デバフ専門の支援術師は勇者パーティを追放されたので、呪いのアイテム専門店を開きます

夏見ナイ

文字の大きさ
84 / 89

第八十三話 光と影の少女

しおりを挟む
扉の向こうに広がるのは、完全な闇と静寂。その中心に立つ少女セレスティアの瞳は、虚無の色に染まり、彼女の背後に揺らめく巨大な影が、この部屋の真の主であることを物語っていた。

『よくぞ来た。我が名は、ノクス。全てを無に帰す者、『闇の呪い』を継ぐ者だ』

影が、セレスティアの口を借りて語りかける。その声は、男でも女でもなく、ただ絶対的な虚無の響きを持っていた。

「あなたは、セレスティアさんじゃない。彼女の心を乗っ取った、別の存在だ」

ノアは、まっすぐに影を見据えた。

『乗っ取った、だと? 人聞きの悪いことを言う。私は、彼女が望んだから、ここにいるのだ。光を失い、絶望した彼女が、自ら私を受け入れた。我らは、もはや一心同体よ』
「違う!」

ノアの背後から、アンナが声を上げた。彼女は、戦えないと知りながら、この最後の戦いを見届けるために、仲間たちと共に塔を登ってきていたのだ。

「セレスティア様の心から、聞こえてきます。深い、深い悲しみが……。闇に覆われて、声も出せないけれど、彼女の光は、まだ消えてなんかいない!」

アンナの共感の力が、セレスティアの心の奥底に眠る、微かな光を捉えていた。

『小賢しい娘め。その光も、今すぐ我が闇が飲み込んでくれるわ』

ノクスは、その巨大な影の腕を伸ばし、アンナへと襲いかかる。

「させん!」

ジンが、アンナの前に巨大な岩の壁を出現させ、影の攻撃を防ぐ。だが、影は壁をすり抜け、その一部がジンの腕にまとわりついた。

「ぐっ……! 力が、抜けていく……!」

ジンの体から、生命力が吸い取られていく。闇の呪いは、全てのエネルギーを無に帰す、恐ろしい力を持っていた。

「ジンさん!」

ミオが風の刃を放ち、ジンにまとわりつく影を切り裂く。

「総員、攻撃開始! ノアの道を開けろ!」

ルナの号令で、総力戦が始まった。

クロエが赤い閃光となって突撃し、アカリが浄化の炎を放つ。エリオは、光の魔法で影の動きを牽制し、カイは聖なる水で仲間たちの消耗を癒していく。

だが、ノクスの力は、あまりにも強大だった。全ての攻撃は、その無限とも思える闇の中に吸い込まれ、決定的なダメージを与えられない。仲間たちは、徐々に消耗し、追い詰められていく。

「無駄だ、無駄だ! この塔の中は、私の領域。ここでは、光も、炎も、風も、大地も、全てが闇に染まるのだ!」

ノクスの嘲笑が、部屋に響き渡る。

その間、ノアは動かなかった。彼は、ただセレスティアの瞳を、その奥にあるはずの、本当の彼女の心を見つめ続けていた。

(どうすれば、彼女の心を救える……?)

闇を払うには、光が必要だ。だが、その光の持ち主自身が、闇に囚われている。この矛盾を、どうすれば打ち破れるのか。

その時、ノアの脳裏に、今まで旅で出会ってきた仲間たちの顔が、次々と浮かんだ。

力の暴走に苦しんでいたクロエ。才能の呪いに絶望していたエリオ。孤独に震えていたミオ。自らの力を恐れていたジン。そして、囚われの身となっていたカイ。

彼らは皆、自分の力に苦しみ、闇に落ちかけていた。だが、彼らは救われた。誰かに、自分の存在を認められ、その力を必要とされることで。

(そうだ。光は、一人では輝けないんだ)

ノアは、答えを見つけた。

彼は、傷つきながら戦う仲間たちを見渡し、そして、セレスティアに向かって、静かに語りかけた。

「セレスティアさん。君は、自分の光を失ったと思っているかもしれない。でも、それは違う。君の光は、ずっとここにあったんだ」

ノアは、自分の胸を指さした。

「僕たちが、君の光だ」

ノアは、そっと目を閉じた。彼の【呪物錬成】の力が、静かに発動する。だが、その対象は、物ではない。仲間たち一人一人が持つ、『原初の呪い』の力そのものだった。

「クロエの、誰よりも真っ直ぐな、信じる力。エリオの、真理を探求する、知性の力。ミオの、自由を愛する、優しさの力。ジンの、全てを支える、不動の力。カイの、全てを癒す、慈愛の力。そして、アカリの、闇を照らす、情熱の力……」

ノアは、仲間たちの力を、一つ、また一つと、呪いの糸で紡いでいく。

「僕の力は、創造と変質の呪い。皆の力を束ね、新たな希望を、ここに創造する!」

仲間たちの六つの力が、ノアを中心に集まり、一つの巨大な光の奔流となった。それは、太陽よりも眩しく、しかし、どこまでも温かい、奇跡の光だった。

『な……なんだ、この光は……!? ありえん! 原初の力が、一つに……!』

ノクスの声に、初めて焦りの色が浮かぶ。

ノアは、その光の奔流を、両手で掲げた。

「セレスティアさん! 今こそ、思い出すんだ! 君が、本当は誰なのかを!」

ノアは、その光の全てを、闇に囚われた少女へと、解き放った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。 追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。 恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。 それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。 やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。 鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。 ※小説家になろうにも投稿しています。

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

無能と追放された鑑定士、実は物の情報を書き換える神スキル【神の万年筆】の持ち主だったので、辺境で楽園国家を創ります!

黒崎隼人
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――勇者パーティーの【鑑定士】リアムは、戦闘能力の低さを理由に、仲間と婚約者から無一文で追放された。全てを失い、流れ着いたのは寂れた辺境の村。そこで彼は自らのスキルの真価に気づく。物の情報を見るだけの【鑑定】は、実は万物の情報を書き換える神のスキル【神の万年筆】だったのだ! 「ただの石」を「最高品質のパン」に、「痩せた土地」を「豊穣な大地」に。奇跡の力で村を豊かにし、心優しい少女リーシャとの絆を育むリアム。やがて彼の村は一つの国家として世界に名を轟かせる。一方、リアムを失った勇者パーティーは転落の一途をたどっていた。今さら戻ってこいと泣きついても、もう遅い! 無能と蔑まれた青年が、世界を創り変える伝説の王となる、痛快成り上がりファンタジー、ここに開幕!

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...