M.M.O. - Monster Maker Online

夏見ナイ

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第二十八話 古文書との出会い

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「スライム印のぷるぷるポーション」の成功は、俺たちの懐事情を劇的に改善させた。アステリアに来て早々、物価の高さに打ちのめされていたのが嘘のようだ。潤沢な資金は、俺たちの活動の幅を大きく広げてくれた。

カエデは念願だったミスリル銀のレイピアを手に入れ、その戦闘力はさらに磨きがかかった。リオは稼いだ資金を元手に、フロンティアから商品を仕入れて転売するという新たなビジネスを始め、商人としての地歩を固めつつあった。ゴブも、高価な魔導書を買い与えたことで、新たな魔法の習得に励んでいる。

そして、俺は。
有り余る資金を元手に、アステリアの素材屋で今まで手が出なかった高価な素材を買い漁っていた。ドラゴンの鱗の欠片、グリフォンの風切り羽、ゴーレムの魔石の核。それらを使い、来る日も来る日も新しいモンスターの創造に没頭した。

だが、俺はすぐに壁にぶつかった。
スライム系のモンスターであれば、素材の組み合わせ次第で無限のバリエーションを生み出せる。だが、亜人や獣といった、より複雑な構造を持つモンスターをゼロから創り出すのは、極めて困難だったのだ。

ゴブリン・メイジの創造は、核となる『王の証』というユニークアイテムがあったからこその例外だった。あの奇跡を、安定して再現する術を俺は持っていなかった。ドラゴンの鱗を使っても、生まれてくるのは鱗の硬いスライムが関の山。俺の創造術には、まだ何か根本的なピースが足りていない。そんな焦りにも似た感覚が、俺の中に生まれ始めていた。

そんな俺の悩みを見透かしたかのように、リオが一枚のチラシをテーブルに置いた。
「ユーさん、そんなに思い詰めてるなら、ここに行ってみたらどうかな?」

そこには、巨大な建造物の絵と共に、『アステリア中央大図書館』と書かれていた。
「アステリアの知の殿堂だよ。この世界の歴史、魔法、地理、ありとあらゆる情報がここに集まってる。もしかしたら、モンスター創造に関する古い文献も見つかるかもしれないよ」

リオの言葉に、俺は顔を上げた。図書館。その発想はなかった。俺は今まで、素材という「物」にばかり目を向けていた。だが、本当に必要なのは、創造に関する「知識」なのかもしれない。

「行ってみます」
俺の即答に、リオとカエデもにっこりと笑った。
「よし、じゃあみんなで行こう!私も新しい商売のネタを探したいしね!」
「私も興味がある。強くなるためのヒントが、書物の中に眠っているかもしれん」
「図書館!本がたくさんあるのですね!マスター!」
ゴブも、知的好奇心を刺激されたのか、嬉しそうに杖を揺らしていた。

俺たちは連れ立って、アステリアの中央広場に面した大図書館へと向かった。
その建物は、もはや図書館というより神殿だった。巨大な大理石の柱がいくつも天を支え、ステンドグラスの窓からは色とりどりの光が差し込んでいる。中に入ると、吹き抜けのホールはどこまでも高く、壁一面が天井まで続く本棚で埋め尽くされていた。その光景は、まさに圧巻の一言だった。

「すごい……」
俺は思わず呟いた。本の匂いと、古い紙の匂いが混じり合った独特の空気が、心を落ち着かせる。

俺たちは、司書のNPCにモンスター創造に関する文献を探している旨を伝えた。だが、司書は困ったように首を振った。
「モンスターメイカーは、あまりにも使い手の少ない職業でして……。専門の書物というのは、ほとんど残っておりません。あるいは、古代の錬金術や召喚術の棚に、何か関連するものがあるかもしれませんが」

俺たちは、ほとんど手掛かりのない状態で、膨大な書物の海を彷徨うことになった。
カエデは、古代の剣術に関する書物を見つけて真剣に読みふけっている。リオは、各地の特産品や交易ルートが記された地図を広げ、何やら熱心にメモを取っていた。ゴブは、子供向けの絵本コーナーで、伝説の魔法使いの物語に目を輝かせている。

俺だけが、成果を上げられずにいた。錬金術の棚を端から端まで調べても、出てくるのはポーションの調合レシピや、金属の精錬方法ばかり。召喚術の書物も、異世界の悪魔との契約方法といった、俺の創造術とはかけ離れた内容のものしかなかった。

数時間が経過し、焦りだけが募っていく。やはり、こんな都合よくヒントが見つかるはずないか。諦めかけて、書庫の隅にある椅子に座り込んだ、その時だった。

ふと、視界の片隅に、一つの違和感を覚えた。
それは、誰も見向きもしないような、最下段の棚の奥。他の本とは明らかに違う、古びた革の装丁の本が、半分埋もれるようにして押し込まれていた。

何かに引かれるように、俺はその本に手を伸ばした。ずしりと重い。表面にはびっしりと埃が積もっており、何十年、いや何百年も誰の手にも触れられていないかのようだった。

表紙には、古代語で何かが書かれている。俺には読めない。だが、その中央に描かれた、複数のモンスターのシルエットが絡み合う紋様。それを見た瞬間、俺の直感が告げていた。これだ、と。

俺は、その古文書を抱えて仲間たちの元へ戻った。
「これ、見てください。何か、分かるかもしれません」

俺のただならぬ様子に、三人はそれぞれの作業を中断して集まってきた。
「すごい古そうな本だね。なんて書いてあるの?」
リオが尋ねるが、俺もカエデも首を横に振るしかない。

その時、ゴブが俺のローブの裾を引っ張り、古文書を指差した。
「マスター……これ、読めます。少しだけ」
「本当か、ゴブ!?」

俺たちは、ゴブを中心にテーブルを囲んだ。ゴブは、その小さな指で古代文字を一文字ずつ、ゆっくりと辿っていく。

「ええと……『万象を統べる、理……その名は……しん……か』?」
「進化?」
俺が聞き返すと、ゴブはこくりと頷いた。

「この本に書かれているのは、モンスターを『創る』ことではありません。モンスターを『変える』ことです」
ゴブは、古文書のあるページを指差した。そこには、スライムの絵から矢印が伸び、巨大な王冠をかぶったキングスライムの絵へと繋がる、系統樹のような図が描かれていた。

俺は、息を呑んだ。
今まで俺がやってきたのは、素材を混ぜ合わせる「合成」による創造だ。ゼロからイチを生み出す行為。
だが、この本に書かれているのは違う。イチを、ニやサンへと、より上位の存在へと変質させる、未知の概念。それが、「進化」だった。

「特定の条件を満たしたモンスターに……儀式を……捧げる……。さすれば、殻を破り、新たな姿と力を得る……」
ゴブが、必死に断片的な情報を読み解いていく。

俺は、雷に打たれたような衝撃を受けていた。これだ。これが、俺に足りなかったピースだ。
スライムをキングスライムに。ロックバードを伝説の怪鳥ガルーダに。この「進化」というシステムを使えば、俺のスライム軍団を、そしてゴブ自身をも、さらなる高みへと導けるかもしれない。

「すごい……!すごい発見だよ、ユーさん!」
リオが、興奮して俺の肩を叩いた。
「これ、独占情報だよ!進化の条件を解き明かせば、とんでもないビジネスになる!」

カエデも、真剣な表情で古文書に見入っている。
「モンスターが、進化する……。私たちのパーティの戦力は、底なしに上がるということか」

俺たちの目の前に、新たな、そして果てしなく広がる道が示された。
俺は古文書を強く握りしめた。まずは、この本を完全に解読することが、俺たちの次の目標だ。

図書館の大きな窓から、夕日に染まるアステリアの街並みが見えた。この街に来て、本当に良かった。ここには、俺が求める全ての答えが眠っている。

俺たちの新たな目標が定まり、希望に満ちた空気が流れる。だが、その時、古文書の最後のページを読んでいたゴブが、ふと、不安そうな顔で呟いた。

「マスター……。この本、最後の一文に、こう書かれています」
「なんて?」

「『進化は、世界の理に触れる禁忌の御業。道を誤れば、それは進化にあらず。混沌を招き、世界を喰らう災厄を産むだろう』……と」

その不吉な一文が、俺たちの高揚感に、わずかな影を落とした。
「進化」という光の裏に潜む、混沌という名の闇。
俺はまだ、その言葉の本当の意味を知る由もなかった。
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