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第六十一話 古竜の住まう火山
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幻霧の森からアステリアへと帰還した俺たちは、一つの大きな自信を手にしていた。種族を超えて信頼を勝ち取り、伝説への二つ目の鍵を手に入れた。その事実は、俺たちのパーティがまた一つ新たな段階へと成長したことを示していた。
「しかし、エルフの皆さんが持たせてくれた果実酒、美味しいねえ」
「リオ、飲み過ぎだ。これは祝杯なのだから、節度をわきまえろ」
「分かってるってー」
宿屋の一室。リオとカエデがいつものように軽口を叩き合っている。その光景を俺とゴブは微笑ましく眺めていた。賢者の石と世界樹の枝。二つの伝説級素材がテーブルの上で穏やかな光を放っている。
「残るは、あと一つですね」
俺の言葉に部屋の空気が引き締まった。
最後の素材、『古竜の心臓』。その名前が持つ響きは、前の二つとは明らかに異質だった。石や枝ではない。心臓。それは、かつて生きていた、あるいは今も生きている強大な存在の一部であることを示唆していた。
「情報収集は、もちろん私に任せて!」
リオは商人の顔に戻ると、早速ギルドや情報屋へと駆け出していった。
数日間、俺たちは来るべき戦いに備え、それぞれの鍛錬に励んだ。カエデは剣の腕を磨き、ゴブは新たな魔法の習得に励む。俺は手に入れた二つの伝説級素材の解析を進めていた。だが、これらの素材はあまりにも規格外で、俺の創造スキルレベルではまだその力の片鱗しか引き出すことができないようだった。
そして、捜索開始から五日目の夜。
リオが、一枚の古びた羊皮紙を手に血相を変えて宿屋へ駆け込んできた。
「見つけた……! 見つけたよ、ユーさん!」
彼女は荒い息を整えながら、羊皮紙をテーブルの上に広げた。それは、大陸の東方を描いた古い地図だった。
「『古竜の心臓』は、やっぱりドロップアイテムだった。落とすのは、M.M.O.の世界にただ一体しか存在しない、最強のレイドボス」
彼女は地図の一点を震える指で指し示した。そこには、禍々しい竜のシルエットと共にこう記されていた。
『灼熱の煉獄。古竜エンシェントドラゴンの棲家』
エンシェントドラゴン。
その名はアステリアの冒険者であれば誰もが一度は耳にしたことのある、伝説の存在。サービス開始以来、数多のトップギルドがその討伐に挑み、そして例外なく壊滅的な敗北を喫してきたという、M.M.O.における絶対的な力の象徴。
「……やはり、相手は竜か」
カエデがごくりと喉を鳴らした。その表情は、恐怖よりも武者震いに近い興奮に染まっている。
「ゼノンのワイバーンですらあれほどの力だった。古竜となれば、その力は想像を絶するだろう」
リオが集めてきた情報によれば、エンシェントドラゴンは灼熱の火山地帯の最奥にある溶岩ドームに巣食っているという。その鱗はあらゆる物理攻撃を弾き返し、口から吐き出されるブレスは半径数百メートルを焦土に変えるほどの威力を持つ。HPに至っては、測定不能。
「……今の俺たちだけでは、無理ですね」
俺は認めたくはない現実を、静かに口にした。
俺たちのパーティは確かに強くなった。だが、それでもこの伝説の竜を相手にするには、あまりにも戦力が足りていない。
「ああ。万に一つも、勝ち目はないだろうな」
カエデも冷静に同意した。
「この敵を倒すには、ただ強いだけではダメだ。タンク役、アタッカー、ヒーラー、そしてサポーター。それぞれの役割に特化した数十人規模の統率された軍勢が必要になる」
軍勢。つまり、大規模なレイドパーティ。
俺たちがそれを組織する? フロンティアから出てきたばかりの、まだ中堅クラスのパーティに過ぎない俺たちが?
「やるしかないよ」
リオが腹を括ったように言った。
「これが伝説にたどり着くための最後の試練なんだ。ここで尻込みしてたら、何も始まらない!」
彼女の言葉が俺たちの迷いを吹き飛ばした。
翌日、俺たちはアステリアの中央広場に一枚の大きな募集告知板を設置した。
『告! レイドメンバー募集!』
『目標:エンシェントドラゴン討伐!』
『我こそはという猛者、求む! 共に、伝説を打ち立てよう!』
リオが書いた勇ましい文句。だが、それを見たプレイヤーたちの反応は冷ややかだった。
「エンシェントドラゴン? 正気か、あいつら」
「スライム印の連中か。闘技会で少し活躍したからって、調子に乗ってるな」
「トップギルドの『竜騎士団』ですら攻略を諦めたんだぞ。あんな少人数パーティに、何ができるってんだ」
嘲笑と侮蔑。闘技会で得た名声など、この無謀な挑戦の前には何の役にも立たなかった。誰もが俺たちの挑戦を無謀な若者の自殺行為だと決めつけて、足を止めようともしない。
時間は刻一刻と過ぎていく。だが、俺たちの募集板の前に立つ者は一人も現れない。
「……やっぱり、無茶だったかなあ」
リオのいつになく弱気な声が、俺の胸に突き刺さった。
このままでは終われない。
俺は意を決して募集板の前に立った。そして、集まってきた野次馬たちに向かって大声で叫んだ。
「俺はモンスターメイカーのユー! 確かに、俺たちの力だけでは古竜には勝てないかもしれない! だが、俺には皆さんを勝利に導くための特別な力があります!」
俺はアイテムボックスから、いくつかの特殊なスライムを取り出した。
「これは灼熱の溶岩地帯でも活動を可能にする【耐熱スライム】! これはドラゴンのブレスの威力を軽減する【耐火スライム】! そしてこれはドラゴンの硬い鱗を溶かすための【竜鱗溶解スライム】!」
俺は即興で生み出した対ドラゴン用のスライムたちを、一体一体丁寧に説明した。
「このレイドに参加してくれた方には、これらの特殊スライムを無償で提供します! 皆さんの力と俺の創造術。その二つが合わされば、決して不可能ではないはずだ!」
俺の必死の演説に、野次馬たちの空気が少しだけ変わった。
嘲笑が、興味とわずかな期待の色へと変化していく。
そこへリオが畳み掛けた。
「さらに! 今回のレイドで得られたドロップアイテムは参加者の貢献度に応じて、公正に分配します! 特に伝説級の武具の素材となる『竜の逆鱗』や『竜の爪』はオークション形式で参加者に優先的に売却! 討伐成功の暁には全員が億万長者になることも夢じゃないよ!」
俺の技術とリオの商才。
俺たちが提示した前代未聞の報酬とサポート。それが、アステリアの腕利きの冒険者たちの心を揺さぶり始めた。
「……耐熱スライム、だと? そんな便利なものがあるのか」
「竜鱗を溶かすスライム……。あれがあれば、俺の斧でもダメージが通るかもしれん」
「ドロップアイテムの優先交渉権は確かに魅力的だ……」
ざわめきが広場全体へと広がっていく。
そして、ついに。
一人の巨大な盾を背負ったドワーフの重戦士が、群衆をかき分けて俺たちの前に進み出た。
「……面白い。その話、乗ってやろうじゃないか」
その一言を皮切りに、それまで様子を伺っていたプレイヤーたちが次々と俺たちの元へと集まり始めた。
槍使い、弓の名手、高位の神官、そして精霊を操るサマナー。
皆、その瞳には一筋縄ではいかない確かな実力と、強敵への渇望が宿っていた。
「俺の魔法、どこまで通用するか試してみたくなった」
「伝説の竜と戦えるなんざ、最高の冒険じゃねえか!」
不可能だと思われたレイドメンバーの募集は、俺たちの必死の呼びかけによって少しずつ、しかし確実に形になり始めていた。
俺たちは顔を見合わせ、強く頷き合った。
伝説への最後の挑戦。そのための仲間たちが、今、ここに集まろうとしている。
俺たちのM.M.O.における最大の戦いの火蓋が、切って落とされようとしていた。
「しかし、エルフの皆さんが持たせてくれた果実酒、美味しいねえ」
「リオ、飲み過ぎだ。これは祝杯なのだから、節度をわきまえろ」
「分かってるってー」
宿屋の一室。リオとカエデがいつものように軽口を叩き合っている。その光景を俺とゴブは微笑ましく眺めていた。賢者の石と世界樹の枝。二つの伝説級素材がテーブルの上で穏やかな光を放っている。
「残るは、あと一つですね」
俺の言葉に部屋の空気が引き締まった。
最後の素材、『古竜の心臓』。その名前が持つ響きは、前の二つとは明らかに異質だった。石や枝ではない。心臓。それは、かつて生きていた、あるいは今も生きている強大な存在の一部であることを示唆していた。
「情報収集は、もちろん私に任せて!」
リオは商人の顔に戻ると、早速ギルドや情報屋へと駆け出していった。
数日間、俺たちは来るべき戦いに備え、それぞれの鍛錬に励んだ。カエデは剣の腕を磨き、ゴブは新たな魔法の習得に励む。俺は手に入れた二つの伝説級素材の解析を進めていた。だが、これらの素材はあまりにも規格外で、俺の創造スキルレベルではまだその力の片鱗しか引き出すことができないようだった。
そして、捜索開始から五日目の夜。
リオが、一枚の古びた羊皮紙を手に血相を変えて宿屋へ駆け込んできた。
「見つけた……! 見つけたよ、ユーさん!」
彼女は荒い息を整えながら、羊皮紙をテーブルの上に広げた。それは、大陸の東方を描いた古い地図だった。
「『古竜の心臓』は、やっぱりドロップアイテムだった。落とすのは、M.M.O.の世界にただ一体しか存在しない、最強のレイドボス」
彼女は地図の一点を震える指で指し示した。そこには、禍々しい竜のシルエットと共にこう記されていた。
『灼熱の煉獄。古竜エンシェントドラゴンの棲家』
エンシェントドラゴン。
その名はアステリアの冒険者であれば誰もが一度は耳にしたことのある、伝説の存在。サービス開始以来、数多のトップギルドがその討伐に挑み、そして例外なく壊滅的な敗北を喫してきたという、M.M.O.における絶対的な力の象徴。
「……やはり、相手は竜か」
カエデがごくりと喉を鳴らした。その表情は、恐怖よりも武者震いに近い興奮に染まっている。
「ゼノンのワイバーンですらあれほどの力だった。古竜となれば、その力は想像を絶するだろう」
リオが集めてきた情報によれば、エンシェントドラゴンは灼熱の火山地帯の最奥にある溶岩ドームに巣食っているという。その鱗はあらゆる物理攻撃を弾き返し、口から吐き出されるブレスは半径数百メートルを焦土に変えるほどの威力を持つ。HPに至っては、測定不能。
「……今の俺たちだけでは、無理ですね」
俺は認めたくはない現実を、静かに口にした。
俺たちのパーティは確かに強くなった。だが、それでもこの伝説の竜を相手にするには、あまりにも戦力が足りていない。
「ああ。万に一つも、勝ち目はないだろうな」
カエデも冷静に同意した。
「この敵を倒すには、ただ強いだけではダメだ。タンク役、アタッカー、ヒーラー、そしてサポーター。それぞれの役割に特化した数十人規模の統率された軍勢が必要になる」
軍勢。つまり、大規模なレイドパーティ。
俺たちがそれを組織する? フロンティアから出てきたばかりの、まだ中堅クラスのパーティに過ぎない俺たちが?
「やるしかないよ」
リオが腹を括ったように言った。
「これが伝説にたどり着くための最後の試練なんだ。ここで尻込みしてたら、何も始まらない!」
彼女の言葉が俺たちの迷いを吹き飛ばした。
翌日、俺たちはアステリアの中央広場に一枚の大きな募集告知板を設置した。
『告! レイドメンバー募集!』
『目標:エンシェントドラゴン討伐!』
『我こそはという猛者、求む! 共に、伝説を打ち立てよう!』
リオが書いた勇ましい文句。だが、それを見たプレイヤーたちの反応は冷ややかだった。
「エンシェントドラゴン? 正気か、あいつら」
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「……やっぱり、無茶だったかなあ」
リオのいつになく弱気な声が、俺の胸に突き刺さった。
このままでは終われない。
俺は意を決して募集板の前に立った。そして、集まってきた野次馬たちに向かって大声で叫んだ。
「俺はモンスターメイカーのユー! 確かに、俺たちの力だけでは古竜には勝てないかもしれない! だが、俺には皆さんを勝利に導くための特別な力があります!」
俺はアイテムボックスから、いくつかの特殊なスライムを取り出した。
「これは灼熱の溶岩地帯でも活動を可能にする【耐熱スライム】! これはドラゴンのブレスの威力を軽減する【耐火スライム】! そしてこれはドラゴンの硬い鱗を溶かすための【竜鱗溶解スライム】!」
俺は即興で生み出した対ドラゴン用のスライムたちを、一体一体丁寧に説明した。
「このレイドに参加してくれた方には、これらの特殊スライムを無償で提供します! 皆さんの力と俺の創造術。その二つが合わされば、決して不可能ではないはずだ!」
俺の必死の演説に、野次馬たちの空気が少しだけ変わった。
嘲笑が、興味とわずかな期待の色へと変化していく。
そこへリオが畳み掛けた。
「さらに! 今回のレイドで得られたドロップアイテムは参加者の貢献度に応じて、公正に分配します! 特に伝説級の武具の素材となる『竜の逆鱗』や『竜の爪』はオークション形式で参加者に優先的に売却! 討伐成功の暁には全員が億万長者になることも夢じゃないよ!」
俺の技術とリオの商才。
俺たちが提示した前代未聞の報酬とサポート。それが、アステリアの腕利きの冒険者たちの心を揺さぶり始めた。
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