M.M.O. - Monster Maker Online

夏見ナイ

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第二十六話 大商業都市アステリア

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フロンティアの南門をくぐり、俺たちの長い旅は始まった。
アステリアへと続く街道は、最初の数日こそ整備されていたが、やがて獣道のような険しい山道へと姿を変えた。出現するモンスターも、フロンティア周辺とは比較にならないほど強力なものばかりだった。

だが、俺たちのパーティは、以前とは全く違う次元の強さを手に入れていた。
その中心にいるのは、間違いなくゴブだった。

「マスター!前方より、ロックリザード三体!」
「カエデさん、一体お願いします!残りは俺たちで!」

俺の指示より早く、カエデが駆け出す。彼女が一体のロックリザードと剣を交える間に、残りの二体が俺たちに向かって突進してくる。

「ゴブ、ファイアボール!」
「承知!」

ゴブの小さな手が、彼の背丈ほどもある杖を握りしめる。短い詠唱と共に、杖の先端に灼熱の火球が形成された。それは、ゴブリンシャーマンが使っていたものより遥かに大きく、安定している。

火球が放たれる。一直線に飛翔し、ロックリザードの一体に直撃した。
轟音と共に爆炎が上がり、岩のように硬い鱗を持つモンスターが、悲鳴を上げて吹き飛んだ。HPゲージが一撃で半分以上も削れている。これが、俺の相棒の力。純粋な、圧倒的火力。

「すごい……!」
後方で支援に徹していたリオが、感嘆の声を漏らす。

残った一体は、俺のスライム軍団が足止めする。粘着スライムで動きを封じ、硬質化スライムで攻撃を受け止める。そして、動けなくなった的を、ゴブの第二射が正確に貫いた。

俺たちが二体を無力化する間に、カエデも最後の一体を仕留めていた。戦闘開始から、わずか一分足らず。以前なら一体ずつ慎重に処理していたであろう格上の敵を、俺たちはほとんど無傷で、そして圧倒的な速さで殲滅していた。

カエデが、満足げな表情でこちらに戻ってくる。
「ゴブの魔法は強力だな。私が前に出ている間に、後衛がこれほどの火力を出してくれると、戦いやすさが段違いだ」
「これも、カエデ様が敵の攻撃を引きつけてくださるおかげです」
ゴブは、褒められて少し照れくさそうに、ローブのフードを目深にかぶった。

俺のスライムによる盤面支配。ゴブによる遠距離殲滅。そして、カエデによる近接戦闘。三つの力が噛み合った時、俺たちのパーティは、もはやフロンティア周辺で活動していた頃とは別次元の戦闘集団へと変貌を遂げていた。

険しい山を越え、広大な砂漠を横断し、深い森を抜ける。
夜はリオが用意した携帯テントで野営し、焚き火を囲んで語り合った。カエデの昔のギルドの話。リオが商人を目指した理由。俺がモンスターメイカーになった経緯。そして、ゴブが初めて見る星空に感動する姿。

旅は、俺たちの絆を日に日に強くしていった。俺たちはもはや、ただのパーティ仲間ではなかった。苦楽を共にする、家族のような存在になっていた。

そして、旅立ちから一週間が経った日の午後。
最後の丘を越えた俺たちの目の前に、ついにその光景は広がった。

「……あれが」

誰もが、言葉を失った。
地平線の彼方まで続く、巨大な白い城壁。その内側には、天を突くほどの高さの塔が、まるで剣のように林立している。建物の屋根は、色とりどりの瓦で葺かれ、太陽の光を浴びて宝石のように輝いていた。

空を見上げれば、巨大な鳥、グリフォンが客を乗せて優雅に空を舞い、時には帆を張った小型の飛空艇が、ゆっくりと街の上空を横切っていく。

フロンティアが、小さな村に見えるほどの圧倒的なスケール。
大陸最大の商業都市、アステリア。その威容は、俺たちの想像を遥かに超えていた。

「すごい……!すごすぎるよ……!」
リオが、子供のようにはしゃいでいる。その瞳は、もはや円やドルではなく、この街に眠る無限の商機を捉えていた。

「……強い気配が、いくつも感じられる。あれが、トップランカーたちか」
カエデは、街から放たれる強者たちのオーラを感じ取り、レイピアの柄を強く握りしめた。その表情は、武者震いにも似た興奮に満ちている。

俺とゴブも、ただただ圧倒されていた。
「マスター……。あれが、アステリア……」
「ああ。すごい場所だな、ゴブ」

俺たちは、まるで夢でも見ているかのような気分で、巨大な正門へと続く大通りを歩いた。
門をくぐった瞬間、俺たちは情報の洪水に飲み込まれた。

人、人、人。様々な種族のNPCと、最新の装備に身を包んだプレイヤーたちで、道は溢れかえっている。エルフの奏でる竪琴の音色、ドワーフの鍛冶場から響く槌音、獣人たちの陽気な笑い声。そして、世界中の言語が入り混じった喧騒。その全てが、この街の活気を物語っていた。

道の両脇には、露店がびっしりと並んでいる。
フロンティアでは見たこともないような、光り輝くポーション。モンスターの素材から作られた、異国情緒あふれる装飾品。そして、俺の心を何よりも強く惹きつけたのは、怪しげな光を放つ鉱石や、瓶詰めにされた奇妙な生物の標本を売る店だった。

「ドラゴンの鱗の欠片、だって……!?」
「『深淵の瞳』……これを配合したら、どんなモンスターが……!」
俺は、次から次へと現れる未知の素材に、創造意欲をかき立てられていた。この街は、俺にとって無限の可能性が眠る宝の山だ。

カエデもまた、武具屋が軒を連ねる一角で足を止めていた。ショーウィンドウに飾られた、ミスリル銀で打たれたという美しい長剣。その刀身が放つ魔力の輝きに、彼女は完全に心を奪われているようだった。

そして、リオは。彼女は、もはや狂喜乱舞と言ってもいい状態だった。
「見て、ユーさん!あそこのポーション屋、回復薬がフロンティアの倍の値段で売れてる!輸送コストを考えても、転売だけで大儲けできるよ!」
「あっちの服屋の行列!あれが今、アステリアで一番の流行りだね!よし、デザインを覚えて、素材を安く仕入れて、廉価版を作って売ろう!」

彼女の頭の中では、すでにいくつものビジネスプランが高速で構築されているのだろう。その目は、獲物を狙う鷹のように鋭く、そして楽しげだった。

「マスター!空飛ぶお魚がいます!」
ゴブが、俺のローブの裾を引っ張りながら、空を指差した。見上げると、飛空艇の船着き場から発進した、魚型の遊覧船が優雅に空を泳いでいた。

何もかもが、規格外。何もかもが、新鮮な驚きに満ちている。
俺たちは、この街で何を見つけ、何を成し遂げられるのだろう。

新たな素材、新たな武具、新たな商機。
そして、新たな出会いと、まだ見ぬ強敵たち。

俺たちの冒険の新たな舞台は、これ以上ないほどの期待感と共に、その幕を開けた。フロンティアでの日々が、まるで遠い昔のことのように感じられる。俺たちの本当の物語は、この場所から始まるのだ。
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