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第74話:公爵叙任
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内乱の終結を祝う盛大な祝賀会が王城の大広間で開かれた。
きらびやかなシャンデリアが輝き、楽団が優雅な音楽を奏でる中、着飾った貴族たちが勝利の美酒に酔いしれていた。
その宴の中心にいたのは間違いなく俺だった。
『リオ・アシュフォード公爵』。
昨日までの辺境貴族の三男坊という立場からは信じられないほどの新しい称号。その響きはまだ俺自身の実感とはかけ離れたものだった。
貴族たちは手のひらを返したように俺の周りに群がってきた。
「これはこれは、リオ公爵閣下! この度のご活躍、誠に見事でありました!」
「我が娘をぜひ閣下にご紹介したく……」
「今度、我らが派閥の会合にもぜひお顔をお出しいただきたい!」
彼らの顔には媚びへつらうような笑みと、俺という新しい権力者に何とかして取り入ろうとするあからさまな下心が浮かんでいた。
俺はそんな彼らの追従を愛想笑いでかわしながら、内心ではうんざりしていた。
これが権力というものか。
面倒くさいこと、この上ない。
そんな俺を喧騒から救い出してくれたのはクラウスだった。
彼はいつものように感情の読めない顔で俺のそばに来ると、低い声で言った。
「……少しよろしいですかな、公爵閣下」
その『公爵閣下』という呼び方に、俺は思わず顔をしかめた。
「やめてくれ、クラウス。俺たちは共に死線を越えた仲じゃないか。前のようにリオ殿と呼んでくれ」
俺の言葉にクラウスはわずかに、本当にごくわずかに口元を緩めたように見えた。
「……失礼。ではリオ殿。陛下があなたと個人的にお話がしたいと、お待ちです」
俺はエリアーナとバルガスに目配せをすると、クラウスに導かれて宴の喧騒を離れ、王城の奥にある国王の私室へと向かった。
国王アルベール三世の私室は謁見の間のような華やかさはないが、上質な調度品で整えられた落ち着いた空間だった。
国王は鎧を脱ぎ、ラフな常服姿で暖炉の前の椅子に腰掛けていた。
「来たか、リオ公爵。いや、リオと呼んだ方が良いかな」
その表情は国王としてのものではなく、一人の人間としての穏やかなものだった。
俺が臣下の礼を取ろうとすると、彼はそれを手で制した。
「よい。ここでは堅苦しい挨拶は抜きだ。楽にして座りなさい」
俺は促されるままに、国王の向かいのソファに腰を下ろした。クラウスは俺の背後に影のように控えている。
国王は暖炉の炎を見つめながら静かに語り始めた。
「……改めて、礼を言う。そなたのおかげでこの国は救われた。そして長年の懸案であったマリウス公爵という古い時代の亡霊を、一掃することもできた」
その声には深い感謝と、そして安堵の色が滲んでいた。
「だが」と彼は続けた。「問題はこれからだ。今回の内乱で我が国は大きな傷を負った。そしてその背後で糸を引いていた北のガルニア帝国という脅威は、何一つ変わってはいない」
国王は厳しい顔つきで俺に向き直った。
「リオよ。そなたに公爵という破格の地位を与えたのには理由がある。それはそなたにこの国の未来を正式に託すためだ」
「……と、申されますと?」
「そなたに我が国の『近代化』の全権を委ねたい」
国王の言葉に俺は息をのんだ。
「そなたの持つ新しい知識と技術。それを、もはやアシュフォードという一領地のためだけではなく、この王国全体の未来のために使ってほしいのだ。鉄道網を全国に広げ、電信で国を結び、そなたの言う『学術院』で新しい時代を担う人材を育てる。そして何より帝国の脅威に対抗するための新しい軍隊を、そなたの手で作り上げてほしい」
それは事実上、王国の全権代理人に近い権限を俺に与えるという驚くべき提案だった。
「もちろん、そなた一人に全てを背負わせるつもりはない」
国王はクラウスに視線を向けた。「クラウス、そなたはリオの右腕となり、政治と行政の面で彼を全面的に補佐せよ。二人の力を合わせればこの国は必ずや生まれ変わることができるはずだ」
「御意」
クラウスは静かに、しかし力強く頭を下げた。
国王からのあまりにも重すぎる、しかし、これ以上ないほどに名誉ある勅命。
俺の脳裏にこれまでの戦いの日々が走馬灯のように駆け巡った。
ただ快適に暮らしたかっただけだった。
だが妹を守るために立ち上がり、領民を守るために戦い、そして今、この国全体の未来をその両肩に背負うことになった。
もう後戻りはできない。
俺の進む道はただ一つ。
俺は静かに国王の目を見つめ返した。
「……その大役、このリオ・アシュフォード、謹んでお受けいたします」
その言葉はもはや辺境貴族の三男坊のものではなかった。
新しく生まれた『リオ公爵』としての最初の、そして最も重い誓いの言葉だった。
宴の喧騒に戻ると、エリアーナが少し心配そうな顔で俺を迎えてくれた。
「……陛下と、何を話していたの?」
俺は彼女に国王とのやり取りをありのままに話した。
俺がこの国の『近代化』の全権を任されることになった、と。
それを聞いた彼女は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにいつもの不敵な笑みを浮かべた。
「……そう。つまり、あなたはこの国の事実上のナンバーツーになったというわけね。面白くなってきたじゃない」
その瞳には不安よりも、これから始まるであろう壮大な国家改造計画への強い期待と興奮が宿っていた。
「これでようやく、私たちの本当の仕事が始められるわね、リオ。邪魔者もいなくなったことだし」
「ああ、そうだな」
俺も彼女に応えるように笑った。
バルガスもシルフィも俺の周りに集まってきた。
彼らは俺が新しい地位を得たことを心から祝福してくれた。
俺は信頼できる仲間たちの顔を見渡した。
一人ではない。
この仲間たちがいれば、どんな困難な道であろうと進んでいける。
その夜、俺は人々から畏敬と、そして少しの恐怖を込めてこう呼ばれるようになった。
『近代化の父』と。
それはこれから始まる長く、そして険しい国家改造という名の新しい戦いの始まりを告げる称号だった。
俺たちの革命は今、個人の戦いから国家の戦いへとそのステージを大きく上げたのだ。
きらびやかなシャンデリアが輝き、楽団が優雅な音楽を奏でる中、着飾った貴族たちが勝利の美酒に酔いしれていた。
その宴の中心にいたのは間違いなく俺だった。
『リオ・アシュフォード公爵』。
昨日までの辺境貴族の三男坊という立場からは信じられないほどの新しい称号。その響きはまだ俺自身の実感とはかけ離れたものだった。
貴族たちは手のひらを返したように俺の周りに群がってきた。
「これはこれは、リオ公爵閣下! この度のご活躍、誠に見事でありました!」
「我が娘をぜひ閣下にご紹介したく……」
「今度、我らが派閥の会合にもぜひお顔をお出しいただきたい!」
彼らの顔には媚びへつらうような笑みと、俺という新しい権力者に何とかして取り入ろうとするあからさまな下心が浮かんでいた。
俺はそんな彼らの追従を愛想笑いでかわしながら、内心ではうんざりしていた。
これが権力というものか。
面倒くさいこと、この上ない。
そんな俺を喧騒から救い出してくれたのはクラウスだった。
彼はいつものように感情の読めない顔で俺のそばに来ると、低い声で言った。
「……少しよろしいですかな、公爵閣下」
その『公爵閣下』という呼び方に、俺は思わず顔をしかめた。
「やめてくれ、クラウス。俺たちは共に死線を越えた仲じゃないか。前のようにリオ殿と呼んでくれ」
俺の言葉にクラウスはわずかに、本当にごくわずかに口元を緩めたように見えた。
「……失礼。ではリオ殿。陛下があなたと個人的にお話がしたいと、お待ちです」
俺はエリアーナとバルガスに目配せをすると、クラウスに導かれて宴の喧騒を離れ、王城の奥にある国王の私室へと向かった。
国王アルベール三世の私室は謁見の間のような華やかさはないが、上質な調度品で整えられた落ち着いた空間だった。
国王は鎧を脱ぎ、ラフな常服姿で暖炉の前の椅子に腰掛けていた。
「来たか、リオ公爵。いや、リオと呼んだ方が良いかな」
その表情は国王としてのものではなく、一人の人間としての穏やかなものだった。
俺が臣下の礼を取ろうとすると、彼はそれを手で制した。
「よい。ここでは堅苦しい挨拶は抜きだ。楽にして座りなさい」
俺は促されるままに、国王の向かいのソファに腰を下ろした。クラウスは俺の背後に影のように控えている。
国王は暖炉の炎を見つめながら静かに語り始めた。
「……改めて、礼を言う。そなたのおかげでこの国は救われた。そして長年の懸案であったマリウス公爵という古い時代の亡霊を、一掃することもできた」
その声には深い感謝と、そして安堵の色が滲んでいた。
「だが」と彼は続けた。「問題はこれからだ。今回の内乱で我が国は大きな傷を負った。そしてその背後で糸を引いていた北のガルニア帝国という脅威は、何一つ変わってはいない」
国王は厳しい顔つきで俺に向き直った。
「リオよ。そなたに公爵という破格の地位を与えたのには理由がある。それはそなたにこの国の未来を正式に託すためだ」
「……と、申されますと?」
「そなたに我が国の『近代化』の全権を委ねたい」
国王の言葉に俺は息をのんだ。
「そなたの持つ新しい知識と技術。それを、もはやアシュフォードという一領地のためだけではなく、この王国全体の未来のために使ってほしいのだ。鉄道網を全国に広げ、電信で国を結び、そなたの言う『学術院』で新しい時代を担う人材を育てる。そして何より帝国の脅威に対抗するための新しい軍隊を、そなたの手で作り上げてほしい」
それは事実上、王国の全権代理人に近い権限を俺に与えるという驚くべき提案だった。
「もちろん、そなた一人に全てを背負わせるつもりはない」
国王はクラウスに視線を向けた。「クラウス、そなたはリオの右腕となり、政治と行政の面で彼を全面的に補佐せよ。二人の力を合わせればこの国は必ずや生まれ変わることができるはずだ」
「御意」
クラウスは静かに、しかし力強く頭を下げた。
国王からのあまりにも重すぎる、しかし、これ以上ないほどに名誉ある勅命。
俺の脳裏にこれまでの戦いの日々が走馬灯のように駆け巡った。
ただ快適に暮らしたかっただけだった。
だが妹を守るために立ち上がり、領民を守るために戦い、そして今、この国全体の未来をその両肩に背負うことになった。
もう後戻りはできない。
俺の進む道はただ一つ。
俺は静かに国王の目を見つめ返した。
「……その大役、このリオ・アシュフォード、謹んでお受けいたします」
その言葉はもはや辺境貴族の三男坊のものではなかった。
新しく生まれた『リオ公爵』としての最初の、そして最も重い誓いの言葉だった。
宴の喧騒に戻ると、エリアーナが少し心配そうな顔で俺を迎えてくれた。
「……陛下と、何を話していたの?」
俺は彼女に国王とのやり取りをありのままに話した。
俺がこの国の『近代化』の全権を任されることになった、と。
それを聞いた彼女は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにいつもの不敵な笑みを浮かべた。
「……そう。つまり、あなたはこの国の事実上のナンバーツーになったというわけね。面白くなってきたじゃない」
その瞳には不安よりも、これから始まるであろう壮大な国家改造計画への強い期待と興奮が宿っていた。
「これでようやく、私たちの本当の仕事が始められるわね、リオ。邪魔者もいなくなったことだし」
「ああ、そうだな」
俺も彼女に応えるように笑った。
バルガスもシルフィも俺の周りに集まってきた。
彼らは俺が新しい地位を得たことを心から祝福してくれた。
俺は信頼できる仲間たちの顔を見渡した。
一人ではない。
この仲間たちがいれば、どんな困難な道であろうと進んでいける。
その夜、俺は人々から畏敬と、そして少しの恐怖を込めてこう呼ばれるようになった。
『近代化の父』と。
それはこれから始まる長く、そして険しい国家改造という名の新しい戦いの始まりを告げる称号だった。
俺たちの革命は今、個人の戦いから国家の戦いへとそのステージを大きく上げたのだ。
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