M.M.O. - Monster Maker Online

夏見ナイ

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第二十九話 大空への挑戦

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アステリアでの生活は、刺激と発見の連続だった。
スライム印のポーションは瞬く間にヒット商品となり、俺たちの活動資金は日に日に潤沢になっていく。カエデは武具を新調し、ゴブは新しい魔法を覚え、リオは次なる商機を求めて街を駆け回っていた。

俺はというと、稼いだ資金のほとんどを新たなモンスター創造の研究に注ぎ込んでいた。そして、夜になると仲間たちと共に宿屋の一室に集まり、あの大図書館で見つけた古文書の解読を進める。それが、俺たちの日課になっていた。

「マスター、この文字は『翼』と読みます。そして、こちらは『風』です」
ゴブが、その小さな指で古文書の難解な文字列を辿っていく。彼のユニークスキル『言語理解』のおかげで、解読は少しずつだが着実に進んでいた。

古文書に記された『進化』の概念。それは、俺の創造意欲を強くかき立てた。だが、進化の儀式には特殊な条件や場所、そして触媒となるアイテムが必要らしく、その全容が解明されるまでには、まだ多くの時間が必要そうだった。

「進化も気になるけどさ、まずは今できることで、パーティの戦力をアップさせない?」
リオが、帳簿をつけていた手を休めて言った。
「アステリア周辺には、崖や渓谷みたいな高低差の激しい地形が多いんだよね。それに、空を飛ぶモンスターも厄介だ。空からの偵察や移動手段があれば、私たちの活動範囲はもっと広がるはずだよ」

彼女の言葉に、カエデも深く頷いた。
「同感だ。先日戦ったハーピーの群れも、地上からでは攻撃が届きにくく、苦戦を強いられた。空中戦に対応できる手段は、確かに必要だ」

空を飛ぶ力。
その言葉は、俺自身の、純粋な願望にも火をつけた。
この広大なM.M.O.の世界を、自由に空から見渡してみたい。雲を突き抜け、まだ誰も見たことのない景色を見てみたい。モンスターメイカーとして、飛行能力を持つモンスターを、この手で創り出してみたい。

「やりましょう。飛行モンスターの創造に、挑戦してみます」
俺が宣言すると、仲間たちは期待に満ちた目で俺を見た。

翌日、俺はアステリアの素材屋や市場を巡り、飛行に関連しそうなありとあらゆる素材を買い集めた。鳥の羽、昆虫の翅、風の魔石、そして体を軽くするための特殊な植物。俺のアイテムボックスは、さながら鳥類学者の研究室のようになった。

アステリアには、フロンティアにはなかった施設がある。それは、高レベルの生産職プレイヤー向けに貸し出されている、個人用の工房だ。俺はリオに手配してもらい、その一室に籠もった。

「さて、と」
俺は作業台の前に立ち、気合を入れる。
まずは、最も単純な発想からだ。スライムに、翼を生やす。
ベーススライムの核に、街で一番上質だった『イーグルの羽根』を数十枚、配合してみる。

「創造!」
光が収まり、作業台の上に現れたのは、確かに羽の生えたスライムだった。だが、その姿はどこか滑稽だった。ぷるぷるの体に、申し訳程度に立派な羽根が張り付いている。
スライムは飛ぼうとして、その場で数センチぴょんと跳ねるだけ。羽根はただの飾りで、全く機能していなかった。

「……ダメか」
やはり、単純に混ぜるだけではダメらしい。
次に俺は、体の軽量化を試みた。『浮き袋草』という、内部に軽い気体が溜まる植物を配合する。

今度生まれたスライムは、羽根をパタパタさせながら、ゆっくりと空中を漂った。
「お、浮いた!」
一瞬、成功かと思った。だが、スライムはただ風船のように、天井に向かってぷかぷかと上昇していくだけ。自分の意思で方向転換も、前進もできない。これでは、ただの的だ。

「推進力が足りないのか」
ならば、と俺は次に、僅かな爆発力を持つ『火薬草』を少量混ぜてみた。ジェット噴射のように、後方へガスを噴出して飛ぶイメージだ。

「創造!」
その瞬間、工房内に小さな爆発音が響いた。
ボンッ!
黒い煙が立ち上り、俺の顔は煤だらけになった。作業台の上には、黒焦げになったスライムの残骸が転がっている。

「ゲホッ、ゲホッ……やりすぎたか」
工房の外から、様子を見に来たリオとカエデの呆れた声が聞こえた。
「ユーさん、大丈夫ー?」
「また何か、馬鹿なことをやっているのか……」

その後も、俺の試行錯誤は続いた。
鳥の骨格を模倣しようと『鳥の骨』を組み込めば、歪なキメラのような失敗作が生まれるだけ。
昆虫の翅を使ってみれば、羽音だけがうるさい、低速飛行しかできないスライムが誕生した。

何日も、何十回も。俺は工房に籠もり、創造と失敗を繰り返した。潤沢にあったはずの資金と素材は、みるみるうちに減っていく。
俺は、初めて自分の能力の限界を痛感していた。

擬態も、硬化も、溶解も、全ては既存の物質の「性質」をスライムに付与するだけだった。だが、「飛行」は違う。翼の構造、揚力を生み出す筋肉、風を掴む感覚、そして何よりも軽い体。それら全てが複雑に絡み合った、生命の奇跡。それを、ただの素材の「合成」だけでゼロから生み出すことは、神の領域に踏み込むような、あまりにも傲慢な挑戦だったのかもしれない。

俺は、すっかり自信を失っていた。工房の床に座り込み、頭を抱える。俺の創造術も、この程度なのか。スライムをいじくり回すのが、関の山なのか。

そんな俺の背中に、そっと温かいものが触れた。ゴブだった。彼は心配そうに、俺の顔を覗き込んでいる。
「マスター、お疲れですか?」
「……ああ。少し、行き詰まっててな」

ゴブは何も言わず、俺の隣にちょこんと座った。そして、彼が解読を進めていた古文書のページを、俺の前に差し出した。
「マスター。このページ、何かヒントになるかもしれません」

そこには、鳥のようなモンスターの挿絵と共に、難解な古代文字が並んでいた。
俺が意気消沈している間も、ゴブは地道に解読作業を続けてくれていたのだ。

「ゴブ、読んでくれるか」
「はい」
ゴブは、小さな指でゆっくりと文字を追った。
「……天に、最も近き鳥の……その翼は、ただの肉に非ず……嵐を掴む、魂そのもの……風の王の、風切り羽を……創造の核とせよ……」

その詩のような一文が、俺の頭に雷を落とした。
「……魂を、核とせよ?」

そうだ。俺が今まで使っていたのは、ただの鳥の羽。命を失った、ただの素材。それではダメなんだ。
「飛行」という概念そのものを宿した、特別な生物の魂。その力が込められた素材でなければ、本当の翼は創り出せない。

「天に最も近き鳥……風の王……」
俺はそのキーワードを元に、リオが集めてくれたアステリア周辺のモンスター情報を、頭の中で検索した。

一つの名が、浮かび上がった。
アステリアの北方にそびえる、万年雪をいただく峻険な高山、『鷲ノ巣山』。
その頂には、空の王者と謳われる伝説のモンスター、【グリフォン】が生息しているという。

「……グリフォン」
俺は、無意識にその名を呟いていた。
ライオンの体に、鷲の頭と翼を持つ幻獣。風を支配し、嵐を呼ぶと言われる、まさしく風の王。

「ユーさん、何か分かったの?」
工房の入り口から、リオが顔を覗かせた。

俺は立ち上がった。目には、再び力が戻っていた。
「ええ。分かりました。俺たちが行くべき場所が」

俺は仲間たちを集め、自分の仮説と、鷲ノ巣山のグリフォンの話を伝えた。
失敗続きで落ち込んでいた俺が、再び前を向いたのを見て、仲間たちは安心したように、そして力強く頷いた。

「鷲ノ巣山か。話には聞いている。生半可な覚悟では、頂上どころか麓にたどり着くことすら難しい難所だ」
カエデが、腕を組んで言う。

「でも、そこを乗り越えれば、ユーさんは空を飛べるようになるんだよね!面白そうじゃない!行こうよ、鷲ノ巣山!」
リオが、冒険家の瞳で言った。

「マスターの望み、ゴブも、お手伝いします」
ゴブが、杖を強く握りしめた。

俺の個人的な挑戦は、いつの間にか、パーティ全体の新たな目標となっていた。
失敗は、終わりじゃない。それは、新たな冒険への扉を開くための、鍵だったのだ。

「準備をしましょう。次の目的地は、鷲ノ巣山です」
俺の言葉に、三人は力強く頷いた。

大空への挑戦は、まだ終わらない。いや、ここからが本当の始まりなのだ。俺たちは、まだ見ぬ空の王者に挑むため、新たな準備を開始した。
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