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第83話 大神殿防衛戦
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「全軍、突撃!」
教主の静かな、しかし有無を言わさぬ号令一下、邪教徒たちが雄叫びを上げてメインホールになだれ込んできた。闇の魔弾が嵐のように降り注ぎ、神殿の美しい柱や彫刻が次々と破壊されていく。
「怯むな! 聖女様と大神殿を守り抜け!」
迎え撃つのは残存する神殿騎士団の精鋭たち。彼らは盾を構え、壁となって邪教徒の波を受け止めようとする。だが、あまりにも数が違いすぎた。隊列は瞬く間に食い破られていく。
「ルーク、お前は下がって負傷者の治療に専念しろ!」
リゼットはそう叫ぶと、一人、最も激しい戦場の渦中へと銀色の流星のように飛び込んでいった。
「はあああっ!」
彼女の剣閃が夜空を切り裂く稲妻のように闇を切り裂く。一体、二体、三体。彼女の剣の前に下級の邪教徒たちは、まるで紙くずのように斬り捨てられていく。呪いから解放され、ミストラルの鋼の剣を手にした彼女はもはや一騎当千の戦女神と化していた。
だが、敵の波は途絶えることを知らない。
「回復が追いつかない!」
俺は次々と運び込まれてくる負傷した騎士たちに、必死で創生水を飲ませていた。俺のポーションは確かに奇跡を起こす。だが、それはあくまでまだ息のある者に対してだけだ。即死した者は、いくら創生水をかけても蘇ることはない。
目の前で仲間だったはずの神官が、胸を黒い矢に貫かれて絶命する。その光景に俺は唇を噛み締めた。ミストラル村での戦いとは違う。これは本物の戦争だった。
「ルークの旦那! ぼさっとするな!」
俺の背後から地響きのような声が聞こえた。振り返ると、そこには巨大な戦鎚を肩に担いだギムリの姿があった。
「ギムリさん!? なぜここに!」
「当たり前じゃろうが! 仲間が死地に赴くというのに、村で指をくわえて見ておれるほどドワーフは耄碌しとらんわい!」
彼はにやりと笑った。どうやら俺たちが王都へ発った後、密かに後を追ってきていたらしい。彼の隣にはミストラル村の自警団の精鋭たちも、聖水鍛冶で作られた武具を手に並んでいた。
「村長さんたちにはこっぴどく叱られるじゃろうがな! だが今はそんなこと、どうでもええわい!」
ギムリは雄叫びを上げると、邪教徒の群れへと突進していった。彼の戦鎚が振るわれるたびに、数人の邪教徒がまとめて吹き飛ばされていく。
「ミストラルの者たちよ! ルーク様とリゼット教官に我らの力を見せてやれ!」
自警団の若者たちもギムリに続いて突撃する。彼らの動きは神殿騎士たちのように洗練されてはいない。だが、その目には故郷と仲間を守るという揺るぎない覚悟の光が宿っていた。彼らの参戦は崩壊しかけていた戦線を力強く押し戻した。
「……みんな……!」
俺は予期せぬ援軍の登場に、胸が熱くなるのを感じた。俺は一人じゃなかった。俺の背後にはいつも、あの温かい村があったのだ。
「ルーク!」
戦場の反対側からノエルの声が聞こえた。彼女は聖女と神官長を安全な場所へ避難させた後、戦線に戻ってきてくれたのだ。
「こっちの支援は任せて! 君は自分の役割に集中して!」
彼女はそう言うと、次々と特殊な薬品を投げつけ始めた。地面に粘着性の液体を撒き散らして敵の足止めをし、負傷した味方の傷口には遠距離から治癒効果のある軟膏を正確に投げつける。彼女の存在は戦場全体を俯瞰し、コントロールするまさに司令塔だった。
リゼットの剣、ギムリの槌、ノエルの知恵、そしてミストラル自警団の覚悟。それらが俺の回復能力を軸として、一つの強固な戦闘集団として機能し始めた。
俺たちは大神殿のメインホールで、邪教徒の圧倒的な物量を押し返し始めたのだ。
「……面白い」
その光景を教主は少しも動じることなく、静かに眺めていた。彼の興味はもはや雑兵たちの戦いにはない。その視線はただ一人、後方で戦線を支え続ける俺の姿だけを捉えていた。
「ザラキエル」
「はっ」
教主の呼びかけに、異形の幹部が一歩前に進み出た。
「あの女騎士とドワーフを、お前が引き受けろ。他の者は邪魔が入らぬように、外の者たちを食い止めよ」
「御意に」
「……して、教主様は?」
「私は」
教主は、その手に持つ巨大な鎌をゆっくりと持ち上げた。
「あちらの『聖者』様と、少しお話をさせてもらう」
その言葉と同時に、教主の姿がふっとかき消えた。
「!?」
俺は目の前から敵の最高戦力者が消えたことに、背筋が凍るのを感じた。どこだ!?
「―――後ろだ、ルーク!」
リゼットの絶叫が響く。
俺が振り返るよりも早く、背後に死神のような気配が現れた。
「……捕まえたぞ。『創生の源』」
耳元で教主の冷たい囁きが聞こえた。巨大な黒曜石の鎌の刃が、俺の首筋に冷たく触れていた。
教主の静かな、しかし有無を言わさぬ号令一下、邪教徒たちが雄叫びを上げてメインホールになだれ込んできた。闇の魔弾が嵐のように降り注ぎ、神殿の美しい柱や彫刻が次々と破壊されていく。
「怯むな! 聖女様と大神殿を守り抜け!」
迎え撃つのは残存する神殿騎士団の精鋭たち。彼らは盾を構え、壁となって邪教徒の波を受け止めようとする。だが、あまりにも数が違いすぎた。隊列は瞬く間に食い破られていく。
「ルーク、お前は下がって負傷者の治療に専念しろ!」
リゼットはそう叫ぶと、一人、最も激しい戦場の渦中へと銀色の流星のように飛び込んでいった。
「はあああっ!」
彼女の剣閃が夜空を切り裂く稲妻のように闇を切り裂く。一体、二体、三体。彼女の剣の前に下級の邪教徒たちは、まるで紙くずのように斬り捨てられていく。呪いから解放され、ミストラルの鋼の剣を手にした彼女はもはや一騎当千の戦女神と化していた。
だが、敵の波は途絶えることを知らない。
「回復が追いつかない!」
俺は次々と運び込まれてくる負傷した騎士たちに、必死で創生水を飲ませていた。俺のポーションは確かに奇跡を起こす。だが、それはあくまでまだ息のある者に対してだけだ。即死した者は、いくら創生水をかけても蘇ることはない。
目の前で仲間だったはずの神官が、胸を黒い矢に貫かれて絶命する。その光景に俺は唇を噛み締めた。ミストラル村での戦いとは違う。これは本物の戦争だった。
「ルークの旦那! ぼさっとするな!」
俺の背後から地響きのような声が聞こえた。振り返ると、そこには巨大な戦鎚を肩に担いだギムリの姿があった。
「ギムリさん!? なぜここに!」
「当たり前じゃろうが! 仲間が死地に赴くというのに、村で指をくわえて見ておれるほどドワーフは耄碌しとらんわい!」
彼はにやりと笑った。どうやら俺たちが王都へ発った後、密かに後を追ってきていたらしい。彼の隣にはミストラル村の自警団の精鋭たちも、聖水鍛冶で作られた武具を手に並んでいた。
「村長さんたちにはこっぴどく叱られるじゃろうがな! だが今はそんなこと、どうでもええわい!」
ギムリは雄叫びを上げると、邪教徒の群れへと突進していった。彼の戦鎚が振るわれるたびに、数人の邪教徒がまとめて吹き飛ばされていく。
「ミストラルの者たちよ! ルーク様とリゼット教官に我らの力を見せてやれ!」
自警団の若者たちもギムリに続いて突撃する。彼らの動きは神殿騎士たちのように洗練されてはいない。だが、その目には故郷と仲間を守るという揺るぎない覚悟の光が宿っていた。彼らの参戦は崩壊しかけていた戦線を力強く押し戻した。
「……みんな……!」
俺は予期せぬ援軍の登場に、胸が熱くなるのを感じた。俺は一人じゃなかった。俺の背後にはいつも、あの温かい村があったのだ。
「ルーク!」
戦場の反対側からノエルの声が聞こえた。彼女は聖女と神官長を安全な場所へ避難させた後、戦線に戻ってきてくれたのだ。
「こっちの支援は任せて! 君は自分の役割に集中して!」
彼女はそう言うと、次々と特殊な薬品を投げつけ始めた。地面に粘着性の液体を撒き散らして敵の足止めをし、負傷した味方の傷口には遠距離から治癒効果のある軟膏を正確に投げつける。彼女の存在は戦場全体を俯瞰し、コントロールするまさに司令塔だった。
リゼットの剣、ギムリの槌、ノエルの知恵、そしてミストラル自警団の覚悟。それらが俺の回復能力を軸として、一つの強固な戦闘集団として機能し始めた。
俺たちは大神殿のメインホールで、邪教徒の圧倒的な物量を押し返し始めたのだ。
「……面白い」
その光景を教主は少しも動じることなく、静かに眺めていた。彼の興味はもはや雑兵たちの戦いにはない。その視線はただ一人、後方で戦線を支え続ける俺の姿だけを捉えていた。
「ザラキエル」
「はっ」
教主の呼びかけに、異形の幹部が一歩前に進み出た。
「あの女騎士とドワーフを、お前が引き受けろ。他の者は邪魔が入らぬように、外の者たちを食い止めよ」
「御意に」
「……して、教主様は?」
「私は」
教主は、その手に持つ巨大な鎌をゆっくりと持ち上げた。
「あちらの『聖者』様と、少しお話をさせてもらう」
その言葉と同時に、教主の姿がふっとかき消えた。
「!?」
俺は目の前から敵の最高戦力者が消えたことに、背筋が凍るのを感じた。どこだ!?
「―――後ろだ、ルーク!」
リゼットの絶叫が響く。
俺が振り返るよりも早く、背後に死神のような気配が現れた。
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耳元で教主の冷たい囁きが聞こえた。巨大な黒曜石の鎌の刃が、俺の首筋に冷たく触れていた。
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