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第五十八話 森の試練
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エルフの長老の登場で、張り詰めていた空気はわずかに緩んだ。だが、アーロンをはじめとする若いエルフたちの敵意は未だ解けていない。彼らは長老の次の言葉を固唾を飲んで待っていた。
長老は、その深い瞳で俺たちを値踏みするように見つめた後、静かに口を開いた。
「人間よ。汝らの目的、聞かせてもらおうか」
その声にはアーロンのようなあからさまな敵意はなかったが、有無を言わせぬ威厳がこもっていた。
カエデが再び一歩前に出た。
「長老殿。我々は世界を脅かす大きな悪と戦う力を求めております。そのために、この森の聖地に眠るとされる『世界樹の枝』をお借りしたいのです」
彼女はパンデモニウムの悪行や、俺たちの戦いの目的を誠実に、そして包み隠さず語った。
だが、アーロンはその言葉を鼻で笑った。
「世界を救う、だと? 人間が口にする大義名分ほど信用のならんものはない。どうせ、その伝説の枝を売りさばき、私腹を肥やすのが目的だろう」
「違う!」
リオが思わず反論する。
長老はそんなアーロンを手で制すると、静かに言った。
「……汝らの言葉、嘘ではないのかもしれぬ。その瞳の奥に邪な光は見えぬ。だが、それだけで我らが聖なる枝を汝ら人間に渡すわけにはいかん」
彼女の言葉には、人間という種族への消しがたい不信が滲んでいた。
「我らエルフは人間によって何度も裏切られてきた。森を焼き、仲間を殺され、聖地を汚された。その歴史を忘れることはできぬ」
長老の語る言葉は重かった。エルフたちの人間嫌いは、彼らが経験してきた悲しい歴史に根差していたのだ。
俺たちは何も言い返せなかった。
絶望的な空気が再び場を支配する。
やはり、交渉は不可能なのか。俺たちが諦めかけた、その時だった。
「……だが」
長老は続けた。
「汝らが本当にその大義を成すに値する者たちか。その力をこの森に示す機会を与えてやらんでもない」
その言葉に、俺たちは顔を上げた。
「本当ですか!?」
「うむ。今のこの森は病に蝕まれておる。森の奥深く、かつては我らの水源であった聖なる泉が何者かによって汚染され、その穢れが森全体へと広がりつつあるのだ。森の獣は凶暴化し、植物は枯れ果てていく。我らも浄化を試みたが、泉に巣食う穢れの源はあまりにも強力でな」
長老はそこで一度言葉を区切り、俺たちをまっすぐに見据えた。
「もし汝らがその穢れの源を断ち切り、森に再び清浄を取り戻すことができたなら……。その時は汝らをこの森の友として認め、世界樹への道を開いてやろう」
それは試練だった。
俺たちの力を、そして俺たちの覚悟を試すための、森からの試練。
「……長老様! なりません!」
アーロンが慌てて声を上げた。
「人間などに森の命運を委ねるなど! 奴らがさらに森を汚染しないとも限りません!」
「黙りなさい、アーロン」
長老の静かだが有無を言わせぬ一喝に、アーロンはぐっと言葉を詰まらせた。
「この者たちはただの人間ではない。そのゴブリンの魔術師、そして、あの青年……」
長老の千年を生きた瞳が、俺を捉えた。
「……お前の内には我らエルフにも通じる、生命を育み、創造する力が眠っておる。その力が森の穢れを祓う鍵となるやもしれん」
彼女は俺のモンスターメイカーとしての本質を見抜いていた。
俺はゴクリと喉を鳴らした。断るという選択肢はもはやなかった。
「……分かりました。その試練、お受けします。必ず森を汚す元凶を、俺たちが取り除いてみせます」
俺がパーティを代表して答えると、長老は満足げに深く頷いた。
「よかろう。では、案内させよう。だが、心せよ。泉に巣食う魔物は我らエルフの精鋭ですら手を焼くほどの強敵。決して油断はならぬぞ」
長老の言葉を合図に、エルフたちは俺たちを囲んでいた弓を静かに下ろした。
アーロンはまだ納得のいかない顔で、忌々しげに俺たちを睨んでいたが、長老の決定には逆らえないようだった。
俺たちはエルフたちに先導され、幻霧の森のさらに奥深くへと足を踏み入れた。
今まで俺たちがいたのは、まだ森の入り口に過ぎなかったことをすぐに思い知らされた。
木々はさらに天高くそびえ、昼間だというのに森の中は薄暗い。空気中の魔力の密度も、比較にならないほど濃密だった。
道中、俺たちは森が病んでいるという言葉の意味を目の当たりにした。
本来は温厚なはずの森の鹿が血走った目で俺たちに襲いかかってきたり、美しい花々が黒く枯れて悪臭を放っていたり。
森の生命力が、確かに何者かによって蝕まれている。
やがて俺たちは、森の奥にある開けた場所にたどり着いた。
そこには、かつては美しい泉だったであろう淀んだ沼地が広がっていた。
水はどす黒く濁り、水面からは毒々しい紫色の瘴気がゆらゆらと立ち上っている。周囲の木々は全て枯れ果て、まるで墓場のようだった。
「ここが、聖なる泉……」
リオがその惨状に顔をしかめる。
「泉の中心にいる。あれが穢れの源だ」
アーロンが忌々しげに沼の中心を指差した。
その沼の中心。
濁った水の中から、巨大な何かがゆっくりと姿を現し始めていた。
それは木のようであり、獣のようでもあった。
無数の枯れ枝が血管のように絡み合い、巨大な人型のシルエットを形成している。その体からは絶えず黒い瘴気が噴き出し、周囲の生命力を吸い取っているようだった。
【ブラッドトレント Lv.58】
その名を見た瞬間、俺は全身に鳥肌が立つのを感じた。
ブラッドトレント。それはただのモンスターではない。
錬金術師たちが生命の理を無視して生み出した、禁断の人工生命体。周囲の生命力を喰らい、無限に自己増殖する歩く災厄。
そして、その創造法はギルド【パンデモニウム】が独占しているという黒い噂があった。
「……まさか」
俺は奥歯をギリリと噛み締めた。
「奴ら、なのか……?」
エルフの森を蝕むこの穢れの源。
それは俺たちが追う巨大な悪の影と、確かに繋がっていた。
この試練はもはや、ただの試練ではなかった。
パンデモニウムとの避けられぬ戦いの、新たな戦端だったのだ。
長老は、その深い瞳で俺たちを値踏みするように見つめた後、静かに口を開いた。
「人間よ。汝らの目的、聞かせてもらおうか」
その声にはアーロンのようなあからさまな敵意はなかったが、有無を言わせぬ威厳がこもっていた。
カエデが再び一歩前に出た。
「長老殿。我々は世界を脅かす大きな悪と戦う力を求めております。そのために、この森の聖地に眠るとされる『世界樹の枝』をお借りしたいのです」
彼女はパンデモニウムの悪行や、俺たちの戦いの目的を誠実に、そして包み隠さず語った。
だが、アーロンはその言葉を鼻で笑った。
「世界を救う、だと? 人間が口にする大義名分ほど信用のならんものはない。どうせ、その伝説の枝を売りさばき、私腹を肥やすのが目的だろう」
「違う!」
リオが思わず反論する。
長老はそんなアーロンを手で制すると、静かに言った。
「……汝らの言葉、嘘ではないのかもしれぬ。その瞳の奥に邪な光は見えぬ。だが、それだけで我らが聖なる枝を汝ら人間に渡すわけにはいかん」
彼女の言葉には、人間という種族への消しがたい不信が滲んでいた。
「我らエルフは人間によって何度も裏切られてきた。森を焼き、仲間を殺され、聖地を汚された。その歴史を忘れることはできぬ」
長老の語る言葉は重かった。エルフたちの人間嫌いは、彼らが経験してきた悲しい歴史に根差していたのだ。
俺たちは何も言い返せなかった。
絶望的な空気が再び場を支配する。
やはり、交渉は不可能なのか。俺たちが諦めかけた、その時だった。
「……だが」
長老は続けた。
「汝らが本当にその大義を成すに値する者たちか。その力をこの森に示す機会を与えてやらんでもない」
その言葉に、俺たちは顔を上げた。
「本当ですか!?」
「うむ。今のこの森は病に蝕まれておる。森の奥深く、かつては我らの水源であった聖なる泉が何者かによって汚染され、その穢れが森全体へと広がりつつあるのだ。森の獣は凶暴化し、植物は枯れ果てていく。我らも浄化を試みたが、泉に巣食う穢れの源はあまりにも強力でな」
長老はそこで一度言葉を区切り、俺たちをまっすぐに見据えた。
「もし汝らがその穢れの源を断ち切り、森に再び清浄を取り戻すことができたなら……。その時は汝らをこの森の友として認め、世界樹への道を開いてやろう」
それは試練だった。
俺たちの力を、そして俺たちの覚悟を試すための、森からの試練。
「……長老様! なりません!」
アーロンが慌てて声を上げた。
「人間などに森の命運を委ねるなど! 奴らがさらに森を汚染しないとも限りません!」
「黙りなさい、アーロン」
長老の静かだが有無を言わせぬ一喝に、アーロンはぐっと言葉を詰まらせた。
「この者たちはただの人間ではない。そのゴブリンの魔術師、そして、あの青年……」
長老の千年を生きた瞳が、俺を捉えた。
「……お前の内には我らエルフにも通じる、生命を育み、創造する力が眠っておる。その力が森の穢れを祓う鍵となるやもしれん」
彼女は俺のモンスターメイカーとしての本質を見抜いていた。
俺はゴクリと喉を鳴らした。断るという選択肢はもはやなかった。
「……分かりました。その試練、お受けします。必ず森を汚す元凶を、俺たちが取り除いてみせます」
俺がパーティを代表して答えると、長老は満足げに深く頷いた。
「よかろう。では、案内させよう。だが、心せよ。泉に巣食う魔物は我らエルフの精鋭ですら手を焼くほどの強敵。決して油断はならぬぞ」
長老の言葉を合図に、エルフたちは俺たちを囲んでいた弓を静かに下ろした。
アーロンはまだ納得のいかない顔で、忌々しげに俺たちを睨んでいたが、長老の決定には逆らえないようだった。
俺たちはエルフたちに先導され、幻霧の森のさらに奥深くへと足を踏み入れた。
今まで俺たちがいたのは、まだ森の入り口に過ぎなかったことをすぐに思い知らされた。
木々はさらに天高くそびえ、昼間だというのに森の中は薄暗い。空気中の魔力の密度も、比較にならないほど濃密だった。
道中、俺たちは森が病んでいるという言葉の意味を目の当たりにした。
本来は温厚なはずの森の鹿が血走った目で俺たちに襲いかかってきたり、美しい花々が黒く枯れて悪臭を放っていたり。
森の生命力が、確かに何者かによって蝕まれている。
やがて俺たちは、森の奥にある開けた場所にたどり着いた。
そこには、かつては美しい泉だったであろう淀んだ沼地が広がっていた。
水はどす黒く濁り、水面からは毒々しい紫色の瘴気がゆらゆらと立ち上っている。周囲の木々は全て枯れ果て、まるで墓場のようだった。
「ここが、聖なる泉……」
リオがその惨状に顔をしかめる。
「泉の中心にいる。あれが穢れの源だ」
アーロンが忌々しげに沼の中心を指差した。
その沼の中心。
濁った水の中から、巨大な何かがゆっくりと姿を現し始めていた。
それは木のようであり、獣のようでもあった。
無数の枯れ枝が血管のように絡み合い、巨大な人型のシルエットを形成している。その体からは絶えず黒い瘴気が噴き出し、周囲の生命力を吸い取っているようだった。
【ブラッドトレント Lv.58】
その名を見た瞬間、俺は全身に鳥肌が立つのを感じた。
ブラッドトレント。それはただのモンスターではない。
錬金術師たちが生命の理を無視して生み出した、禁断の人工生命体。周囲の生命力を喰らい、無限に自己増殖する歩く災厄。
そして、その創造法はギルド【パンデモニウム】が独占しているという黒い噂があった。
「……まさか」
俺は奥歯をギリリと噛み締めた。
「奴ら、なのか……?」
エルフの森を蝕むこの穢れの源。
それは俺たちが追う巨大な悪の影と、確かに繋がっていた。
この試練はもはや、ただの試練ではなかった。
パンデモニウムとの避けられぬ戦いの、新たな戦端だったのだ。
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殆どが漢数字、独特の記号、若干のかな文字が混じった文体で構成され、抽象的な絵のみで書記されている「巻」もあります。
本巻38巻と補巻1巻の計39巻が既に発表されているが、他にも、神霊より発表を禁じられている「巻」が13巻あり、天明はこの未発表のものについて昭和36年に「或る時期が来れば発表を許されるものか、許されないのか、現在の所では不明であります」と語っています。
日月神示は、その難解さから、書記した天明自身も当初は、ほとんど読むことが出来なかったが、仲間の神典研究家や霊能者達の協力などで少しずつ解読が進み、天明亡き後も妻である岡本三典(1917年〈大正6年〉11月9日 ~2009年〈平成21年〉6月23日)の努力により、現在では一部を除きかなりの部分が解読されたと言われているます。しかし、一方では神示の中に「この筆示は8通りに読めるのであるぞ」と書かれていることもあり、解読法の一つに成功したという認識が関係者の間では一般的です。
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