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第二十七話 スライム印のポーション
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大商業都市アステリア。その圧倒的なスケールと活気に、俺たちは完全に気圧されていた。見るもの全てが新しく、刺激的だ。だが、夢見心地でいられたのも束の間。俺たちはすぐに、この大都市の厳しい現実に直面することになった。
「宿代、一泊で銀貨三枚!?フロンティアの五倍じゃないか……!」
「武具の修理費も馬鹿にならない。素材の値段も、何もかもが高いな」
物価。それが、俺たち新参者を最初に打ちのめした壁だった。ゴブリンの洞窟で稼いだ大金も、この街で本格的に活動するには心許ない。俺たちは早急に、安定した収入源を確保する必要に迫られていた。
翌日、俺たちは情報収集と資金策のため、三手に分かれて行動することにした。カエデは武具屋や訓練所を巡り、この街のトッププレイヤーたちの実力や装備の相場を探る。俺とゴブは、錬金術ギルドや素材屋を回り、未知の素材や創造のヒントを探す。そしてリオは、商人としての本領発揮。アステリアの市場調査へと向かった。
数時間後、拠点に定めた宿屋に全員が集合する。カエデは、厳しい表情で報告した。
「レベル50以上のプレイヤーが、ごろごろいる。装備も、私が見たこともないような魔法効果が付与されたものばかりだ。私たちがここで名を上げるには、相当な覚悟と準備が必要になる」
俺も、素材屋で見た光景に溜め息をついた。
「ドラゴンの鱗一枚が、金貨十枚……。今の俺たちの財産じゃ、手も足も出ません。創造のレベルを上げるには、まず稼がないと」
最後に、リオが重い口を開いた。彼女の顔色は、朝の快活さが嘘のように曇っている。
「市場は、もっと深刻だよ。特に、冒険に必須なポーション類。そのほとんどが、大手ギルドの息がかかった商会によって独占販売されてる。価格は吊り上げられ、品質はそれほどでもない。でも、プレイヤーはそれを買うしかない。完全に、買い手市場が食い物にされてるんだ」
彼女の言葉に、俺たちは押し黙った。アステリアは、光り輝く夢の都であると同時に、強者が弱者を搾取する、厳しい競争社会でもあったのだ。
「これじゃあ、私たちみたいに後ろ盾のない新参者は、まともに冒険の準備もできない。消耗品を買うだけで、稼いだ金が全部消えていく……!」
リオが、悔しそうにテーブルを叩いた。彼女の正義感が、この不健全な市場を許せないのだろう。
重苦しい空気が、部屋を支配する。その時だった。
「マスター、MPが……」
ゴブが、俺のローブの裾をくいくいと引っ張った。街を歩き回る間、彼は索敵魔法を使い続けていたため、MPが空になりかけていたのだ。
「ああ、ごめんな。今、回復させてやる」
俺はアイテムボックスから、実験用に創っておいた一体のスライムを取り出した。それは、フロンティア近くの魔力を帯びた泉の水を配合して創った【マナウォーター・スライム】。その体液には、MPを回復させる効果がある。
俺がスライムの体液を小瓶に絞り、ゴブに飲ませる。すると、ゴブのMPゲージが、みるみるうちに回復していった。市販のMPポーションよりも、明らかに回復速度が速い。
その光景を、リオは見逃さなかった。
彼女の商人の瞳が、カッと見開かれた。
「……ユーさん、それ」
彼女はテーブルから身を乗り出すと、俺の手の中にあるスライムを、食い入るような目で見つめた。
「そのスライム、もしかして……!スキル、千里眼!」
翠玉色の光が、マナウォーター・スライムを鑑定する。数秒後、リオは「これだ……!」と確信に満ちた声を上げた。
「これだよ!私たちが、あの大手ギルドに勝つための武器は!」
彼女は立ち上がり、興奮で頬を紅潮させながら言った。
「ユーさんの創る特殊スライム!その体液を使えば、既存のポーションを遥かに凌駕する、高品質なオリジナルポーションが作れる!しかも、原料はスライムだから、製造コストはほぼゼロ!価格競争でも、品質でも、絶対に勝てる!」
彼女の閃きは、暗雲に差し込む一筋の光だった。そうだ。俺たちには、他の誰にも真似できない、唯一無二の武器がある。俺の、創造術が。
その日から、俺たちの反撃作戦が始まった。
リオは、プロデューサー兼マーケティング担当。俺は、製造担当だ。カエデは、俺たちが開発に集中できるよう、護衛兼雑用係を快く引き受けてくれた。
俺はリオの指示のもと、次々とポーション用の特殊スライムを創造していった。
【メディック・スライム】からは、即効性の高いHP回復薬。
【アシッド・スライム】からは、敵の防御力を一時的に下げる腐食液。
【ライト・スライム】からは、洞窟探索に便利な携帯照明瓶。
既製品にはない、ユニークで強力な効果を持つ商品ラインナップが、次々と完成していく。
そして、販売の日。リオは、その卓越した交渉術で、アステリア中央広場の一等地にある露店スペースを格安で確保してきた。
『スライム印のぷるぷるポーション、新発売!』
リオが手書きした、どこか気の抜ける看板。その下に、色とりどりの液体が入った小瓶が並べられる。
しかし、最初は誰も見向きもしなかった。
「スライムのポーション?気持ち悪い」
「聞いたこともない店だな。どうせ効果も大したことないんだろ」
プレイヤーたちは、大手商会のブランドを信用しきっており、俺たちの無名の商品には見向きもしてくれない。
だが、リオは少しも焦っていなかった。
「ふふん、想定内だよ。見てな、ユーさん。ここからが、私の腕の見せ所だからね!」
彼女はゴブに目配せした。
「ゴブちゃん、お願い!」
「お任せを!」
ゴブは、露店の前でわざと強力な魔法を連発し、自分のMPを空にしてみせた。そして、ぐったりと疲れたフリをする。そこへ、リオがMP回復ポーションを差し出した。
「さあ、そこのお疲れの魔法使いさん!この『スライム印のすっきりMPポーション』を飲んでごらん!」
ゴブがポーションを飲み干すと、そのMPゲージが、周囲のプレイヤーたちの目の前で、一瞬にして全快した。
「なっ!?」
「今の、本当にポーションか?回復速度が尋常じゃないぞ!」
「しかも、あんな小さな瓶で全快だと!?」
周囲が、ざわめき始める。サクラを使った、古典的だが効果的な実演販売。
一人のプレイヤーが、半信半疑でMPポーションを一つ買っていった。そして、その場で効果を試すと、驚愕の声を上げて仲間を呼びに行った。
そこからだった。
噂が噂を呼び、一人、また一人と客が増え始める。HPポーションの驚異的な回復量に驚く戦士。腐食液のデバフ効果に目をつけるタンク役。
「この照明瓶、マジックアイテムより持続時間が長いじゃないか!」
「なんだこれ!俺のギルドで買い占めさせてもらう!」
最初は閑古鳥が鳴いていた俺たちの露店は、一時間もしないうちに、黒山の人だかりができていた。
「て、店長!MPポーション売り切れです!」
「HPポーションも、在庫あとわずか!」
俺とカエデは、商品を並べるそばから飛ぶように売れていく状況に、嬉しい悲鳴を上げる。
リオは、慣れた手つきで客を捌きながら、満面の笑みで言った。
「言ったでしょ、ユーさん。本物の価値は、必ず認められるんだって!」
その日の終わり。俺たちの金庫は、信じられない額の金で満杯になっていた。
スライム印のポーションは、アステリアの冒険者たちの間で、瞬く間に必須アイテムとしての地位を確立した。
俺たちは、この大都市で生き抜くための、大きな足がかりを手に入れたのだ。
だが、俺たちはまだ知らなかった。この小さな露店の、あまりにも大きな成功が、この街の市場を支配する巨大な影の、不興を買うことになるということを。
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翌日、俺たちは情報収集と資金策のため、三手に分かれて行動することにした。カエデは武具屋や訓練所を巡り、この街のトッププレイヤーたちの実力や装備の相場を探る。俺とゴブは、錬金術ギルドや素材屋を回り、未知の素材や創造のヒントを探す。そしてリオは、商人としての本領発揮。アステリアの市場調査へと向かった。
数時間後、拠点に定めた宿屋に全員が集合する。カエデは、厳しい表情で報告した。
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「これじゃあ、私たちみたいに後ろ盾のない新参者は、まともに冒険の準備もできない。消耗品を買うだけで、稼いだ金が全部消えていく……!」
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「マスター、MPが……」
ゴブが、俺のローブの裾をくいくいと引っ張った。街を歩き回る間、彼は索敵魔法を使い続けていたため、MPが空になりかけていたのだ。
「ああ、ごめんな。今、回復させてやる」
俺はアイテムボックスから、実験用に創っておいた一体のスライムを取り出した。それは、フロンティア近くの魔力を帯びた泉の水を配合して創った【マナウォーター・スライム】。その体液には、MPを回復させる効果がある。
俺がスライムの体液を小瓶に絞り、ゴブに飲ませる。すると、ゴブのMPゲージが、みるみるうちに回復していった。市販のMPポーションよりも、明らかに回復速度が速い。
その光景を、リオは見逃さなかった。
彼女の商人の瞳が、カッと見開かれた。
「……ユーさん、それ」
彼女はテーブルから身を乗り出すと、俺の手の中にあるスライムを、食い入るような目で見つめた。
「そのスライム、もしかして……!スキル、千里眼!」
翠玉色の光が、マナウォーター・スライムを鑑定する。数秒後、リオは「これだ……!」と確信に満ちた声を上げた。
「これだよ!私たちが、あの大手ギルドに勝つための武器は!」
彼女は立ち上がり、興奮で頬を紅潮させながら言った。
「ユーさんの創る特殊スライム!その体液を使えば、既存のポーションを遥かに凌駕する、高品質なオリジナルポーションが作れる!しかも、原料はスライムだから、製造コストはほぼゼロ!価格競争でも、品質でも、絶対に勝てる!」
彼女の閃きは、暗雲に差し込む一筋の光だった。そうだ。俺たちには、他の誰にも真似できない、唯一無二の武器がある。俺の、創造術が。
その日から、俺たちの反撃作戦が始まった。
リオは、プロデューサー兼マーケティング担当。俺は、製造担当だ。カエデは、俺たちが開発に集中できるよう、護衛兼雑用係を快く引き受けてくれた。
俺はリオの指示のもと、次々とポーション用の特殊スライムを創造していった。
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だが、リオは少しも焦っていなかった。
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