異世界転生したので、文明レベルを21世紀まで引き上げてみた ~前世の膨大な知識を元手に、貧乏貴族から世界を変える“近代化の父”になります~

夏見ナイ

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第73話:内乱終結

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グラウ平原での決戦から数日後、王都は祝勝ムード一色に染まっていた。
反乱軍の主だった将校たちは捕らえられ、兵士たちの武装解除も順調に進んでいた。王国の歴史に残る最大の内乱は、驚くほどあっけなく、そして完全に鎮圧されたのだ。
そして全ての国民が見守る中、今回の内乱の首謀者たちに対する公開裁判が開かれることになった。
場所は王城前の広場に設けられた特設の法廷。
裁かれるのはマリウス公爵、ヴァイス伯爵を始めとする反乱に加担した十数名の貴族たちだ。
彼らは鎖に繋がれ、みすぼらしい囚人服を着せられて民衆の前に引きずり出された。かつての威厳ある姿は見る影もない。
広場を埋め尽くした市民たちは、国を裏切った彼らに容赦ない罵声を浴びせた。
「国賊め!」
「俺たちの平和を壊しやがって!」
その罵声の中には、これまで彼らに虐げられてきた平民たちの積年の恨みが込められていた。

裁判は国王アルベール三世が自ら裁定を下すという異例の形式で進められた。
クラウス・フォン・ゲルラッハが検事役となり、マリウス公爵たちの罪状を冷静に、しかし厳しく糾弾していく。
「……被告マリウス・フォン・アインベルクは自己の権力欲のために地方貴族を扇動し、王国に対し反乱を起こした。これ、まぎれもない国家反逆罪である!」
「それだけではございません」とクラウスは続けた。「我々の調査により、被告らが敵国であるガルニア帝国と密約を結び、資金と武具の援助を受けていたという動かぬ証拠を掴んでおります!」
その言葉に広場は大きくどよめいた。
内乱を起こしただけでなく敵国と通じていた。それは万死に値する最悪の裏切り行為だった。
マリウス公爵はもはや全ての弁明を諦めたのか、死人のように蒼白な顔でただ俯いている。
だがヴァイス伯爵だけは見苦しく叫び続けた。
「ち、違う! 私は騙されていたのだ! 全てはマリウス公爵が一人で企んだこと! 私には何の罪もない!」
その見え透いた嘘と往生際の悪さに、民衆からの嘲笑が浴びせられる。
エリアーナはその光景を貴族席から冷たい目で見つめていた。彼女の父親だった男のあまりにも惨めな末路。だがその瞳に同情の色はひとかけらもなかった。
それは彼が自分で選んだ道の結果だった。

やがて国王アルベール三世が玉座から静かに立ち上がった。
広場の喧騒が嘘のように静まり返る。
国王は威厳に満ちた声で裁定を言い渡した。
「首謀者、マリウス・フォン・アインベルク、並びにそれに積極的に加担した貴族たちを、国家反逆罪により死罪とする! その爵位、領地、財産の全てを没収し、王家のものとする!」
「おお……!」
民衆から歓声が上がった。
「ただし」と国王は続けた。「ヴァイス伯爵オーギュスト、そなたはマリウス公爵に唆されたに過ぎず、その罪は一段軽いものと認める。よって死罪は免じ、爵位と領地の一部を残し、終生、自領での蟄居を命ずる」
それはヴァイス家が王家に多額の献金をしていたこと、そして何より娘であるエリアーナが今回、結果的に国王側に多大な貢献をしたことを考慮した政治的な温情判決だった。
ヴァイス伯爵は命だけは助かったことに安堵し、その場にへたり込んだ。だが彼の貴族としての人生は事実上、終わったも同然だった。

そして国王は今回の内乱のもう一人の重要人物に視線を向けた。
俺、リオ・アシュフォードだ。
俺は貴族席の最前列で静かにその裁きを見届けていた。
「リオ・アシュフォードよ、前へ」
国王の声に促され、俺は広場の中央へと進み出た。
国王は玉座を降り、俺の目の前に立つとその両肩に力強く手を置いた。
「そなたの救国の働き、まことに見事であった。そなたがいなければこの王国は今頃、内乱と異国の侵略によって分断されていただろう。この国に住まう全ての民を代表し、余から心より礼を言う」
国王自らが臣下の肩に手を置き直接礼を言う。それは前代未聞の最大限の名誉だった。
「よって余はそなたに、この国難を救った最大の功労者として相応の報奨を与えることをここに宣言する!」
国王は高らかにその報奨の内容を告げた。
「リオ・アシュフォードに公爵の爵位を授ける! そして没収したマリウス公爵の旧領地の全てを、そなたの新たな領地として与えるものとする!」
「「「なっ……!!」」」
その場にいた全ての人間が自分の耳を疑った。
辺境貴族の三男坊がいきなり公爵へ。
それは建国以来の歴史を覆す、ありえないほどの大出世だった。
俺自身もそのあまりにも破格すぎる報奨に驚きを隠せなかった。
これはもはやただの褒美ではない。
国王による明確な政治的メッセージだ。
『リオ・アシュフォードは私の右腕である。彼に逆らうことは、この私に逆らうことと同義であると知れ』
俺は国王のその意図を即座に理解した。
これは俺を王国の英雄として祭り上げ、その力を完全に国王派の枠組みの中に取り込もうとする巧妙な一手なのだ。
断ることはできない。
断ればそれは国王の厚意を無にする不敬と見なされる。
俺は静かにその運命を受け入れるしかなかった。
俺は深く膝をついた。
「……その御心、謹んでお受けいたします。陛下」
その瞬間、広場は割れんばかりの熱狂的な歓声に包まれた。
『リオ公爵、万歳!』
『救国の英雄、ここに誕生!』
民衆は歴史が動くその瞬間を、熱狂と共にその目に焼き付けていた。

こうして王国の最大の内乱は旧時代の権力者の没落と、新しい時代の英雄の誕生という劇的な形で完全に終結した。
だが俺の心は晴れやかではなかった。
公爵というあまりにも重すぎる地位。
国王からの無言の圧力。
そして北の帝国という、まだ何も解決していない最大の脅威。
俺たちの戦いはまだ何も終わっていなかったのだ。
俺は降り注ぐ歓声と賞賛の嵐の中で、静かに次の戦いが始まるであろう北の空を見つめていた。
内乱は終わった。
だがそれは、これから始まるであろう国家間のより大きく、より熾烈な戦いの序章に過ぎなかったのかもしれない。
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