M.M.O. - Monster Maker Online

夏見ナイ

文字の大きさ
51 / 100

第五十一話 伝説を創るために

しおりを挟む
盗賊の砦での一件から、数日が過ぎた。アステリアの街は、表面的には何も変わらない日常が流れている。だが、水面下では、巨大なギルド【パンデモニウム】と、俺たちという小さなパーティとの間で、静かで熾烈な戦いの火蓋が切って落とされていた。

リオは、商人ギルドの情報網を駆使し、パンデモニウムの金の流れを探っていた。彼女のデスクは、不正取引の証拠と思われる書類や、幹部たちの行動記録で埋め尽くされている。その目は、獲物を狙う狩人のように鋭かった。

カエデは、来るべき大規模な戦闘に備え、対人戦を想定した訓練に明け暮れていた。闘技場の訓練施設を借り切り、時には高レベルの傭兵を雇ってまで、自らの剣技を極限まで磨き上げている。その剣閃は、日を追うごとに鋭さを増していた。

そして、俺とゴブは。
「マスター、この配合比率では、魔法耐性が目標値に届きません」
「分かってる。なら、安定剤に『ミスリルの粉末』を加えてみよう。コストは上がるが、背に腹はかえられない」

俺たちは工房に籠もり、新たな戦力の創造に没頭していた。ガノバスが遺した『王家の黄金』。これを核とし、俺が持つ最高の素材と技術を注ぎ込み、究極の盾となるスライムを生み出すためだ。

試行錯誤の末、ついにそれは完成した。
作業台の上に鎮座するのは、まるで溶かした黄金を固めたかのような、眩い輝きを放つスライムだった。

【ゴールデン・スライム】
ランク:ユニーク
スキル:魔法障壁(オート)、物理ダメージ軽減、自己修復(中)

その性能は、オブシダン・スライムを遥かに凌駕していた。特に、自動で発動する魔法障壁は、ゴブリンシャーマンや敵の魔術師との戦いにおいて、絶大な効果を発揮するだろう。

「やりましたね、マスター!」
ゴブが、誇らしげに胸を張る。
「ああ。これで、パーティの防御力は格段に上がった」

だが、俺の心は晴れなかった。
ゴールデン・スライムは、確かに強力だ。だが、それはあくまで「盾」でしかない。
パンデモニウムという、数の力で圧倒してくる巨大な組織。そして、ゼノンのワイバーンのような、規格外の力を持つ存在。彼らを相手にするには、守りを固めるだけでは不十分だ。

状況を覆す、決定的な一撃。
戦局そのものを支配する、絶対的な切り札。
今の俺たちには、それが決定的に欠けていた。

「……まだ、足りない」

俺の呟きに、ゴブは心配そうに俺の顔を見上げた。
俺は、工房の隅に積んであった、あの大図書館の古文書へと視線を移した。
『進化』の概念は、俺たちの可能性を広げてくれた。だが、それだけでは足りない。この本のどこかに、まだ俺が見つけていない、さらなる力への道が隠されているはずだ。

その日から、俺は再び古文書の解読に没頭した。
ゴブと共に、今まで読み飛ばしていた難解な箇所や、意味が分からなかった挿絵の意味を、一つ一つ丁寧に解き明かしていく。

そして、数日後。俺たちは、ついにその核心へとたどり着いた。
それは、古文書の最終章。ほとんどのページが破損し、解読が不可能だと思われていた部分に、隠されていた。

「マスター、この紋様……どこかで」
ゴブが、ページの隅に描かれた、複雑な紋様を指差した。それは、複数のモンスターが絡み合い、一つの巨大な存在へと至る道筋を示しているようだった。

俺は、はっとした。その紋様は、俺が初めてこの古文書を手にした時、表紙で見たものと酷似していた。
俺は、ゴブの『言語理解』と、俺自身のモンスターメイカーとしての直感を総動員させ、破損した文字列の隙間を埋めるように、その意味を読み解いていく。

そして、そこに記されていた言葉に、俺は全身が震えるほどの衝撃を受けた。
それは、『進化』のさらに先。
世界の理そのものに干渉し、神話級の存在をこの世に顕現させる、禁忌の創造術。

『伝説級モンスター創造法』

「……これだ」

俺の喉から、かすれた声が漏れた。
古文書によれば、伝説級モンスターとは、単体の戦闘能力において、竜や悪魔といった最高位のモンスターすら凌駕する、究-極の存在だという。一体いるだけで、戦況を、いや、戦争の結果すらも左右する力を持つと。

これこそが、俺が求めていたもの。
パンデモニウムの軍勢も、ゼノンのワイバーンも、全てを圧倒する、絶対的な切り札。

だが、その創造は、生半可なものではなかった。
古文書には、そのための条件が、三つ、記されていた。

一つ、万物の根源たる魔力を秘めた石、『賢者の石』。
一つ、生命の循環を司る、聖なる枝、『世界樹の枝』。
一つ、太古の竜が宿した、圧倒的な力の源、『古竜の心臓』。

この三つの『伝説級素材』を揃え、特殊な祭壇で儀式を行うことによってのみ、伝説は生まれる、と。

「賢者の石……世界樹の枝……古竜の心臓……」
俺は、その名前を反芻した。どれも、おとぎ話や神話の中でしか聞いたことのない、幻のアイテムばかりだ。

だが、俺の心に、不可能だという思いはなかった。
むしろ、明確な道筋が示されたことで、俺の心は、かつてないほど燃え上がっていた。

俺は、工房を飛び出し、宿屋にいたカエデとリオに、この発見を伝えた。
俺の、あまりにも壮大で、現実離れした話に、二人は最初、呆気に取られていた。

「……伝説級、モンスター?」
カエデが、信じられないというように呟く。

「ちょっと待って、ユーさん!賢者の石って、あの賢者の石!?そんなものが、このゲームに本当に存在するの!?」
リオが、商人としての知識を総動員して、その実現可能性を疑っている。

俺は、彼女たちの反応を予期していた。そして、静かに、しかし力強く、告げた。
「俺は、本気です。これしか、俺たちが奴らに勝つ道はない。俺は、この伝説級モンスターの創造に、俺のモンスターメイカーとしての全てを懸けます」

俺の、揺るぎない覚悟。その瞳に宿る、狂気にも似た熱意。
それが、二人の心を動かした。

カエデが、ふっと、息を吐いた。そして、静かに微笑んだ。
「……分かった。お前が、そこまで言うのなら。私は、お前のその途方もない夢に、乗ろう。私の剣で、お前の道を切り開いてやる」

リオも、最初は頭を抱えていたが、やがて、彼女らしい、不敵な笑みを浮かべた。
「はあ……もう、めちゃくちゃだね、ユーさんは!でも……最高に面白いじゃない、それ!」
彼女は、パン!と手を叩いた。
「いいよ、乗った!私の情報網を駆使して、その幻の素材のありか、必ず突き止めてみせる!こんなワクワクする大儲け……じゃなくて、大冒険、見逃すわけにはいかないもんね!」

ゴブも、俺の隣で、力強く杖を握りしめている。
「マスターの夢は、ゴブの夢です!」

俺たちのパーティの、新たな、そして最大の目標が、定まった瞬間だった。
打倒パンデモニウム、打倒ゼノン。そのための、伝説への道。

「さて、と」
リオが、早速、商人モードに切り替わった。
「まずは、最初の一つ。『賢者の石』。私のギルドの古文書データベースで検索してみる……あった!一つの伝承がヒットしたよ!」

彼女は、一枚の古い地図を、テーブルの上に広げた。
「アステリアの東、霧深き谷の奥にそびえ立つ、天を突く賢者の塔。その最上階には、古の大賢者が遺した叡智の結晶が眠る、と。おそらく、これが賢者の石のことだよ!」

地図に記された、巨大な塔のシルエット。
その威容は、俺たちの最初の試練が、決して楽なものではないことを、雄弁に物語っていた。

「準備をしましょう」
俺は、仲間たちに向かって言った。
「俺たちの、伝説を創るための、最初の冒険へ」

俺の言葉に、三人は、力強く頷いた。
俺たちの物語は、新たな目標という名の光に導かれ、今、大きく動き出そうとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。

wakaba1890
ファンタジー
召喚獣。 それは向こう側とされる所から、10歳を迎えた日本人の子供の下に召喚されるモンスターのことである。 初代天皇・神武天皇が日本を建国した際に書かれた絵画には彼は金鵄と呼ばれる金色に輝く鵄(とび)と契約したのが原初となっている。 そして、縄文、弥生、古墳、飛鳥、平安、戦国時代から近代から今に至るまで、時代を動かしてきた人物の側には確かに召喚獣は介在していた。 また、奇妙な事に、日本国に限り、齢10歳を迎えた日本在住の日本人にのみ体のどこかから多種多様な紋章が発現し、当人が念じると任意の場所から召喚陣が現れ、人ならざるモンスターを召喚される。 そして、彼らモンスターは主人である当人や心を許した者に対して忠実であった。 そのため、古来の日本から、彼ら召喚獣は農耕、治水、土木、科学技術、エネルギー、政治、経済、金融、戦争など国家の基盤となる柱から、ありとあらゆる分野において、今日に至るまで日本国とアジアの繁栄に寄与してきた。 そして、建国から今まで、国益の基盤たる彼ら数万種類以上をも及ぶ召喚獣を取り締まり管理し、2600年以上と脈々と受け継がれてきた名誉ある国家職がーーーーー国家召喚獣管理官である。

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

 神典日月神示 真実の物語

蔵屋
歴史・時代
 私は二人の方々の神憑りについて、今から25年前にその真実を知りました。 この方たちのお名前は 大本開祖•出口なお(でぐちなお)、 神典研究家で画家でもあった岡本天明(おかもとてんめい)です。  この日月神示(ひつきしんじ)または日尽神示(ひつくしんじ)は、神典研究家で画家でもあった岡本天明(おかもとてんめい)に「国常立尊(国之常立神)という高級神霊からの神示を自動書記によって記述したとされる書物のことです。  昭和19年から27年(昭和23・26年も無し)に一連の神示が降り、6年後の昭和33、34年に補巻とする1巻、さらに2年後に8巻の神示が降りたとされています。 その書物を纏めた書類です。  この書類は神国日本の未来の預言書なのだ。 私はこの日月神示(ひつきしんじ)に出会い、研究し始めてもう25年になります。  日月神示が降ろされた場所は麻賀多神社(まかたじんじゃ)です。日月神示の最初の第一帖と第二帖は第二次世界大戦中の昭和19年6月10日に、この神社の社務所で岡本天明が神憑りに合い自動書記さされたのです。 殆どが漢数字、独特の記号、若干のかな文字が混じった文体で構成され、抽象的な絵のみで書記されている「巻」もあります。 本巻38巻と補巻1巻の計39巻が既に発表されているが、他にも、神霊より発表を禁じられている「巻」が13巻あり、天明はこの未発表のものについて昭和36年に「或る時期が来れば発表を許されるものか、許されないのか、現在の所では不明であります」と語っています。 日月神示は、その難解さから、書記した天明自身も当初は、ほとんど読むことが出来なかったが、仲間の神典研究家や霊能者達の協力などで少しずつ解読が進み、天明亡き後も妻である岡本三典(1917年〈大正6年〉11月9日 ~2009年〈平成21年〉6月23日)の努力により、現在では一部を除きかなりの部分が解読されたと言われているます。しかし、一方では神示の中に「この筆示は8通りに読めるのであるぞ」と書かれていることもあり、解読法の一つに成功したという認識が関係者の間では一般的です。 そのために、仮訳という副題を添えての発表もありました。 なお、原文を解読して漢字仮名交じり文に書き直されたものは、特に「ひふみ神示」または「一二三神示」と呼ばれています。 縄文人の祝詞に「ひふみ祝詞(のりと)」という祝詞の歌があります。 日月神示はその登場以来、関係者や一部専門家を除きほとんど知られていなかったが、1990年代の初め頃より神典研究家で翻訳家の中矢伸一の著作などにより広く一般にも知られるようになってきたと言われています。 この小説は真実の物語です。 「神典日月神示(しんてんひつきしんじ)真実の物語」 どうぞ、お楽しみ下さい。 『神知りて 人の幸せ 祈るのみ 神の伝えし 愛善の道』

処理中です...