デバフ専門の支援術師は勇者パーティを追放されたので、呪いのアイテム専門店を開きます

夏見ナイ

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第八十六話 創生の祭壇

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夜が明け、王都アルカディアの空は、雲一つない快晴だった。王城の最上部にある飛空艇発着場には、王国が誇る最速の飛空艇【シルフィード号】が、その純白の翼を広げていた。

ノアたち七人の英雄は、国王アルトリウスをはじめ、王都の多くの人々に見送られ、最後の旅へと出発しようとしていた。

「ノア殿、皆の者。この世界の未来は、其方たちの双肩にかかっておる。必ずや、生きて帰還せよ」

国王の力強い言葉に、ノアは深く頷いた。

「アンナ。店を、頼んだぞ」

ルナが、見送りに来ていたアンナの肩を叩く。

「はい、ルナ様。皆さんがいつでも帰ってこられるように、この箱舟は私が守っています。だから、安心して世界を救ってきてください」

アンナは、涙を堪え、精一杯の笑顔を作った。

七人は、飛空艇に乗り込んだ。巨大な帆が風を受け、魔法の力で浮力を得た船体が、ゆっくりと空へと浮かび上がる。眼下に見える王都の景色が、みるみるうちに小さくなっていく。

「行くぞ。決戦の地へ」

ノアの言葉を合図に、飛空-艇は世界の果て、『創生の祭壇』を目指して、雲の海を突き進んでいった。

飛空艇の旅は、数日に及んだ。ミオの風とカイの水が、常に安定した航路を保ち、ジンとアカリの力が、魔力の嵐から船体を守る。エリオは、創生の祭壇に関する最後の情報を分析し、クロエは、片時も警戒を怠らなかった。

そして、ついに彼らは目的地へとたどり着いた。

そこは、世界のどの地図にも載っていない、天空の聖域だった。眼下には雲海が広がり、その遥か上空に、巨大な水晶でできた島が、静かに浮かんでいる。島の中央には、天を突くような巨大な塔がそびえ立ち、その周囲を、七色の光のリングがゆっくりと旋回していた。

「あれが……創生の祭壇……」

エリオが、息を呑んで呟いた。世界の理が生まれ、全ての魔力がここから湧き出ている。空気中に満ちる魔力の密度が、下界とは比較にならないほど濃密だった。

飛空艇が、祭壇の島に着陸する。七人が大地に降り立つと、彼らの体に宿る原初の呪いが、その場所に共鳴するように、淡い光を放ち始めた。

一行は、中央の塔へと向かって、静かに歩みを進める。そこには、敵の気配も、罠の気配もなかった。ただ、あまりにも神聖で、そしてどこか物悲しい静寂だけが、彼らを包んでいた。

塔の最上階。そこは、床も壁も天井も、全てが磨き上げられた水晶でできた、広大なドーム状の空間だった。そして、その中央に、一人の男が背を向けて立っていた。

漆黒のローブを纏い、その体からは、世界の全てを塗りつ潰さんばかりの、圧倒的な闇のオーラが放たれている。彼こそが、この世界の絶望の根源、魔王だった。

魔王は、ゆっくりと振り返った。その顔は、驚くほど若々しく、そして美しかった。だが、その瞳には、どんな感情も映っていなかった。ただ、全てを見透かすような、深い虚無が広がっているだけだった。

「……ようやく、来たか。我が愚かなる兄弟たちの、最後の末裔よ」

魔王の声は、アルカナの声によく似ていた。だが、そこには温かみなど一切なく、ただ絶対零度の響きだけがあった。

「お前たちが、七つの力を集めることは、織り込み済みだ。いや、むしろ、私がそう仕向けたと言ってもいい」
「何……だと……?」

ルナが、訝しげに問い返す。

「私は、世界を救いたいのだ」と魔王は続けた。「憎しみ、悲しみ、嫉妬、欲望……。感情と個性が、この世界に争いと苦しみを生み出し続ける。ならば、その根源である全てを消し去り、完全な『無』へと帰すことこそが、唯一の救済ではないかね?」

それは、あまりにも歪んだ、しかし純粋な救済の思想だった。

「そのために、私はこの世界に散らばった『原初の呪い』を、一つに集める必要があった。お前たちは、そのための、実に優秀な駒だったというわけだ。さあ、その力を、私に捧げよ。そうすれば、お前たちも、苦しみのない、永遠の静寂の中で、安らかに眠ることができる」

魔王は、手を差し伸べた。その瞳は、自分こそが世界の救世主であると、信じて疑っていない。

「ふざけるな!」

クロエが、怒りに任せて叫んだ。

「悲しみや苦しみがあるからこそ、人は誰かを思いやり、支え合えるんじゃないか! 喜びも、幸せも、そこから生まれるんじゃないか!」
「そうだ」とノアが続けた。「僕たちは、不完全で、未熟だ。だからこそ、仲間がいる。この絆こそが、僕たちの希望だ。お前のような、空っぽの世界など、僕たちは絶対に認めない!」

ノアの言葉に、六人の仲間たちが、力強く頷いた。

魔王は、その光景を見て、初めて、その表情をわずかに歪めた。それは、嘲笑のようでもあり、憐れみのようでもあった。

「……愚かな。やはり、お前たちは、この世界が生み出した、修正すべき『バグ』でしかないようだ」

魔王の体から、闇のオーラが爆発的に膨れ上がった。

「ならば、この手で、お前たちのその矮小な希望ごと、消し去ってやろう」

世界の存亡をかけた、最後の戦いの火蓋が、ついに切って落とされた。七つの光と、絶対的な闇。創生の祭壇を舞台に、相反する二つの正義が、激しく衝突する。
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