異世界転生したので、文明レベルを21世紀まで引き上げてみた ~前世の膨大な知識を元手に、貧乏貴族から世界を変える“近代化の父”になります~

夏見ナイ

文字の大きさ
113 / 118

第115話:声よ、届け

しおりを挟む
飛行機『イカロス』の初飛行成功は、王国中に熱狂と、新しい時代の到来を告げる大きな希望をもたらした。
だがその一方で、俺の心の中には、一つの大きな課題が、より明確な形で浮かび上がっていた。
情報は速くなった。物は速くなった。そして人さえも、空を飛んで速く移動できるようになった。
だが、それらの情報をごく一部の専門家や権力者だけでなく、この国に住まう全ての民に、どうやって平等に、そして同時に届けることができるのか。
義務教育によって識字率は飛躍的に向上した。新聞や書籍も、以前よりは遥かに多くの人々に読まれるようになった。
だが、まだ足りない。
文字を読めない老人たち。
日々の労働に追われ、新聞を読む時間もない人々。
彼らにも届く、新しいメディア。
その答えが『ラジオ』であることは、俺のロードマップに初めから記されていた。
電信が点と線で文字を伝えたのに対し、ラジオは人間の「声」そのものを、電波という見えない翼に乗せて、遠く離れた場所まで瞬時に届けることができる。
それは真の意味でのマスメディアの誕生を意味していた。

プロジェクトは、王立魔導科学大学の情報通信学部の最も優秀な学生たちと、そしてマナと電気の密接な関係性を誰よりも深く理解しているシルフィを中心に進められた。
課題は山積みだった。
まず、人間の声を電気信号に変換するための「マイク」。
その微弱な電気信号を何千倍、何万倍にも増幅するための「増幅器」。
そして、その信号を電波として空中に放射するための「アンテナ」。
その全てが、この世界には存在しない未知の技術だった。
俺と学生たちは大学の図書館に籠り、電気学と音響学の基礎理論をゼロから構築していくことから始めた。
炭素の粉末が音の振動によって電気抵抗を変える性質を利用した、カーボンマイク。
そして、最大のブレークスルーとなったのが、シルフィの魔導科学的な発想の転換だった。
「ねえ、リオ。電気信号を『大きくする』のが難しいなら、マナの力で直接『助けて』あげればいいんじゃないかな?」
彼女のその一言が、俺たちに天啓を与えた。
俺たちは電気信号を増幅するために、前世の「真空管」に似た、ガラス管の中に電極を封入した装置を試作していた。だが、その増幅率はまだ微々たるものだった。
シルフィは、そのガラス管に特殊な加工を施したアーククリスタルを組み込むことを提案した。
そして、そのクリスタルに外部からごく微量のマナを安定して供給し続ける。
すると、どうだろう。
ガラス管を通過する微弱な電気信号は、マナのエネルギーと共鳴し、まるで魔法のように何万倍にも増幅されたのだ。
『魔導真空管』。
電子工学と魔導科学が完璧に融合した、奇跡のデバイスの誕生だった。
この魔導真空管の発明によって、ラジオの開発は一気に現実のものとなった。

数ヶ月後。
王都を見下ろす最も高い丘の上に、高さ百メートルにも及ぶ巨大な鉄塔がその姿を現した。
王立ラジオ放送局の送信アンテナ塔だ。
そして、その麓の放送スタジオには、歴史的な最初の放送を見守るために、国王アルベール三世を始めとする王国の全ての重鎮たちが集まっていた。
スタジオの中央には、一本の黒いマイクが静かに置かれている。
そのマイクの前に立つのは、国王ただ一人。
エリアーナが設立した国営の工場では、この日のために数千台の木箱に入った簡易的なラジオ受信機が生産され、王都の主要な広場や施設に無料で配布されていた。
人々は、その奇妙な箱の前に集まり、これから何が起きるのかと固唾をのんで見守っている。

放送開始の時刻。
スタジオの赤いランプが灯る。
俺は調整室のガラスの向こうから、国王に静かに合図を送った。
国王は深く息を吸い込むと、マイクに向かってその威厳に満ちた声で語り始めた。
「……我が愛する王国の民よ。聞こえるだろうか」
その声は魔導真空管によって増幅され、電波となってアンテナ塔から空へと放たれた。
そして、光の速さで王都中に降り注いだ。

王城前の広場。
役所のロビー。
大学の大講義室。
設置されたラジオ受信機のスピーカー――電磁石と紙の振動板で作られた装置――から、国王の声がクリアに響き渡った。
『……聞こえるだろうか。私は国王、アルベール三世である』
その瞬間、受信機の前に集まっていた人々から、どよめきが上がった。
「こ、声だ!」
「王様の、お声がこの箱から聞こえるぞ!」
「魔法だ……! これもリオ公爵様の新しい魔法なんだ!」
人々は、そのありえない奇跡に打ち震えた。
国王の演説は続いた。
彼はこれまでの王国の歩みを振り返り、内乱と大戦を乗り越え、新しい時代を共に築き上げてきた国民の労をねぎらった。
そして、彼は未来への力強いビジョンを語った。
誰もが豊かに、平和に、そして誇りを持って生きていける国を創るのだ、と。
その温かく、そして力強い声は、電波に乗って王都の隅々まで届けられた。
貴族も平民も、老人も子供も。
全ての国民が同じ瞬間に、同じ王の言葉をその耳で聞いていた。
それはこの国が初めて、一つの巨大な共同体としてその心を一つにした瞬間だった。
演説が終わると、王都の至る所から割れんばかりの熱狂的な拍手と歓声が巻き起こった。

俺は調整室で、その光景をモニターする装置の針が振り切れるのを見ながら、静かに微笑んでいた。
声よ、届け。
俺のその願いは、今、確かに叶えられた。
ラジオの誕生は、この国の情報伝達の形を永遠に変えるだろう。
そして、それは人々の意識そのものを変えていく大きな力となるはずだ。
俺たちの創世の物語は、また一つ輝かしい新しい章のページを開いたのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 日曜日以外、1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします! 2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております! こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!! 2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?! なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!! こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。 どうしよう、欲が出て来た? …ショートショートとか書いてみようかな? 2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?! 欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい… 2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?! どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…

なんだって? 俺を追放したSS級パーティーが落ちぶれたと思ったら、拾ってくれたパーティーが超有名になったって?

名無し
ファンタジー
「ラウル、追放だ。今すぐ出ていけ!」 「えっ? ちょっと待ってくれ。理由を教えてくれないか?」 「それは貴様が無能だからだ!」 「そ、そんな。俺が無能だなんて。こんなに頑張ってるのに」 「黙れ、とっととここから消えるがいい!」  それは突然の出来事だった。  SSパーティーから総スカンに遭い、追放されてしまった治癒使いのラウル。  そんな彼だったが、とあるパーティーに拾われ、そこで認められることになる。 「治癒魔法でモンスターの群れを殲滅だと!?」 「え、嘘!? こんなものまで回復できるの!?」 「この男を追放したパーティー、いくらなんでも見る目がなさすぎだろう!」  ラウルの神がかった治癒力に驚愕するパーティーの面々。  その凄さに気が付かないのは本人のみなのであった。 「えっ? 俺の治癒魔法が凄いって? おいおい、冗談だろ。こんなの普段から当たり前にやってることなのに……」

赤ん坊なのに【試練】がいっぱい! 僕は【試練】で大きくなれました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はジーニアス 優しい両親のもとで生まれた僕は小さな村で暮らすこととなりました お父さんは村の村長みたいな立場みたい お母さんは病弱で家から出れないほど 二人を助けるとともに僕は異世界を楽しんでいきます ーーーーー この作品は大変楽しく書けていましたが 49話で終わりとすることにいたしました 完結はさせようと思いましたが次をすぐに書きたい そんな欲求に屈してしまいましたすみません

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

処理中です...