デバフ専門の支援術師は勇者パーティを追放されたので、呪いのアイテム専門店を開きます

夏見ナイ

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第七十九話 炎の檻と巫女の涙

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シノノメ家の当主リョウマとの交渉は、物別れに終わった。だが、ノアたちの決意は変わらない。問題の根源である火の巫女アカリに、直接会うしかない。

「だが、どうやって会う? 屋敷の警備は厳重だ。正面から行っても、また追い返されるだけだぞ」

ルナが、現実的な問題を突きつける。

「夜に、忍び込むしかないわね」

クロエが、物騒なことを言い出した。

「それは最終手段だ。事を荒立てるのは、得策じゃない」

エリオが、それを諌める。

議論が行き詰まった時、宿屋の主人が、お茶を運びながら、そっと口を挟んだ。

「火の巫女様にお会いしたいのでしたら、一つだけ、方法があるかもしれません」
「本当ですか!?」

一行は、身を乗り出した。

「ええ。三日後に、『鎮火の儀』という祭りが開かれます。それは、巫女様が、街の人々の前で、山の怒りを鎮めるための祈りを捧げる、年に一度の大事な儀式でして。その時なら、巫女様は必ず、街の中心にある火の神殿に姿を現します」
「それだ!」

ルナが、指を鳴らした。

三日後。カグツチの街は、鎮火の儀を一目見ようと集まった人々で、ごった返していた。だが、その雰囲気は、祭りの賑わいというよりは、祈りと、そして恐怖に満ちていた。

やがて、螺貝の音が響き渡り、シノノメ家の屋敷から、厳かな行列が現れた。その中心には、美しい白と赤の儀式用の装束をまとった、一人の少女がいた。彼女が、火の巫女アカリだった。

年の頃は、十六、七だろうか。黒く長い髪を高く結い上げ、その表情は、能面のように感情が抜け落ちている。だが、ノアには見えた。その無表情の仮面の下で、彼女の魂が、助けを求めるように悲鳴を上げているのを。

(彼女は……無理をしている)

ノアは、アカリから放たれる魔力の流れを読み取った。それは、彼女自身の力ではない。何者かによって、無理やり増幅させられ、制御不能に陥っている、危険な力の奔流だった。

行列は、街の中心にある火の神殿へと入っていく。ノアたちも、群衆に紛れて、神殿の近くまで進んだ。

神殿の中央にある祭壇に、アカリが一人で立つ。彼女の父、リョウマが、厳しい目で見守っていた。

「始めよ、アカリ!」

父の号令と共に、アカリは祈りの舞を始めた。その舞に合わせて、彼女の体から、凄まじい炎の魔力が溢れ出す。だが、その炎は神聖なものではなく、荒々しく、そしてどこか苦しげだった。

ゴゴゴゴゴ……!

アカリの舞に呼応するように、ゴウエンザンの山が、不気味な地響きと共に、さらに多くの噴煙を上げ始めた。

「な、なんだ!? 祈りを捧げているのに、山の怒りが、増しているぞ!」

街の人々が、パニックに陥り始める。

「アカリ! 何をしている! もっと力を込めろ!」

リョウマが、娘に怒声を浴びせる。だが、アカリの舞は、ますます乱れていく。彼女の瞳からは、大粒の涙がこぼれ落ちていた。

「もう……やめて……。私には、無理……」

彼女がか細い声で呟いた、その瞬間。

ゴウエンザンが、これまでで最大の地響きと共に、真っ赤な溶岩を噴き上げた。大噴火の、前兆だった。

「ひいいい! 噴火だ!」
「街が、飲み込まれる!」

人々は、我先にと逃げ惑い、祭りは一瞬にして地獄絵図と化した。

「ノア!」

ルナが叫ぶ。ノアは、もう迷わなかった。

彼は、人々の混乱をかき分け、祭壇へと駆け上がった。

「どけ、小僧! 儀式の邪魔をするな!」

リョウマが、刀に手をかけてノアの前に立ちはだかる。だが、ノアは止まらない。

「あなたのやっていることは、儀式じゃない! ただ、娘さんを苦しめているだけだ!」

ノアは、リョウマの横をすり抜け、泣き崩れているアカリの元へ駆け寄った。

「もう、いいんだ。一人で、背負わなくていい」

ノアは、アカリの肩にそっと手を置いた。その瞬間、彼女の体から暴走していた炎の力が、ノアの体へと流れ込んでくる。

「ぐっ……!?」

凄まじい熱量と、力の奔流。だが、ノアは耐えた。

「これは、君の本当の力じゃない。誰かが、君の力を外から無理やり増幅させている。君を、力の暴走する道具にしようとしているんだ!」

ノアは、アカリの魔力の流れの中に、異質な魔力の回路が組み込まれているのを感じ取っていた。それは、彼女の父親、リョウマのものでもなかった。もっと、陰湿で、計算高い、第三者の悪意。

「ノア様!」

クロエたちが、ノアの元へ駆けつける。

「ジン! 街の防壁を! 溶岩が来るぞ!」
「ミオ! 風で噴煙の流れを変えろ!」
「カイ! 川の水をここに! 少しでも火の勢いを弱めるんだ!」

ルナの的確な指示が飛ぶ。仲間たちが、一斉に動き出した。

「エリオ! アカリさんの体の中にある、呪いの回路を探ってくれ!」
「分かった!」

ノアは、アカリを苦しみから解放するため、暴走する炎の力を受け止め続ける。その間、仲間たちは、迫り来る天災から街を守るため、それぞれの全力を尽くしていた。

「おのれ、貴様ら……。我がシノノメ家の儀式を……!」

リョウマは、目の前で起きていることが信じられず、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。彼の信じていた誇りと伝統が、今、娘の悲鳴と、火山の怒号によって、打ち砕かれようとしていた。
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