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第四十八話 盗賊の砦へ
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夜明け前の、最も深い闇。盗賊の砦は、静寂に包まれていた。見張り台の盗賊も、酒と眠気で、その目は節穴同然だった。
その、静寂を破ったのは、一筋の閃光だった。
「――はあっ!」
カエデの鋭い気合と共に、聖なる光を纏ったレイピアが、砦の正面ゲートを叩き斬った。轟音と共に、巨大な木製の扉が内側へと吹き飛ぶ。
「な、なんだ!?」
「敵襲だ!敵襲ーっ!」
砦の中に、けたたましい警報の鐘の音が鳴り響く。眠っていた盗賊たちが、慌てて武器を手に、巣から飛び出してきた。
その彼らの目の前に、カエデは、たった一人で立ちはだかった。
「我が名はカエデ!悪逆非道を働く者共に、聖なる鉄槌を下す者なり!」
その凛とした声は、砦全体に響き渡った。彼女は、意図的に敵の注目を、自分一人に集めているのだ。
「ふざけやがって!たった一人で乗り込んできやがったのか!」
「殺せ!あの女を八つ裂きにしろ!」
怒号と共に、数十人の盗賊たちが、カエデ一人に向かって、津波のように殺到した。
カエデは、レイピアを静かに構えた。彼女の瞳には、一切の恐怖も、焦りもない。ただ、仲間との約束を果たすという、鋼の決意だけが宿っていた。
陽動は、成功した。
その頃、俺とゴブは、砦の裏手の断崖絶壁を、必死に登っていた。
「マスター、手を!」
ゴブが、その小さな体で、俺の体を下から押し上げてくれる。二体のインプも、器用に崖を飛び回りながら、安全なルートを俺に示してくれた。
シャドウスライムが事前に調査したルートは、確かだった。敵の警戒が最も手薄な、垂直に近い崖。常人なら、登ることは不可能だろう。だが、俺たちには、ゴブとインプたちのサポートがあった。
正面ゲートから響いてくる、激しい戦闘音。それが、俺たちの焦りを掻き立てる。カエデが、一人で、あの数を相手にしているのだ。一刻も早く、リオを救出しなければ。
数十分後、俺たちは、ついに砦の最上階のテラスへと、たどり着いた。
息を整える間もなく、俺はシャドウスライムを先行させ、牢屋の内部の様子を再び探らせる。
見張りは二人。リオは、まだ無事だ。
「ゴブ、インプたち。見張りの二人を、音もなく無力化する。いいな?」
三体の魔物が、こくりと頷く。
俺は、テラスから牢屋へと続く廊下へと、静かに足を踏み入れた。
見張りの盗賊たちは、正面ゲートの騒ぎに気を取られ、背後への警戒を完全に怠っていた。
「なんだ、すげえ騒ぎだな」
「どうせ、すぐに終わるさ。カエデ様とか名乗ってたが、所詮は女一人だ」
彼らが、下卑た笑みを浮かべた、その瞬間。
闇が、動いた。
ゴブが、無詠唱で放った『サイレンス』の魔法が、見張りたちの周囲の空間を包み込み、音を完全に遮断する。
同時に、ルビー・インプとサファイア・インプが、左右から音もなく飛びかかった。
赤いインプの爪が、一人の首筋に炎の熱傷を与え、青いインプの爪が、もう一人の足を氷漬けにする。
「ぐっ!?」
「なっ!?」
声にならない悲鳴を上げる暇もなく、二人の盗賊は、その場に崩れ落ち、意識を失った。
完璧な、奇襲だった。
俺は、倒れた見張りから、牢屋の鍵を奪い取った。
錆び付いた錠前が、重い音を立てて開く。
「……リオさん!」
俺が牢屋に飛び込むと、リオは、はっとしたように顔を上げた。その瞳には、一瞬、信じられないという色が浮かび、やがて、安堵の涙が溢れ出した。
「ユーさん……!ゴブちゃんも……!」
「迎えに来ました。もう大丈夫です」
俺は、彼女の手足を縛る魔力封じの枷に、アシッド・スライムを付着させた。金属の枷が、じゅうじゅうと音を立てて溶け落ちていく。
自由になったリオは、俺の胸に飛び込んできた。
「……怖かった。もう、会えないかと思った……!」
その体は、小刻みに震えていた。当たり前だ。彼女は、戦闘員ではない。たった一人で、無法者たちの巣窟に囚われていたのだ。その恐怖は、想像を絶する。
俺は、彼女の背中を、優しく叩いた。
「すみません、俺のせいで……」
「ううん、違う!私が、一人で突っ走ったから……!ごめんなさい……!」
今は、謝罪の時ではない。
俺は、涙を拭うリオの手を取り、力強く言った。
「帰りましょう、カエデさんのところへ。俺たちの、パーティへ」
「……うん!」
リオは、涙を拭うと、強く頷いた。その瞳には、いつもの快活な光が戻っていた。
救出は、成功した。
だが、本当の戦いは、ここからだ。
俺は、カエデに合図を送るため、懐から信号弾を取り出した。
だが、その手が、止まった。
牢屋の入り口。俺たちが通ってきた廊下の奥から、ゆっくりと、そして重々しい足音が、近づいてくる。
それは、ただの盗賊のものではなかった。
そこにいるだけで、周囲の空気を歪ませるような、圧倒的なプレッシャー。
やがて、闇の中から、その主が姿を現した。
金と宝石で飾り立てられた、悪趣味な鎧。肥満した体躯。そして、その顔に浮かべた、全てを見下すかのような、強欲な笑み。
「ククク……。よく来たな、モンスターメイカーの小僧」
パンデモニウム幹部、『強欲』のガノバス。
その両脇には、幹部直属の親衛隊であろう、屈強な重騎士たちが、氷のような目でこちらを睨みつけていた。
「まんまと、罠にかかってくれたな。お前がここに来ることは、全て計算通りだ」
ガノバスは、せせら笑った。
どうやら、陽動も、潜入も、全て読まれていたらしい。
奴は、カエデを正面でおとりにさせ、俺たちがリオを救出し、最も油断したこの瞬間を、待ち構えていたのだ。
「さあ、おとなしく、そのレシピを渡してもらおうか。そうすれば、命だけは助けてやってもいい」
ガノバスが、手を差し出す。
俺は、ゆっくりと立ち上がった。そして、リオとゴブを、自分の背中に庇った。
「断る、と言ったら?」
俺の言葉に、ガノバスの顔から、笑みが消えた。
その瞳に、冷たい怒りの色が浮かぶ。
「……愚かな小僧だ。ならば、力尽くで奪うまで」
彼が、手を振り下ろす。
親衛隊たちが、一斉に剣を抜き放ち、俺たちに迫ってきた。
退路は、断たれた。
ここは、敵地の、ど真ん中。
俺は、静かに、アイテムボックスから、スライムのコアを取り出した。
怒りが、俺の創造の炎を、再び燃え上がらせる。
「後悔させてやる。俺たちを、本気で怒らせたことをな」
救出劇は、終わった。
ここからは、処刑の時間だ。
その、静寂を破ったのは、一筋の閃光だった。
「――はあっ!」
カエデの鋭い気合と共に、聖なる光を纏ったレイピアが、砦の正面ゲートを叩き斬った。轟音と共に、巨大な木製の扉が内側へと吹き飛ぶ。
「な、なんだ!?」
「敵襲だ!敵襲ーっ!」
砦の中に、けたたましい警報の鐘の音が鳴り響く。眠っていた盗賊たちが、慌てて武器を手に、巣から飛び出してきた。
その彼らの目の前に、カエデは、たった一人で立ちはだかった。
「我が名はカエデ!悪逆非道を働く者共に、聖なる鉄槌を下す者なり!」
その凛とした声は、砦全体に響き渡った。彼女は、意図的に敵の注目を、自分一人に集めているのだ。
「ふざけやがって!たった一人で乗り込んできやがったのか!」
「殺せ!あの女を八つ裂きにしろ!」
怒号と共に、数十人の盗賊たちが、カエデ一人に向かって、津波のように殺到した。
カエデは、レイピアを静かに構えた。彼女の瞳には、一切の恐怖も、焦りもない。ただ、仲間との約束を果たすという、鋼の決意だけが宿っていた。
陽動は、成功した。
その頃、俺とゴブは、砦の裏手の断崖絶壁を、必死に登っていた。
「マスター、手を!」
ゴブが、その小さな体で、俺の体を下から押し上げてくれる。二体のインプも、器用に崖を飛び回りながら、安全なルートを俺に示してくれた。
シャドウスライムが事前に調査したルートは、確かだった。敵の警戒が最も手薄な、垂直に近い崖。常人なら、登ることは不可能だろう。だが、俺たちには、ゴブとインプたちのサポートがあった。
正面ゲートから響いてくる、激しい戦闘音。それが、俺たちの焦りを掻き立てる。カエデが、一人で、あの数を相手にしているのだ。一刻も早く、リオを救出しなければ。
数十分後、俺たちは、ついに砦の最上階のテラスへと、たどり着いた。
息を整える間もなく、俺はシャドウスライムを先行させ、牢屋の内部の様子を再び探らせる。
見張りは二人。リオは、まだ無事だ。
「ゴブ、インプたち。見張りの二人を、音もなく無力化する。いいな?」
三体の魔物が、こくりと頷く。
俺は、テラスから牢屋へと続く廊下へと、静かに足を踏み入れた。
見張りの盗賊たちは、正面ゲートの騒ぎに気を取られ、背後への警戒を完全に怠っていた。
「なんだ、すげえ騒ぎだな」
「どうせ、すぐに終わるさ。カエデ様とか名乗ってたが、所詮は女一人だ」
彼らが、下卑た笑みを浮かべた、その瞬間。
闇が、動いた。
ゴブが、無詠唱で放った『サイレンス』の魔法が、見張りたちの周囲の空間を包み込み、音を完全に遮断する。
同時に、ルビー・インプとサファイア・インプが、左右から音もなく飛びかかった。
赤いインプの爪が、一人の首筋に炎の熱傷を与え、青いインプの爪が、もう一人の足を氷漬けにする。
「ぐっ!?」
「なっ!?」
声にならない悲鳴を上げる暇もなく、二人の盗賊は、その場に崩れ落ち、意識を失った。
完璧な、奇襲だった。
俺は、倒れた見張りから、牢屋の鍵を奪い取った。
錆び付いた錠前が、重い音を立てて開く。
「……リオさん!」
俺が牢屋に飛び込むと、リオは、はっとしたように顔を上げた。その瞳には、一瞬、信じられないという色が浮かび、やがて、安堵の涙が溢れ出した。
「ユーさん……!ゴブちゃんも……!」
「迎えに来ました。もう大丈夫です」
俺は、彼女の手足を縛る魔力封じの枷に、アシッド・スライムを付着させた。金属の枷が、じゅうじゅうと音を立てて溶け落ちていく。
自由になったリオは、俺の胸に飛び込んできた。
「……怖かった。もう、会えないかと思った……!」
その体は、小刻みに震えていた。当たり前だ。彼女は、戦闘員ではない。たった一人で、無法者たちの巣窟に囚われていたのだ。その恐怖は、想像を絶する。
俺は、彼女の背中を、優しく叩いた。
「すみません、俺のせいで……」
「ううん、違う!私が、一人で突っ走ったから……!ごめんなさい……!」
今は、謝罪の時ではない。
俺は、涙を拭うリオの手を取り、力強く言った。
「帰りましょう、カエデさんのところへ。俺たちの、パーティへ」
「……うん!」
リオは、涙を拭うと、強く頷いた。その瞳には、いつもの快活な光が戻っていた。
救出は、成功した。
だが、本当の戦いは、ここからだ。
俺は、カエデに合図を送るため、懐から信号弾を取り出した。
だが、その手が、止まった。
牢屋の入り口。俺たちが通ってきた廊下の奥から、ゆっくりと、そして重々しい足音が、近づいてくる。
それは、ただの盗賊のものではなかった。
そこにいるだけで、周囲の空気を歪ませるような、圧倒的なプレッシャー。
やがて、闇の中から、その主が姿を現した。
金と宝石で飾り立てられた、悪趣味な鎧。肥満した体躯。そして、その顔に浮かべた、全てを見下すかのような、強欲な笑み。
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「まんまと、罠にかかってくれたな。お前がここに来ることは、全て計算通りだ」
ガノバスは、せせら笑った。
どうやら、陽動も、潜入も、全て読まれていたらしい。
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「さあ、おとなしく、そのレシピを渡してもらおうか。そうすれば、命だけは助けてやってもいい」
ガノバスが、手を差し出す。
俺は、ゆっくりと立ち上がった。そして、リオとゴブを、自分の背中に庇った。
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ここからは、処刑の時間だ。
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