M.M.O. - Monster Maker Online

夏見ナイ

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第五十九話 汚染の元凶

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淀んだ泉の中心に立つ禍々しい巨木。ブラッドトレント。その存在は、俺たちの試練の意味を根底から変えてしまった。

「……パンデモニウム」
俺の口から、憎しみのこもった声が漏れた。
「奴ら、こんな場所まで……!」

「どういうことだ、ユー? お前、あの魔物を知っているのか?」
カエデが訝しげに俺を見る。

俺は仲間たちと、そしてエルフたちに、自分が知るブラッドトレントの情報を話した。それが錬金術によって生み出された人工生命体であること。そして、その技術を悪徳ギルド【パンデモニウム】が独占しているという噂があること。

「つまり、この森の汚染は奴らの仕業だというのか……!」
カエデの瞳に、怒りの炎が燃え盛る。

エルフたちもその事実に、激しく動揺していた。
「パンデモニウム……。人間のギルドか。やはり、人間が……!」
アーロンが俺たちに向かって再び敵意を剥き出しにする。

だが、長老は静かに彼を制した。
「待ちなさい、アーロン。早合点はならぬ。だが、もしそれが真実ならば……話は別だ」
彼女の穏やかだった瞳の奥に、千年を生きた森の守護者としての冷たい怒りの光が宿った。

「奴らは一体何のために、こんなことを……」
リオが唇を噛む。
「おそらく実験だろう」
カエデが冷静に、しかし冷徹に答えた。
「ブラッドトレントがどれほどの汚染能力を持つか。そして、エルフの森という強大な魔力を持つ土地でどこまで成長するか。それを試していたに違いない。自分たちの兵器の性能実験のために、この聖なる森をモルモットにしたのだ」

その言葉に、エルフたちの怒りが爆発した。
「許さん……! 人間ども、絶対に許さんぞ!」

だが、今は怒りに任せて行動する時ではない。
目の前のブラッドトレント。あれをどうにかしなければ、森は死ぬ。

「グルオオオオオオ……」
ブラッドトレントが俺たちの存在に気づいたのか、地響きのような唸り声を上げた。
その巨体から無数の根が、まるで触手のように伸びてくる。

「来るぞ!」
カエデが叫び、前に出る。
エルフたちも一斉に弓を構え、矢を放った。

だが、ブラッドトレントの体表は枯れ木のように見えて、鋼鉄以上の硬度を誇っていた。矢はカン、カン、と音を立てて弾き返されるだけ。カエデのレイピアですら、浅い傷しかつけられない。

「ダメだ、硬すぎる!」
「物理攻撃が効かん!」

「ゴブ、魔法だ!」
「はい、マスター! ファイアボール!」
ゴブの火球がブラッドトレントの胴体に直撃する。
さすがのブラッドトレントも炎には弱いらしい。ボウッ!と音を立てて、その体の一部が燃え上がった。

「やったか!?」
だが、俺たちの期待はすぐに打ち砕かれた。
ブラッドトレントは燃え盛る腕を汚染された泉の水に突っ込んだ。ジュウッという音と共に炎はすぐに消えてしまう。そして、泉の汚染された生命力を吸い上げ、燃えた部分を瞬時に再生させてしまった。

「なんて再生能力だ……!」
「泉がある限り、奴は不死身だというのか!」
エルフたちが絶望の声を上げる。

硬い装甲、高い再生能力。そして、周囲の生命力を吸い取り汚染を広げ続ける瘴気のオーラ。
ただでさえ厄介な敵が地の利を得て、手がつけられない怪物と化していた。

俺は戦況を冷静に見極めていた。
弱点は炎。だが、泉の水ですぐに無効化されてしまう。
ならば、答えは一つ。
泉の水を使わせなければいい。

いや、違う。もっと根本的な解決策があるはずだ。
この森の汚染。その元凶はブラッドトレントだ。だが、そのブラッドトレントを生み出しているのは汚染された泉そのもの。
ならば、断ち切るべきはブラッドトレントではなく、この泉の汚染そのものではないか。

「……浄化だ」

俺は呟いた。
この邪悪な瘴気に満ちた泉を、元の清浄な聖なる泉へと戻す。
それこそが、この戦いに、そしてこの森に真の勝利をもたらす唯一の道だ。

あまりにも無謀な発想。
だが、俺にはそれを可能にするための切り札があった。

俺はアイテムボックスから、二つのコアを取り出した。
一つは賢者の塔で生み出した、究極の聖なる創造物【ホーリー・スライム・アーク】のコア。
そして、もう一つは浮遊島で手に入れた【虹色胞子キノコ】から抽出した、属性変化の力。

「カエデさん、リオ、ゴブ! そして、エルフの皆さん!」
俺は全員に向かって大声で叫んだ。
「俺に時間をください! この泉を浄化してみせます!」

俺のあまりにも突拍子もない宣言に、誰もが、一瞬言葉を失った。
「泉を浄化するだと……?」
アーロンが信じられないという顔で俺を見る。

「正気か、ユー!? あんな強力な瘴気をどうやって!」
リオが叫ぶ。

だが、カエデだけは俺の目をまっすぐに見ていた。
そして、静かに、しかし力強く言った。
「……分かった。お前を信じよう」
彼女はレイピアを構え直した。
「全軍! モンスターメイカーが儀式を終えるまで、何があってもあの化け物を近づけさせるな! 死守せよ!」

カエデの号令に、エルフたちも覚悟を決めたようだった。
彼らは俺とブラッドトレントの間に、壁となって立ちはだかった。

俺は泉のほとりに膝をつき、最後の、そして最大の創造に挑んだ。
聖なる力と、属性変化の力。
この二つを融合させ、俺が今この場で生み出すのは、ただのモンスターではない。

汚染された自然を元の姿へと還す、奇跡の創造物。
俺は、この森の、そしてパンデモニウムの非道な行いに対する怒りと悲しみの全てを、創造の光に注ぎ込んだ。

「見ていろ、パンデモニウム。お前たちが振りまいた災厄は、俺がこの手で浄化してやる!」

創造の光が病んだ森を、白く清浄な輝きで包み込んでいった。
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