異世界デバッガー ~不遇スキル【デバッガー】でバグ利用してたら、世界を救うことになった元SEの話~

夏見ナイ

文字の大きさ
35 / 80

第35話:夜蛇の追跡者と影の連携

しおりを挟む
シャロンとの危険な取引を終え、金貨150枚と世界の根幹に関わるかもしれない情報を手に入れた俺は、再びリリアとの「バグ利用魔道具」開発へと意識を戻した。マルクス子爵家の事件は衝撃的だったが、同時に俺のスキル【デバッガー】と、新たに覚醒した【コード・ライティング(初級)】の可能性、そして限界を示す貴重な経験となった。

「ユズルさん、お帰りー! どうだった? あのダークエルフの人、怖くなかった?」
地下工房に戻ると、リリアが作業台から顔を上げ、心配そうに尋ねてきた。俺がシャロンに呼び出されたことは、彼女にも伝えていたのだ。

「ええ、まあ……色々とありましたが、無事です。それより、開発の方は進みましたか?」俺は話題を変える。

「うん! ユズルさんが解析してくれたバグ情報を元に、『バグ・ストレージ Ver.0.2』の設計図、大体できたよ!」リリアは、羊皮紙に描かれた複雑な図面を誇らしげに見せる。「空間安定化の術式を追加して、魔力効率も改善する回路を組み込んでみたんだ! あとは、必要な素材を集めて、実際に組み上げるだけ!」

彼女の仕事の速さと才能には、改めて感心させられる。俺がシャロンの依頼で動いている間にも、着実にプロジェクトを進めていたようだ。

「素晴らしいですね。必要な素材のリストは?」

「それがねー、ちょっと特殊なのが多くて……『時空結晶の欠片』とか、『エーテル銀線』とか。普通の市場じゃ、なかなか手に入らないものばかりなんだよね」リリアは少し困った顔になる。

「時空結晶……エーテル銀線……」聞いたことのない素材名だ。おそらく、魔道具の中でも特に高度なものに使われる、希少な素材なのだろう。

「心当たりはあるんですか?」

「うーん、ギルドの素材取引所とか、あるいは……裏ルートを使えば手に入るかもしれないけど……」リリアは言い淀む。裏ルートというのは、おそらくシャロンのような情報屋が関わるような、危険な取引のことだろう。

(シャロンに頼んでみるか……? いや、彼女との取引は、あまり頻繁に行うべきではない。それに、彼女に俺たちの開発内容を知られすぎるのも、リスクがある)

俺は考える。希少素材の入手。これも、今後の課題の一つだ。

「分かりました。素材探しについては、俺の方でも情報を集めてみましょう。クラウスさんや、あるいはギルドに相談してみるのも手かもしれません」

「うん、お願い!」

こうして、俺たちは再び魔道具開発へと没頭する日々に戻った。リリアが設計図を元に試作を進め、俺は【デバッガー】スキルでそのプロセスをチェックし、微調整や新たなバグ発見を行う。時折、気分転換も兼ねてEランクの依頼を受けたり、ダンジョンに潜ってレベル上げや資金稼ぎをしたりもした。

クラウスとは、街で時折顔を合わせることがあった。彼は相変わらず堅物だったが、以前のようなあからさまな敵意や不信感は消え、むしろ俺の動向を気にかけているような素振りを見せることもあった。「何か困ったことがあれば、相談に乗る」という彼の言葉は、社交辞令ではなかったのかもしれない。だが、俺の方から積極的に彼に頼ることは、まだ躊躇われた。

そんな、比較的平穏な日々が数日続いたある夜のことだった。
リリアの工房での作業を終え、安宿へ戻ろうと夜道を歩いていると、再び、あの「視線」を感じた。

(……またか)

以前感じた、複数の監視者の気配。シャロンの仲間かと思ったが、彼女との契約は既に終わっている。だとすれば、これは……?

俺は警戒レベルを引き上げ、【デバッガー】スキルで周囲を探る。気配は、前回よりも明らかに強く、そして……殺気に近いものが混じっている。

(まずい……これは、単なる監視じゃない)

俺は、人通りの少ない裏通りへと進路を変え、追跡者を撒こうと試みる。しかし、相手もプロだ。巧みに距離を詰め、俺を包囲しようとしているのが分かる。数は……四人。前回と同じか?

俺は角を曲がり、物陰に隠れて様子を窺う。
闇の中から、黒装束に身を包んだ人影が、音もなく現れた。手には短剣が握られ、その目は冷徹な光を宿している。間違いなく、暗殺者、あるいはそれに類する手練れだ。

(シャロンの言っていた『虫』か……? それとも、俺自身を狙って……?)

【情報読取】を試みるが、やはり詳細は掴めない。「所属:夜蛇(ナイトサーペント)?」「敵意:高」「目的:対象の捕獲、または排除」といった、断片的な情報が読み取れるのみだ。

(夜蛇……! シャロンの言っていた、元所属組織か! やはり、彼女を追ってきたのか? それとも、俺の【デバッガー】スキルを狙って……?)

どちらにせよ、絶体絶命のピンチだ。相手は四人。しかも、暗殺術のプロ。今の俺が、まともに戦って勝てる相手ではない。

俺がどう動くべきか逡巡していると、不意に、すぐ近くの屋根の上から、聞き慣れた、しかし今は緊迫した響きを帯びた声がした。

「――やっぱり、あなたを追ってきたようね、ユズルさん」

見上げると、そこにいたのはシャロンだった。彼女もまた、漆黒の戦闘装束に身を包み、二本の短剣を逆手に構えている。その赤い瞳は、俺を取り囲む黒装束の暗殺者たちを、冷たく見据えていた。

「シャロンさん!」

「どうやら、私のところにいた『虫』が、あなたの方にも流れてきたみたいね。ごめんなさい、巻き込んでしまったわ」シャロンは、謝罪の言葉とは裏腹に、どこか楽しんでいるような口調で言う。

黒装束の暗殺者たちは、シャロンの登場に一瞬動揺を見せたが、すぐに体勢を立て直し、四方から俺とシャロンを包囲するように距離を詰めてくる。

「シャロン様……組織を裏切ったばかりか、このような得体の知れない男と手を組むとは。お覚悟を」
リーダー格らしき男が、低い声で告げる。

「あら、怖い怖い」シャロンは肩をすくめる。「でも、残念だけど、あなたたちのような下っ端じゃ、私には勝てないわよ? それに……」
彼女は、ちらりと俺の方を見る。
「私には、強力な『秘密兵器』がいるのよ」

「秘密兵器……?」暗殺者たちが訝しげな表情を見せる。

シャロンは、俺に向かってウィンクしてみせた。
「ユズルさん、あなたの力を、もう一度見せてもらうわよ。彼らの装備、連携、動き……その『バグ』を見つけて、私に教えてちょうだい。これは、依頼じゃないわ。私からの『テスト』よ。あなたが、私のパートナーとして相応しいかどうか、見極めさせてもらうわ」

(テスト……だと!? この状況で!?)
ふざけているのか、本気なのか。だが、彼女の赤い瞳は、真剣な光を宿している。そして、俺には選択の余地がないことも確かだ。

「……分かりました。やってみましょう」俺は頷く。

「それでこそ、私の見込んだ男よ」シャロンは満足そうに微笑むと、暗殺者たちに向き直った。「さあ、始めましょうか。あなたたちの『デバッグ』タイムよ!」

その言葉を合図に、戦闘が始まった!
シャロンは、まるで黒い疾風のように、最も近くにいた暗殺者へと襲いかかる。彼女の動きは、目で追うのがやっとのほどの速さだ。二本の短剣が、闇の中で銀色の軌跡を描き、暗殺者の防御をいとも簡単に切り裂いていく。

「ぐあっ!」
最初の暗殺者が、悲鳴を上げる間もなく、急所を突かれて崩れ落ちる。

残りの三人は、動揺しながらも、訓練された動きで連携し、シャロンに襲いかかる。だが、シャロンは彼らの攻撃を、まるで踊るように華麗にかわし、的確な反撃を加えていく。個々の実力差が、あまりにも歴然としている。

(すごい……これが、元トップクラスの暗殺者の実力か……)
俺は、シャロンの圧倒的な戦闘能力に息を呑む。

だが、感心している場合ではない。俺にも、やるべきことがある。
【デバッガー】スキルを発動! 目の前で戦う暗殺者たちの情報を解析する!

「シャロンさん! 向かって右の男、短剣の柄が少し緩んでいます! 強い衝撃で外れる可能性あり!」
「中央の男、毒を使おうとしています! 右手のポーチ! ただし、配合にミスがあるようで、効果は薄いかも!」
「左の男、他の二人との連携タイミングが僅かにズレています! ステップの癖で、左斜め後ろが死角になりやすい!」

俺は、発見した「バグ」情報を、次々とシャロンに伝える。装備の欠陥、スキルの不備、連携の隙間。それらは、通常の戦闘では見過ごされてしまうような、些細なものかもしれない。だが、シャロンほどの達人にとっては、致命的な弱点となり得る。

「……なるほど、面白いわね!」
シャロンは、俺の情報を受け取ると、即座にそれを戦闘に応用した!

右の男が短剣を振りかぶった瞬間、シャロンは自らの短剣の柄で相手の柄を強かに打ち据える! 案の定、相手の短剣は柄から外れ、無力化される!

中央の男が毒を塗ったクナイを投げつけようとした瞬間、シャロンはそれを意に介さず、あえてギリギリで回避! 毒の効果が薄いことを見越した上で、カウンターの一撃を叩き込む!

左の男が連携から遅れて攻撃を仕掛けてきた瞬間、シャロンはその死角である左斜め後ろへと滑り込み、首筋に短剣の峰を当てて意識を刈り取る!

わずか数十秒。
俺とシャロンの連携の前に、夜蛇の追手である暗殺者たちは、完全に無力化されていた。一人は死亡、一人は重傷、そしてリーダー格を含む二人は意識を失っている。

「……ふぅ。思ったより、手応えがなかったわね」
シャロンは、返り血一つ浴びずに短剣をしまいながら、平然と言ってのけた。

俺は、その圧倒的な実力と、俺の情報を的確に利用する戦闘センスに、改めて戦慄していた。彼女は、間違いなく、俺がこれまで出会った中で最強の「プレイヤー」だ。

「……テストは、合格でしょうか?」俺は尋ねた。

シャロンは、俺の方へゆっくりと歩み寄り、その美しい顔を近づけてきた。フードの奥の赤い瞳が、俺をじっと見つめる。
「ええ、満点よ、ユズルさん」彼女は、妖艶な笑みを浮かべた。「あなたの『デバッグ・アイ』は、私の予想以上に使えるわ。これなら、私の『本当の目的』にも、きっと役立ってくれるはずよ」

「本当の目的……?」

シャロンは、その問いには答えず、気絶している暗殺者の一人を指差した。
「さて、少し『尋問』の時間としましょうか。彼らが、私や……あるいは、あなたを狙う理由。それを、詳しく聞かせてもらいましょう」

彼女の瞳の奥に、冷たく、そして深い闇の色がよぎったのを、俺は見逃さなかった。
夜蛇との因縁。シャロンの過去。そして、彼女が追う「本当の目的」。

俺は、自分が足を踏み入れた世界の、さらなる深淵を垣間見た気がした。
そして、この危険で魅力的なダークエルフとの協力関係が、単なるビジネスでは終わらないであろうことを、予感せずにはいられなかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。 ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を! 目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。 スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。 何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。 やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。 「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ! ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。 ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。   2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

処理中です...