無能と蔑まれた悪役貴族、実は人の心を数値化できる最強の傀儡師でした ~感情を支配するスキルで、腐敗した帝国を裏から作り変えます~

夏見ナイ

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第八十四話:仮面の告発

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「私が『嫉妬の仮面』だ!」

司法卿アウグストが本性を現した瞬間、王宮の大広間はパニックに陥った。彼の体から噴き出す黒いオーラは物理的な圧力となって周囲の貴族たちを襲い、彼らは恐怖に叫びながら逃げ惑った。

「下賤の者どもが、騒ぐでないわ!」
嫉妬の仮面が浮かび上がったアウグストは、もはや理性を失っていた。彼の瞳は純粋な憎悪と破壊衝動に燃え、その手には負のエネルギーが集束してできた黒い雷の槍が形成されていく。
「まずは、最も目障りなあの小娘からだ!」

彼の最初の標的はセレスティアだった。嫉妬の化身にとって、彼女の才能と美貌、そして正義の輝きは何よりも許しがたい存在だったのだ。
黒い雷の槍が、轟音と共にセレスティア目掛けて放たれた。

だが、その一撃が彼女に届くことはなかった。
セレスティアの前に二つの影が立ちはだかった。一人は銀色の閃光。もう一人は不動の岩山。リリアとガイウスだった。
アッシュは、この事態を予測し二人に夜会の警護として広間の影に潜むよう命じていたのだ。

「させん!」
ガイウスはその巨体でセレスティアを庇うと、長剣を構えて黒い雷を受け止めた。凄まじい衝撃が広間を揺がし、大理石の床に深い亀裂が走る。ガイウスは数歩後退させられたが、その一撃を確かに防ぎきった。

その一瞬の隙をリリアは見逃さない。
彼女は床を蹴って、矢のようにアウグストへと突進した。その速さはもはや人の目では捉えられない。
「小賢しい獣めが!」
アウグストは迫り来るリリアに気づき、新たな雷を放とうとする。

だが、リリアの動きは彼の反応速度を上回っていた。
銀色の閃光が走り、アウグストの腕に深い切り傷が刻まれる。魔法の詠唱が中断され、彼は苦痛に顔を歪めた。
「ぐ……!」

「今よ!」
セレスティアの叫びが響く。彼女はガイウスに守られたことで体勢を立て直し、すでに次の魔法の詠唱を完了させていた。
「――聖なる光よ、邪悪を打ち払う鎖となれ!【ホーリー・バインド】!」

彼女の杖の先から無数の光の鎖が出現し、アウグストの四肢に絡みついた。それは負のエネルギーを持つ者に対して絶大な効果を発揮する拘束魔法だった。
「馬鹿な! この私が、このような光の魔術に……!」
アウグストは必死にもがくが、光の鎖は彼の体に食い込み、その動きを完全に封じ込めていく。

「見事な連携だったな」
混乱の中心に、アッシュが静かに歩み寄った。彼は逃げ惑う貴族たちを尻目に、まるで観劇でもしていたかのように落ち着き払っていた。
「さて、『嫉妬の仮面』殿。貴殿の悪あがきもそこまでのようだ」

アッシュは拘束されもがき苦しむアウグストの前に立つと、その仮面を冷たい目で見下ろした。
「一つ、聞かせてもらおうか。お前たちの本当の目的は何だ? 邪神の復活? 世界の破滅? そんなおとぎ話のために、これほどの茶番を演じたというのか?」

アウグストはアッシュを憎悪に満ちた目で見上げた。
「……貴様のような若造に、我らの大いなる目的が理解できるものか……」
彼は血反吐を吐きながらも、嘲笑うことをやめない。
「そうだ。我らはこの腐敗し停滞した世界を、一度『無』に還すのだ。邪神様の御力によってな! そして、その混沌の中から真に純粋な新たな世界が生まれるのだ!」

その言葉は狂信者のそれだった。彼らは本気で世界の破滅を望み、それを「救済」だと信じている。
「儀式はもう始まっている……」
アウグストは愉悦に声を震わせた。
「今夜、新月の刻。帝都の地下深くで最後の儀式が執り行われる。帝都中に溜め込まれた負の感情が、一斉に『祭壇』へと注がれ奈落への扉が開かれるのだ! もはや誰にも止められん!」

彼は自らの敗北を悟りながらも、組織全体の勝利を確信していた。
だが、その言葉を聞いたアッシュの口元に微かな笑みが浮かんだのを彼は見逃した。

「……そうか。ようやく喋ってくれたな」
アッシュは静かに言った。
「お前がその情報を喋るのを、ずっと待っていたんだ」

「……何?」
アウグストの顔に初めて困惑の色が浮かんだ。

「お前を捕らえるのが目的ではない。お前の口から『地下祭壇』の存在と、儀式が決行されるという『確証』を得ること。それこそが俺の本当の狙いだった」
アッシュはセレスティアとガイウスに目配せをした。
「この男の身柄は皇帝陛下と監察府に引き渡す。我々はこれから、この帝国の本当の病巣を叩きに行く」

アウグストは、その時初めて理解した。
アッシュは最初からこの夜会で全てを終わらせるつもりなどなかったのだ。この公開討論会は敵の幹部の一人を炙り出し、その口から最後の情報を引き出すための壮大な尋問劇に過ぎなかった。

「き、貴様……悪魔め……!」
アウグストの最後の叫びは、駆けつけた衛兵たちによって口を塞がれた。

アッシュはもはや抜け殻となった司法卿に背を向けると、集まった仲間たちに向き直った。
「時間はない。儀式が完了する前に地下祭壇を見つけ出し、破壊する。これより、我々は帝都の地下遺跡へと突入する!」

ガイウスが、リリアが、そしてセレスティアが力強く頷いた。
彼らの心は今、完全に一つになっていた。

王宮の大広間は一つの戦いの終わりと、最後の戦いの始まりを告げる運命の舞台となった。
帝国の、そして世界の運命を賭けた最終決戦の火蓋が今、切られようとしていた。アッシュたちは帝都の光の下から、その最も深い闇の中へとその歩みを進めていく。
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