M.M.O. - Monster Maker Online

夏見ナイ

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第五十三話 第一の試練:知恵

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『汝らが持つ、最も価値あるものを、我に捧げよ』

賢者の塔の門が発した問いは、まるで禅問答のようだった。俺たちは扉の前で腕を組み、考え込んだ。

「最も価値あるもの、ねえ……」
リオが顎に手を当てて唸っている。
「やっぱりお金かなあ。この世界で価値と言ったら、まずゴールドでしょ。一番高いアイテムを捧げてみるとか?」

「いや、違うだろう」
カエデが静かに首を振った。
「相手は古の大賢者だ。金や物で動くような俗な存在とは思えん。彼が問うているのは、もっと精神的な価値ではないか? 例えば、誇りや勇気といった……」

二人の意見はどちらも一理ある。だが、俺の考えは少し違っていた。
最も価値あるもの。それは人によって違う。リオにとっては金銭であり、カエデにとっては騎士としての誇りだろう。俺にとっては、仲間との絆かもしれない。

だが、この問いを発しているのは大賢者だ。彼にとっての「価値」とは何か。それを考えなければ、正解にはたどり着けない。
賢者とは、知恵を司る者。知識を探求し、真理を追い求める存在。そんな彼が最も価値を置くもの。それは――

「……答えは一つじゃないのかもしれません」
俺が呟くと、二人は不思議そうな顔で俺を見た。

俺は扉に刻まれた知恵の輪の紋様に、そっと手を触れた。
「この試練は、俺たち一人一人の『価値観』を試しているんじゃないでしょうか。リオさんにとっては金銭や商才。カエデさんにとっては剣技や誇り。俺にとっては、創造術や発想力。それぞれが自分の信じる最も価値あるものを、この扉に示す。それが正解な気がします」

「なるほど……。面白い考え方だ」
カエデが感心したように頷いた。

「よし、じゃあ、やってみよう!」
リオが一番に前に出た。
彼女はアイテムボックスから一枚の金貨を取り出した。それは彼女が商人として、初めて自分の力で稼いだ記念すべき最初の金貨だという。

「私の全てはここから始まった! これが商人リオの原点であり、最も価値あるものだよ!」
彼女が金貨を扉の紋様に翳すと、金貨は淡い光に包まれ、すうっと扉の中へと吸い込まれていった。

次にカエデが前に出る。
彼女はレイピアを抜き放ち、その切っ先を静かに紋様に触れさせた。
「我が剣は我が魂そのもの。弱きを守り、悪を断つという聖騎士としての誓い。これこそが私の全てだ」

レイピアから放たれる聖なる光が、紋様に吸い込まれていく。

そして、最後に俺の番だった。
俺はアイテムボックスから何かを取り出すことはしなかった。
俺の最も価値あるものは、物ではない。この頭の中にある。

俺は静かに目を閉じ、創造スキルを発動させた。
だが、何かを創るのではない。俺の頭の中に、今まで創り出してきた全てのモンスターたちの姿を思い浮かべる。
最弱のスライムから始まり、オブシダン・スライム、擬態スライム、そしてゴブ。仲間たちを救うために生み出した即興の創造物たち。
その一つ一つに込められた俺の想い、工夫、そして絆。

「俺の価値は、この発想力。ゼロからイチを生み出す、この創造の力です」
俺の脳裏に浮かんだイメージが、光となって紋様へと流れ込んでいく。

ゴブも俺に倣って、杖を紋様に触れさせた。
「僕の価値は、マスターへの忠誠心です!」

俺たち四人全員がそれぞれの「価値」を捧げ終えた。
すると、扉の紋様が今までになく眩い光を放ち始めた。

ゴゴゴゴゴ……!
地響きのような音と共に、数百年、いや数千年も閉ざされていたであろう賢者の塔の巨大な門が、ゆっくりと、ゆっくりとその内側へと開かれていく。

「やった……! 開いた!」
リオが歓声を上げる。

俺たちは顔を見合わせ、頷き合った。
最初の試練は突破した。

門の先には広大なホールが広がっていた。壁も床も天井も、全てが磨き上げられた水晶でできており、内部から放たれる柔らかな光が空間全体を幻想的に照らしている。
ホールの中心には、天へと続く螺旋階段があった。

俺たちは塔の内部へと第一歩を踏み入れた。
その瞬間、俺たちがホールに入ると背後で門が再び重い音を立てて閉ざされた。退路はない。

そして、再びあの声が頭の中に響いてきた。
『第一の試練を突破せし者たちよ。歓迎する。だが、本当の試練はここからだ』
『この塔は三つの階層に分かれている。汝らが最上階にたどり着きたくば、それぞれの階層が課す試練を乗り越えよ』

『第一階層の試練は、「知恵」。力では決してこの階層を突破することはできぬだろう』

その言葉と共に、目の前の螺旋階段への道が光の壁によって閉ざされた。
そして、ホールにいくつかの奇妙なオブジェクトが音もなく出現した。
大きさの違う三つの人型の石像。
壁に埋め込まれた、意味の分からない紋様が描かれた石版。
そして、床に置かれた一つの天秤。

「……謎解きか」
カエデが警戒しながら呟いた。

「うわあ、こういうの一番苦手なやつだよ……」
リオが頭を抱えている。

力では突破できない。その言葉通り、この階層には敵モンスターの姿は一体も見当たらない。
ここから先へ進むには、このホールに隠された謎を俺たちの知恵で解き明かすしかないのだ。

「面白そうじゃないですか」
俺は不敵に笑った。
こういう常識外れのパズルは嫌いじゃない。むしろ得意な方だ。

「ゴブ、あの石版の紋様、読めるか?」
「はい、マスター! 任せてください!」
ゴブが早速、石版の解読に取り掛かる。

カエデは石像の配置や、その視線の先に何か意味がないかを探り始めた。
リオは天秤の皿に色々なアイテムを乗せて、その傾き方の法則性を調べている。

俺はホール全体を見渡し、この謎解きの全体像を把握しようと試みた。
バラバラに見えるギミック。だが、その全ては必ず一つの答えへと繋がっているはずだ。

大賢者が仕掛けた最初の本格的な試練。
俺たちの本当の挑戦が、今、始まった。
伝説への道は、まず俺たちの知恵を試すことから、その幕を開けたのだった。
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