M.M.O. - Monster Maker Online

夏見ナイ

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第四十九話 救出、そして対決

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盗賊の砦、最上階。俺たちの目の前に、パンデモニウム幹部、ガノバスとその親衛隊が立ちはだかる。退路はない。俺たちの救出作戦は、敵の掌の上で踊らされていたのだ。

「かかれ!あの小僧を捕らえろ!女とゴブリンは殺しても構わん!」
ガノバスの非情な号令と共に、重装備の騎士たちが一斉に突撃してくる。狭い廊下では、逃げ場はなかった。

「リオ、ゴブ!俺の後ろに!」
俺は二人を庇い、アイテムボックスからありったけのスライムを召喚した。
「創造魔法『マテリアル・ウォール』!」

硬質化スライム、オブシダン・スライムの破損したコア。持てる限りの硬い素材を使い、ゴブが即席の防壁を創り出す。騎士たちの剣が、スライムの壁に突き刺さり、火花を散らした。

「小賢しい!」
だが、幹部直属の親衛隊。その実力は、ただの盗賊とは比較にならない。彼らの剣には魔法効果が付与されており、スライムの壁は、数秒も持たずに切り崩されていく。

「マスター!」
ゴブが、焦りの声を上げる。
「ルビー・インプ、サファイア・インプ!援護を!」

二体のインプが、騎士たちの頭上を飛び回り、炎と氷の魔法を浴びせかける。だが、重装鎧に身を包んだ彼らには、決定的なダメージにはならない。

「くそっ、キリがない!」
俺は歯噛みした。このままでは、押し切られるだけだ。

その、絶体絶命の窮地。
背後の壁が、轟音と共に爆ぜた。

「――そこまでだ、下衆ども!」

壁の向こうから、瓦礫を蹴散らして現れたのは、白銀の閃光。
聖騎士、カエデ。そのレイピアは、怒りのオーラで白く輝いていた。

「カエデさん!」
リオが、歓喜の声を上げる。

「遅くなったな、ユー。思ったより、雑魚の数が多くてな」
彼女は、悪戯っぽく笑った。その鎧は傷つき、息は上がっている。だが、その瞳の光は、今までで最も強く、鋭い。砦の敵兵を、本当に一人で食い止めてきたのだ。

「なっ、馬鹿な!?下の連中はどうした!」
ガノバスが、狼狽の声を上げる。彼の計算では、カエデはまだ砦の下層で足止めされているはずだった。

「雑魚は、全て掃除してきた。次はお前の番だ、幹部殿」
カエデは、レイピアの切っさきを、まっすぐにガノバスへと向けた。

カエデの参戦で、戦況は一変した。
彼女は、嵐のように騎士たちの群れに突っ込んでいく。その剣技は、もはや神業の域だった。重装鎧の隙間を正確に貫き、一人、また一人と、親衛隊を無力化していく。

「おのれ、化け物め!」
ガノバスは、形勢不利と見るや、懐から巨大な戦斧を取り出した。それは、金と宝石で装飾された、彼の強欲さを体現するかのような武器だった。

「俺様自らが、相手をしてやる!」
ガノバスは、カエデに向かって突進する。その巨体に似合わない、俊敏な動き。彼は、ただ金に物を言わせているだけの男ではなかった。ギルドの幹部にまで上り詰めた、確かな実力を持っている。

ガノバスの戦斧が、カエデのレイピアと激突する。
凄まじい衝撃に、カエデの体がよろめいた。
「くっ……!なんてパワーだ!」

武器の相性、そして純粋なパワーで、カエデが押し込まれていく。ガノバスの装備は、全て最高級の素材と、レアな魔法効果が付与されたものだ。正攻法では、カエデといえども苦戦は免れない。

「マスター、援護を!」
ゴブがファイアボールを放つが、ガノバスの鎧が展開した魔法障壁に阻まれてしまう。

「無駄だ無駄だ!俺様の『黄金の鎧』は、あらゆる魔法を弾き返す!そして、この『強欲の戦斧』は、お前のような貧乏騎士の剣なぞ、赤子同然に叩き折ってくれるわ!」
ガノバスが、下品な笑い声を上げる。

カエデはじりじりと追い詰められていく。このままでは、彼女がやられてしまう。
俺は、戦況を冷静に観察していた。
ガノバスの鎧は、確かに強力だ。だが、完璧ではない。重装鎧である以上、関節部分には、必ずわずかな隙間が存在する。

俺は、アイテムボックスから、最後の切り札を取り出した。
それは、ホブゴブリン・キングとの戦いで生み出した、【ロックタール・スライム】のコア。超粘着と、瞬間硬化の能力を秘めた、俺の創造物の中でも、最も厄介なスライムだ。

俺は、そのコアに、ゴブの魔力を注ぎ込ませる。
「ゴブ、創造魔法だ!あの男の、鎧の隙間を狙え!」
「承知!」

ゴブの杖から、黒い粘液の塊が、弾丸のように射出された。
「そんなもの、当たるか!」
ガノバスは戦斧で粘液を叩き落とそうとする。

だが、粘液は空中で分裂した。数十の小さな雫となり、雨のようにガノバスの全身に降り注ぐ。
そのいくつかが、狙い通り、彼の鎧の肘、膝、そして首元の、わずかな隙間に付着した。

「な、なんだこれは!?」
ガノバスは、体に付着した粘液を振り払おうとする。
だが、その瞬間。

「スキル発動!『瞬間硬化』!」

俺の叫びに呼応し、粘液が、カチン!と音を立てて硬化する。
関節の隙間に入り込んだスライムが、コンクリートのように固まり、楔となって彼の動きを完全に封じた。

「ぐっ……!動かん!体が、動かせんぞ!?」
ガノバスが、狼狽の声を上げる。自慢の黄金の鎧は、今や彼自身を閉じ込める、鉄の棺桶と化していた。

その、一瞬にして生まれた、絶対的な好機。
カエデが、見逃すはずがなかった。

「終わりだ、強欲の豚!」
彼女のレイピアに、聖なる光が極限まで集束していく。
もはや、ガノバスに、それを防ぐ術はなかった。

「ひ……!や、やめ……!」

命乞いの声は、白銀の閃光によって、かき消された。
カエデの必殺の一撃が、動きを封じられたガノバスの鎧の隙間、心臓部分を、正確に貫いた。

「ぐ……ふ……」
ガノバスは、信じられないという顔で、自らの胸に突き刺さるレイピアを見下ろした。そして、その巨体は、ゆっくりと光の粒子となって、崩れ落ちていった。

静寂。
後に残されたのは、俺たち三人。そして、床に転がる、数々のレアアイテムと、多額のゴールド。

「……やった」
リオが、震える声で呟いた。

「ああ。奴の強欲が、奴自身の命取りになったな」
カエデは、レイピアを鞘に収めながら、静かに言った。

俺たちは、ついに、パンデモニウムの幹部を、打ち破ったのだ。
リオを救出し、そして、俺たちの絆を踏みにじった者への、報復を果たした。

だが、俺たちの顔に、勝利の喜びはなかった。
これは、終わりではない。むしろ、始まりなのだ。
幹部を一人倒したことで、俺たちは、ギルド【パンデモニウム】という巨大な組織と、完全に、そして決定的に、敵対することになったのだから。

砦の外から、夜明けの光が差し込んできた。
その光は、俺たちの長く、そして厳しい戦いの始まりを、静かに告げているようだった。
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