M.M.O. - Monster Maker Online

夏見ナイ

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第五十二話 天を突く賢者の塔

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伝説級モンスターの創造。その途方もない目標は、俺たちのパーティに新たな羅針盤を与えた。最初の目的地は、古の大賢者が遺した叡智の結晶『賢者の石』が眠るという、天を突く賢者の塔。

「よし、準備は万端だね!」

アステリアの宿屋の一室。リオがパンパンに膨れ上がったリュックサックを背負い、満足げに言った。彼女の情報網は、今回も完璧だった。賢者の塔の周辺に出現するモンスターのデータ、有効な属性、そして塔内部にアンデッド系のモンスターが多いという噂まで、ありとあらゆる情報を集めきっていた。

彼女が用意したアイテムは、聖水や銀の矢といった対アンデッド装備から、謎解きに役立つかもしれないという理由で仕入れたロープや虫眼鏡、さらには用途不明の古代語辞書まで、多岐にわたっていた。

「まるで遠足に行くみたいだな、あなたの荷物は」
カエデが、軽装の自分の装備と見比べて呆れたように言う。
「備えあれば憂いなしって言うでしょ!それに、何が起こるか分からないのがダンジョン攻略の醍醐味じゃない!」
リオは、少しも悪びれずに胸を張った。

俺は、新たに創造したスライムたちの最終チェックを行っていた。ゴールデン・スライムの防御性能は完璧だ。それに加え、アンデッドに有効な聖なる光を放つ【ホーリー・スライム】の試作品もいくつか用意した。

「マスター、ゴブも準備万端です」
ゴブは、新しく覚えた補助魔法『マジック・シールド』の呪文を小声で復唱していた。彼の魔法は、今や俺たちのパーティの生命線の一つだ。

俺たちはアステリアの東門から、霧深き谷へと向かった。
街の喧騒が遠ざかるにつれて、風景は徐々にその彩度を失っていく。緑豊かだった草原は、湿った苔とシダに覆われた湿地帯へと変わり、空気はひんやりと肌を刺すようになった。

やがて、俺たちの目の前に、乳白色の壁が立ちはだかった。霧だ。それも、ただの水蒸気ではない。一歩足を踏み入れると、方向感覚が曖昧になり、仲間との距離感すら掴めなくなる、魔法的な濃霧。

「ここが、霧深き谷……」
リオが、ゴクリと喉を鳴らす。
「はぐれるな。全員、ロープで体を繋ぐぞ」
カエデの冷静な指示に従い、俺たちは互いの体を一本のロープで結んだ。

霧の中を進む。視界は数メートル先までしか利かない。頼りになるのは、ゴブの索敵魔法と、俺のソナー・スライムが映し出す、おぼろげなマップだけだった。

時折、霧の中から、不気味な影が姿を現した。幻覚を見せて獲物を惑わす『ミストレイス』。音もなく背後から忍び寄り、精気を吸い取る『サイレントゴースト』。この谷は、物理的な力だけでなく、精神を蝕むような敵が多い。

だが、俺たちのパーティは、もはやフロンティアで活動していた頃とは違う。
「惑わされるな!敵の本体は、あの光る核だ!」
カエデの鋭い声が、幻覚に惑わされかけた俺の意識を引き戻す。
「マスター、ゴーストの弱点は光属性です!」
ゴブの的確な分析を受け、俺はホーリー・スライムを召喚する。スライムが放つ聖なる光が、亡霊の体を霧散させた。
リオも、幻覚を打ち破る効果のある特殊な香を焚き、俺たちの精神を守ってくれる。

俺たちは、互いの弱点を補い合い、それぞれの役割を完璧に果たしながら、深い霧の中を突き進んでいった。

どれくらいの時間を歩いただろうか。
ふと、前を歩いていたカエデが、足を止めた。

「……見えた」

彼女の視線の先。濃い霧が、まるでカーテンが開くかのように、ゆっくりと晴れていく。そして、その向こう側に、ついに『それ』は姿を現した。

俺は、息を呑んだ。
天を、突いていた。
その言葉以外に、表現が見つからない。黒曜石を削り出したかのような、漆黒の塔。雲を突き抜け、その先端は遥か天空の彼方へと消えており、全容を把握することすらできない。
古びてはいるが、崩れる気配は微塵もない。むしろ、悠久の時を経てなお、その存在感を増しているかのようだった。塔の周囲だけは、なぜか霧が晴れており、まるで塔そのものが天候を支配しているかのような、尋常ならざる魔力を放っていた。

「……あれが、大賢者の塔」
リオが、呆然と呟く。
「なんという、威圧感だ。あれに挑もうなどと考える者は、よほどの命知らずか、愚か者だけだろうな」
カエデの言葉通り、俺たちの周囲には、他のプレイヤーの姿は一人も見当たらなかった。ここは、アステリアのトップランカーですら、容易には足を踏み入れない、禁断の領域なのだ。

俺たちは、何かに引かれるように、塔の麓へと歩を進めた。
麓には、巨大な門が一つだけあった。高さは十メートル以上。扉には、古代文字でびっしりと何かが刻まれ、中央には、知恵の輪のような複雑な紋様が描かれている。

「マスター、この文字……」
ゴブが、扉に刻まれた古代文字を読み解こうとする。
「『我、大賢者アルバス。我が叡智を求めし者よ。汝の力を示せ』……?いえ、違います。『汝の、覚悟を、示せ』……?」

ゴブの翻訳は、途切れ途切れだった。どうやら、この扉自体が、強力な魔力によって守られており、解読を阻害しているらしい。

カエデは、扉に手を触れた。
「物理的に破壊するのは、不可能だろうな。傷一つ、つけられそうにない」
彼女が言う通り、この扉は、ただの物質ではない。魔法的な概念そのもので、できているようだった。

どうやって、開ける?
俺たちが、途方に暮れかけていた、その時。
扉の中央にある、知恵の輪の紋様が、淡い光を放ち始めた。そして、俺たちの頭の中に、直接、声が響いてきた。

それは、老人のようでもあり、若者のようでもあり、男のようでもあり、女のようでもある、不思議な声だった。
『我が塔に挑む者よ。最初の試練を与えよう』
『この扉を開きたくば、汝らが持つ、最も価値あるものを、我に捧げよ』

最も、価値あるもの?
その、あまりにも抽象的な問いかけに、俺たちは顔を見合わせた。
金か?俺たちが持つ、一番高価なアイテムか?
それとも、力か?俺たちの、最強のスキルか?

いや、違う。
俺は、直感的に悟っていた。
この大賢者が求めているのは、そんな物質的なものではない。もっと、根源的な、何か。

賢者の塔は、まだ俺たちを内部に招き入れてすらいない。だというのに、すでにその牙を剥き、俺たちの知恵と覚悟を試し始めている。
伝説への道は、想像を絶するほど、険しく、そして遠い。

俺は、静かに光る扉を見据えた。
「面白い。やってやろうじゃないですか」

俺の呟きに、仲間たちは力強く頷いた。
俺たちの、本当の試練が、今、始まろうとしていた。
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