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第六十話 箱舟は新たな海へ
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王宮から邸宅へと戻ったノアは、テーブルを囲む仲間たちに全てを話した。自分が『原初の呪術師』の力を継ぐ者であること。魔王が、かつてその弟子の一人であったこと。そして、世界に散らばった残りの六つの力を探し出すための、果てしない旅に出なければならないこと。
重い真実。壮大すぎる宿命。誰もが、言葉を失ってノアの話を聞いていた。
最初に沈黙を破ったのは、やはりルナだった。
「……なるほどな。話が大きくなりすぎて、眩暈がしてきたぞ」
彼女はこめかみを押さえ、深いため息をついた。だが、次の瞬間には、その瞳に商人のものとは違う、冒険者のような輝きを宿していた。
「だが、悪くない。実に、面白くなってきたじゃないか! 世界の真実を探る旅! 未知の古代魔法! これは、とんでもないビジネスチャンスの匂いがするぞ!」
彼女は立ち上がると、早速羊皮紙を広げ、旅の予算計画や、各国の情報、考えうるルートなどを、猛烈な勢いで書き出し始めた。彼女にとって、世界の危機すらも、胸躍る事業計画の一つでしかなかった。
「ノア様がどこへ行かれるのでも、私はついて行くだけです」
クロエは、ただ静かに、しかし力強く言った。彼女の忠誠心は、ノアが背負う宿命の重さなどでは、微塵も揺るがない。彼の剣となり、盾となる。それが彼女の全てだった。
「世界の理そのものを探求できる、か。これほど心躍る旅はないな」
エリオの目は、研究者の好奇心で爛々と輝いていた。
「古文書によれば、七つの力はそれぞれ世界の元素や概念を司っているらしい。『風』を司る呪術師の一族が、東方の山脈地帯に隠れ住んでいるという伝説がある。まずは、そこを目指してみるのがいいかもしれない」
彼は、すでに最初の目的地に目星をつけていた。
「私も、行きます」
今まで黙っていたアンナが、静かだが、強い意志を込めて言った。
「私には、皆さんのような強い力はありません。でも、旅の途中できっと、私のように苦しんでいる人がいるはずです。その人たちの心に寄り添うことなら、私にもできます。それが、ノア様からいただいた、私の力ですから」
仲間たちの、誰一人として迷う者はいなかった。【ノアの箱舟】は、ノア一人の船ではない。皆の夢と希望と覚悟を乗せて進む、一つの家族なのだ。
「……ありがとう、みんな」
ノアの胸に、温かいものが込み上げてきた。この仲間たちがいれば、どんな運命だって乗り越えていける。彼は、そう確信した。
旅立ちまでの準備は、慌ただしくも充実していた。
ノアは工房に籠り、仲間たちのための新たな装備を錬成した。ルナには、どんな交渉相手も無意識に心を許してしまう『信頼のブローチ』を。クロエには、彼女の速度をさらに高める『瞬足の具足』を。エリオには、詠唱時間を短縮する『賢者のモノクル』を。そしてアンナには、他人の悪意から身を守る、ささやかな『守護の髪飾り』を。
ルナは、王家やギルドとの交渉で、旅に必要な物資、資金、そして各国の通行許可証などを、完璧に揃えてみせた。彼女の手腕により、彼らの旅は、一介の冒険者では考えられないほどの、潤沢な支援の下で始まることになった。
そして、旅立ちの朝。
王都の東門には、彼らを見送るために、アストライア侯爵夫人や、騎士団のバルガス副団長、そしてノアたちが救った多くの人々が集まっていた。そこにはもう、彼らを奇異の目で見る者はいない。皆、国の未来を託す英雄たちを、誇らしげな目で見送っていた。
「ノア殿。必ず、生きて帰ってこい。この国は、お前さんを待っているぞ」
バルガスの力強い激励に、ノアは力強く頷いた。
用意された頑丈な馬車に、四人が乗り込む。王都に残るアンナが、窓越しに皆の手を握った。
「いってらっしゃいませ。いつでも帰ってこられるように、この箱舟は、私が守っています」
「ああ。行ってくる」
ノアは、仲間たちの顔を見渡し、そして、どこまでも続く青い空を見上げた。
追放から始まった彼の旅は、今、世界の真実を探し、世界そのものを救うための、壮大な冒険へと姿を変えた。
その先に何が待ち受けているのか、まだ誰も知らない。だが、彼らの心に不安はなかった。信頼できる仲間たちが、すぐ隣にいるのだから。
御者の合図と共に、馬車がゆっくりと動き出す。
【ノアの箱舟】の、本当の船出。彼らの伝説は、まだ始まったばかり。その輝かしい旅路の第一歩が、今、力強く踏み出された。
(第二部完)
重い真実。壮大すぎる宿命。誰もが、言葉を失ってノアの話を聞いていた。
最初に沈黙を破ったのは、やはりルナだった。
「……なるほどな。話が大きくなりすぎて、眩暈がしてきたぞ」
彼女はこめかみを押さえ、深いため息をついた。だが、次の瞬間には、その瞳に商人のものとは違う、冒険者のような輝きを宿していた。
「だが、悪くない。実に、面白くなってきたじゃないか! 世界の真実を探る旅! 未知の古代魔法! これは、とんでもないビジネスチャンスの匂いがするぞ!」
彼女は立ち上がると、早速羊皮紙を広げ、旅の予算計画や、各国の情報、考えうるルートなどを、猛烈な勢いで書き出し始めた。彼女にとって、世界の危機すらも、胸躍る事業計画の一つでしかなかった。
「ノア様がどこへ行かれるのでも、私はついて行くだけです」
クロエは、ただ静かに、しかし力強く言った。彼女の忠誠心は、ノアが背負う宿命の重さなどでは、微塵も揺るがない。彼の剣となり、盾となる。それが彼女の全てだった。
「世界の理そのものを探求できる、か。これほど心躍る旅はないな」
エリオの目は、研究者の好奇心で爛々と輝いていた。
「古文書によれば、七つの力はそれぞれ世界の元素や概念を司っているらしい。『風』を司る呪術師の一族が、東方の山脈地帯に隠れ住んでいるという伝説がある。まずは、そこを目指してみるのがいいかもしれない」
彼は、すでに最初の目的地に目星をつけていた。
「私も、行きます」
今まで黙っていたアンナが、静かだが、強い意志を込めて言った。
「私には、皆さんのような強い力はありません。でも、旅の途中できっと、私のように苦しんでいる人がいるはずです。その人たちの心に寄り添うことなら、私にもできます。それが、ノア様からいただいた、私の力ですから」
仲間たちの、誰一人として迷う者はいなかった。【ノアの箱舟】は、ノア一人の船ではない。皆の夢と希望と覚悟を乗せて進む、一つの家族なのだ。
「……ありがとう、みんな」
ノアの胸に、温かいものが込み上げてきた。この仲間たちがいれば、どんな運命だって乗り越えていける。彼は、そう確信した。
旅立ちまでの準備は、慌ただしくも充実していた。
ノアは工房に籠り、仲間たちのための新たな装備を錬成した。ルナには、どんな交渉相手も無意識に心を許してしまう『信頼のブローチ』を。クロエには、彼女の速度をさらに高める『瞬足の具足』を。エリオには、詠唱時間を短縮する『賢者のモノクル』を。そしてアンナには、他人の悪意から身を守る、ささやかな『守護の髪飾り』を。
ルナは、王家やギルドとの交渉で、旅に必要な物資、資金、そして各国の通行許可証などを、完璧に揃えてみせた。彼女の手腕により、彼らの旅は、一介の冒険者では考えられないほどの、潤沢な支援の下で始まることになった。
そして、旅立ちの朝。
王都の東門には、彼らを見送るために、アストライア侯爵夫人や、騎士団のバルガス副団長、そしてノアたちが救った多くの人々が集まっていた。そこにはもう、彼らを奇異の目で見る者はいない。皆、国の未来を託す英雄たちを、誇らしげな目で見送っていた。
「ノア殿。必ず、生きて帰ってこい。この国は、お前さんを待っているぞ」
バルガスの力強い激励に、ノアは力強く頷いた。
用意された頑丈な馬車に、四人が乗り込む。王都に残るアンナが、窓越しに皆の手を握った。
「いってらっしゃいませ。いつでも帰ってこられるように、この箱舟は、私が守っています」
「ああ。行ってくる」
ノアは、仲間たちの顔を見渡し、そして、どこまでも続く青い空を見上げた。
追放から始まった彼の旅は、今、世界の真実を探し、世界そのものを救うための、壮大な冒険へと姿を変えた。
その先に何が待ち受けているのか、まだ誰も知らない。だが、彼らの心に不安はなかった。信頼できる仲間たちが、すぐ隣にいるのだから。
御者の合図と共に、馬車がゆっくりと動き出す。
【ノアの箱舟】の、本当の船出。彼らの伝説は、まだ始まったばかり。その輝かしい旅路の第一歩が、今、力強く踏み出された。
(第二部完)
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