異世界転生したので、文明レベルを21世紀まで引き上げてみた ~前世の膨大な知識を元手に、貧乏貴族から世界を変える“近代化の父”になります~

夏見ナイ

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第61話:帝国の陰謀

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王都とアシュフォード領を結ぶ電信の成功は、国王派に大きな衝撃と興奮をもたらした。
クラウス・フォン・ゲルラッハは自ら俺の屋敷を訪れ、その目で電信機の実演を確認すると、その氷のような仮面の奥で隠しきれない興奮を滲ませていた。
「……信じられん。これはもはや魔法だ。いや、魔法以上の奇跡だ」
彼はすぐにその戦略的価値を理解した。
「リオ殿、この技術を我が国の全ての主要拠点に張り巡らせることは可能か? 北方の国境要塞、東の港町、そして西の商業都市……。それらがこの『電信』で結ばれれば、我が王国はまるで一つの生命体のように、迅速かつ正確に機能するようになるだろう」
「可能です」と俺は答えた。「時間と莫大な資金さえあれば」
「資金は国王陛下が国庫から直接支出されるだろう。これは国家の最優先プロジェクトとなる。すぐに計画を立ててほしい」
クラウスは俺を見る目を完全に改めていた。もはや「有用な道具」ではない。彼は俺を、共に国を創り変えるための対等なパートナーとして認識し始めていた。
国王派との関係は、この電信の成功によって協力的なものへと大きく変化した。

だが、光が強ければ影もまた濃くなる。
俺たちの成功は、ある男の心の闇をさらに深く、どす黒いものへと変えていた。
マリウス公爵だ。
彼は俺が国王派と急速に接近していることに、強い危機感を覚えていた。このままでは自分たちの既得権益が、革新派の若造たちによって根こそぎ奪われてしまう。
彼はもはや国内の政治闘争だけで俺を潰すことは不可能だと悟った。
そして、彼は国家を揺るጋす禁断の一手に手を染める決断を下す。

その密会は月のない暗い夜、王都の裏路地にある寂れた酒場の個室で人知れず行われた。
マリウス公爵の前に座っていたのは、黒い外套で全身を覆い、その顔をフードの影に隠した一人の男だった。その男の体からは、尋常ではない血の匂いが立ち上っている。
ガルニア帝国の諜報機関『影』。その幹部の一人だった。
「……して、公爵閣下。我らにどのようなご用件かな?」
影の男の声は、まるで墓場の底から響いてくるかのように冷たく、感情がなかった。
マリウス公爵は緊張で乾いた喉を潤すように葡萄酒を呷ると、震える声で言った。
「……手を貸していただきたい。我が国にはびこる害虫を駆除するために」
「害虫、と申されると?」
「リオ・アシュフォードだ!」
公爵は憎々しげにその名を吐き捨てた。「あの小僧は得体の知れない技術で国王を誑かし、この国の古き良き秩序を内側から破壊しようとしている! あれは王国にとっての災いだ!」
影の男はフードの奥で静かに頷いた。
「その名、我らも聞き及んでおります。鉄の道を走る馬、瞬時に言葉を伝える蜘蛛の巣……。実に興味深い男ですな」
「そうだ! あの小僧の技術は危険すぎる! このまま放置すれば、いずれ貴国、ガルニア帝国にとっても大きな脅威となるはずだ! そうなる前に手を打つべきではないのか!」
公爵は必死に訴えかけた。それは自らの保身のために国を売る、紛れもない売国行為だった。
影の男はしばらく黙り込んでいた。
やがて彼は静かに口を開いた。
「……公爵閣下のご懸念、ごもっとも。我々も彼の存在を看過できぬものと考えておりました。よろしいでしょう。我ら『影』があなたに協力いたします」
その言葉に、マリウス公爵の顔がぱっと輝いた。
「おお、本当か!」
「ええ。ただし、我らもただ働きはできませぬ。見返りが必要ですな」
影の男はフードの奥で、蛇のように冷たい笑みを浮かべた。
「我らが閣下を支援し、あなたがた保守派がこの国の実権を握った暁には……。かのリオ・アシュフォードが生み出した全ての技術。それを我が帝国にそっくりそのまま譲渡していただきたい」
それは国の未来そのものを売り渡せという、悪魔の契約だった。
だが、権力欲に目が眩んだマリウス公爵に、もはやその理非を判断する力は残っていなかった。
「……よかろう! 約束しよう! あの小僧さえ消せるのなら、安いものだ!」
こうして、王国の老獪な権力者と帝国の暗き諜報機関との間に、血塗られた密約が交わされた。
影の男は続けた。
「我々はまず、あなた方に潤沢な資金と最新の武具を提供いたしましょう。それらを使い、あなた方保守派に与する地方の貴族たちに兵を挙げさせるのです」
「反乱を、起こせと?」
「ご安心を。大義名分はこちらで用意いたします。『国王の側にはびこる奸臣リオを討ち、王権を正す』。これで多くの貴族があなた方に味方するでしょう」
それは、かつてグライフ子爵が使ったのと全く同じ口実だった。
「そして、あなた方の反乱軍が王都に進軍し、国王軍と睨み合いになったその時。我が帝国の軍が『王国内の混乱を鎮圧する』という名目で、国境を越え王都へ向けて進軍いたします」
「なっ……! 帝国の軍が我が国の領土に……!?」
「あくまで支援のためです。反乱を鎮圧した後、実権を握ったあなた方が我々の駐留を認めれば、何の問題もない。そうでしょう?」
マリウス公爵はゴクリと喉を鳴らした。
それはもはや内乱の支援などではない。帝国の軍隊を無抵抗で国内に招き入れるという、国家の主権を放棄するに等しい売国計画そのものだった。
だが、彼はもはや後戻りはできなかった。
「……分かった。全て、お主らの計画通りに進めよう」
彼は魂を悪魔に売り渡したのだ。

その密会から数日後。
エリアーナの情報網が、王国各地で不穏な動きが活発化していることを捉え始めた。
保守派に属する地方貴族たちが密かに兵を集め、武具を買い揃えている。その資金源は不明。
商業ギルドの一部がマリウス公爵の指示で、王都への兵糧の流通を密かに絞り始めている。
それは、来るべき内乱に向けた静かな、しかし確実な準備だった。
「……きな臭くなってきたわね」
報告書を読みながら、エリアーナは呟いた。「マリウス公爵、私たちの想像以上に追い詰められているようね。何か、とんでもないことを仕掛けてくるかもしれないわ」
俺もまた、胸騒ぎを覚えていた。
この一連の動きはただの国内の権力争いにしては、あまりにも手際が良すぎる。
まるで背後で誰か巨大な存在が糸を引いているかのような。
その正体が北の帝国であるということを、俺たちはまだ知らない。
だが、俺たちの足元で王国を二分する巨大な戦乱のマグマが、静かに、しかし確実にその熱量を増していることだけは肌で感じていた。
平和な開発の日々は、終わりを告げようとしていた。
俺たちは再び、戦いの渦の中へと否応なく引きずり込まれようとしていたのだ。
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