。
「ごめん……。本当に、ごめん……」
父親の目から、後悔と愛情の涙が溢れ出す。ノアたちは、その光景を、何も言わずにただ温かく見守っていた。報酬も、名声も関係ない。この瞬間のために、彼らは危険な冒険に挑んだのだ。
数日後。【ノアの箱舟】に、すっかり元気を取り戻したリックとピートが、改めてお礼を言いに訪れた。
「ノアさん、皆さん。この御恩は、一生忘れません。これは、ほんの気持ちですが……」
リックは、大きな革袋を差し出した。中には、彼が冒険家人生で稼いだ、なけなしの財産が入っているのだろう。
だが、ルナはそれを押し返した。
「必要ありません。今回の依頼の報酬は、『いただきません』と看板に書いたはずです」
「しかし……!」
「それよりも」とルナは続けた。「あなたのその冒険譚を、時々でいいので、この子たちに聞かせてあげてください。それが、何よりの報酬です」
彼女の粋な計らいに、リックは深々と頭を下げることしかできなかった。
父子の再会という、心温まる結末。ノアは、久しぶりに心の底から満たされた気持ちになっていた。英雄として国の大きな問題を解決するのも大事だが、自分はやはり、こうした一人一人の小さな物語に寄り添うことの方が好きだと、改めて実感した。
そんな穏やかな日々が戻ってきたある日。王城から、再びノアへとお呼び出しがかかった。
国王の私室に通されると、そこにはアルトリウスと、宰相、そしてエリオの姿があった。部屋の机の上には、魔の回廊から持ち帰った壁画の写しや、エリオが解読した古文書の資料が、所狭しと広げられている。
「ノア殿。よく来てくれた」
国王の表情は、いつになく真剣だった。
「エリオ殿の解読により、驚くべき事実が判明した」
エリオが、ノアに向かって説明を始める。
「ノア。やはり、君の力はただのスキルではない。『原初の呪術師』アルカナは、自らの力を七つに分け、世界に散らせた。それは、後の世に現れるであろう、巨大な厄災に対抗するために。君の【呪物錬成】は、その七つの力のうち、最も根源的で、そして最も危険な『創造と変質の呪い』そのものだ」
「創造と、変質……」
「そうだ」と国王が引き継いだ。「そして、魔王がその力を異常に警戒する理由も判明した。魔王は、元々はアルカナの七人の弟子のうちの一人だったのだ」
衝撃の事実に、ノアは言葉を失った。
「魔王は、『支配の呪い』を受け継いだ。そして、他の兄弟弟子たちの力を奪い、吸収することで、現在の強大な力を手に入れた。だが、ただ一人、初代『創造の呪術師』だけは、彼の支配を逃れ、行方をくらませた。魔王が恐れているのは、ノア、お前自身の力ではない。お前の力の中に眠る、初代呪術師の魂と、彼が遺した『魔王を封じるための呪い』なのだ」
世界の真実が、少しずつその輪郭を現し始める。ノアは、ただの支援術師ではなかった。彼は、太古から続く、壮大な因縁の中心にいる存在だったのだ。
「ノア・アークライトよ」
国王アルトリウスは、玉座から立ち上がると、ノアの前に立った。
「もはや、お前をこの王都に留めておくことはできん。それでは、魔王軍の格好の的となるだけだ」
「では、僕は……」
「旅に出よ」
国王は、はっきりと言った。
「残りの六つの『原初の呪い』を探し出すのだ。それらを集め、力を合わせれば、魔王を完全に滅ぼすことができるやもしれん。それは、もはや勇者の役目ではない。呪術師である、お前の役目だ」
それは、あまりにも重い使命だった。だが、ノアの心に、迷いはなかった。自分の力の謎、世界の真実、そして、魔王との因縁。その全てに、決着をつけなければならない。
「分かりました。行きます」
ノアは、国王の目をまっすぐに見つめ、頷いた。
これは、追放から始まった物語ではない。世界を救うための、宿命の旅の始まりだったのだ。
ノアは、仲間たちと共に、新たな冒険へと旅立つことを決意した。その先には、どんな出会いと、どんな困難が待ち受けているのか。
彼の伝説は、まだ始まったばかり。未知なる大陸、そしてまだ見ぬ仲間たちを求めて、【ノアの箱舟】は、今、新たな海へと船出する。
1
あなたにおすすめの小説
外れスキル【アイテム錬成】でSランクパーティを追放された俺、実は神の素材で最強装備を創り放題だったので、辺境で気ままな工房を開きます
夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティで「外れスキル」と蔑まれ、雑用係としてこき使われていた錬金術師のアルト。ある日、リーダーの身勝手な失敗の責任を全て押し付けられ、無一文でパーティから追放されてしまう。
絶望の中、流れ着いた辺境の町で、彼は偶然にも伝説の素材【神の涙】を発見。これまで役立たずと言われたスキル【アイテム錬成】が、実は神の素材を扱える唯一無二のチート能力だと知る。
辺境で小さな工房を開いたアルトの元には、彼の作る規格外のアイテムを求めて、なぜか聖女や竜王(美少女の姿)まで訪れるようになり、賑やかで幸せな日々が始まる。
一方、アルトを失った元パーティは没落の一途を辿り、今更になって彼に復帰を懇願してくるが――。「もう、遅いんです」
これは、不遇だった青年が本当の居場所を見つける、ほのぼの工房ライフ&ときどき追放ざまぁファンタジー!
スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。
無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。
やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる