異世界デバッガー ~不遇スキル【デバッガー】でバグ利用してたら、世界を救うことになった元SEの話~

夏見ナイ

文字の大きさ
19 / 80

第19話:調査隊、始動

しおりを挟む
翌朝。リューンの空は快晴だったが、冒険者ギルドの前には、どこか張り詰めた空気が漂っていた。ゴブリンの洞穴異常調査隊の集合時間だ。俺は新調した装備を身に着け、少し早めにギルド前に到着していた。既に数人の冒険者の姿が見える。彼らが今回の調査隊のメンバーなのだろう。

「……君が、ユズル君か」

声をかけてきたのは、屈強な体格をした、熊のような大男だった。歳は四十代半ばだろうか。顔にはいくつもの古傷があり、歴戦の猛者であることを窺わせる。全身を頑丈そうな金属鎧で固め、背中には巨大な戦槌(ウォーハンマー)を背負っている。その威圧感は、ゴブリンキングとは別の意味で凄まじい。

『対象:”岩拳のボルガン”
 分類:人間
 状態:冷静、観察中
 ステータス:Lv ??(表示不可:Bランク相当)
 スキル:【戦槌術(熟練)】【重打撃】【大地砕き】【不屈の精神】Lv ?? (他、多数保有)
 装備:アダマンタイト混合プレートアーマー(高品質)、ドワーフ製ウォーハンマー”山砕き”(一級品)
 備考:ギルド所属のBランク冒険者。パーティー”鉄の拳”リーダー。豪快な性格だが、戦闘においては冷静かつ慎重。経験豊富で、多くの修羅場を潜り抜けてきた実力者。今回の調査隊リーダー。』

(Bランク冒険者、ボルガン……情報通りの実力者だな。装備も一流だ)
俺はゴクリと喉を鳴らす。彼がリーダーなら、確かに心強いだろう。

「はい、ユズルです。よろしくお願いします」俺は丁寧に頭を下げる。

「うむ。話は聞いている」ボルガンは、俺の頭のてっぺんから爪先まで、値踏みするような視線を走らせる。「Fランクのルーキーが、あの洞窟の最深部で異常個体に遭遇し、生還した……にわかには信じ難い話だが、支部長が判断したことだ。せいぜい、足手まといにならんようにな」
その言葉は厳しいが、声色には単なる侮りとは違う、何か含みのようなものが感じられた。彼は、俺の報告の裏にある何かを、経験則から感じ取っているのかもしれない。

ボルガンの隣には、他に三人の冒険者が控えていた。彼らも俺に視線を向けている。好奇心、疑念、そしてわずかな敵意。様々な感情が入り混じった視線だ。

一人は、軽装鎧に身を包み、二本の短剣を腰に差した、俊敏そうな男性。おそらく斥候(スカウト)だろう。
『対象:ジン・シャドウブレード
 分類:人間
 状態:警戒、探るような目つき
 ステータス:Lv ?? (Cランク相当)
 スキル:【二刀流(短剣)】【隠密】【罠感知・解除】【索敵】
 備考:ボルガンのパーティー”鉄の拳”所属の斥候。口数は少ないが、仕事は確実。』

もう一人は、ローブを纏い、精巧な作りの杖を持った、知的な雰囲気の女性。魔法使いだ。
『対象:セレスティア・ルーンライト
 分類:エルフ(ハーフエルフ?)
 状態:冷静、分析的
 ステータス:Lv ?? (Cランク相当)
 スキル:【精霊魔法(風・水)】【魔力操作】【結界術(中級)】【魔法知識】
 備考:ボルガンのパーティー”鉄の拳”所属の魔法使い。エルフの血筋か、魔力感知能力に優れる。冷静だが、少しプライドが高い面も。』

最後の一人は、神官服のようなものを着て、メイスと円盾(バックラー)を装備した、穏やかそうな青年。回復役の神官(プリースト)だろう。
『対象:アルト・クレリック
 分類:人間
 状態:穏やか、やや緊張
 ステータス:Lv ?? (Cランク相当)
 スキル:【回復魔法(中級)】【防御支援魔法】【浄化魔法(低級)】【メイス術(基礎)】
 備考:ボルガンのパーティー”鉄の拳”所属の神官。温厚な性格で、パーティーの精神的支柱。経験は他のメンバーより浅い。』

(斥候、魔法使い、神官……バランスの取れたパーティーだな。これがBランクパーティーの実力か)
彼らは皆、Cランク以上。俺とは比較にならない経験と実力を持っているはずだ。

俺が挨拶をしようとした時、ギルドの扉が開き、クラウスが現れた。彼はいつものように背筋を伸ばし、騎士としての威厳を漂わせながら、ボルガンに歩み寄った。
「ボルガン殿、遅くなった。騎士クラウス・フォン・リンドバーグ、ただ今合流した」

「おお、クラウス様。お待ちしておりました」ボルガンは、クラウスに対しては敬意のこもった態度を見せる。「これで全員揃いましたな。では、改めて今回の任務について説明する」

ボルガンは、地図を広げながら、調査の概要とルート、各メンバーの役割分担などを手際よく説明していく。斥候のジンが先行して罠や敵を警戒し、ボルガンとクラウスが前衛を固め、魔法使いのセレスティアが後方から魔法支援と分析を行い、神官のアルトが回復と防御補助を担当する。基本的ながら、鉄壁の布陣と言えるだろう。

「そして、ユズル君」ボルガンは俺に向き直る。「君の役割は、情報提供者として、異常個体に遭遇した場所や、道中の異変について、詳細な情報を提供すること。そして、君の持つ『観察眼』とやらを活かして、我々が見落とすような些細な変化や危険の兆候を報告してもらう。戦闘への参加は原則として求めんが、自分の身は自分で守れるようにしておけ。いいな?」

「はい、承知しました」俺は頷く。「探索補助」とは、そういうことか。直接戦闘に参加せず、後方から【デバッガー】スキルで情報を集め、それを伝える。俺にとっても都合の良い役割だ。

クラウスは、俺の役割について特に異論を唱えなかったが、その視線は依然として厳しいままだった。「ユズル殿、君の観察眼とやらには期待しているが、決して無茶はしないように。我々の足を引っ張るようなことがあれば、即刻リューンへ送り返すことになる」

「肝に銘じておきます」俺は平静を装って答えた。この騎士との関係は、一筋縄ではいかなそうだ。

セレスティアは、俺を値踏みするように一瞥し、「フン、Fランクが探索補助ね……本当に役に立つのかしら?」と小さく呟いたのが聞こえた。プライドが高いというのは、本当らしい。

斥候のジンは無言だったが、その目は常に周囲を警戒しており、プロフェッショナルな雰囲気を醸し出している。神官のアルトは、俺に気づくと、少し困ったような、しかし友好的な笑みを向けてくれた。彼は、この中で一番話がしやすい相手かもしれない。

こうして、様々な思惑と、一抹の緊張感を孕んだまま、ゴブリンの洞穴異常調査隊は、リューンの町を出発した。



ゴブリンの洞穴へと続く道中は、ボルガン率いるパーティーの熟練した動きに感心させられるばかりだった。斥候のジンは、まるで影のように先行し、周囲の気配を探りながら、的確なサインを送ってくる。ボルガンとクラウスは、常に周囲を警戒し、いかなる不意打ちにも対応できるような陣形を維持している。セレスティアとアルトは、後方で魔力の流れや異常な気配がないかをチェックしているようだ。

俺の役割は、彼らの後方からついていきながら、【情報読取】で周囲の広範囲な情報をスキャンし、何か異変があれば報告することだ。

「前方、約100メートル。茂みの中にホーンラビットが三匹。警戒レベル低。問題ありません」
「右手の森、少し奥にオークの縄張りと思われる痕跡。近寄らなければ大丈夫かと」
「上空、小型の飛行魔物(ガーゴイル系?)が一羽通過。こちらには気づいていません」

俺は、感知した情報を淡々とボルガンに報告していく。最初は半信半疑だったボルガンや他のメンバーも、俺の報告がことごとく正確であることが分かると、次第にその能力を認めざるを得ないようだった。

「……ユズル君、君の索敵能力は、噂以上かもしれんな」ボルガンが、感心したように言う。「斥候のジンの索敵範囲よりも広いし、種類や数まで正確だ。どういう『スキル』かは知らんが、これは確かに有用だ」

「ありがとうございます。お役に立てれば幸いです」俺は謙遜しておく。

セレスティアも、最初は懐疑的だったが、俺の報告と自身の魔力感知の結果が一致することを確認すると、「……なるほど。魔力に頼らない索敵としては、確かに精度が高いわね」と、少しだけ認めるような口調になった。

クラウスは、俺の能力を目の当たりにしても、相変わらず厳しい表情を崩さなかったが、時折、俺の方に探るような視線を向けてくる。彼は、俺の能力が単なる「観察眼」ではないことに、薄々気づき始めているのかもしれない。

道中、数度の魔物との遭遇があったが、ボルガンたちの敵ではなかった。ボルガンのウォーハンマーが一撃でオークを粉砕し、ジンの双剣が森狼の群れを切り裂く。セレスティアの風魔法が敵の動きを封じ、アルトの防御支援魔法が前衛を守る。そして、クラウスの正確無比な剣技が、確実に敵の息の根を止める。

(これが、Bランク、Cランク冒険者の実力か……)
俺が一人で苦戦していた魔物たちが、いとも簡単に蹂躙されていく。次元が違う。特に、ボルガンの圧倒的なパワーと、クラウスの洗練された技量は、目を見張るものがあった。

彼らの戦いを観察することで、俺自身の【剣術(基礎)】スキルや戦闘の立ち回りにも、多くの学びがあった。やはり、実戦経験豊富な者たちと行動を共にするのは、大きなメリットがある。

やがて、調査隊はゴブリンの洞穴の入り口へと到着した。以前、俺が一人で来た時とは違う、重苦しい空気が漂っている気がする。魔力汚染の影響が、ここまで広がってきているのだろうか。

「よし、これよりダンジョン内に入る」ボルガンが、メンバーに最終確認を促す。「各自、気を引き締めろ。何が起こるか分からん。ユズル君、君は我々の後方、セレスティアとアルトの間に位置しろ。そして、常に周囲の情報を報告するように」

「了解しました」

松明に火が灯され、調査隊はゴブリンの洞穴へと足を踏み入れた。ひんやりとした湿った空気が、肌を撫でる。薄暗い闇の奥から、不気味な気配が漂ってくる。

俺たちの、本格的なダンジョン調査が、今、始まった。
この先に待ち受けるのは、俺が遭遇した規格外のボスか、それとも、さらに未知の脅威か。そして、俺の【デバッガー】スキルは、この高ランクパーティーの中で、本当に「役立つ」ことができるのだろうか。

期待と不安を胸に、俺は一歩、また一歩と、洞窟の闇の中へと進んでいった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。 ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を! 目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。 スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。 何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。 やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。 「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ! ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。 ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。   2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

処理中です...