異世界転生したので、文明レベルを21世紀まで引き上げてみた ~前世の膨大な知識を元手に、貧乏貴族から世界を変える“近代化の父”になります~

夏見ナイ

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第68話:最後の電文

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王都が反乱軍に包囲されてから四日目の深夜。
絶望が支配する街の片隅で、俺たちの最後の希望が静かに紡がれていた。
アシュフォードの屋敷の最上階、普段は物置として使われている窓のない小さな部屋。そこに俺とエリアーナ、そしてシルフィの三人は息を殺して集まっていた。
部屋の中央には一台の電信機が置かれている。だがその電信機は、他のどの電信機とも違っていた。
その銅線は屋敷の壁を伝い地下へと潜り、そして王都の広大な下水道網の中を人知れず這うようにして伸びている。そして包囲網のはるか西、敵の警戒網の外にある森の中の秘密の中継点へと繋がっていた。
それはこの包囲網を突破するために、俺たちが事前に敷設しておいた秘密の通信ルートだった。
「……リオ、本当にこれでアシュフォードまで届くの?」
エリアーナが不安げな声で囁いた。
「ああ。途中にシルフィのマナで動く小型の増幅器をいくつか仕込んである。信号は必ず届くはずだ」
この電信線こそが、シルフィの魔導科学と俺の電気学が融合した最初の結晶だった。
俺は電鍵(キー)に指を置くと、静かに息を吸い込んだ。
これから送るメッセージはあまりにも短く、そしてこの戦争の全てを凝縮した究極の命令だった。
俺は訓練通りに正確にキーを叩いていく。
ツーツー、トン。
トン、ツーツー、ツーツー。
トン、トン、トン、トン。
……
それはアシュフォード領で待機している俺の忠実な部下たちだけに意味が分かる、暗号化された電文だった。
『計画ヲ実行セヨ』
ただ、それだけ。
送信を終えると、俺は深い安堵のため息をついた。
矢は放たれた。
あとは二百キロ離れた故郷で俺の仲間たちがこのメッセージを受け取り、行動を起こしてくれるのを信じて待つだけだ。

その頃、王都から遠く離れたアシュフォード領。
領都の駅に隣接して建てられた電信管理室には、夜だというのに煌々と明かりが灯っていた。
若い技術者たちが交代で、王都からの微弱な信号に片時も耳を離さずに聞き入っていた。
その、時だった。
カタ、カタカタン……
受信機が静寂を破り、かすかな、しかし確かな信号音を刻み始めた。
「……来た!」
待機していた主任技術者が叫んだ。
彼は震える手でその信号を羊皮紙に書き取っていく。そして暗号表と照らし合わせ、その短いメッセージの意味を解読した。
彼の顔が緊張と興奮で引き締まる。
彼は羊皮紙を握りしめると管理室を飛び出し、隣の駅のプラットホームへと駆け込んだ。
そこには二編成の長大な列車が、まるで眠れる鉄の竜のように静かに出発の時を待っていた。
先頭に立つのは改良に改良を重ねられた最新鋭の蒸気機関車『プロメテウス』の三号機と四号機。その後ろには装甲板で補強された貨車が何十両も連結されている。
貨車の中にはバルガスが鍛え上げた、新型の後装式ライフルで武装した三百名の精鋭兵士たちが息を殺して待機していた。
そして最後尾の特別に補強された貨車には、巨大な防水シートで覆われた二つの巨大な塊が静かに鎮座していた。
新型の後装式カノン砲。
「伝令! リオ様より入電! 『計画ヲ実行セヨ』とのことにございます!」
その声がプラットホームに響き渡った。
その瞬間、眠っていた鉄の竜が目を覚ました。
機関士たちが一斉に火室に石炭をくべる。ボイラーの圧力がみるみるうちに上昇していく。
ポオオオオオオオオッ!
二台の機関車が夜空を引き裂くように同時に汽笛を鳴らした。
アシュフォードに残っていた全ての領民がその音を聞いた。彼らはそれが何を意味するのかを知っていた。
自分たちの英雄が王都で戦っている。そして自分たちの夫や息子たちが、今、その英雄を助けるために旅立つのだと。
家々の窓に次々と明かりが灯り、人々は駅へと駆けつけてきた。
ガタン、ゴトン……!
二編成の鉄の軍馬がゆっくりと動き出す。
プラットホームを埋め尽くした領民たちは、その列車に向かって力の限りの声援を送った。
「行けーっ!」
「リオ様を、お助けしろ!」
「アシュフォードに栄光あれ!」
その声援を背に受け、二頭の鉄竜は徐々に速度を上げていく。そして夜の闇の中へと一直線に続く鉄路の上を、猛然と突き進んでいった。
その目的地はただ一つ。
反乱軍に包囲された王都。
二百キロの距離を彼らはたった一日で駆け抜けるだろう。

そして王都ではもう一つの静かな戦いが始まっていた。
クラウスの執務室の電信機が、俺からのメッセージを受信した。
『援軍、明朝到着予定。東門ヨリ突入ス。呼応シ、城内ノ内通者ヲ一斉ニ検挙サレタシ』
クラウスはその電文を読むと静かに頷いた。
彼はこの日のために、密かに信頼できる部下だけを集め特別部隊を編成していた。
「……時は来たか」
彼は執務室の窓から闇に沈む王都を見下ろした。
マリウス公爵の屋敷。ヴァイス伯爵の屋敷。そして彼らに内通している貴族や役人たちのリストが、彼の頭の中には完璧にインプットされていた。
「今宵、この王都の大掃除を始める」
彼の氷のような瞳の奥で、冷徹な炎が静かに燃え上がった。

俺は屋敷の屋上から東の空をただじっと見つめていた。
エリアーナが俺の隣にそっと寄り添う。
「……信じてるわ。彼らは必ず来てくれる」
「ああ」
俺は短く答えた。「俺の仲間たちは世界で一番優秀だからな」
夜の闇は深い。
だがその闇の向こうで、新しい時代の夜明けが今、猛烈なスピードでこちらへ向かってきているのを俺は確かに感じていた。
それは鉄の咆哮と蒸気の息吹を伴った、希望の光。
反撃の狼煙はもう上がっている。
あとはこの王都がその光を迎える準備を整えるだけだった。
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