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第八十二話 光の塔と影の囁き
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ンナから得た情報と、国王の許可。全てが揃い、ノアたちはルーメン家の邸宅へと向かった。そこは、貴族街の中でもひときわ古く、そして寂れた一角にあった。かつての栄光は見る影もなく、庭は荒れ放題で、邸宅全体が灰色の憂鬱な空気に包まれていた。
一行が門を叩くと、やつれた顔の老執事が、訝しげな表情で顔を出した。
「……何用ですかな。当家に、客人の来訪など、もう何年も……」
「国王陛下のご命令です。セレスティア様にお会いしたい」
ルナが、王家の紋章が入った書状を見せると、老執事は驚きに目を見開き、慌てて一行を中に招き入れた。
屋敷の中は、外観以上に荒廃していた。埃が積もり、高価だったであろう調度品も、その輝きを失っている。
「セレスティアお嬢様は、あちらの北の塔におられます。ですが……」
老執事は、言い淀んだ。
「お会いになるのは、お勧めいたしません。あの方は、もはや、我々の知るお嬢様では……」
その言葉の意味を、一行はすぐに知ることになる。
案内されたのは、屋敷の奥にそびえる、蔦の絡まった古い石造りの塔だった。その周囲だけ、空気が不自然に冷たく、そして重い。
「……すごい闇の気配だ」
カイが、顔をしかめて呟いた。
「光の継承者がいる場所とは思えない。まるで、闇の巣だ」
扉を開け、螺旋階段を登っていく。窓のない塔の中は薄暗く、ノアが作った『道しるべのランタン』の光だけが、彼らの進む道を照らしていた。
最上階の部屋の前に着くと、その扉には、幾重にも複雑な封印の魔法がかけられていた。
「これは、幽閉というより、厳重な封印だ。彼女自身の力を、恐れているのか……?」
エリオが、魔法陣を分析しながら呟く。
ノアが、扉にそっと手を触れる。その瞬間、彼の脳内に、冷たい絶望の声が直接響き渡った。
『……帰れ。ここには、何もない。光など、とうに消え失せた』
その声は、か細く、そして全ての希望を諦めたかのような、深い虚無に満ちていた。
「セレスティアさん。僕たちは、君を助けに来たんだ」
ノアが語りかける。
『助ける? 誰が、誰を? 私を、この闇から? 無駄なことよ。私は、この闇と共に在ることを選んだのだから』
その時、扉から黒い影のようなものが滲み出し、蛇のようにノアたちへと襲いかかった。
「危ない!」
クロエが、大剣でその影を薙ぎ払う。だが、影は斬られてもすぐに再生し、形を変えて再び襲いかかってきた。
「こいつら、実体がない! 物理攻撃が効かないぞ!」
「任せて!」
アカリが、手のひらに神聖な炎を灯す。
「『浄化の炎(ホーリー・フレイム)』!」
アカリが放った炎は、影に触れた途端、それを霧散させていく。光の力が弱まった今、彼女の炎が、闇に対する最も有効な武器だった。
「エリオ! 扉の封印を解けるか!」
「やってみる! だが、時間がかかる!」
エリオが封印の解読に取り掛かる。その間、クロエ、ジン、ミオが、次々と溢れ出す影の怪物たちを食い止める。
「ノア! カイ!」
ルナが叫ぶ。
「扉の向こうにいるのは、もはやセレスティア一人ではない! 彼女の絶望を喰らって成長した、『闇の呪い』そのものだ! 彼女の心を解放しない限り、この影は無限に湧き続けるぞ!」
ノアとカイは、顔を見合わせた。
「カイ、君の水の力で、僕の声を彼女の心に届けてくれ。僕の呪いと、君の浄化の力、二つを合わせれば、あるいは……」
「分かった。やってみよう」
カイは、扉に手を触れ、清らかな水の魔力を流し込み始めた。それは、頑なな心の扉をこじ開けるのではなく、その隙間から優しく染み渡っていくような、穏やかな力だった。
ノアも、扉に手を重ね、自らの魂に語りかけるように、言葉を紡ぎ始めた。
「セレスティアさん。君の絶望は、よく分かる。光を期待され、それを失った時の苦しみは、誰にも理解できないかもしれない。でも、君は一人じゃない」
ノアの声は、カイの水の力を通じて、セレスティアの心の奥深くへと届けられていく。
「僕たちも、ずっと自分の力を呪い、孤独の中にいた。でも、仲間と出会って、その力は誰かを助けるための希望なんだと知ったんだ。君の光も、決して消えちゃいない。ただ、深い闇の中で、輝き方を忘れているだけなんだ」
『黙れ……。お前なんかに、私の何が分かる……』
セレスティアの抵抗が、弱々しく響く。
「分かるよ。だから、教えてあげる。君の光が、どれだけ温かくて、どれだけたくさんの人を照らせるのかを」
ノアは、自分の全ての想いを、そして、仲間たちの願いを、一つの呪いへと昇華させた。
「【呪物錬成】。この扉に、新たな意味を与える。『絶望を閉ざす扉』ではなく、『希望へと続く扉』という、祝福の呪いを」
ノアの力が、カイの力と混じり合い、扉全体を温かい光のオーラで包み込んでいく。複雑に絡み合っていた封印の魔法陣が、その光に触れ、音を立てて解けていく。
そして、エリオが最後の術式を解読した瞬間。
重い石の扉が、ギィィ、と音を立てて、ゆっくりと内側へと開かれた。
扉の向こう。部屋の中は、完全な闇に包まれていた。その中央に、一人の少女が、ただ静かに佇んでいる。銀色の長い髪、純白のドレス。だが、その瞳は、光を失い、深い闇の色に染まっていた。
そして、彼女の背後には、彼女の影が、まるで意思を持つ巨大な怪物のように、不気味に蠢いていた。
『……来てしまったのか。愚かな、光の使者たちよ』
少女の唇が動いた。だが、そこから発せられた声は、彼女のものではなく、影そのものの、冷たく、そして重い、絶望の声だった。
最後の戦いが、始まろうとしていた。光を失った少女と、その心を喰らう闇。ノアたちは、世界の夜明けを賭けて、最も根源的な敵と対峙する。
一行が門を叩くと、やつれた顔の老執事が、訝しげな表情で顔を出した。
「……何用ですかな。当家に、客人の来訪など、もう何年も……」
「国王陛下のご命令です。セレスティア様にお会いしたい」
ルナが、王家の紋章が入った書状を見せると、老執事は驚きに目を見開き、慌てて一行を中に招き入れた。
屋敷の中は、外観以上に荒廃していた。埃が積もり、高価だったであろう調度品も、その輝きを失っている。
「セレスティアお嬢様は、あちらの北の塔におられます。ですが……」
老執事は、言い淀んだ。
「お会いになるのは、お勧めいたしません。あの方は、もはや、我々の知るお嬢様では……」
その言葉の意味を、一行はすぐに知ることになる。
案内されたのは、屋敷の奥にそびえる、蔦の絡まった古い石造りの塔だった。その周囲だけ、空気が不自然に冷たく、そして重い。
「……すごい闇の気配だ」
カイが、顔をしかめて呟いた。
「光の継承者がいる場所とは思えない。まるで、闇の巣だ」
扉を開け、螺旋階段を登っていく。窓のない塔の中は薄暗く、ノアが作った『道しるべのランタン』の光だけが、彼らの進む道を照らしていた。
最上階の部屋の前に着くと、その扉には、幾重にも複雑な封印の魔法がかけられていた。
「これは、幽閉というより、厳重な封印だ。彼女自身の力を、恐れているのか……?」
エリオが、魔法陣を分析しながら呟く。
ノアが、扉にそっと手を触れる。その瞬間、彼の脳内に、冷たい絶望の声が直接響き渡った。
『……帰れ。ここには、何もない。光など、とうに消え失せた』
その声は、か細く、そして全ての希望を諦めたかのような、深い虚無に満ちていた。
「セレスティアさん。僕たちは、君を助けに来たんだ」
ノアが語りかける。
『助ける? 誰が、誰を? 私を、この闇から? 無駄なことよ。私は、この闇と共に在ることを選んだのだから』
その時、扉から黒い影のようなものが滲み出し、蛇のようにノアたちへと襲いかかった。
「危ない!」
クロエが、大剣でその影を薙ぎ払う。だが、影は斬られてもすぐに再生し、形を変えて再び襲いかかってきた。
「こいつら、実体がない! 物理攻撃が効かないぞ!」
「任せて!」
アカリが、手のひらに神聖な炎を灯す。
「『浄化の炎(ホーリー・フレイム)』!」
アカリが放った炎は、影に触れた途端、それを霧散させていく。光の力が弱まった今、彼女の炎が、闇に対する最も有効な武器だった。
「エリオ! 扉の封印を解けるか!」
「やってみる! だが、時間がかかる!」
エリオが封印の解読に取り掛かる。その間、クロエ、ジン、ミオが、次々と溢れ出す影の怪物たちを食い止める。
「ノア! カイ!」
ルナが叫ぶ。
「扉の向こうにいるのは、もはやセレスティア一人ではない! 彼女の絶望を喰らって成長した、『闇の呪い』そのものだ! 彼女の心を解放しない限り、この影は無限に湧き続けるぞ!」
ノアとカイは、顔を見合わせた。
「カイ、君の水の力で、僕の声を彼女の心に届けてくれ。僕の呪いと、君の浄化の力、二つを合わせれば、あるいは……」
「分かった。やってみよう」
カイは、扉に手を触れ、清らかな水の魔力を流し込み始めた。それは、頑なな心の扉をこじ開けるのではなく、その隙間から優しく染み渡っていくような、穏やかな力だった。
ノアも、扉に手を重ね、自らの魂に語りかけるように、言葉を紡ぎ始めた。
「セレスティアさん。君の絶望は、よく分かる。光を期待され、それを失った時の苦しみは、誰にも理解できないかもしれない。でも、君は一人じゃない」
ノアの声は、カイの水の力を通じて、セレスティアの心の奥深くへと届けられていく。
「僕たちも、ずっと自分の力を呪い、孤独の中にいた。でも、仲間と出会って、その力は誰かを助けるための希望なんだと知ったんだ。君の光も、決して消えちゃいない。ただ、深い闇の中で、輝き方を忘れているだけなんだ」
『黙れ……。お前なんかに、私の何が分かる……』
セレスティアの抵抗が、弱々しく響く。
「分かるよ。だから、教えてあげる。君の光が、どれだけ温かくて、どれだけたくさんの人を照らせるのかを」
ノアは、自分の全ての想いを、そして、仲間たちの願いを、一つの呪いへと昇華させた。
「【呪物錬成】。この扉に、新たな意味を与える。『絶望を閉ざす扉』ではなく、『希望へと続く扉』という、祝福の呪いを」
ノアの力が、カイの力と混じり合い、扉全体を温かい光のオーラで包み込んでいく。複雑に絡み合っていた封印の魔法陣が、その光に触れ、音を立てて解けていく。
そして、エリオが最後の術式を解読した瞬間。
重い石の扉が、ギィィ、と音を立てて、ゆっくりと内側へと開かれた。
扉の向こう。部屋の中は、完全な闇に包まれていた。その中央に、一人の少女が、ただ静かに佇んでいる。銀色の長い髪、純白のドレス。だが、その瞳は、光を失い、深い闇の色に染まっていた。
そして、彼女の背後には、彼女の影が、まるで意思を持つ巨大な怪物のように、不気味に蠢いていた。
『……来てしまったのか。愚かな、光の使者たちよ』
少女の唇が動いた。だが、そこから発せられた声は、彼女のものではなく、影そのものの、冷たく、そして重い、絶望の声だった。
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