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第70話:鉄路の援軍
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グラウ平原に突如として出現した鉄路の援軍は、反乱軍の兵士たちを極度の混乱に陥れた。
だがその中核をなす傭兵団『鉄の爪』や歴戦の兵士たちは、すぐに我に返った。
「怯むな! 敵はたったの三百だ!」
「囲んでしまえ! 囲んで叩き潰せ!」
指揮官たちの怒声が飛び交う。
数で圧倒すれば、いかに奇襲であろうと押し潰せる。それが彼らの軍事常識だった。
反乱軍の歩兵たちが波のように、鉄道の線路際に展開したアシュフォード軍へと殺到していく。
その光景を王都の城壁の上から見ていた国王軍の兵士たちは、絶望的な気持ちで呟いた。
「……無茶だ。いくら精鋭でも、あの数では……」
「飲み込まれてしまうぞ……」
誰もがアシュフォードの援軍の無謀な勇気を称え、そしてその玉砕を覚悟した。
だが次の瞬間。
戦場の全ての者が耳を疑うような音を聞くことになる。
タタタタタタタタッ!
それはまるで豪雨が鉄の屋根を叩くような、これまで誰も聞いたことのない乾いた連続音だった。
アシュフォード軍の兵士たちが構えた新型の後装式ライフルが、一斉に火を噴いたのだ。
マスケット銃のように一発撃つごとに長い時間をかけて弾を込めるのではない。ボルトを操作するだけで次弾が装填され、立て続けに発射される。
その連射速度は旧式の銃の三倍以上。
そしてライフリングによって生み出される弾丸の精度と射程は、もはや比較にすらならなかった。
殺到してくる反乱軍の兵士たちが最前列から、まるで薙ぎ払われるように次々と倒れていく。
「ぐあっ!」
「な、なんだ、この速さは!?」
「魔法か!? 悪魔の呪いか!?」
彼らは敵の姿にたどり着くことすらできずに、見えない壁に阻まれているかのように血飛沫を上げて崩れ落ちていく。
それはもはや戦いではなかった。
一方的な射撃演習。
アシュフォード軍の兵士たちは訓練通り、三列の横隊を組んでいた。
最前列が撃ち終えると彼らは素早く膝をついて次弾を装填する。その間に二列目が発砲。二列目が装填に入ると三列目が発砲。そして三列目が装填する頃には、最前列の装填が終わっている。
途切れることのない弾丸の壁。
鉄の嵐。
反乱軍の兵士たちはその圧倒的な火力の前に、なすすべもなかった。彼らの持つ旧式のマスケット銃ではアシュフォード軍の射程に届く前に蜂の巣にされてしまう。
勇敢に突撃しようとした者も、無謀に矢を放とうとした者も、全てがその鉄の嵐の前に等しく無力だった。
「……信じられん」
王都の城壁の上でクラウスが呆然と呟いた。「あれがリオ殿の言っていた新しい軍隊か……」
それは騎士の勇猛さや個人の武勇が支配していた、古い時代の戦争の完全な終わりを告げる光景だった。
規律と火力。
システム化された暴力が旧時代の全てを、冷徹に、そして無慈悲に蹂躙していく。
「退け! 一旦退け! 距離を取れ!」
反乱軍の指揮官たちはようやく敵の異常さを悟り、必死に後退を命じた。
だが俺が彼らに態勢を立て直す時間を与えるはずもなかった。
俺は城壁の上の司令部から、アシュフォードの部隊長に向けて電信で次の命令を送った。
『カノン砲、準備。目標、敵本陣。観測班、報告ヲ待ツ』
鉄道の線路際にはすでに二門の新型後装式カノン砲が、その黒い砲身を反乱軍の本陣に向けていた。
そして平原を見渡せるいくつかの丘の上には俺が事前に潜ませておいた観測班が、息を殺して潜んでいる。彼らの手には双眼鏡と携帯用の小型電信機が握られていた。
『観測班ヨリ入電。敵本陣、距離三千。方位角……』
リアルタイムで正確な照準データが砲兵部隊へと送られてくる。
砲手たちはそのデータに基づき、巨大なカノン砲の角度と方位を冷静に調整していく。
その様子を後方から見ていたマリウス公爵は鼻で笑った。
「フン、大砲か。あのような距離から当たるものか。威嚇のつもりだろうが滑稽なことよ」
彼の軍事常識では三キロメートルも離れた場所からの砲撃など、ただの運任せの脅しでしかなかった。
「撃て!」
砲兵指揮官の号令が響き渡った。
ズドオオオオオオオンッ!
二門のカノン砲が大地を揺るがすほどの轟音と共に火を噴いた。
発射された榴弾は空気を切り裂く鋭い音を立てながら、高い弾道を描いて空の彼方へと消えていく。
数秒後。
マリウス公爵たちがいる本陣の、わずか百メートルほど手前の地面で巨大な土煙が上がった。
ドッゴオオオオオンッ!
着弾と同時に榴弾が爆発し、灼熱の破片と衝撃波を周囲に撒き散らした。
「ひっ……!?」
公爵たちはその予想外の着弾距離と爆発の威力に度肝を抜かれた。
「ま、まぐれだ! まぐれ当たりに決まっておる!」
だがその言葉はすぐに絶叫に変わる。
丘の上の観測班から即座に修正データが送られてきていたのだ。
『着弾、目標ヨリ手前百! 仰角修正!』
砲兵たちは寸分の狂いなく砲身の角度を微調整する。
そして二射目が放たれた。
今度の着弾点はマリウス公爵がいる豪華な天幕のすぐ真横だった。
ドッガアアアアアアアアアンッ!!
凄まじい爆発音が鼓膜を突き破る。
天幕は爆風で跡形もなく吹き飛ばされ、近くにいた側近や護衛の兵士たちが破片を浴びて血塗れで倒れていく。
マリウス公爵自身も爆風で地面に叩きつけられ、何が起きたのか理解できないまま耳鳴りと衝撃でただ呆然とするだけだった。
神の視点からの砲撃。
見えない敵からの百発百中の死の宣告。
反乱軍の指揮系統の中枢は敵の姿を一度も見ることなく、たった二発の砲弾によって完全に破壊されたのだ。
それは彼らの心を折るのに十分すぎる一撃だった。
「……悪魔だ」
誰かが震える声で呟いた。
「我々は悪魔と戦っているのだ」
その言葉が反乱軍全体の戦意を完全に粉砕した。
鉄路の援軍はもはやただの援軍ではなかった。
それはこの国の歴史を、そして戦争のあり方そのものを永遠に変えてしまう、未来からの使者だったのだ。
だがその中核をなす傭兵団『鉄の爪』や歴戦の兵士たちは、すぐに我に返った。
「怯むな! 敵はたったの三百だ!」
「囲んでしまえ! 囲んで叩き潰せ!」
指揮官たちの怒声が飛び交う。
数で圧倒すれば、いかに奇襲であろうと押し潰せる。それが彼らの軍事常識だった。
反乱軍の歩兵たちが波のように、鉄道の線路際に展開したアシュフォード軍へと殺到していく。
その光景を王都の城壁の上から見ていた国王軍の兵士たちは、絶望的な気持ちで呟いた。
「……無茶だ。いくら精鋭でも、あの数では……」
「飲み込まれてしまうぞ……」
誰もがアシュフォードの援軍の無謀な勇気を称え、そしてその玉砕を覚悟した。
だが次の瞬間。
戦場の全ての者が耳を疑うような音を聞くことになる。
タタタタタタタタッ!
それはまるで豪雨が鉄の屋根を叩くような、これまで誰も聞いたことのない乾いた連続音だった。
アシュフォード軍の兵士たちが構えた新型の後装式ライフルが、一斉に火を噴いたのだ。
マスケット銃のように一発撃つごとに長い時間をかけて弾を込めるのではない。ボルトを操作するだけで次弾が装填され、立て続けに発射される。
その連射速度は旧式の銃の三倍以上。
そしてライフリングによって生み出される弾丸の精度と射程は、もはや比較にすらならなかった。
殺到してくる反乱軍の兵士たちが最前列から、まるで薙ぎ払われるように次々と倒れていく。
「ぐあっ!」
「な、なんだ、この速さは!?」
「魔法か!? 悪魔の呪いか!?」
彼らは敵の姿にたどり着くことすらできずに、見えない壁に阻まれているかのように血飛沫を上げて崩れ落ちていく。
それはもはや戦いではなかった。
一方的な射撃演習。
アシュフォード軍の兵士たちは訓練通り、三列の横隊を組んでいた。
最前列が撃ち終えると彼らは素早く膝をついて次弾を装填する。その間に二列目が発砲。二列目が装填に入ると三列目が発砲。そして三列目が装填する頃には、最前列の装填が終わっている。
途切れることのない弾丸の壁。
鉄の嵐。
反乱軍の兵士たちはその圧倒的な火力の前に、なすすべもなかった。彼らの持つ旧式のマスケット銃ではアシュフォード軍の射程に届く前に蜂の巣にされてしまう。
勇敢に突撃しようとした者も、無謀に矢を放とうとした者も、全てがその鉄の嵐の前に等しく無力だった。
「……信じられん」
王都の城壁の上でクラウスが呆然と呟いた。「あれがリオ殿の言っていた新しい軍隊か……」
それは騎士の勇猛さや個人の武勇が支配していた、古い時代の戦争の完全な終わりを告げる光景だった。
規律と火力。
システム化された暴力が旧時代の全てを、冷徹に、そして無慈悲に蹂躙していく。
「退け! 一旦退け! 距離を取れ!」
反乱軍の指揮官たちはようやく敵の異常さを悟り、必死に後退を命じた。
だが俺が彼らに態勢を立て直す時間を与えるはずもなかった。
俺は城壁の上の司令部から、アシュフォードの部隊長に向けて電信で次の命令を送った。
『カノン砲、準備。目標、敵本陣。観測班、報告ヲ待ツ』
鉄道の線路際にはすでに二門の新型後装式カノン砲が、その黒い砲身を反乱軍の本陣に向けていた。
そして平原を見渡せるいくつかの丘の上には俺が事前に潜ませておいた観測班が、息を殺して潜んでいる。彼らの手には双眼鏡と携帯用の小型電信機が握られていた。
『観測班ヨリ入電。敵本陣、距離三千。方位角……』
リアルタイムで正確な照準データが砲兵部隊へと送られてくる。
砲手たちはそのデータに基づき、巨大なカノン砲の角度と方位を冷静に調整していく。
その様子を後方から見ていたマリウス公爵は鼻で笑った。
「フン、大砲か。あのような距離から当たるものか。威嚇のつもりだろうが滑稽なことよ」
彼の軍事常識では三キロメートルも離れた場所からの砲撃など、ただの運任せの脅しでしかなかった。
「撃て!」
砲兵指揮官の号令が響き渡った。
ズドオオオオオオオンッ!
二門のカノン砲が大地を揺るがすほどの轟音と共に火を噴いた。
発射された榴弾は空気を切り裂く鋭い音を立てながら、高い弾道を描いて空の彼方へと消えていく。
数秒後。
マリウス公爵たちがいる本陣の、わずか百メートルほど手前の地面で巨大な土煙が上がった。
ドッゴオオオオオンッ!
着弾と同時に榴弾が爆発し、灼熱の破片と衝撃波を周囲に撒き散らした。
「ひっ……!?」
公爵たちはその予想外の着弾距離と爆発の威力に度肝を抜かれた。
「ま、まぐれだ! まぐれ当たりに決まっておる!」
だがその言葉はすぐに絶叫に変わる。
丘の上の観測班から即座に修正データが送られてきていたのだ。
『着弾、目標ヨリ手前百! 仰角修正!』
砲兵たちは寸分の狂いなく砲身の角度を微調整する。
そして二射目が放たれた。
今度の着弾点はマリウス公爵がいる豪華な天幕のすぐ真横だった。
ドッガアアアアアアアアアンッ!!
凄まじい爆発音が鼓膜を突き破る。
天幕は爆風で跡形もなく吹き飛ばされ、近くにいた側近や護衛の兵士たちが破片を浴びて血塗れで倒れていく。
マリウス公爵自身も爆風で地面に叩きつけられ、何が起きたのか理解できないまま耳鳴りと衝撃でただ呆然とするだけだった。
神の視点からの砲撃。
見えない敵からの百発百中の死の宣告。
反乱軍の指揮系統の中枢は敵の姿を一度も見ることなく、たった二発の砲弾によって完全に破壊されたのだ。
それは彼らの心を折るのに十分すぎる一撃だった。
「……悪魔だ」
誰かが震える声で呟いた。
「我々は悪魔と戦っているのだ」
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