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第十二話 道を切り開く力
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毒キノコの森を抜けると、空気は元の澄んだ状態に戻った。だが、俺とカエデの間に流れる空気は、以前とは明らかに違っていた。気まずさと、どこか戸惑いが混じったような、落ち着かない沈黙。
先を行くカエデの歩調は、心なしかいつもより遅い。時折、彼女の視線がちらりとこちらを向くのを感じる。俺もどう話しかけていいか分からず、ただ黙って彼女の背中を追った。
沈黙を破ったのは、カエデの方だった。
「……あのモンスター」
彼女は前を向いたまま、ぽつりと呟いた。
「即興で、創り出したのか。あの状況で」
「まあ、はい。必要な素材が、運良く近くにあったので」
「素材さえあれば、どんなモンスターでも創れるのか」
その問いには、純粋な好奇の色が滲んでいた。俺の力を探ろうというよりは、未知の現象を理解しようとする学者のような口調だった。
「どんなものでも、というわけじゃありません。素材の特性を理解して、うまく組み合わせないと。失敗すれば、ただの弱いスライムが生まれるだけです」
俺は自分の創造理論の一端を、できるだけ簡潔に説明した。素材の性質、配合比率、そして何より、創り出すものの明確なイメージ。それらが噛み合った時にだけ、奇跡は起きるのだと。
カエデは黙って俺の話を聞いていた。相槌はなかったが、その背中が真剣に耳を傾けていることを物語っていた。
しばらく進むと、俺たちの目の前に絶望的な光景が広がった。
道の先が、完全に途絶えている。巨大な壁のように、無数のツタが絡み合い、行く手を阻んでいたのだ。ツタは一本一本が人の腕ほどもあり、表面は黒光りしていて、まるで金属のようだった。薄暗い洞窟のようになっており、奥からは湿った空気が流れてくる。
「これは……」
カエデが眉をひそめる。
彼女は躊躇なく前に出ると、レイピアを抜き放った。
「私が道を切り開く」
彼女は大きく踏み込み、渾身の突きを放った。スキル『ホーリー・ストライク』。聖なる光を纏った切っ先が、ツタの一本に突き刺さる。
ガキンッ!と、硬い金属同士がぶつかるような音が響き、火花が散った。
カエデの体が、衝撃でわずかに後退する。そして、彼女がレイピアを突き立てたツタには、白い傷が一つ付いただけ。切断には程遠い状態だった。
「なんて硬さだ……!」
カエデは驚愕の声を漏らした。彼女は諦めず、角度を変え、斬撃、連撃と、持てる技の限りを尽くす。だが、結果は同じだった。ツタの壁は、びくともしない。
数分後、カエデはレイピアを鞘に収め、荒い息をついた。
「ダメだ。私の剣では断ち切れない。まるで鋼鉄のようだ。迂回ルートを探すしかないか」
その声には、隠しきれない悔しさが滲んでいた。自分の力が通用しない壁に、初めて直面したのだろう。
その時、俺は彼女を制止した。
「待ってください。俺に考えがあります」
カエデは、はっとしたように振り返った。
「……また、何か創るのか?」
その青い瞳には、以前のような疑念の色はなかった。そこにあったのは、かすかな期待。俺の常識外れの力に、何かを期待する色だった。
俺は頷くと、ツタの壁に近づいてその表面を観察した。硬い。確かに硬い。だが、それは力に対しての「面」の防御だ。カエデの剣のような広い刃では、力が分散してしまう。必要なのは、全ての力を一点に集中させる、針のような「点」の攻撃。あるいは、極限まで薄く研ぎ澄まされた刃による「線」の切断。
「斬る」という一点に特化したモンスター。それが必要だった。
俺はアイテムボックスを探る。道中で倒したモンスターたちのドロップアイテムが、ずらりと並んでいた。その中に、使えそうなものがあった。
『スネークウルフの牙』と『フライングエイプの爪』。
鑑定すると、どちらも【極めて硬質で鋭い。武器の素材になる】と表示された。これだ。この鋭さを、スライムに組み込む。
「カエデさん、少し下がっていてください」
俺は創造の準備に入った。
カエデは何も言わず、数歩下がって俺のやることを見守っている。その視線が、心地よいプレッシャーとして背中に感じられた。
スキル、創造。
ベースとなるスライムは、体の柔軟性が高いものを選ぶ。形状を自在に操るためには、硬さよりも柔らかさが必要だ。
そこに、牙と爪を粉末状にしたものを練り込んでいく。ただ混ぜるだけではない。スライムの体の一部を、この粉末を高密度に集積させた、極薄の刃に変形させる。そんな明確なイメージを脳裏に描いた。
それは、まるで高速で振動するカッターの刃。対象の分子結合を、振動で断ち切る。そんなSF映画のような光景を思い浮かべた。
創造の光が、俺の手元で収束していく。
「ユー様。新たな同胞の誕生です。シャキン」
どこか金属的な響きを持つ電子音声と共に、創造は完了した。
俺の手のひらの上にいたのは、メタリックな輝きを放つ、銀色のスライムだった。
【カッタースライム】
スキル:ブレードフォーム、高速振動
「行け」
俺がツタの壁を指差すと、カッタースライムはゆっくりと前進した。そして、ツタに触れる寸前、その体の一部がシューッと音を立てて変形を始める。あっという間に、紙よりも薄い、剃刀のような刃が形成された。
キーン、と耳鳴りのような高周波が、刃から放たれる。スキル『高速振動』が発動した証拠だ。
カッタースライムの刃が、ツタの表面にそっと触れる。
次の瞬間、信じられない光景が広がった。
ジュウウウッ、という金属を焼き切るような音と共に、あの頑強なツタが、まるで熱したナイフでバターを切るように、いともたやすく切断されていく。抵抗というものが、一切感じられない。
呆然と、その光景を見つめるカエデの息を呑む音が聞こえた。
カッタースライムは、まるでダンスを踊るかのように滑らかに動き、次々とツタを切り刻んでいく。数分もしないうちに、人が一人通れるほどのトンネルが、ツタの壁にぽっかりと開いていた。
「……信じられない」
カエデが、絞り出すように呟いた。
「私の剣が、あれほど刃が立たなかったものを……あんな、小さなモンスターが……」
自分の最強の武器が無力だった壁を、俺が生み出した名もなきスライムが、やすやすと破壊してしまった。その事実が、彼女の騎士としてのプライドを、そして世界の常識を、根底から揺さぶっているのが分かった。
俺はカッタースライムをアイテムボックスに戻すと、カエデの方を向いた。
「道ができました。行きましょう」
カエデは、しばらく動かなかった。彼女は、切り開かれたトンネルと俺の顔を、何度も見比べていた。やがて、彼女はふっと息を吐くと、静かに口を開いた。
「あなたの力は……私の剣とは、全く違うものだ」
その声には、もう軽蔑の色はなかった。ただ、純粋な畏敬があった。
「だが、それは確かに……道を切り開く力だ」
彼女はそう言うと、俺に並ぶようにして、トンネルの中へと足を踏み入れた。
俺たちの間にあった最後の壁が、このツタの壁と共に、切り開かれたような気がした。
取引相手から、仲間へ。
俺たちの関係が、確かに変わった瞬間だった。道の先には、このダンジョンの核心部であろう、新たな光景が広がっていた。
先を行くカエデの歩調は、心なしかいつもより遅い。時折、彼女の視線がちらりとこちらを向くのを感じる。俺もどう話しかけていいか分からず、ただ黙って彼女の背中を追った。
沈黙を破ったのは、カエデの方だった。
「……あのモンスター」
彼女は前を向いたまま、ぽつりと呟いた。
「即興で、創り出したのか。あの状況で」
「まあ、はい。必要な素材が、運良く近くにあったので」
「素材さえあれば、どんなモンスターでも創れるのか」
その問いには、純粋な好奇の色が滲んでいた。俺の力を探ろうというよりは、未知の現象を理解しようとする学者のような口調だった。
「どんなものでも、というわけじゃありません。素材の特性を理解して、うまく組み合わせないと。失敗すれば、ただの弱いスライムが生まれるだけです」
俺は自分の創造理論の一端を、できるだけ簡潔に説明した。素材の性質、配合比率、そして何より、創り出すものの明確なイメージ。それらが噛み合った時にだけ、奇跡は起きるのだと。
カエデは黙って俺の話を聞いていた。相槌はなかったが、その背中が真剣に耳を傾けていることを物語っていた。
しばらく進むと、俺たちの目の前に絶望的な光景が広がった。
道の先が、完全に途絶えている。巨大な壁のように、無数のツタが絡み合い、行く手を阻んでいたのだ。ツタは一本一本が人の腕ほどもあり、表面は黒光りしていて、まるで金属のようだった。薄暗い洞窟のようになっており、奥からは湿った空気が流れてくる。
「これは……」
カエデが眉をひそめる。
彼女は躊躇なく前に出ると、レイピアを抜き放った。
「私が道を切り開く」
彼女は大きく踏み込み、渾身の突きを放った。スキル『ホーリー・ストライク』。聖なる光を纏った切っ先が、ツタの一本に突き刺さる。
ガキンッ!と、硬い金属同士がぶつかるような音が響き、火花が散った。
カエデの体が、衝撃でわずかに後退する。そして、彼女がレイピアを突き立てたツタには、白い傷が一つ付いただけ。切断には程遠い状態だった。
「なんて硬さだ……!」
カエデは驚愕の声を漏らした。彼女は諦めず、角度を変え、斬撃、連撃と、持てる技の限りを尽くす。だが、結果は同じだった。ツタの壁は、びくともしない。
数分後、カエデはレイピアを鞘に収め、荒い息をついた。
「ダメだ。私の剣では断ち切れない。まるで鋼鉄のようだ。迂回ルートを探すしかないか」
その声には、隠しきれない悔しさが滲んでいた。自分の力が通用しない壁に、初めて直面したのだろう。
その時、俺は彼女を制止した。
「待ってください。俺に考えがあります」
カエデは、はっとしたように振り返った。
「……また、何か創るのか?」
その青い瞳には、以前のような疑念の色はなかった。そこにあったのは、かすかな期待。俺の常識外れの力に、何かを期待する色だった。
俺は頷くと、ツタの壁に近づいてその表面を観察した。硬い。確かに硬い。だが、それは力に対しての「面」の防御だ。カエデの剣のような広い刃では、力が分散してしまう。必要なのは、全ての力を一点に集中させる、針のような「点」の攻撃。あるいは、極限まで薄く研ぎ澄まされた刃による「線」の切断。
「斬る」という一点に特化したモンスター。それが必要だった。
俺はアイテムボックスを探る。道中で倒したモンスターたちのドロップアイテムが、ずらりと並んでいた。その中に、使えそうなものがあった。
『スネークウルフの牙』と『フライングエイプの爪』。
鑑定すると、どちらも【極めて硬質で鋭い。武器の素材になる】と表示された。これだ。この鋭さを、スライムに組み込む。
「カエデさん、少し下がっていてください」
俺は創造の準備に入った。
カエデは何も言わず、数歩下がって俺のやることを見守っている。その視線が、心地よいプレッシャーとして背中に感じられた。
スキル、創造。
ベースとなるスライムは、体の柔軟性が高いものを選ぶ。形状を自在に操るためには、硬さよりも柔らかさが必要だ。
そこに、牙と爪を粉末状にしたものを練り込んでいく。ただ混ぜるだけではない。スライムの体の一部を、この粉末を高密度に集積させた、極薄の刃に変形させる。そんな明確なイメージを脳裏に描いた。
それは、まるで高速で振動するカッターの刃。対象の分子結合を、振動で断ち切る。そんなSF映画のような光景を思い浮かべた。
創造の光が、俺の手元で収束していく。
「ユー様。新たな同胞の誕生です。シャキン」
どこか金属的な響きを持つ電子音声と共に、創造は完了した。
俺の手のひらの上にいたのは、メタリックな輝きを放つ、銀色のスライムだった。
【カッタースライム】
スキル:ブレードフォーム、高速振動
「行け」
俺がツタの壁を指差すと、カッタースライムはゆっくりと前進した。そして、ツタに触れる寸前、その体の一部がシューッと音を立てて変形を始める。あっという間に、紙よりも薄い、剃刀のような刃が形成された。
キーン、と耳鳴りのような高周波が、刃から放たれる。スキル『高速振動』が発動した証拠だ。
カッタースライムの刃が、ツタの表面にそっと触れる。
次の瞬間、信じられない光景が広がった。
ジュウウウッ、という金属を焼き切るような音と共に、あの頑強なツタが、まるで熱したナイフでバターを切るように、いともたやすく切断されていく。抵抗というものが、一切感じられない。
呆然と、その光景を見つめるカエデの息を呑む音が聞こえた。
カッタースライムは、まるでダンスを踊るかのように滑らかに動き、次々とツタを切り刻んでいく。数分もしないうちに、人が一人通れるほどのトンネルが、ツタの壁にぽっかりと開いていた。
「……信じられない」
カエデが、絞り出すように呟いた。
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自分の最強の武器が無力だった壁を、俺が生み出した名もなきスライムが、やすやすと破壊してしまった。その事実が、彼女の騎士としてのプライドを、そして世界の常識を、根底から揺さぶっているのが分かった。
俺はカッタースライムをアイテムボックスに戻すと、カエデの方を向いた。
「道ができました。行きましょう」
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