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第十一話 即興の創造術
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俺とカエデ。モンスターメイカーと聖騎士。即席のパーティは、奇妙な緊張感に包まれていた。沼地を越え、森の奥へと進む。その間、俺たちの間に会話はほとんどない。
「前衛は私が引き受ける。あなたは後方から指示を」
「分かっています」
そんな事務的なやり取りが二、三度あっただけだ。カエデは俺の前に立ち、一切の隙を見せずに進む。俺は彼女の数歩後ろを歩き、擬態スライムによる索敵と、オブシダン・スライムをいつでも呼び出せる準備を怠らない。
お互いの実力は、先ほどの戦闘で嫌というほど理解していた。カエデの剣技は精密機械のように正確無比。モンスターの弱点を的確に突き、最小限の動きで致命傷を与える。その戦う姿は、一種の芸術のようでもあった。
一方、俺の役割は戦場の盤面を支配することだ。擬態スライムで敵の位置を事前に把握し、有利な地形で戦いを仕掛ける。カエデが攻撃に集中できるよう、側面や背後からの奇襲はオブシダン・スライムで完全に封殺する。
俺たちの連携は、恐ろしいほどうまく機能していた。カエデが一体の敵と戦っている間に、俺は別の敵を粘着スライムで足止めする。彼女が敵の強力なスキルを誘い、俺はそれをオブシダン・スライムで受け止める。言葉を交わさずとも、互いが何をすべきか、何を求めているかが分かった。
カエデは俺の指示の的確さに内心驚いているようだった。だが、それを口にすることはない。俺もまた、彼女の圧倒的な戦闘能力に舌を巻きながらも、それを態度には出さなかった。俺たちの間には、まだ見えない壁が存在していた。
彼女は俺のスライムを、やはり便利な「道具」としか見ていないようだった。オブシダン・スライムがどんなに強力な攻撃を受けても、彼女は眉一つ動かさない。それは盾として当然の役割だ、とでも言うように。
しばらく進むと、森の雰囲気が一変した。霧はさらに深くなり、足元には紫色の斑点を持つ奇妙なキノコが無数に生えている。空気中には、甘いような、それでいてむせ返るような胞子が舞っていた。
「毒の胞子か。厄介だな」
カエデがレイピアの柄を握り直し、警戒を強める。
俺はアイテムボックスから、腐葉土を多めに配合して創ったスライムを取り出した。多孔質な構造で、フィルターの役割を果たす【フィルター・スライム】だ。それを濡れた布のように引き伸ばし、自分の口と鼻を覆う。
「あなたもこれを」
俺はもう一体のフィルタースライムをカエデに差し出した。
だが、彼女はそれを一瞥すると、静かに首を振った。
「不要だ。聖騎士のスキルには、状態異常への耐性を高めるものがある。この程度の毒、問題ない」
その声には、絶対的な自信が満ちていた。俺はそれ以上何も言わず、差し出したスライムを引っ込めた。彼女のプライドを、これ以上傷つける必要はないだろう。
俺たちは毒キノコの森を進む。そこへ、木々の間から三体のモンスターが飛び出してきた。猿の体に、蝙蝠の翼を持つ『フライングエイプ』。レベルは30。素早い動きで空中を飛び回り、鋭い爪で攻撃してくる厄介な敵だ。
「二体は私が引き受ける!あなたは残りの一体を!」
カエデが叫び、二体のフライングエイプに向かって駆け出す。銀色の閃光が走り、空中戦が始まった。
俺は残った一体を相手にする。擬態スライムで奇襲をかけ、オブシダン・スライムで動きを封じる。いつもの戦法だ。
だが、このエリアの敵は手強かった。フライングエイプはオブシダン・スライムの防御を崩せないと見るや、ターゲットを俺自身に変えてきた。
「しまった!」
鋭い爪が、俺の頬を掠める。HPがわずかに削れた。その時、俺の視界の隅にシステムメッセージが表示された。
『毒状態(弱)になりました。HPが減少し続けます』
フィルタースライムで防いでいたにも関わらず、戦闘の衝撃で吸い込んでしまったらしい。すぐに解毒薬を飲んで回復する。
問題は、カエデの方だった。
彼女は二体を相手に、互角以上の戦いを繰り広げていた。だが、その動きが、ほんのわずかに鈍っているように見えた。息も少し荒い。
「カエデさん!」
俺が声をかける。
「問題ない!」と、彼女は気丈に返した。だが、その額には脂汗が浮かんでいた。聖騎士の耐性スキルをもってしても、この濃密な胞子の中で激しい戦闘を続ければ、毒の影響は避けられない。彼女のHPゲージが、ごくわずかずつだが、確実に減少を続けていた。
そして、ついにその時が来た。
カエデが一体のフライングエイプを仕留め、もう一体に斬りかかろうとした瞬間。彼女の足が、もつれた。
「くっ……!」
その一瞬の隙を、フライングエイプは見逃さない。鋭い爪が、カエデの肩を深く切り裂いた。
「ぐぅっ……!」
カエデが苦悶の声を漏らし、地面に膝をつく。彼女のステータスに、赤い髑髏のマークが点灯した。強力な毒状態に陥った証だ。
「解毒薬を!」
「もう使った!だが、効果が薄い!」
彼女が叫ぶ。どうやら、このダンジョン固有の毒は、市販の薬では完全に癒せないらしい。フライングエイプが、動けない彼女にとどめを刺そうと、牙を剥いて飛びかかる。
「させるか!」
俺はオブシダン・スライムを彼女の前に滑り込ませ、攻撃を防いだ。だが、状況は最悪だ。カエデが戦えなければ、俺たちに勝ち目はない。
どうする。どうすればいい。この状況を打開する手は。
俺は必死に周囲を見渡した。視界の隅々まで、情報を求める。毒キノコ、毒の胞子、そして……。
あった。毒キノコの群生のすぐそばに、ひっそりと生えている青白い薬草。俺は即座に鑑定スキルを発動させた。
【月光草:強力な解毒作用を持つ薬草。強い毒の近くに生える特性がある】
これだ!
俺はカエデに向かって叫んだ。
「カエデさん!少しだけ、時間を稼いでください!」
「何を……する気だ……?」
朦朧としながらも、彼女は俺を見る。
「あなたを治すモンスターを、今ここで創ります!」
俺の言葉に、彼女は目を見開いた。この、状況で。創造をすると言うのか。正気の沙汰ではない。彼女の瞳がそう語っていた。
だが、俺は本気だった。
「頼みます!」
俺の真剣な目に、彼女は何かを感じ取ったのだろう。彼女はレイピアを支えに、ふらつきながらも立ち上がった。
「……分かった。三分だ。三分だけ、持たせてやる」
それが、彼女が振り絞った最後の力だった。
彼女はオブシダン・スライムと連携し、フライングエイプの足止めに徹する。その間に、俺は月光草を素早く採取し、創造の準備に入った。
スキル、創造。
頭の中に設計図が浮かび上がる。
核となるのは、浄化作用を持つ『清浄な水』を多めに配合した、ベーススライム。そこに、採取したばかりの『月光草』を投入する。ただ混ぜるだけじゃない。スライムの体内で、薬草の成分を抽出し、凝縮し、強力な解毒液を生成させる。そんなイメージを、強く、強く念じた。
創造の光が、今までになく複雑な輝きを放つ。俺の集中力は、極限まで高まっていた。
カエデのHPは、もう残りわずかだ。オブシダン・スライムにも、ひびが入り始めている。もう、限界が近い。
「急げ……急げ!」
光が収束する。作業台もない、こんなフィールドのど真ん中で。俺の即興の創造が、形になる。
光が消えた時、俺の手の中には、淡い青色の光を放つ半透明のスライムがいた。
【メディック・スライム】
スキル:デトックス、ヒール(微)
「できた!」
俺は完成したスライムを手に、カエデの元へ駆け寄った。
「カエデさん!これを傷口に!」
俺はメディックスライムを、彼女が爪で抉られた肩の傷に押し付けた。ひんやりとしたスライムが、傷を覆うように広がる。
「……!?」
カエデの体が、びくりと震えた。スライムから、温かい光が彼女の体へと流れ込んでいく。毒を示す髑髏マークが明滅し、やがて、すっと消えた。HPの減少も止まり、逆にわずかずつ回復を始める。
「毒が……消えていく……?」
彼女は信じられないという顔で、自分の肩に張り付くスライムを見ていた。
毒が抜けたことで、彼女の動きに本来のキレが戻る。
「はあっ!」
気合一閃。彼女のレイピアが、フライングエイプの心臓を正確に貫いた。モンスターは断末魔の悲鳴を上げ、光となって消滅した。
戦闘が終わり、森に再び静寂が戻った。
カエデは、まだ自分の肩に張り付いているメディックスライムを、じっと見つめていた。それはもはや、彼女にとってただの「道具」ではなかった。絶体絶命の危機から自分を救ってくれた、温かい命そのものに感じられた。
やがて彼女は顔を上げ、俺を見た。その青い瞳から、以前のような氷の冷たさは消えていた。
「……助かった。ありがとう、ユー」
それは、先ほどの事務的なものではない。心の底から発せられた、本物の感謝の言葉だった。
俺は少し照れくさくて、そっぽを向きながら答えた。
「いえ、当然のことをしたまでです」
俺たちの間にあった分厚い氷が、ほんの少しだけ、音を立てて溶け始めた。そんな気がした。
「前衛は私が引き受ける。あなたは後方から指示を」
「分かっています」
そんな事務的なやり取りが二、三度あっただけだ。カエデは俺の前に立ち、一切の隙を見せずに進む。俺は彼女の数歩後ろを歩き、擬態スライムによる索敵と、オブシダン・スライムをいつでも呼び出せる準備を怠らない。
お互いの実力は、先ほどの戦闘で嫌というほど理解していた。カエデの剣技は精密機械のように正確無比。モンスターの弱点を的確に突き、最小限の動きで致命傷を与える。その戦う姿は、一種の芸術のようでもあった。
一方、俺の役割は戦場の盤面を支配することだ。擬態スライムで敵の位置を事前に把握し、有利な地形で戦いを仕掛ける。カエデが攻撃に集中できるよう、側面や背後からの奇襲はオブシダン・スライムで完全に封殺する。
俺たちの連携は、恐ろしいほどうまく機能していた。カエデが一体の敵と戦っている間に、俺は別の敵を粘着スライムで足止めする。彼女が敵の強力なスキルを誘い、俺はそれをオブシダン・スライムで受け止める。言葉を交わさずとも、互いが何をすべきか、何を求めているかが分かった。
カエデは俺の指示の的確さに内心驚いているようだった。だが、それを口にすることはない。俺もまた、彼女の圧倒的な戦闘能力に舌を巻きながらも、それを態度には出さなかった。俺たちの間には、まだ見えない壁が存在していた。
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俺たちは毒キノコの森を進む。そこへ、木々の間から三体のモンスターが飛び出してきた。猿の体に、蝙蝠の翼を持つ『フライングエイプ』。レベルは30。素早い動きで空中を飛び回り、鋭い爪で攻撃してくる厄介な敵だ。
「二体は私が引き受ける!あなたは残りの一体を!」
カエデが叫び、二体のフライングエイプに向かって駆け出す。銀色の閃光が走り、空中戦が始まった。
俺は残った一体を相手にする。擬態スライムで奇襲をかけ、オブシダン・スライムで動きを封じる。いつもの戦法だ。
だが、このエリアの敵は手強かった。フライングエイプはオブシダン・スライムの防御を崩せないと見るや、ターゲットを俺自身に変えてきた。
「しまった!」
鋭い爪が、俺の頬を掠める。HPがわずかに削れた。その時、俺の視界の隅にシステムメッセージが表示された。
『毒状態(弱)になりました。HPが減少し続けます』
フィルタースライムで防いでいたにも関わらず、戦闘の衝撃で吸い込んでしまったらしい。すぐに解毒薬を飲んで回復する。
問題は、カエデの方だった。
彼女は二体を相手に、互角以上の戦いを繰り広げていた。だが、その動きが、ほんのわずかに鈍っているように見えた。息も少し荒い。
「カエデさん!」
俺が声をかける。
「問題ない!」と、彼女は気丈に返した。だが、その額には脂汗が浮かんでいた。聖騎士の耐性スキルをもってしても、この濃密な胞子の中で激しい戦闘を続ければ、毒の影響は避けられない。彼女のHPゲージが、ごくわずかずつだが、確実に減少を続けていた。
そして、ついにその時が来た。
カエデが一体のフライングエイプを仕留め、もう一体に斬りかかろうとした瞬間。彼女の足が、もつれた。
「くっ……!」
その一瞬の隙を、フライングエイプは見逃さない。鋭い爪が、カエデの肩を深く切り裂いた。
「ぐぅっ……!」
カエデが苦悶の声を漏らし、地面に膝をつく。彼女のステータスに、赤い髑髏のマークが点灯した。強力な毒状態に陥った証だ。
「解毒薬を!」
「もう使った!だが、効果が薄い!」
彼女が叫ぶ。どうやら、このダンジョン固有の毒は、市販の薬では完全に癒せないらしい。フライングエイプが、動けない彼女にとどめを刺そうと、牙を剥いて飛びかかる。
「させるか!」
俺はオブシダン・スライムを彼女の前に滑り込ませ、攻撃を防いだ。だが、状況は最悪だ。カエデが戦えなければ、俺たちに勝ち目はない。
どうする。どうすればいい。この状況を打開する手は。
俺は必死に周囲を見渡した。視界の隅々まで、情報を求める。毒キノコ、毒の胞子、そして……。
あった。毒キノコの群生のすぐそばに、ひっそりと生えている青白い薬草。俺は即座に鑑定スキルを発動させた。
【月光草:強力な解毒作用を持つ薬草。強い毒の近くに生える特性がある】
これだ!
俺はカエデに向かって叫んだ。
「カエデさん!少しだけ、時間を稼いでください!」
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朦朧としながらも、彼女は俺を見る。
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「頼みます!」
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それが、彼女が振り絞った最後の力だった。
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スキル、創造。
頭の中に設計図が浮かび上がる。
核となるのは、浄化作用を持つ『清浄な水』を多めに配合した、ベーススライム。そこに、採取したばかりの『月光草』を投入する。ただ混ぜるだけじゃない。スライムの体内で、薬草の成分を抽出し、凝縮し、強力な解毒液を生成させる。そんなイメージを、強く、強く念じた。
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「急げ……急げ!」
光が収束する。作業台もない、こんなフィールドのど真ん中で。俺の即興の創造が、形になる。
光が消えた時、俺の手の中には、淡い青色の光を放つ半透明のスライムがいた。
【メディック・スライム】
スキル:デトックス、ヒール(微)
「できた!」
俺は完成したスライムを手に、カエデの元へ駆け寄った。
「カエデさん!これを傷口に!」
俺はメディックスライムを、彼女が爪で抉られた肩の傷に押し付けた。ひんやりとしたスライムが、傷を覆うように広がる。
「……!?」
カエデの体が、びくりと震えた。スライムから、温かい光が彼女の体へと流れ込んでいく。毒を示す髑髏マークが明滅し、やがて、すっと消えた。HPの減少も止まり、逆にわずかずつ回復を始める。
「毒が……消えていく……?」
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毒が抜けたことで、彼女の動きに本来のキレが戻る。
「はあっ!」
気合一閃。彼女のレイピアが、フライングエイプの心臓を正確に貫いた。モンスターは断末魔の悲鳴を上げ、光となって消滅した。
戦闘が終わり、森に再び静寂が戻った。
カエデは、まだ自分の肩に張り付いているメディックスライムを、じっと見つめていた。それはもはや、彼女にとってただの「道具」ではなかった。絶体絶命の危機から自分を救ってくれた、温かい命そのものに感じられた。
やがて彼女は顔を上げ、俺を見た。その青い瞳から、以前のような氷の冷たさは消えていた。
「……助かった。ありがとう、ユー」
それは、先ほどの事務的なものではない。心の底から発せられた、本物の感謝の言葉だった。
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