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第十五話 変化の兆し
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光の粒子が完全に消え去り、広場には静寂が戻った。後には、山のように積まれたドロップアイテムが残されている。俺とカエデは、しばらくの間、疲労で動けなかった。ただ荒い息を繰り返し、今しがた成し遂げた勝利の余韻に浸っていた。
先に立ち上がったのはカエデだった。彼女は俺に手を差し伸べる。
「立てるか、ユー」
その手は少し震えていたが、力強かった。俺はその手を取り、ふらつきながらも立ち上がった。
「やりましたね、俺たち」
「ああ。正直、勝てるとは思っていなかった」
カエデはそう言うと、ドロップアイテムの山に近づいた。鉱石、魔石、そしてゴーレムの核と思わしき巨大な石。どれも高レベルの素材ばかりだ。
「分配は、どうする。今回の功労者は、間違いなくあなただ。あなたが望むものを」
彼女の言葉は、戦友に対する敬意に満ちていた。
「俺は、あれが手に入れば十分です」
俺はアイテムの山の中から、ひときわ強い生命のオーラを放つ一本の枝を指差した。古木のようでありながら、瑞々しい緑の若葉が生い茂っている不思議な枝。鑑定するまでもない。あれが、俺たちの目的だった『生命の枝』だ。
カエデは頷くと、その枝を拾い上げ、俺に手渡した。
「あなたのものだ。私の剣では、あれにたどり着くことすらできなかっただろう」
俺は生命の枝を受け取った。手に取ると、温かい力が体の中に流れ込んでくるような感覚があった。これを使えば、きっと今までにない、素晴らしいモンスターが創れる。胸が高鳴った。
「残りのアイテムは、あなたが。私の取り分は、これで十分だ」
カエデがそう言うと、俺は首を横に振った。
「いえ、あなたの剣がなければ、俺はとっくにやられていました。それに、あの作戦も、あなたがいなければ成功しなかった。これは、二人で掴んだ勝利です。だから、きっちり山分けにしましょう」
俺の言葉に、カエデは少し驚いたように目を見開いた。そして、ふっと、本当に嬉しそうに微笑んだ。それは、今まで見たどんな表情よりも自然で、柔らかい笑顔だった。
「……分かった。では、言葉に甘えさせてもらう」
俺たちは戦利品を分け合い、ダンジョンからの帰路についた。行きであれほど苦労した道も、二人で進むと不思議と短く感じられた。道中、ぽつりぽつりと会話を交わす。
「あなたのモンスターは……いつも、あんな風に命令を聞くのか」
カエデが、ふと尋ねた。
「ええ。俺がイメージした通りに動いてくれます。まあ、たまに失敗もしますけど」
「そうか……」
彼女は何かを考えるように、少し黙り込んだ。そして、意を決したように、続けた。
「以前、私はあなたの戦い方を邪道だと言った。モンスターを、魂のない駒のように扱っている、と」
その言葉に、俺は少し身構えた。
だが、彼女が続けたのは、意外な言葉だった。
「撤回させてもらう。あれは、駒などではない」
カエデは立ち止まり、俺の方をまっすぐに向いた。その青い瞳は、真剣そのものだった。
「あなたは、仲間を救うためにモンスターを創り出した。道を切り開くために、モンスターを創り出した。それは、ただの道具や駒を扱う者の発想ではない。彼らは、あなたの意志そのものなのだろう。あなたの体の一部であり、あなたの剣であり、あなたの盾なのだ」
その言葉は、誰よりも的確に、俺とモンスターたちの関係性を言い当てていた。俺自身、そこまで深く考えていなかった。だが、彼女の言う通りなのかもしれない。スライムたちは、戦闘能力のない俺という存在が、この世界で戦うために生み出した、もう一人の自分。
「あなたのモンスターへの想い、見誤っていた。すまない」
彼女はそう言って、再び深く頭を下げた。孤高の聖騎士が、不遇職のモンスターメイカーに。その光景は、少しだけ現実離れして見えた。
「顔を上げてください、カエデさん。俺は、あなたの言葉で目が覚めた部分もあるんです。だから、もう気にしないでください」
俺たちは、ダンジョンの出口にたどり着いた。霧が晴れ、フロンティアの街へと続く見慣れた道が見える。俺たちの短い共闘は、ここで終わりだ。
「それじゃあ、俺はこれで」
俺が別れを告げようとすると、彼女はそれを遮るように口を開いた。
「ユー」
彼女は俺の名前を呼んだ。その声は、初めて会った時とは比べ物にならないほど、穏やかだった。
「また、どこかで会えるか」
「え?」
「次に会う時、あなたがどんなモンスターを創り出すのか。少し、興味がある」
彼女はそう言うと、悪戯っぽく片目をつぶった。その表情は、氷の騎士というよりは、年相応の少女のそれに見えた。
俺は、心臓が大きく跳ねるのを感じた。
「ええ。きっと、もっとすごい奴を創ってみせますよ」
「楽しみにしている」
彼女はそう言い残し、踵を返した。夕日に照らされた白銀の鎧が、きらりと輝く。彼女は一度も振り返ることなく、雑踏の中へと消えていった。
一人残された俺は、しばらくその場に立ち尽くしていた。
手の中には、ずしりと重い『生命の枝』。そして、胸の中には、確かな温かいものが残っていた。
彼女との出会いは、俺に多くのものを与えてくれた。悔しさも、挫折も、そして、誰かと共に戦うことの喜びも。
俺は、手にした生命の枝を強く握りしめた。
カエデ。次に会う時は、もっと驚かせてやる。もっと、あんたの常識を覆してやる。
モンスターメイカー、ユー。彼の新たな目標が、確かに定まった瞬間だった。空は、どこまでも高く、澄み渡っていた。
先に立ち上がったのはカエデだった。彼女は俺に手を差し伸べる。
「立てるか、ユー」
その手は少し震えていたが、力強かった。俺はその手を取り、ふらつきながらも立ち上がった。
「やりましたね、俺たち」
「ああ。正直、勝てるとは思っていなかった」
カエデはそう言うと、ドロップアイテムの山に近づいた。鉱石、魔石、そしてゴーレムの核と思わしき巨大な石。どれも高レベルの素材ばかりだ。
「分配は、どうする。今回の功労者は、間違いなくあなただ。あなたが望むものを」
彼女の言葉は、戦友に対する敬意に満ちていた。
「俺は、あれが手に入れば十分です」
俺はアイテムの山の中から、ひときわ強い生命のオーラを放つ一本の枝を指差した。古木のようでありながら、瑞々しい緑の若葉が生い茂っている不思議な枝。鑑定するまでもない。あれが、俺たちの目的だった『生命の枝』だ。
カエデは頷くと、その枝を拾い上げ、俺に手渡した。
「あなたのものだ。私の剣では、あれにたどり着くことすらできなかっただろう」
俺は生命の枝を受け取った。手に取ると、温かい力が体の中に流れ込んでくるような感覚があった。これを使えば、きっと今までにない、素晴らしいモンスターが創れる。胸が高鳴った。
「残りのアイテムは、あなたが。私の取り分は、これで十分だ」
カエデがそう言うと、俺は首を横に振った。
「いえ、あなたの剣がなければ、俺はとっくにやられていました。それに、あの作戦も、あなたがいなければ成功しなかった。これは、二人で掴んだ勝利です。だから、きっちり山分けにしましょう」
俺の言葉に、カエデは少し驚いたように目を見開いた。そして、ふっと、本当に嬉しそうに微笑んだ。それは、今まで見たどんな表情よりも自然で、柔らかい笑顔だった。
「……分かった。では、言葉に甘えさせてもらう」
俺たちは戦利品を分け合い、ダンジョンからの帰路についた。行きであれほど苦労した道も、二人で進むと不思議と短く感じられた。道中、ぽつりぽつりと会話を交わす。
「あなたのモンスターは……いつも、あんな風に命令を聞くのか」
カエデが、ふと尋ねた。
「ええ。俺がイメージした通りに動いてくれます。まあ、たまに失敗もしますけど」
「そうか……」
彼女は何かを考えるように、少し黙り込んだ。そして、意を決したように、続けた。
「以前、私はあなたの戦い方を邪道だと言った。モンスターを、魂のない駒のように扱っている、と」
その言葉に、俺は少し身構えた。
だが、彼女が続けたのは、意外な言葉だった。
「撤回させてもらう。あれは、駒などではない」
カエデは立ち止まり、俺の方をまっすぐに向いた。その青い瞳は、真剣そのものだった。
「あなたは、仲間を救うためにモンスターを創り出した。道を切り開くために、モンスターを創り出した。それは、ただの道具や駒を扱う者の発想ではない。彼らは、あなたの意志そのものなのだろう。あなたの体の一部であり、あなたの剣であり、あなたの盾なのだ」
その言葉は、誰よりも的確に、俺とモンスターたちの関係性を言い当てていた。俺自身、そこまで深く考えていなかった。だが、彼女の言う通りなのかもしれない。スライムたちは、戦闘能力のない俺という存在が、この世界で戦うために生み出した、もう一人の自分。
「あなたのモンスターへの想い、見誤っていた。すまない」
彼女はそう言って、再び深く頭を下げた。孤高の聖騎士が、不遇職のモンスターメイカーに。その光景は、少しだけ現実離れして見えた。
「顔を上げてください、カエデさん。俺は、あなたの言葉で目が覚めた部分もあるんです。だから、もう気にしないでください」
俺たちは、ダンジョンの出口にたどり着いた。霧が晴れ、フロンティアの街へと続く見慣れた道が見える。俺たちの短い共闘は、ここで終わりだ。
「それじゃあ、俺はこれで」
俺が別れを告げようとすると、彼女はそれを遮るように口を開いた。
「ユー」
彼女は俺の名前を呼んだ。その声は、初めて会った時とは比べ物にならないほど、穏やかだった。
「また、どこかで会えるか」
「え?」
「次に会う時、あなたがどんなモンスターを創り出すのか。少し、興味がある」
彼女はそう言うと、悪戯っぽく片目をつぶった。その表情は、氷の騎士というよりは、年相応の少女のそれに見えた。
俺は、心臓が大きく跳ねるのを感じた。
「ええ。きっと、もっとすごい奴を創ってみせますよ」
「楽しみにしている」
彼女はそう言い残し、踵を返した。夕日に照らされた白銀の鎧が、きらりと輝く。彼女は一度も振り返ることなく、雑踏の中へと消えていった。
一人残された俺は、しばらくその場に立ち尽くしていた。
手の中には、ずしりと重い『生命の枝』。そして、胸の中には、確かな温かいものが残っていた。
彼女との出会いは、俺に多くのものを与えてくれた。悔しさも、挫折も、そして、誰かと共に戦うことの喜びも。
俺は、手にした生命の枝を強く握りしめた。
カエデ。次に会う時は、もっと驚かせてやる。もっと、あんたの常識を覆してやる。
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