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第八十八話 呪いの終わり、祝福の始まり
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光の大樹が放つ七色の光に包まれ、魔王の体から、絶対的な闇のオーラが、まるで雪解け水のようにゆっくりと消えていく。彼を縛り付けていた『支配の呪い』の枷が、外れたのだ。
残されたのは、ただの青年だった。かつて、原初の呪術師アルカナの弟子であり、誰よりも世界の平和を願っていた、一人の純粋な魔法使い。
「……あたたかい」
彼は、呆然と自分の掌を見つめ、呟いた。何千年もの間、忘れていた感覚。誰かと繋がり、想いを分かち合う温もり。
「私は……何を……」
記憶の混濁に苦しむ彼に、ノアが静かに歩み寄った。
「もう、いいんだ。君の長い、長い戦いは、終わったんだから」
ノアは、敵意ではなく、ただの隣人のように、彼に手を差し伸べた。青年は、その手を、戸惑いながらも、そっと握り返した。
その瞬間、創生の祭壇、そして光の大樹は、その役目を終えたかのように、眩い光の粒子となって、世界中へと降り注いでいった。それは、魔王によって歪められた世界の理を修復し、新たな希望の種を蒔く、祝福の光だった。
世界は、救われた。
数週間後。王都アルカディアは、英雄たちの凱旋を祝う、建国以来最大の祝祭に沸いていた。広場には、七人の英雄たちの巨大な像が建てられ、吟遊詩人たちは、彼らの冒険譚を、新しい歌にして語り継いでいた。
王城の玉座の間では、国王アルトリウスが、ノアたち七人に、最大の賛辞と感謝を述べていた。
「其方たちの功績は、言葉では言い尽くせん。この国、いや、この世界の救世主だ。改めて問おう。望むものは、何だ? 今度こそ、何でも与えよう」
ノアは、仲間たちの顔を見渡し、そして、代表して答えた。
「僕たちが望むのは、一つだけです」
彼は、穏やかに、しかしきっぱりと言った。
「僕たちを、ただの『呪術師』と、『剣士』と、『魔法使い』に戻してください。英雄ではなく、ただの人として、僕たちの店で、人々の小さな悩みに寄り添う、そんな日常を、僕たちは望みます」
そのあまりにも謙虚な願いに、国王は一瞬、言葉を失ったが、やがて、心からの敬意を込めて、深く頷いた。
「……分かった。其方たちらしい、答えだ。約束しよう。其方たちの平穏は、この国が、未来永劫守り続けることを」
こうして、ノアたちの長い旅は、終わりを告げた。
数年後。
境界都市バ-ザールの一角に、一軒の小さな店が、昔と変わらずに佇んでいた。その名は、【ノアの箱舟】。
店の扉を開けると、そこには、懐かしい顔ぶれがあった。
「いらっしゃいませ! お客様、どのようなお悩みで?」
カウンターでは、少し大人びたアンナが、柔らかな笑顔で客を迎えている。
店の奥の工房からは、カン、カン、と心地よい槌音が聞こえてくる。ノアが、相変わらず、人々のための、少し風変わりな呪いのアイテムを作っているのだ。
「クロエ! また、つまみ食いしただろ! 今月の食費が、また赤字だぞ!」
「早い者勝ちですってば、ルナ様!」
店の経営を一手に引き受けるルナと、用心棒兼看板娘のクロエの、賑やかなやり取りも健在だ。
時折、遠い異国から、仲間たちが顔を出すこともあった。
エリオは、世界中を旅する偉大な魔法学者となり、新たな魔法理論で、世界を驚かせている。
ジンとミオは、それぞれの故郷で、大地と風の守り手として、人々の尊敬を集めていた。
アカリは、父の後を継ぎ、シノノメ家の当主として、炎の力で民を導いている。
カイは、水の神殿で、汚染された世界中の海を、浄化する旅を続けていた。
そして、セレスティアは、光の力を失った人々を導く、新たな教えの始祖となり、王都で多くの人々の心の支えとなっていた。
魔王だった青年は、全ての記憶を失い、今はセレスティアの神殿で、一人の庭師として、静かに花を育てているという。
七つの力は、それぞれの場所で、世界を優しく支え続けていた。
ある晴れた日の午後。ノアは、工房から出て、店の前のベンチに腰掛けた。街は平和で、子供たちの笑い声が響いている。
(僕は、英雄なんかじゃなかったな)
彼は、空を見上げながら、ふと思う。
(ただ、大切な仲間たちと、この穏やかな日常を守りたかっただけだ)
「ノアさん、お茶、入りましたよ」
アンナの優しい声に、ノアは振り返り、微笑んだ。
追放から始まった、一人の呪術師の物語。それは、世界を救う壮大な英雄譚であると同時に、彼が自分の居場所を見つけ、かけがえのない絆を取り戻すまでの、ささやかで、そしてどこまでも温かい物語だった。
彼の作る、少しだけ不思議な呪いのアイテムは、これからも、多くの人々の人生を、ささやかに、しかし確かに、照らし続けていくのだろう。
【ノアの箱舟】の扉は、今日も、悩める誰かのために、優しく開かれている。
(完)
残されたのは、ただの青年だった。かつて、原初の呪術師アルカナの弟子であり、誰よりも世界の平和を願っていた、一人の純粋な魔法使い。
「……あたたかい」
彼は、呆然と自分の掌を見つめ、呟いた。何千年もの間、忘れていた感覚。誰かと繋がり、想いを分かち合う温もり。
「私は……何を……」
記憶の混濁に苦しむ彼に、ノアが静かに歩み寄った。
「もう、いいんだ。君の長い、長い戦いは、終わったんだから」
ノアは、敵意ではなく、ただの隣人のように、彼に手を差し伸べた。青年は、その手を、戸惑いながらも、そっと握り返した。
その瞬間、創生の祭壇、そして光の大樹は、その役目を終えたかのように、眩い光の粒子となって、世界中へと降り注いでいった。それは、魔王によって歪められた世界の理を修復し、新たな希望の種を蒔く、祝福の光だった。
世界は、救われた。
数週間後。王都アルカディアは、英雄たちの凱旋を祝う、建国以来最大の祝祭に沸いていた。広場には、七人の英雄たちの巨大な像が建てられ、吟遊詩人たちは、彼らの冒険譚を、新しい歌にして語り継いでいた。
王城の玉座の間では、国王アルトリウスが、ノアたち七人に、最大の賛辞と感謝を述べていた。
「其方たちの功績は、言葉では言い尽くせん。この国、いや、この世界の救世主だ。改めて問おう。望むものは、何だ? 今度こそ、何でも与えよう」
ノアは、仲間たちの顔を見渡し、そして、代表して答えた。
「僕たちが望むのは、一つだけです」
彼は、穏やかに、しかしきっぱりと言った。
「僕たちを、ただの『呪術師』と、『剣士』と、『魔法使い』に戻してください。英雄ではなく、ただの人として、僕たちの店で、人々の小さな悩みに寄り添う、そんな日常を、僕たちは望みます」
そのあまりにも謙虚な願いに、国王は一瞬、言葉を失ったが、やがて、心からの敬意を込めて、深く頷いた。
「……分かった。其方たちらしい、答えだ。約束しよう。其方たちの平穏は、この国が、未来永劫守り続けることを」
こうして、ノアたちの長い旅は、終わりを告げた。
数年後。
境界都市バ-ザールの一角に、一軒の小さな店が、昔と変わらずに佇んでいた。その名は、【ノアの箱舟】。
店の扉を開けると、そこには、懐かしい顔ぶれがあった。
「いらっしゃいませ! お客様、どのようなお悩みで?」
カウンターでは、少し大人びたアンナが、柔らかな笑顔で客を迎えている。
店の奥の工房からは、カン、カン、と心地よい槌音が聞こえてくる。ノアが、相変わらず、人々のための、少し風変わりな呪いのアイテムを作っているのだ。
「クロエ! また、つまみ食いしただろ! 今月の食費が、また赤字だぞ!」
「早い者勝ちですってば、ルナ様!」
店の経営を一手に引き受けるルナと、用心棒兼看板娘のクロエの、賑やかなやり取りも健在だ。
時折、遠い異国から、仲間たちが顔を出すこともあった。
エリオは、世界中を旅する偉大な魔法学者となり、新たな魔法理論で、世界を驚かせている。
ジンとミオは、それぞれの故郷で、大地と風の守り手として、人々の尊敬を集めていた。
アカリは、父の後を継ぎ、シノノメ家の当主として、炎の力で民を導いている。
カイは、水の神殿で、汚染された世界中の海を、浄化する旅を続けていた。
そして、セレスティアは、光の力を失った人々を導く、新たな教えの始祖となり、王都で多くの人々の心の支えとなっていた。
魔王だった青年は、全ての記憶を失い、今はセレスティアの神殿で、一人の庭師として、静かに花を育てているという。
七つの力は、それぞれの場所で、世界を優しく支え続けていた。
ある晴れた日の午後。ノアは、工房から出て、店の前のベンチに腰掛けた。街は平和で、子供たちの笑い声が響いている。
(僕は、英雄なんかじゃなかったな)
彼は、空を見上げながら、ふと思う。
(ただ、大切な仲間たちと、この穏やかな日常を守りたかっただけだ)
「ノアさん、お茶、入りましたよ」
アンナの優しい声に、ノアは振り返り、微笑んだ。
追放から始まった、一人の呪術師の物語。それは、世界を救う壮大な英雄譚であると同時に、彼が自分の居場所を見つけ、かけがえのない絆を取り戻すまでの、ささやかで、そしてどこまでも温かい物語だった。
彼の作る、少しだけ不思議な呪いのアイテムは、これからも、多くの人々の人生を、ささやかに、しかし確かに、照らし続けていくのだろう。
【ノアの箱舟】の扉は、今日も、悩める誰かのために、優しく開かれている。
(完)
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