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第37話:パートナーシップの始動と最初の「解決」
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リューンの裏路地に転がる、黒い影。元暗殺組織「夜蛇」の追手たちの亡骸と、意識を失った者たち。その「後始末」は、シャロンの手によって、驚くほど迅速かつ手際よく行われた。亡骸は、特殊な薬品か魔法か、あるいはその両方か、跡形もなく処理され、気絶していた者も、口封じのためか、あるいは情報を抜き取るためか、どこかへ連れ去られた(その詳細を、俺はあえて聞かなかった)。まるで、最初から何もなかったかのように、裏路地には静寂だけが残された。
「これで、当面の『虫』は片付いたわ」シャロンは、手をパンパンと払いながら、平然と言った。「でも、これは始まりに過ぎない。『夜蛇』は、必ずまた追手を送ってくるでしょう。それも、次はもっと厄介な連中をね」
彼女の言葉に、俺は改めて背筋に冷たいものが走るのを感じた。夜蛇。そして、その中枢である「長老会」。彼らは、シャロンだけでなく、俺のスキル【デバッガー】をも狙っている。俺たちの戦いは、まだ始まったばかりなのだ。
シャロンの隠れ家に戻り、俺たちは改めて今後の活動方針について話し合った。もはや、単なるビジネスパートナーではない。互いの目的のために協力し、情報を共有し、危険を分かち合う「共犯者」としての関係だ。
「まずは、情報共有から始めましょうか」俺は切り出した。「俺が知っていること……リリアさんとの魔道具開発、【デバッガー】スキルで発見した世界のシステムの『バグ』(経験値異常など)、そして、転生者であるという事実。これらは、あなたとの協力において、隠しておくべきではないでしょう」
俺は、覚悟を決めて、自分の持つ情報の核心部分をシャロンに打ち明けた。リリアとの「バグ・ストレージ」開発計画、自分の異常な成長速度の理由、そして、自分が異世界からの転生者であること。スキル【デバッガー】の詳細についても、可能な範囲で説明した。
シャロンは、俺の話を黙って聞いていた。時折、赤い瞳に驚きや興味の色が浮かんだが、基本的には冷静さを保っている。俺が話し終えると、彼女はふう、と一つ息をついた。
「……なるほどね。転生者、【デバッガー】、システムのバグ、そして天才魔道具技師との連携……あなたは、私が思っていた以上に『面白い存在』だったようね」彼女は、どこか楽しそうに言う。「あなたのその異常な成長速度も、システムのバグが原因だったとは。道理で、Fランク(今はEランクね)とは思えない動きをするわけだわ」
彼女は、俺の告白を特に疑う様子もなく、むしろ納得したように受け入れた。彼女自身、この世界の「常識」から外れた存在であり、俺のようなイレギュラーな存在にも、ある程度の理解があるのかもしれない。
「では、今度は私の番ね」シャロンは、姿勢を正し、話し始めた。「私が持つ情報……『夜蛇』の内部事情、彼らが追う『計画』と『世界の歪み』に関する断片的な知識、裏社会の情報網、そして、このリューンや周辺地域に潜む様々な『闇』……これらを、あなたと共有しましょう」
彼女は、驚くほど詳細な情報を、淀みなく語り始めた。夜蛇の組織構造、主要メンバー、「長老会」と呼ばれる存在の謎めいた目的(『世界の歪みを正す』という言葉の裏に隠された真意)、そして、彼らが古代文明の遺産や技術を狙っている可能性。さらに、リューンの貴族社会に渦巻く陰謀、暗躍する秘密組織、そして、ギルドすら把握していない危険なダンジョンや遺跡の情報まで。
その情報量は、まさに圧倒的だった。俺がこれまで集めてきた情報など、氷山の一角に過ぎなかったことを思い知らされる。
(これが、シャロンの情報網……そして、彼女が持つ知識か)
彼女の話を聞きながら、俺は【情報読取】でその信憑性を確認していく。ほとんどの情報は「信憑性:高」または「中」と表示される。彼女は、俺に対して、かなりオープンに情報を開示してくれているようだ。パートナーとしての、信頼の証なのだろうか。
「……もちろん、私にもまだ分からないことは多いわ」シャロンは語り終えると、付け加えた。「特に、『世界の歪み』や『管理者』の正体については、核心に迫る情報は掴めていない。だからこそ、あなたの力が必要なのよ」
互いの情報を共有したことで、俺たちの間には、より強固な信頼関係(あるいは、利害の一致)が生まれた。そして、当面の目標も明確になった。
「まずは、『夜蛇』の追手への対策ですね」俺は言う。「彼らが再び接触してくる前に、こちらも備えを固める必要がある。情報収集を強化し、迎撃の準備もしておくべきでしょう」
「ええ、それは私が得意な分野よ」シャロンは頷く。「私のネットワークを使って、彼らの動きを探るわ。必要なら、こちらから『罠』を仕掛けることもできる」
「それと同時に、資金稼ぎと、俺自身のレベルアップも続けたい。リリアさんとの魔道具開発も進めたいですし……」
「そうね。あなたはもっと強くならなければならないわ。あなたのスキルは強力だけど、それを活かすための基礎能力や戦闘経験が、まだ足りていない」シャロンは的確に指摘する。「それに、魔道具開発も重要よ。あなたのスキルと、あの天才技師の技術が組み合わされば、私たちの強力な武器になるはずだわ」
「となると、やはりギルドの依頼を受けるのが効率的でしょうか? Eランクになったことですし、もう少し難易度の高い依頼にも挑戦できます」
「ギルドの依頼……まあ、それも悪くないけれど」シャロンは、少し考える素振りを見せた後、悪戯っぽく笑った。「もっと『面白い』依頼があるのだけど、興味ある?」
「面白い依頼?」
「ええ。ギルドが公式には扱えない、あるいは、持て余しているような、少し『厄介』な依頼よ。報酬も良いし、あなたのスキルを試すには、もってこいだと思うのだけど?」
彼女が提案してきたのは、例えば、以下のようなものだった。
罠だらけで誰も攻略できない古代遺跡の調査: ギルドは危険すぎて手を引いているが、遺跡には貴重な遺物が眠っているという噂がある。
解読不能な古代言語で書かれた石版の解読: ある学者が所有しているが、内容が全く分からず困っている。歴史的に重要な情報が含まれている可能性がある。
原因不明の呪いで寂れた村の調査: ギルドの調査隊も原因を特定できず、匙を投げた案件。呪い(バグ?)の原因を突き止め、可能なら解除する。
どれも、通常の冒険者では手が出せないような、難易度の高い依頼ばかりだ。しかし、俺の【デバッガー】スキルと、シャロンの隠密・解除スキル、そして情報網を組み合わせれば、解決できる可能性は十分にある。
(……なるほど。ギルドの表の依頼ではなく、裏の、あるいはグレーな依頼をこなすことで、効率的に資金と情報を稼ぎ、さらに俺のスキルを鍛えようというわけか)
シャロンらしい、合理的で、少し危険なやり方だ。だが、今の俺にとっては、確かに魅力的だった。
「……いいでしょう。その『面白い依頼』、受けてみましょうか」俺は答えた。
「話が早くて助かるわ」シャロンは満足そうに頷く。「では、手始めに、これなんてどうかしら?」
彼女は、テーブルの上に一枚の古びた羊皮紙を広げた。それは、ギルドの依頼書ではなく、個人の依頼状のようなものだった。
「リューンの魔道具ギルドのマスターから、非公式に私へ持ち込まれた依頼よ。『起動しない古代のゴーレム』を調査し、可能なら再起動させてほしい、とのこと。マスターは、そのゴーレムの技術を解析したいらしいのだけど、全く動かせなくて困っているらしいわ」
「古代のゴーレム……起動しない……」
俺の【デバッガー】スキルが、またしても疼き始めるのを感じた。これもまた、「バグ」を抱えている可能性が高い。
「面白そうですね。やりましょう」
「決まりね。詳細は、移動しながら話しましょうか」
こうして、俺とシャロンの、新たなパートナーシップに基づいた最初の共同任務が始まった。それは、表の冒険者活動とは一線を画す、裏の世界での「解決屋」としての仕事だ。
◆
数日後。俺とシャロンは、リューン魔道具ギルドのマスターの工房を訪れていた。マスターは、頑固そうなドワーフの老人で、リリアの師匠筋にあたる人物らしい。彼は、工房の奥に鎮座する、一体の巨大な石造りのゴーレムを前に、腕を組んで唸っていた。
「うーむ……何度やっても、全く反応せん……。古代の動力炉は生きているようなのだが……」
俺は、そのゴーレムに【デバッガー】スキルを使ってみる。
(……なるほど。動力炉は正常だが、制御回路へのエネルギー伝達経路に断線がある。それに、命令認識システムにも深刻なバグが……これでは動くはずがない)
俺は、発見したバグ情報を、シャロンを通じて(俺の能力を隠すため)マスターに伝える。シャロンは、あたかも自分の知識であるかのように、専門用語を交えながら、ゴーレムの問題点を的確に指摘していく。
マスターは、最初は半信半疑だったが、シャロン(実際は俺)の指摘が、彼がこれまで悩んでいた問題点と完全に一致することに気づくと、驚愕の表情を浮かべた。
「な、なぜそれを……!? まさに、そこが分からずに困っておったのだ!」
「ふふ、企業秘密ですよ、マスター」シャロンは微笑む。「それで、修理方法ですが……」
俺は、断線箇所をバイパスする応急処置の方法と、命令認識システムのバグを回避するための、特殊な起動コマンド(一種の裏コマンドのようなもの)をシャロンに伝える。シャロンは、それをマスターに説明し、俺は彼女の指示に従って、ゴーレムの特定箇所に【コード・ライティング】で微弱な修正コードを書き込んだ。
すると――
ゴゴゴゴ……
数百年、あるいは千年もの間、沈黙していた古代のゴーレムが、重々しい駆動音と共に、ゆっくりと動き始めたのだ!
「おお……! 動いた! 本当に動いたぞ!!」
マスターは、子供のように目を輝かせ、歓声を上げた。
依頼は見事に達成された。マスターからは、高額な報酬と、魔道具に関する貴重な情報、そして「シャロン殿(と、その謎の助手)は、まさに奇跡の解決屋だ!」という、最大の賛辞が送られた。
この一件は、すぐにリューンの魔道具ギルドや、一部の知識人の間で噂となった。「起動不能だった古代のゴーレムを、謎の協力者を連れた情報屋シャロンが動かした」「その協力者は、驚異的な分析眼を持つらしい」「まるで、魔法のような解決方法だった」……。
そして、その噂は、いつしか歪曲され、「リューンに現れた、どんな難問でも解決するという『奇跡の解決屋ユズル』」という形で、まことしやかに囁かれ始めることになる。もちろん、その時点では、まだごく一部での、小さな噂に過ぎなかったが。
俺は、依頼達成の報酬を受け取りながら、シャロンとの連携の有効性を改めて実感していた。そして同時に、広がり始めた自分に関する(不本意な)噂に、一抹の不安と、しかしどこか悪い気はしないような、複雑な感情を抱くのだった。
シャロンとの危険なパートナーシップは、確実に成果を生み出し始めていた。だが、それは同時に、俺の存在を、良くも悪くも、この世界の注目を集める方向へと導いていく。
元SEの異世界デバッグは、新たな局面を迎えようとしていた。
「これで、当面の『虫』は片付いたわ」シャロンは、手をパンパンと払いながら、平然と言った。「でも、これは始まりに過ぎない。『夜蛇』は、必ずまた追手を送ってくるでしょう。それも、次はもっと厄介な連中をね」
彼女の言葉に、俺は改めて背筋に冷たいものが走るのを感じた。夜蛇。そして、その中枢である「長老会」。彼らは、シャロンだけでなく、俺のスキル【デバッガー】をも狙っている。俺たちの戦いは、まだ始まったばかりなのだ。
シャロンの隠れ家に戻り、俺たちは改めて今後の活動方針について話し合った。もはや、単なるビジネスパートナーではない。互いの目的のために協力し、情報を共有し、危険を分かち合う「共犯者」としての関係だ。
「まずは、情報共有から始めましょうか」俺は切り出した。「俺が知っていること……リリアさんとの魔道具開発、【デバッガー】スキルで発見した世界のシステムの『バグ』(経験値異常など)、そして、転生者であるという事実。これらは、あなたとの協力において、隠しておくべきではないでしょう」
俺は、覚悟を決めて、自分の持つ情報の核心部分をシャロンに打ち明けた。リリアとの「バグ・ストレージ」開発計画、自分の異常な成長速度の理由、そして、自分が異世界からの転生者であること。スキル【デバッガー】の詳細についても、可能な範囲で説明した。
シャロンは、俺の話を黙って聞いていた。時折、赤い瞳に驚きや興味の色が浮かんだが、基本的には冷静さを保っている。俺が話し終えると、彼女はふう、と一つ息をついた。
「……なるほどね。転生者、【デバッガー】、システムのバグ、そして天才魔道具技師との連携……あなたは、私が思っていた以上に『面白い存在』だったようね」彼女は、どこか楽しそうに言う。「あなたのその異常な成長速度も、システムのバグが原因だったとは。道理で、Fランク(今はEランクね)とは思えない動きをするわけだわ」
彼女は、俺の告白を特に疑う様子もなく、むしろ納得したように受け入れた。彼女自身、この世界の「常識」から外れた存在であり、俺のようなイレギュラーな存在にも、ある程度の理解があるのかもしれない。
「では、今度は私の番ね」シャロンは、姿勢を正し、話し始めた。「私が持つ情報……『夜蛇』の内部事情、彼らが追う『計画』と『世界の歪み』に関する断片的な知識、裏社会の情報網、そして、このリューンや周辺地域に潜む様々な『闇』……これらを、あなたと共有しましょう」
彼女は、驚くほど詳細な情報を、淀みなく語り始めた。夜蛇の組織構造、主要メンバー、「長老会」と呼ばれる存在の謎めいた目的(『世界の歪みを正す』という言葉の裏に隠された真意)、そして、彼らが古代文明の遺産や技術を狙っている可能性。さらに、リューンの貴族社会に渦巻く陰謀、暗躍する秘密組織、そして、ギルドすら把握していない危険なダンジョンや遺跡の情報まで。
その情報量は、まさに圧倒的だった。俺がこれまで集めてきた情報など、氷山の一角に過ぎなかったことを思い知らされる。
(これが、シャロンの情報網……そして、彼女が持つ知識か)
彼女の話を聞きながら、俺は【情報読取】でその信憑性を確認していく。ほとんどの情報は「信憑性:高」または「中」と表示される。彼女は、俺に対して、かなりオープンに情報を開示してくれているようだ。パートナーとしての、信頼の証なのだろうか。
「……もちろん、私にもまだ分からないことは多いわ」シャロンは語り終えると、付け加えた。「特に、『世界の歪み』や『管理者』の正体については、核心に迫る情報は掴めていない。だからこそ、あなたの力が必要なのよ」
互いの情報を共有したことで、俺たちの間には、より強固な信頼関係(あるいは、利害の一致)が生まれた。そして、当面の目標も明確になった。
「まずは、『夜蛇』の追手への対策ですね」俺は言う。「彼らが再び接触してくる前に、こちらも備えを固める必要がある。情報収集を強化し、迎撃の準備もしておくべきでしょう」
「ええ、それは私が得意な分野よ」シャロンは頷く。「私のネットワークを使って、彼らの動きを探るわ。必要なら、こちらから『罠』を仕掛けることもできる」
「それと同時に、資金稼ぎと、俺自身のレベルアップも続けたい。リリアさんとの魔道具開発も進めたいですし……」
「そうね。あなたはもっと強くならなければならないわ。あなたのスキルは強力だけど、それを活かすための基礎能力や戦闘経験が、まだ足りていない」シャロンは的確に指摘する。「それに、魔道具開発も重要よ。あなたのスキルと、あの天才技師の技術が組み合わされば、私たちの強力な武器になるはずだわ」
「となると、やはりギルドの依頼を受けるのが効率的でしょうか? Eランクになったことですし、もう少し難易度の高い依頼にも挑戦できます」
「ギルドの依頼……まあ、それも悪くないけれど」シャロンは、少し考える素振りを見せた後、悪戯っぽく笑った。「もっと『面白い』依頼があるのだけど、興味ある?」
「面白い依頼?」
「ええ。ギルドが公式には扱えない、あるいは、持て余しているような、少し『厄介』な依頼よ。報酬も良いし、あなたのスキルを試すには、もってこいだと思うのだけど?」
彼女が提案してきたのは、例えば、以下のようなものだった。
罠だらけで誰も攻略できない古代遺跡の調査: ギルドは危険すぎて手を引いているが、遺跡には貴重な遺物が眠っているという噂がある。
解読不能な古代言語で書かれた石版の解読: ある学者が所有しているが、内容が全く分からず困っている。歴史的に重要な情報が含まれている可能性がある。
原因不明の呪いで寂れた村の調査: ギルドの調査隊も原因を特定できず、匙を投げた案件。呪い(バグ?)の原因を突き止め、可能なら解除する。
どれも、通常の冒険者では手が出せないような、難易度の高い依頼ばかりだ。しかし、俺の【デバッガー】スキルと、シャロンの隠密・解除スキル、そして情報網を組み合わせれば、解決できる可能性は十分にある。
(……なるほど。ギルドの表の依頼ではなく、裏の、あるいはグレーな依頼をこなすことで、効率的に資金と情報を稼ぎ、さらに俺のスキルを鍛えようというわけか)
シャロンらしい、合理的で、少し危険なやり方だ。だが、今の俺にとっては、確かに魅力的だった。
「……いいでしょう。その『面白い依頼』、受けてみましょうか」俺は答えた。
「話が早くて助かるわ」シャロンは満足そうに頷く。「では、手始めに、これなんてどうかしら?」
彼女は、テーブルの上に一枚の古びた羊皮紙を広げた。それは、ギルドの依頼書ではなく、個人の依頼状のようなものだった。
「リューンの魔道具ギルドのマスターから、非公式に私へ持ち込まれた依頼よ。『起動しない古代のゴーレム』を調査し、可能なら再起動させてほしい、とのこと。マスターは、そのゴーレムの技術を解析したいらしいのだけど、全く動かせなくて困っているらしいわ」
「古代のゴーレム……起動しない……」
俺の【デバッガー】スキルが、またしても疼き始めるのを感じた。これもまた、「バグ」を抱えている可能性が高い。
「面白そうですね。やりましょう」
「決まりね。詳細は、移動しながら話しましょうか」
こうして、俺とシャロンの、新たなパートナーシップに基づいた最初の共同任務が始まった。それは、表の冒険者活動とは一線を画す、裏の世界での「解決屋」としての仕事だ。
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数日後。俺とシャロンは、リューン魔道具ギルドのマスターの工房を訪れていた。マスターは、頑固そうなドワーフの老人で、リリアの師匠筋にあたる人物らしい。彼は、工房の奥に鎮座する、一体の巨大な石造りのゴーレムを前に、腕を組んで唸っていた。
「うーむ……何度やっても、全く反応せん……。古代の動力炉は生きているようなのだが……」
俺は、そのゴーレムに【デバッガー】スキルを使ってみる。
(……なるほど。動力炉は正常だが、制御回路へのエネルギー伝達経路に断線がある。それに、命令認識システムにも深刻なバグが……これでは動くはずがない)
俺は、発見したバグ情報を、シャロンを通じて(俺の能力を隠すため)マスターに伝える。シャロンは、あたかも自分の知識であるかのように、専門用語を交えながら、ゴーレムの問題点を的確に指摘していく。
マスターは、最初は半信半疑だったが、シャロン(実際は俺)の指摘が、彼がこれまで悩んでいた問題点と完全に一致することに気づくと、驚愕の表情を浮かべた。
「な、なぜそれを……!? まさに、そこが分からずに困っておったのだ!」
「ふふ、企業秘密ですよ、マスター」シャロンは微笑む。「それで、修理方法ですが……」
俺は、断線箇所をバイパスする応急処置の方法と、命令認識システムのバグを回避するための、特殊な起動コマンド(一種の裏コマンドのようなもの)をシャロンに伝える。シャロンは、それをマスターに説明し、俺は彼女の指示に従って、ゴーレムの特定箇所に【コード・ライティング】で微弱な修正コードを書き込んだ。
すると――
ゴゴゴゴ……
数百年、あるいは千年もの間、沈黙していた古代のゴーレムが、重々しい駆動音と共に、ゆっくりと動き始めたのだ!
「おお……! 動いた! 本当に動いたぞ!!」
マスターは、子供のように目を輝かせ、歓声を上げた。
依頼は見事に達成された。マスターからは、高額な報酬と、魔道具に関する貴重な情報、そして「シャロン殿(と、その謎の助手)は、まさに奇跡の解決屋だ!」という、最大の賛辞が送られた。
この一件は、すぐにリューンの魔道具ギルドや、一部の知識人の間で噂となった。「起動不能だった古代のゴーレムを、謎の協力者を連れた情報屋シャロンが動かした」「その協力者は、驚異的な分析眼を持つらしい」「まるで、魔法のような解決方法だった」……。
そして、その噂は、いつしか歪曲され、「リューンに現れた、どんな難問でも解決するという『奇跡の解決屋ユズル』」という形で、まことしやかに囁かれ始めることになる。もちろん、その時点では、まだごく一部での、小さな噂に過ぎなかったが。
俺は、依頼達成の報酬を受け取りながら、シャロンとの連携の有効性を改めて実感していた。そして同時に、広がり始めた自分に関する(不本意な)噂に、一抹の不安と、しかしどこか悪い気はしないような、複雑な感情を抱くのだった。
シャロンとの危険なパートナーシップは、確実に成果を生み出し始めていた。だが、それは同時に、俺の存在を、良くも悪くも、この世界の注目を集める方向へと導いていく。
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