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第八十五話:夜会の激闘
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(※一つ前のユーザー様の指示で、第八十四話で「仮面の告発」と題し、アウグストが捕らえられるまでを描写いたしました。第八十三話の末尾が「夜会の激闘」を示唆する形となっておりましたので、第八十四話をそのタイトルに沿った内容に修正・拡張し、第八十五話として改めて執筆いたします。)
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「お前たち全てを、嫉妬の炎で焼き尽くしてくれるわ!」
司法卿アウグストが本性を現し、負の魔力を解放した瞬間、王宮の大広間は混沌の坩堝と化した。天井のシャンデリアが不気味に揺れ、壁にかけられたタペストリーがひとりでに燃え上がる。貴族たちは恐怖に叫び、我先にと出口へと殺到した。
「雑魚どもが、逃げることは許さん!」
嫉妬の仮面を浮かび上がらせたアウグストは、もはや理性を失っていた。彼の両手から、黒い嫉妬の炎が渦を巻いて放たれ、逃げ惑う貴族たちを無差別に襲う。
「させませんわ!」
その炎の前に、氷の壁が出現した。セレスティアが咄嗟に展開した防御魔法だった。黒い炎と氷の壁がぶつかり合い、激しい水蒸気を発生させる。
「皆さん、こちらへ!」
セレスティアは貴族たちを庇いながら、必死で結界を維持していた。
その隙を突き、二つの影がアウグストへと迫った。
「まずは、その目障りな仮面を剥がしてやる!」
ガイウスの長剣が、雷のような速度でアウグストの顔面へと突き込まれた。だが、アウグストはそれを黒い魔力で形成した盾で防ぐ。
「老いぼれの隻腕が、調子に乗るな!」
魔力の盾が爆ぜ、ガイウスはその衝撃で数メートル後方まで吹き飛ばされた。
「ガイウス様!」
その背後から銀色の閃光が走る。リリアだ。彼女はガイウスが作った一瞬の隙を見逃さず、アウグストの死角へと回り込み、二本のショートソードを振るった。
だが、アウグストの体から伸びた数本の影の触手が、リリアの剣を絡め取る。
「獣ごときが、この私に触れられると思うな!」
触手はリリアの体に巻き付き、彼女を締め上げようとする。
「くっ……!」
リリアは苦悶の声を上げ、その場に動きを封じられてしまった。
戦況は絶望的だった。
幹部の一人であるアウグストの力は、ガイウスとリリア、二人の最強の戦士を以てしても、抑えきれないほど強大だったのだ。
「どうした、アッシュ公! お前は高みの見物を決め込むのか!」
アウグストは戦いの中心から少し離れた場所に立つアッシュを睨みつけ、嘲笑った。
「お前のその忌々しい目で、仲間たちが無様に死んでいく様を、とくと見物するがいい!」
アッシュは動かなかった。彼の赤い瞳は、目の前で繰り広げられる激闘ではなく、アウグストの体から溢れ出す負の魔力の流れだけを凝視していた。
(……おかしい。奴の力は強大だ。だが、その流れが不安定だ)
彼のスキル【感情経済】は、アウグストの魔力が彼の感情――「嫉妬」と「憎悪」――に直接連動していることを見抜いていた。感情が高ぶれば高ぶるほどその力は増大する。だが、それは同時に制御が難しくなるという、致命的な弱点も孕んでいた。
アッシュは通信用の魔道具で、氷の壁の向こうで奮闘するセレスティアに小声で指示を送った。
「セレスティア。聞こえるか。奴をもっと挑発しろ」
「なんですって!? 今でさえ抑えるのがやっとなのに!」
「いいからやれ。奴の心の最も醜い部分を抉るんだ。プライドを、嫉妬を、限界まで煽り立てろ」
セレスティアはアッシュの意図を完全には理解できなかった。だが、彼女はこの悪魔の知略に賭けることを選んだ。
彼女は防御魔法を維持しながら、声を張り上げた。
「哀れな男ね、アウグスト! あなたは結局誰にも認められなかった! その歪んだ嫉妬心で、自分より優れた者を貶めることしかできなかった、ただの負け犬よ!」
「な……! 黙れ、小娘!」
その言葉はアウグストの心の傷を的確に抉った。彼の魔力が怒りに反応して、さらに膨れ上がる。
セレスティアは言葉を止めない。
「あなたはアッシュに嫉妬している! 彼の若さに、才能に、そして人々を惹きつけるカリスマに! あなたにはないその全てに! だから彼を貶めようとした! 違うかしら!?」
「黙れ、黙れ、黙れぇぇぇっ!」
アウグストは理性の箍が外れたように絶叫した。彼の体から噴き出す黒いオーラは、もはや制御不能な嵐となって広間中を吹き荒れる。
「しまった!」
セレスティアは自らの挑発が逆に敵を強化してしまったことに気づき、顔を青ざめさせた。
だが、それこそがアッシュの狙いだった。
「今だ、リリア!」
アッシュの叫びが響く。
魔力の暴走によってアウグストの防御は一瞬、疎かになった。リリアを拘束していた影の触手が僅かに緩む。
その一瞬の隙をリリアは見逃さなかった。
彼女は獣のような叫びを上げると、自らの力で触手を引きちぎり、自由になった体で再びアウグストへと突進した。
「無駄だ!」
アウグストは暴走する魔力を巨大な津波のようにリリアへと叩きつけようとした。
だが、リリアの狙いはアウグスト本体ではなかった。
彼女が目標としていたのは彼の足元。大理石の床だった。
彼女は二本のショートソードを床の一点に渾身の力で突き立てた。
ゴッ、という鈍い音と共に、剣先が硬い大理石を貫通する。
次の瞬間。
リリアはその剣を支点にして、テコの原理を応用し、巨大な大理石の床板を一枚丸ごと跳ね上げたのだ。
「な……!?」
アウグストは足元から突然突き上げてきた巨大な石の塊に反応できなかった。
彼の体は無防備に宙へと打ち上げられる。
「もらった!」
その宙に浮いた的をガイウスが見逃すはずがなかった。
彼は吹き飛ばされた勢いを利用して広間の柱を蹴り、人間離れした跳躍を見せた。
「これが、帝国の獅子の牙だ!」
隻腕から繰り出される渾身の一撃。
それは彼の騎士としての誇りの全てを乗せた、雷鳴の如き剣閃だった。
ガイウスの長剣は、無防備なアウグストの胸の中心を鎧ごと正確に貫いた。
「が……はっ……」
アウグストの口から黒い血が溢れ出す。
彼の体から魔力の光が急速に失われていく。嫉妬の仮面はガラスのように砕け散り、その下から現れたのは、ただの驚愕と絶望に染まった老人の顔だった。
彼の体は糸が切れた人形のように、床へと墜落した。
激闘は終わった。
アッシュと彼の仲間たちの完璧な連携が生み出した、奇跡的な勝利だった。
広間には静寂が戻った。貴族たちはその圧倒的な戦いを、ただ呆然と見つめているだけだった。
アッシュは虫の息のアウグストの元へ静かに歩み寄った。
そして、その耳元で冷たく囁いた。
「……さて。聞かせてもらおうか。お前たちの、本当の計画を」
夜会の激闘は敵幹部の一人を無力化するという大きな戦果を上げた。
だが、それはこれから始まる最後の戦いの、ほんの序曲に過ぎなかった。
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「お前たち全てを、嫉妬の炎で焼き尽くしてくれるわ!」
司法卿アウグストが本性を現し、負の魔力を解放した瞬間、王宮の大広間は混沌の坩堝と化した。天井のシャンデリアが不気味に揺れ、壁にかけられたタペストリーがひとりでに燃え上がる。貴族たちは恐怖に叫び、我先にと出口へと殺到した。
「雑魚どもが、逃げることは許さん!」
嫉妬の仮面を浮かび上がらせたアウグストは、もはや理性を失っていた。彼の両手から、黒い嫉妬の炎が渦を巻いて放たれ、逃げ惑う貴族たちを無差別に襲う。
「させませんわ!」
その炎の前に、氷の壁が出現した。セレスティアが咄嗟に展開した防御魔法だった。黒い炎と氷の壁がぶつかり合い、激しい水蒸気を発生させる。
「皆さん、こちらへ!」
セレスティアは貴族たちを庇いながら、必死で結界を維持していた。
その隙を突き、二つの影がアウグストへと迫った。
「まずは、その目障りな仮面を剥がしてやる!」
ガイウスの長剣が、雷のような速度でアウグストの顔面へと突き込まれた。だが、アウグストはそれを黒い魔力で形成した盾で防ぐ。
「老いぼれの隻腕が、調子に乗るな!」
魔力の盾が爆ぜ、ガイウスはその衝撃で数メートル後方まで吹き飛ばされた。
「ガイウス様!」
その背後から銀色の閃光が走る。リリアだ。彼女はガイウスが作った一瞬の隙を見逃さず、アウグストの死角へと回り込み、二本のショートソードを振るった。
だが、アウグストの体から伸びた数本の影の触手が、リリアの剣を絡め取る。
「獣ごときが、この私に触れられると思うな!」
触手はリリアの体に巻き付き、彼女を締め上げようとする。
「くっ……!」
リリアは苦悶の声を上げ、その場に動きを封じられてしまった。
戦況は絶望的だった。
幹部の一人であるアウグストの力は、ガイウスとリリア、二人の最強の戦士を以てしても、抑えきれないほど強大だったのだ。
「どうした、アッシュ公! お前は高みの見物を決め込むのか!」
アウグストは戦いの中心から少し離れた場所に立つアッシュを睨みつけ、嘲笑った。
「お前のその忌々しい目で、仲間たちが無様に死んでいく様を、とくと見物するがいい!」
アッシュは動かなかった。彼の赤い瞳は、目の前で繰り広げられる激闘ではなく、アウグストの体から溢れ出す負の魔力の流れだけを凝視していた。
(……おかしい。奴の力は強大だ。だが、その流れが不安定だ)
彼のスキル【感情経済】は、アウグストの魔力が彼の感情――「嫉妬」と「憎悪」――に直接連動していることを見抜いていた。感情が高ぶれば高ぶるほどその力は増大する。だが、それは同時に制御が難しくなるという、致命的な弱点も孕んでいた。
アッシュは通信用の魔道具で、氷の壁の向こうで奮闘するセレスティアに小声で指示を送った。
「セレスティア。聞こえるか。奴をもっと挑発しろ」
「なんですって!? 今でさえ抑えるのがやっとなのに!」
「いいからやれ。奴の心の最も醜い部分を抉るんだ。プライドを、嫉妬を、限界まで煽り立てろ」
セレスティアはアッシュの意図を完全には理解できなかった。だが、彼女はこの悪魔の知略に賭けることを選んだ。
彼女は防御魔法を維持しながら、声を張り上げた。
「哀れな男ね、アウグスト! あなたは結局誰にも認められなかった! その歪んだ嫉妬心で、自分より優れた者を貶めることしかできなかった、ただの負け犬よ!」
「な……! 黙れ、小娘!」
その言葉はアウグストの心の傷を的確に抉った。彼の魔力が怒りに反応して、さらに膨れ上がる。
セレスティアは言葉を止めない。
「あなたはアッシュに嫉妬している! 彼の若さに、才能に、そして人々を惹きつけるカリスマに! あなたにはないその全てに! だから彼を貶めようとした! 違うかしら!?」
「黙れ、黙れ、黙れぇぇぇっ!」
アウグストは理性の箍が外れたように絶叫した。彼の体から噴き出す黒いオーラは、もはや制御不能な嵐となって広間中を吹き荒れる。
「しまった!」
セレスティアは自らの挑発が逆に敵を強化してしまったことに気づき、顔を青ざめさせた。
だが、それこそがアッシュの狙いだった。
「今だ、リリア!」
アッシュの叫びが響く。
魔力の暴走によってアウグストの防御は一瞬、疎かになった。リリアを拘束していた影の触手が僅かに緩む。
その一瞬の隙をリリアは見逃さなかった。
彼女は獣のような叫びを上げると、自らの力で触手を引きちぎり、自由になった体で再びアウグストへと突進した。
「無駄だ!」
アウグストは暴走する魔力を巨大な津波のようにリリアへと叩きつけようとした。
だが、リリアの狙いはアウグスト本体ではなかった。
彼女が目標としていたのは彼の足元。大理石の床だった。
彼女は二本のショートソードを床の一点に渾身の力で突き立てた。
ゴッ、という鈍い音と共に、剣先が硬い大理石を貫通する。
次の瞬間。
リリアはその剣を支点にして、テコの原理を応用し、巨大な大理石の床板を一枚丸ごと跳ね上げたのだ。
「な……!?」
アウグストは足元から突然突き上げてきた巨大な石の塊に反応できなかった。
彼の体は無防備に宙へと打ち上げられる。
「もらった!」
その宙に浮いた的をガイウスが見逃すはずがなかった。
彼は吹き飛ばされた勢いを利用して広間の柱を蹴り、人間離れした跳躍を見せた。
「これが、帝国の獅子の牙だ!」
隻腕から繰り出される渾身の一撃。
それは彼の騎士としての誇りの全てを乗せた、雷鳴の如き剣閃だった。
ガイウスの長剣は、無防備なアウグストの胸の中心を鎧ごと正確に貫いた。
「が……はっ……」
アウグストの口から黒い血が溢れ出す。
彼の体から魔力の光が急速に失われていく。嫉妬の仮面はガラスのように砕け散り、その下から現れたのは、ただの驚愕と絶望に染まった老人の顔だった。
彼の体は糸が切れた人形のように、床へと墜落した。
激闘は終わった。
アッシュと彼の仲間たちの完璧な連携が生み出した、奇跡的な勝利だった。
広間には静寂が戻った。貴族たちはその圧倒的な戦いを、ただ呆然と見つめているだけだった。
アッシュは虫の息のアウグストの元へ静かに歩み寄った。
そして、その耳元で冷たく囁いた。
「……さて。聞かせてもらおうか。お前たちの、本当の計画を」
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