外れスキル【アイテム錬成】でSランクパーティを追放された俺、実は神の素材で最強装備を創り放題だったので、辺境で気ままな工房を開きます

夏見ナイ

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第35話 竜を呪う大罪

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竜王イグニール。
それは、建国神話や、吟遊詩人が歌う英雄譚の中にのみ登場する、伝説の存在。あらゆる魔物の頂点に立ち、天災そのものと称される最強の竜。
その名を、腕の中でぐったりとしている、か細い少女の口から聞かされる。
俺はあまりの衝撃に、思考が完全に停止していた。

「……竜王、だって?」
かろうじて絞り出した声は、ひどくかすれていた。
イグナ、いやイグニールは、俺の胸に顔を埋めたまま、力なく頷いた。
「そうだ。信じられぬのも、無理はない。我自身、今のこの無様な姿が現実だとは思いたくないからな……」
その声には、深い自嘲と、抑えきれない悔しさが滲んでいた。

工房の隅では、リリアが青ざめた顔で立ち尽くし、わなわなと唇を震わせている。彼女もまた、信じがたい告白に大きなショックを受けていた。

俺はまず、消耗しきったイグナを再びベッドへと運び、そっと横たえた。彼女はもう、指一本動かす気力もないようだった。
リリアが、おそるおそるベッドのそばに近づく。
「あの……本当に、あなたが……あの伝説の……」
「いかにも」
イグナは目を閉じたまま、ぶっきらぼうに答えた。

「なぜ、このようなお姿に? その呪いは、いったい誰が……」
リリアが問いかけると、イグナはしばらく沈黙していたが、やがて重い口を開いた。自分の正体と、呪いの根源を明かした今、もはや隠しても意味がないと判断したのだろう。

「あれは、人間の尺度で言えば……五十年ほど前のことになるか」
彼女は、遠い過去を思い出すように、静かに語り始めた。
「我が住まう西方山脈に、人間の魔術師ギルドが土足で踏み込んできた。禁忌とされる古代の儀式を行い、不浄なるものをこの世に呼び出そうとしておったのだ」
そのギルドの名は『黒の塔』。魔術の探求のためならば、どんな非道な手段も厭わない、悪名高い禁術師の集団だったという。

「我は警告した。我が領域を汚すな、と。だが、奴らは聞かなかった。ゆえに、我は怒り、奴らの塔を、儀式もろとも、ブレスの一薙ぎで消し炭にしてやった」
その言葉は淡々としていたが、竜王としての圧倒的な力と威厳を物語っていた。

「だが、ギルドマスターの男だけが、生き残っておった。奴は、自らの命と、仲間全員の魂を生贄に捧げ、我に最後の呪いを放ったのだ」
イグナの表情が、苦痛に歪む。
「その名も、『魂喰らいの大呪詛』。存在そのものを、永い時間をかけてゆっくりと蝕み、消滅させる、最も悪辣な呪いだ」

その呪いは、まず竜としての強大な肉体を維持できなくさせ、魂をこの脆弱な人間の少女の姿へと封じ込めた。そして、魔力の源泉を塞ぎ、定期的に激痛と共に魂そのものを少しずつ削り取っていく。
「今、我がこうして貴様らと話している間も、魂は削られ続けている。いずれ、我が魂が完全に喰らい尽くされた時、竜王イグニールという存在は、この世界から跡形もなく消え失せるだろう」

壮絶な告白に、俺もリリアも言葉を失った。
彼女が抱えていた苦しみは、俺たちの想像を遥かに超えるものだった。死よりも残酷な、緩やかな消滅の恐怖と、何十年もたった一人で戦い続けてきたのだ。
彼女の尊大な態度は、竜王としての誇りを保つための、最後の砦だったのかもしれない。

「ごめんなさい……」
リリアの目から、大粒の涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。
「わたくしが……わたくしが、軽率に力を放ったばかりに、あなたを……!」
彼女はその場に膝から崩れ落ち、嗚咽を漏らした。

イグナは、そんなリリアをしばらく無言で見ていたが、やがてふいと顔をそむけた。
「……もうよい。貴様の力が、呪いを活性化させることは事実だが、そこに悪意はなかった。それくらいは、我にもわかる」
その言葉は、彼女なりの最大限の赦しなのだろう。

語り終えたイグナは、精神的にも肉体的にも限界だったのか、すぐに静かな寝息を立て始めた。
寝室には、疲れ果てて眠る竜王と、泣きじゃくる聖女、そして、途方もない事実を突きつけられた俺が残された。

俺は眠るイグナの顔をじっと見つめる。
そのか細い体で、どれほどの絶望と戦ってきたのか。
助けたい。
その想いが、かつてないほど強く、俺の胸に込み上げてきた。
これはもう、単なるお人好しではない。彼女の魂の叫びを聞いてしまった者としての、責任であり、使命だった。
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